第二章 入会権と集団土地所有権の比較
第四節 集団土地所有権の行使
二 集団権利行使の現状
以上、集団土地所有権の行使主体と集団の意思決定の方式について、法律上の規定 を概観した。以下、集団経済組織と村民委員会の現実上の役割を考察する。その上で、
集団土地所有権の行使主体と農村集団の意思決定に関する問題点をあげる。
(一) 集団経済組織
既述したように、法律上では、集団経済組織はどのようなものであるか明確な規定 がない。学界では、一般的に集団経済組織が一定の財産・組織機関及び管理者を有す るものであるとしている304。すなわち、農村集団経済組織は社会主義公有制を基礎とし、
土地などの生産資材が組織内の農民集団に帰属する経済的組織であるとされている。
集団経済組織は 1950 年代の農業合作社化運動をきっかけに設立されたものである。集 団経済組織の変遷過程は大きく三つの段階がある。つまり、合作社時期(初級社から 高級合作社へ)-人民公社時期(生産隊、生産大隊、人民公社の「三級所有、隊為基 礎」)-請負経営制を実施する時期(村民小組、行政村と郷)の三つの段階である。
多くの場合、農村集団経済組織の独立性は強くなく、農村集団経済組織と村民委員
304胡光輝「中国における集団土地所有権に関する一考察」比較法学 47 巻 2 号(2013 年)152-153 頁。
会が一括にされる。わずか一部分の先進的地区が村民委員会と独立する集団経済組織 を築くことがある。大部分の地区は村民委員会が農村集団を代表し、集団所有権を行 使し、あるいは集団経済組織の役割を代行する。そのため、多くの村民の間で、村民 委員会が集団経済組織と同様であるという誤った認識が生じる305。実際には、法律は村 集団経済組織と村民委員会を二つの自主的組織とされている。村民委員会組織法第 8 条306の規定により、村民委員会と農村集団経済組織は相互に自主的な村レベルの組織で あるとされている。村民委員会は農村集団経済組織の経済を監督する。つまり、村民 委員会と集団経済組織の機能は異なり、両者の間では従属関係も存在しない。
具体的に、村民委員会と集団経済組織の区別は以下のとおりである。村民委員会は 農村公共事務管理者で、公益事務に従事し、村の公共資源を支配することができる。
しかし、それは営利性を持っていない。村民委員会は、市場規律の規制を受けず、市 場リスクも引き受けない。ただ公共事務の管理者として、村民の授権を受け、公共事 務を管理し、公共権力を行使する。これに対して、集団経済組織は農民集団所有の財 産を擁す。集団経済組織は農村集団経済の経営者として、集団財産を使って、農民の 生産と福祉を実現することを目的とし、経営管理を展開し、市場リスクを引き受ける。
305農村集団経済の現状を調査するために、2010 年 7-8 月前後、農村集団経済有効実現的法律制度研 究課題組は、湖北、山東、黒龍江、山西、陝西、河南、四川、貴州、広東、河北、安徽、江蘇などの 12 省からの 72 村を対象として、実地調査を行った。その調査から、農村集団経済組織の独立性は強 くないということが分かった。わずか 26.4%の回答者は、自分が所属する村は自主的農村集団経済組 織を持っていると答えた。これに対して、約 73.1%の回答者は自分が所属する村は農村集団経済組織 と村民委員会の機能は独立性がないと答えた。残りの 0.5%の回答者は農村集団経済組織がどのよう な組織なのかが分からないと答えた。一部の回答者が指摘したように、1980 年代、彼らが所属する村 では、村民委員会以外に経済聯合社という経済組織があった。村民委員会は農村運営事務、治安、計 画生育などを管理し、経済聯合社は請負、耕作などの経済発展にかかわることを管理していた。しか し、経済聯合社は成立してすぐ二年以内に倒産したため、経済聯合社が担当した経済的事務は村民委 員会が管理することとなった。現在では、多くの村民が集団経済組織と村民委員会の機能との統合に 賛成している(農村集体経済有効実現的法律制度研究課題組「我国農村集体経済有効実現法律制度的 実証考察-来自 12 個省的調研報告」法商研究 2012 年第 6 期 44-45 頁)。
306村民委員会組織法第 8 条 村民委員会は、村民が法に従って、各種の形式の共同経済その他の経済 を発展させることを支持し及び組織し、当該村における生産の支援及び調整業務を担い、農村の生産 建設及び経済発展を促進しなければならない。村民委員会は、法律の規定に従い、当該村の農民集団 所有に属する土地その他の財産を管理し、村民が合理的に天然資源を利用し、生態環境を保護し改善 するよう導く。村民委員会は、集団経済組織が法に従って、独立して経済活動を行う自主権を尊重し、
かつ、支持しなければならず、家族請負経営を基礎として統合経営と分散経営とを結びつけた二重経 営体制を守り、集団経済組織及び村民、請負経営者、共同経営者又は組合の合法的な財産権及びその 他の合法的な権益を保障しなければならない。
(二) 村民委員会
上述したように、法律上では村民委員会が群衆の自治組織として認められる。その 性質と地位が憲法で規定されている。さらに、1998 年 11 月村民委員会組織法も制定さ れた307。村民委員会は農村の群衆自治組織として、改革開放の新体制における社会矛盾 を解決するための基本的な手段と位置づけられる。しかし、法律上で群衆自治組織と 定義される村民委員会は、実際には、法律の規定より多くの役割を担っている。例え ば、村民委員会は集団土地の調整、宅基地の分配および各種の土地収益の割り当てな どのことを担当している。また、各種の集団決定は村民大会で通過した後、村民委員 会が執行を担当する。土地を請負に出す際に、村民委員会は直接に発注方の権利を行 使する。つまり、生産管理や村民の各種の税金と関連費用の徴収などは、すべて村民 委員会が担当している。このように、村民委員会が集団の中で重要な役割を担う。村 民委員会の機能は以下の三つに分けられる308。
第一に、政府代理人である。村民委員会組織法第 5 条第 1 項は「郷、民族郷及び鎮 の人民政府は、村民委員会の業務に対し、指導、支持及び援助を与え、ただし、法的 に村民自治の範囲に属する事項に関与してはならない」と規定されている。しかし、
その第 5 条第 2 項は「村民委員会は、郷、民族郷及び鎮の人民政府の業務遂行に協力 する」と規定されている。従って、現実では、村民委員会は政府が要求するすべての 仕事を完遂する役割を担っている。第二に、集団財産の管理人である。多くの地方の 村民委員会は実際には完全に集団財産所有者の権利を行使している。土地資源を含む 集団財産の経営責任を履行する。最も代表的な例として、村民委員会は所有者を代表 し、土地の発注と調整の権利を行使することがあげられる。第三に、公共事務の管理 人である。村民委員会組織法第 2 条の規定により、村民委員会は、村内の公共事務の 調和と管理の役割を果たしている。例えば、村民委員会は、当該村の公共事務及び公 益事業を行い、民間の紛争を調停し、社会の治安維持に協力し、人民政府に対し村民 の意見及び要求を伝え並びに提案を行う。また、村民会議及び村民代表会議に対し責 任を負う、かつ業務の報告を行う。
307任丹麗 『集体土地物権行使制度研究-法学視野中的集体土地承包権流転』(法律出版社・2010 年)
155 頁。
308陳剣波「農地制度:所有権問題還是委托-代理問題」経済研究 2006 年第 7 期 86 頁。
(三) 問題点
前述したように、法律上では、集団経済組織または村民委員会が集団を代表して、
所有権を行使すると規定されている。しかし、実際には、多くの地方では集団経済組 織が設置せず、村民委員会が集団経済組織の役割を代行することとなる。集団構成員 の利益を代表する村民委員会は、構成員の利益を守るという基本的職責と義務を持っ ている。他方では、村民委員会が政府の代理人として、食糧と税金などの徴収、栽培 計画、計画生育などの村民の利益と対立する職責を執行する。近年では、農村集団土 地の問題は、表面的には土地集団所有制自身が誘発するものであると見られる。しか し、実際には、これは村民委員会が三つの複雑な役割を担うことと関係がある。それ が農民財産と利益の保護を危険な状況に追い込んでいる。村民委員会あるいは党支部 は実際に集団の事務の管理権、決定権と執行権をコントロールしている。村民の自治 権と村民会議は形式的なものになっている。具体的に、以下の三つの問題が存在して いる。
一つ目の問題は、集団所有権の行使が国家の公権力の過度なコントロールを受け、
地方政府が権利を濫用し、集団所有土地を徴収または徴用することが多いということ である309。農村土地請負法の規定によって、農村集団経済組織は荒山、荒地、荒れた干 潟などの土地を集団経済組織以外の人に請負に出した場合、郷鎮政府の許可が必要で ある。また、土地管理法の規定によって、集団経済組織の土地が非農業建設に使われ る場合、県レベル以上の政府の許可が必要である。集団経済組織は直接的に集団土地 を集団経済組織以外の人に譲渡することができない。ただし、集団土地が国有土地に 変更された後、集団土地を集団経済組織以外の人に譲渡することができる。政府の干 渉が多過ぎるため、農民集団は集団所有土地の譲渡から獲得できる収益が少ない。さ らに、物権法第 42 条と第 44 条の規定によって、国家は公共の利益のために、集団土 地を徴収または徴用することができる。近年では、地方政府が集団土地の徴収と徴用 権を濫用することが多い。しかも、地方政府は不動産の開発、レジャーの遊び場など の建設も公共利益のためであるとみなしている。不動産開発、レジャーなどの遊び場 を建てるために、地方政府は農民集団の土地を徴収することが多い。その結果として、
農村土地が大量に流失することが引き起こされている。集団土地を徴収・徴用する権 利は有効な制約が欠如しているため、濫用されていることが多い。つまり、国家公権 力が農村集団所有土地に対する過度なコントロールしているということである310。
309徴収は国家が財産の所有権を取得する。徴用の目的は所有権ではなく、利用権を取得することであ る。
310楊代雄「農村集体土地所有権的程序建構及其限度」法学論壇 2010 年第 1 期 43 頁。