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現行の集団土地所有権と総有論

第四章 集団土地所有権と総有論に関する一考察

第二節 集団土地所有権と総有論

二 現行の集団土地所有権と総有論

1982 年憲法の第 30 条は「県及び自治県を郷、民族郷及び鎮に分ける」と規定されて いる。これにより、郷、鎮の人民政府は、人民公社に替わって行政権力を行使するこ ととなり、人民公社を否定された。さらに、1983 年から、人民公社、生産大隊、生産 隊という三級構造は郷鎮、行政村、村民小組に改組され、農村土地の請負経営制が確 立された。「集団所有、集団経営」の土地所有権制度は農戸の請負責任制度に変革され た。集団土地所有権の性質については継続して議論されている。中国の学界では、集 団土地所有権が共同所有権または集団法人所有権のうちの一種類に属するが、中国民 法上の二類型の共有ではないということには異論がない501。中国物権法では、持分共有 と共同共有の二種類しか規定していない。集団土地所有権は中国民法上の共有と解釈 した場合、いずれにしても、構成員の死亡、加入、脱退などの原因で土地の変動を引 き起こす可能性がある。集団土地所有権の設立の初志に背き、農村土地の私有化が引 き起こされるため、集団土地所有権は中国民法上の二種類の共有ではない。1980 年代 から、中国の学界で集団財産は集団組織の法人所有であるという主張が有力になった が、1990 年代初期から、法人説に反対し、伝統の総有理論を修正し、いわゆる新型総 有説が存在している502。その後、中国の学界で現行の集団土地所有権の性質は総有であ るかについて、大きく議論されている。本研究では総有論を支持するかどうかについ て、各学説を折衷、肯定、否定三つの種類の学説に分けて考察する。以下では、その 三種類の学説の内容を概観する。

(一) 折衷説

折衷説とは、総有理論の基本的な内容を継承し、中国社会に適合しない部分を修正 するという考え方である。中国の農民集団所有権は一定の集団範囲内の全体農民集団 構成員の共有形式を採用することができる。しかし、この共有はおそらく中国民法の

501韓松「集体所有権研究」王利明編『物権法専題研究(上)』472 頁。

502韓松はその論文で「総同共有」という用語を使う。総同共有の内容について、韓松は以下の二つの 論文で詳しく論じた。「我国農民集体所有権的享有形式」50-58 頁、韓松「論総同共有」1-9 頁。

持分共有と共同共有によって説明できない。外国の理論をそのまま使うと、中国の現 状と適合しないところがある。そのため、折衷説は伝統的な総有の中で、中国の集団 土地所有権の実質的な要求と適合する要素のみを継承するべきであると主張する。そ の具体的な内容は以下のとおりである。中国の集団所有権は総有と一定の類似性を持 っている。従って、農民集団所有権は実質的に総有の特徴を持っている所有権と考え られる503。総有理論の一部が中国農民集団所有権の実質的な要求と適合する。しかし、

既述したように、総有理論をそのまま使うと中国の現状に適合しないところがある。

そのため、折衷説は、中国の農民集団所有権の実質的な要求と適合する要素を継承し、

伝統総有論と同じように、集団の管理・処分権能と構成員の使用・収益権に分化され るものと捉えられている。さらに、中国の現状に基づき、伝統的な総有における中国 の現状と適合しない部分を修正し、土地の利用権と農民の受益権を重点とする。従っ て、形成される財産の所有形式は新型総有と呼ばれる504

(二) 肯定説

肯定説は集団土地所有権が総有と高度な類似性を持ち、集団土地所有権に総有を適 用できると主張する。中国において法律上の根拠がないにもかかわらず、多くの学者 は農民集団の地縁性や、農村土地の共同所有、権利行使の団体性などの特徴から、総 有理論に基づいて集団土地所有権の性質の検討をしている505。学界では、総有説が有力 な説として存在している。学者が総有説を支持する根拠は多様である。その多様な根 拠は二つの種類に大別できる。

一つ目は、現行法律の規定と政治上の要求を根拠としている。物権法が制定される 前は、その諸草案において、集団土地所有権について「民法における総有理論を参考 する」と示される提案があった506。2007 年 10 月から物権法が施行され、その第 59 条

503温世揚・廖煥国『物権法通論』(人民法院出版社・2005 年)368-369 頁、高富平『中国物権法制度:

設計和創新』(中国人民大学出版社・2005 年)73 頁。

504韓松はその論文で「総同共有」という用語を使う。総同共有の内容について、韓松は以下の二つの 論文で詳しく論じた。「我国農民集体所有権的享有形式」50-58 頁、韓松「論総同共有」1-9 頁。

505韓松「論総同共有」1-9頁、梁慧星(代表)『中国物権法草案建議稿』271頁、南国慶「農村集体土 地所有権問題研究」81頁、渠涛『民法理論和制度的比較研究』377-378頁、402頁、孟勤国「物権法 如何保護集体財産」72-77頁、小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」37-90頁、小川竹一(牟 憲魁・高慶凱訳)「中国土地所有権論」145-160頁、李永燃「中国農民集体土地所有権的性質和構造

-参考日本民法上的入会権」132-139頁。

506梁慧星「物権草案建議稿」の「集団所有土地の所有権」に関する規定は民法上の「総有」理論を参 考する(梁慧星(代表)『中国物権法草案建議稿』271 頁)

第 1 項では「成員集団所有」という言葉が使用されている。これにより、物権法が集 団土地所有権の性質について総有と類似する立場を採用すると主張する学者がいる507。 また、中国では個人の利益より、集団の利益を優先するという政治思想を唱える。総 有の団体的色彩が強く、中国の政治思想の要請に応じる。総有理論によって、集団所 有権を解釈すれば、集団財産の保護と管理を強化することができる。このように、総 有は集団構成員の権利の保障にとって有利であるため、有力説とされている508

二つ目は、入会権との比較によって、二つの権利の類似点を根拠としている。例え ば、小川竹一は入会権との比較を通じて、中国農村集団土地所有権に総有論を適用す るべきかを検討した509。彼は日本の入会権の総有論をもとにして、中国集団土地所有権 の性質を論じた。入会権と集団土地所有権を比較した上で、両者の性質が一致で、総 有であることを指摘した510。集団土地所有権の以下の四つの特徴が指摘されてきた。第 一に、集団的土地が地縁的範囲にある団体に帰属する。第二に、集団土地の使用・収 益権は地縁的団体に属する農民に帰属する。第三に、農民集団は土地の管理統制を行 っている。第四に、構成員たる農民は転出したら、構成員である資格を失う511。小川は 集団土地所有権が以上の四つの特徴があるため、総有の特徴と符合し、中国の農民集 団が自然共同体的性質を有し、総有団体として捉える方が妥当であるという考え方を 示した512

上述したように、学界では、中国法律の規定、政治上の要求、入会権との比較など の面から、総有説を肯定する学説が有力な説となってきた。

507王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」49 頁。

508孟勤国「物権法如何保護集体財産」72-74 頁。

509小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」37-90 頁、小川竹一「中国物権法の制定と農村土地所 有関係」1-57 頁、小川竹一「中国農村集団所有関係の研究動向について」25-33 頁、小田美佐子「中 国における農村土地請負経営権の新たな展開-「農村土地請負法」制定を手がかり-」77-108 頁。

510小川の研究によると、集団所有権と入会権の区別は以下の三つに総括できる。

第一に、日本では、総有地である入会地は、個々の農家の個別所有地を補完する共同の土地であっ た。これに対して、中国では、農村土地と都市の郊外区(国有地を除く)がすべて集団所有地である。

第二に、日本では、総有関係は少なくとも江戸時代以来、形成されてきたものであった。中国では、

現在のような枠組みは、1950 年代の人民公社期にさかのぼることができる。土地の管理、集団権利の 行使、農民の自治に関する慣習は十分に形成されていない可能性がある。第三に、集団土地の管理や 経営について、村集団は大きな権限を持つ。村民委員会は、農民集団を「代表」する権限を有して、

農業的土地利用、村民全体の福利、福祉などについて責任を負わなければならない。集団土地の管理 と経営は村民委員会の管理能力や、民主的運営に大きく依存することとなっている(小川竹一「中国 物権法の制定と農村土地所有関係」13 頁)

511小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」50 頁。

512小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」52 頁。