第四章 集団土地所有権と総有論に関する一考察
第一節 日本法における総有論
二 権利能力なき社団と総有論
以下、権利能力なき社団の権利義務帰属について概観する。最初に、総有説につい て概観する。次に、総有説に対する批判をまとめる。最後に、総有説に反対する諸学
459阿部昌樹「コモンズのル-ル」229 頁。
460松尾弘・古積健三郎『物権・担保物権(第 2 版)』(弘文堂・2008 年)232 頁。
461松尾弘・古積健三郎『物権・担保物権(第 2 版)』232 頁。
462阿部昌樹「コモンズのル-ル」229 頁。
463石口修『物権法』(信山社・2015 年)713 頁。
説を整理する。
最初に、総有説について概観する。一般的に、権利能力なき社団はそもそも法人で はなく、権利義務の帰属主体となることができず、その社団の財産は構成員全員で所 有すると解釈せざるを得ない464。しかも、仮に全員の共同所有財産と解釈した場合でも、
構成員は持分を持つことができないので、その権利義務帰属関係は共有でも、合有で もなく、総有であると考えられなけれならない465。つまり、権利能力なき社団は権利義 務の帰属主体とみなすことができず、団体の財産は団体の単独所有でもなく、構成員 の共有でもなく、構成員全員の総有である。総有説は日本の学界の通説であり、判例 にも採用されている。
前述したように、総有説は日本の学界の通説であり、判例にも採用されているが、
総有説に対しての反論を存在しており、反論の理由は大別に以下の二つに分けられる。
第一に、日本の総有論はドイツから援用されたものであるが、ドイツですでに総有 法理を否定したからである。総有という概念はドイツにおいて原流を持つが、現在で はドイツの学説だけではなく、法律上にも否定されている。ドイツ民法典の制定にお いては総有に関する規定は定めておらず、教科書からも姿を消し、ゲルマン的共同所 有は、現在に至って合有の説明をめぐって論じられている466。今日のドイツの文献にお いては、権利能力なき社団の財産帰属が総有であるという主張はなくなり、権利共同 関係の一つである合有(合手的共同関係)のみがあげられている467。このように、総有 論はその原流であるドイツにおいては否定された。この背景をもとに、日本の学界で も、総有に対する批判が強くなっている。日本では、総有の内容が必ずしも明確では なく、総有概念が不要という否定説が提唱されている468。
第二に、日本の総有論は、特別な社会的要求に応じて形成されたものであり、権利 能力なき社団に適用できないからである。日本法には、そもそも共同所有は共有しか 想定されず、大正時代における社会問題、すなわち、入会権の権利義務帰属を解釈す るために、ゲルマンにおける総有という概念を援用してきた469。入会権という日本の慣 習を認めるだけでなく、入会権に古代ゲルマンの血縁的村落共同体の総有概念を導入 しようとしたのである470。つまり、総有論は、特別な社会的要求に応じて形成されたも
464柳勝司「権利能力なき社団の財産の帰属といわゆる総有理論について」名城法学 64 巻 4 号(2015 年)101 頁。
465遠藤浩「権利能力なき社団」『演習民法(財産法)』(有斐閣・1984 年)19 頁。
466岡田康夫「ドイツと日本における共同所有論」早稲田法学会誌 45 巻(1995 年)47-48 頁、90 頁。
467後藤元伸「法人格のない人的結合体(団体)と権利共同関係-権利能力なき社団と民法上の組合の 財産関係、ならびに、法人」阪大法学 41 巻 4 号(1992 年)476 頁。
468石田穣『民法総則』(信山社・2014 年)410 頁。
469岡田康夫「ドイツと日本における共同所有論」91 頁。
470平野裕之「組合と権利能力なき社団における共有論の可能性-財産群法理と団体的拘束原理」法学
のである471。権利能力なき社団の財産帰属は入会権と異なり、総有によって解釈するこ とは不適切である472。権利能力なき社団の財産は社団の構成員に総有的に帰属すること は、取引においては有益ではない473。既述したように、日本では、入会権に総有という 概念が学説により導入された。しかし、総有理論の影響はそれに止まらず、フランス どころかドイツとも異なり総有概念を権利能力なき社団に導入することとして提案さ れたのである474。これに対して、権利能力なき社団は入会権と異なり、その財産帰属は 総有ではないとする学者もおり、その主張は以下のとおりである。入会地は入会集団 構成員の総有財産であるといわれているが、「離村失権」という原則によって、一人を 除いて全員が離村すれば、この場合、入会地は一人の単独所有になり、これに対して、
権利能力なき社団の場合、仮にただ一人の社員が残っても、残った一人の単独所有財 産となることはなく、継続して社団とする475。それゆえ、権利能力なき社団は入会集団 のような総有団体と同視することができず、入会地の帰属と異なり、その財産は構成 員全員の総有財産であるとは言えない476。つまり、総有という説明を権利能力なき社団 に用いるのが不適切である。
次に、総有説に反対する諸学説を整理する。上述したように、現在日本の学界では 総有説に対する批判が強い。そして、権利能力なき社団財産の帰属について、総有説 に反対し、単独所有説、合有説、個別処理説などの学説が存在している。以下、諸学 説の内容を概観する。
① 単独所有説
単独所有説は、社団の実質を重視しつつ、社団そのものの主体性・単一性を強調し477、 権利能力なき社団の財産が社団の単独所有に帰属すると主張する478。この説により、権 利能力なき社団は、その財産が社員全員に総有的に帰属していると理論構成する必要 がなく、社団の組織が整えられなければ、社団の財産というものを認めることができ
研究 84 巻 12 号(2011 年)737 頁。
471岡田康夫「ドイツと日本における共同所有論」91 頁。
472広中俊雄『物権法(第 2 版)』(青林書院・1987 年)421 頁。
473幾代通『民法総則』(青林書院新社・1960 年)148 頁。
474平野裕之「組合と権利能力なき社団における共有論の可能性-財産群法理と団体的拘束原理」737 頁。
475柳勝司「権利能力なき社団の財産の帰属といわゆる総有理論について」101 頁。
476柳勝司「権利能力なき社き団の財産の帰属といわゆる総有理論について」101 頁。
477森泉章『新・法人法入門』(有斐閣・2004 年)199 頁。
478森泉章『団体法の諸問題』(一粒社・1971 年)91 頁。
る479。また、権利能力なき社団が実定法上権利義務の主体として扱われ、その対外的な 権利主体性が認められるため、財産の所有者となることができる。従って、権利能力 なき社団の資産や債務は、構成員による総有という支配形態ではなく、社団の所有と いう支配形態でなければならないとされている。つまり、権利能力なき社団は社団法 人の場合とまったく同一に構成されるべきである。その財産は社団という単一体の単 独所有であるとし、構成員の個人財産と混同されない独立の財産である480。
② 合有説
合有説は、権利能力なき社団は共同の事業という統一体であって、財産や債務は団 体の構成員全員の合有的に帰属すると主張する481。その内容は次のように総括できる。
まず、権利能力なき社団は、組合所有と同様に考えられるべきである。民法第 676 条 第 2 項は「組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることはできない」と規定され ている。権利能力なき社団の権利義務の帰属については、民法 676 条 2 項の類推適用 を認めるという意味で合有に近い性質を持つ482。また、分割決議がされるまで潜在的な 持分が認められるだけということを説明しようとすれば、合有理論で十分である。総 有法理はドイツで否定され、権利能力なき社団の所有は民法上の合有とされている。
これに対して、日本では入会権の議論を経て権利能力なき社団に採用されている。実 際には、合有においても総有と同様であり、分割決議がされるまで潜在的な持分が認 められるだけであり、総有説と合有説は呼称だけの争いといえる483。そのため、権利能 力なき社団の財産関係の規律はドイツと同じように合有理論で十分である。
③ 個別的処理説
個別的処理説は社団の類型に応じて、総有的なものか、合有的なものかを考えれば 十分であると主張する484。日本の学界では、権利能力なき社団の財産は総有であるから 構成員は持分権や処分権はないとしているのではなく、権利能力なき社団の財産関係
479柳勝司「権利能力なき社団の財産の帰属といわゆる総有理論について」104 頁。
480林良平・前田達明編『新版注釈民法(2)総則』91-92 頁。
481川島武宜『民法総則』(有斐閣・1965 年)139 頁、川井健『民法概論 1 民法総則(第 4 版)』(有斐 閣・2008 年)106-109 頁、平野裕之『民法総則(第 3 版)』(日本評論社・2011 年)47 頁。
482川井健『民法概論 1 民法総則(第 4 版)』106-109 頁。
483平野裕之「組合と権利能力なき社団における共有論の可能性-財産群法理と団体的拘束原理」729 頁。
484近江幸治『民法講義Ⅰ民法総則(第 6 版)』121-122 頁、四宮和夫・能見善久『民法総則(第 8 版)』
152-153 頁、新井誠・岸本雄次郎『民法総則』174-175 頁。