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中国農村集団所有土地の権利主体に関する研究

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早稲田大学審査学位論文(博士)

中国農村集団所有土地の権利主体に関する研究

早稲田大学法学研究科

肖 ハン 晴

(2)

目 次

目 次 ... 1

序 論 ... 1

一 研究背景 ... 1

二 問題意識 ... 7

三 先行研究と本研究の位置づけ ... 9

四 本論文の構成 ... 13

五 用語の説明 ... 14

第一章 村落共同体に関する日中比較 ... 16

第一節 日本の村落共同体-沿革・研究・現状 ... 17

一 徳川・明治時代の村落共同体 ... 17

二 入会権の成立 ... 19

三 村落共同体の性質に関する研究 ... 21

四 村落共同体の現在における地位 ... 26

(一) 村落共同体の現状 ... 26

(二) コモンズ論 ... 27

第二節 中国の農村社会-沿革・研究・現状 ... 30

一 建国前の農村社会 ... 31

二 建国前の村落共同体に関する研究 ... 33

三 集団土地所有権の成立 ... 38

四 建国後の農村社会の変革と研究 ... 45

(一) 建国後の農村社会の変革 ... 45

(二) 学界の研究 ... 47

第三節 小括-日中村落共同体の比較 ... 48

第二章 入会権と集団土地所有権の比較 ... 52

第一節 入会権の権利主体 ... 53

一 入会権の主体 ... 54

二 入会権者の資格 ... 57

(3)

三 入会権の行使 ... 59

第二節 集団土地所有権の主体 ... 63

一 法律上の規定 ... 63

二 理論上の議論 ... 66

三 現状 ... 68

四 入会権との比較 ... 71

第三節 農村集団構成員の資格 ... 73

一 農村集団構成員の資格 ... 73

二 戸籍制度と農村土地制度の関係 ... 75

三 戸籍の位置づけ-入会権との比較から ... 79

第四節 集団土地所有権の行使 ... 82

一 法律上の規定 ... 82

(一) 集団所有権行使の主体 ... 82

(二) 集団の意思決定 ... 84

二 集団権利行使の現状 ... 85

(一) 集団経済組織 ... 85

(二) 村民委員会 ... 87

(三) 問題点 ... 88

三 入会権との比較 ... 90

第五節 小 括 ... 91

第三章 集団所有土地利用の内容とその法的関係 ... 93

第一節 集団所有土地利用の内容 ... 94

一 土地請負経営権の設立とその内容 ... 94

二 土地請負経営権の性質に関する議論 ... 98

三 請負経営土地の調整に関する諸制度 ... 101

第二節 集団所有土地利用における法的関係 ... 104

一 土地請負経営権の主体に関する諸学説 ... 105

二 土地請負経営戸の法的地位 ... 109

(一) 新主体説 ... 109

(二) 自然人説 ... 110

(三) 非法人説 ... 111

三 土地請負経営戸の権利義務の帰属 ... 112

(一) 中国法における共有理論の適用 ... 113

(4)

(二) 日本法における共有理論の適用 ... 116

(三) 英国法における共有理論の適用 ... 118

四 戸主の権限 ... 121

第三節 小 括 ... 123

第四章 集団土地所有権と総有論に関する一考察 ... 126

第一節 日本法における総有論 ... 128

一 入会権と総有論 ... 129

(一) 入会権の法的性質 ... 129

(二) 入会権の解体 ... 130

(三) 入会権の近代化に関する議論 ... 135

二 権利能力なき社団と総有論 ... 136

第二節 集団土地所有権と総有論 ... 140

一 改革開放前の集団土地所有権の性質 ... 140

(一) 互助組時期 ... 141

(二) 合作社時期 ... 141

(三) 人民公社時期 ... 144

二 現行の集団土地所有権と総有論 ... 145

(一) 折衷説 ... 145

(二) 肯定説 ... 146

(三) 否定説 ... 148

第三節 集団土地所有権と総同共有論 ... 150

一 総同共有論の内容 ... 150

二 総同共有論と日本の総有論の比較 ... 151

三 総同共有論に対する批判 ... 152

第四節 小 括 ... 152

第五章 農民集団の法的形態に関する一考察 ... 155

第一節 農民集団の法的形態に関する議論 ... 156

一 法人と非法人団体 ... 156

二 学界の議論 ... 162

(一) 賛成意見 ... 163

(二) 反対意見 ... 163

(三) 反対意見に対する反駁 ... 164

(5)

三 学説に関する考察 ... 164

第二節 農民集団の法人化に関する諸学説 ... 168

一 学界の諸学説 ... 168

(一) 自治法人説 ... 168

(二) 農業合作社法人説 ... 169

(三) 農村社区法人説 ... 169

(四) 農村社区合作社法人説 ... 170

(五) 株式合作社法人説 ... 171

二 学説に関する考察 ... 171

第三節 農民集団の株式合作社法人化 ... 174

一 中国の株式合作制とその沿革 ... 174

二 株式合作社法人化の典型例-南海モデル ... 177

(一) 株主権の設置 ... 179

(二) 株主の資格 ... 179

(三) 収益の分配 ... 180

(四) 株主権の取扱 ... 180

(五) 株式合作社の意思決定 ... 181

三 南海モデルに対する分析 ... 182

第四節 集団土地株式化の法的性質 ... 183

一 法律上及び各地の規定 ... 184

二 学界の議論 ... 186

(一) 物権移転説 ... 186

(二) 債権移転説 ... 187

(三) 土地請負経営期間分割説 ... 191

三 学説に関する考察 ... 192

第五節 小 括 ... 194

結 論 ... 196

一 本研究の結論 ... 196

二 今後の課題 ... 201

付 録 ... 202

参考文献 ... 213

(6)

序 論

一 研究背景

中国の土地制度については二つ明らかな特徴が挙げられる。一つ目の特徴は、中国の 土地所有制度は国家所有と集団所有の二重構造になっていることである。土地の国家所 有権とは、国家が、法律に基づき、国家の土地を占有、使用、収益及び処分する権利を いう。ただし、国有地の処分権は、憲法第 10 条及び土地管理法第 2 条の規定により、

国有地の売買、譲渡が厳しく規制されている。すなわち、国有地は永遠に国家所有であ り、譲渡できるのは、土地の占有権、使用権、収益権に限られている1。土地の集団所 有権とは、農民集団が、法律の範囲内で、集団所有土地を占有、使用、収益、処分する 権利をいう。土地の集団所有権とは、土地はいかなる集団内の個人的所有にも属さず、

集団組織の構成員の共有にも属さず、集団全体の所有に属している。集団所有土地は分 割してはならず、集団内の構成員の変動があっても、集団土地所有権には何の変動も引 き起こさない。

さらに、中国の物権法の第 3 編では、用益物権について、土地請負経営権、建設用地 使用権、宅基地使用権、地役権の四種類が規定されている。その中の土地請負経営権と 宅基地使用権とは、集団構成員という身分に基づき、集団所有土地について享受する無 償・無期限の使用権のことである。このように、都市部では土地の国家所有制が実施さ れている。農村部では土地の集団所有制が実施され、農民集団が農民を代表して土地を

1憲法第 10 条 都市の土地は、国家所有に属する農村及び都市郊外地区の土地は、法律の規定により国 家的所有に属するものを除いて、集団的所有に属する宅地及び自留地、自留山も集団所有に属する国 家は、公共の利益の為に、法律の規定により、土地徴用を行なうことが出来る如何なる組織あるいは 個人も、侵害・占有・売買あるいはその他の形式により不法に土地を譲渡してはならない土地の使用 権は、法律の規定により譲渡することが出来る。総て土地を使用する組織及び個人は、合理的に土地 を利用しなければならない。

土地管理法第 2 条 中華人民共和国は、土地の社会主義公有制を実施する。これは、全人民所有制 と労働大衆の集団所有制である。全人民所有制とは、国家所有の土地の所有権を国務院が国家を代表 して行使することである。何れの単位又は個人であっても、侵害占有、他人への売買その他違法な土 地の譲渡を行なってはならない。土地使用権は、法律の規定に従って譲渡することができる。国家は、

公共の利益のため必要を生じたとき、集団的所有の土地を収用することができる。国家は、法律の規 定に従い、土地の有償使用制度を実施する。ただし、国家が法律の規定の範囲内において、国有土地 の使用権の割当てを行なう場合を除く。

(7)

所有している。1980 年代以降、改革開放が進むにつれ、農村部の基本的生産方式は 1950 年代から実施した人民公社制から請負経営制に変わった。請負経営制により、農民は請 負経営地の所有権を持っておらず、土地の使用権しか持っていない。土地の使用権の期 限について、表 0-1 で示したように、土地の用途によりさらなる規定がある2

表 0-1 中国の土地所有権

所有権 国家所有 集団所有

範囲 ①都市市区の土地3

②農村と都市近郊区の中で法律により没収、収用、

買収して国有地となった土地

③国家が法律により収用した土地

④法律により集団所有に属さない林地、草地、荒地、

干潟地およびその他の土地

⑤農村集団組織のすべての構成員が都市または鎮へ 移転した場合、原構成員が集団所有していた土地

①農村および都市郊外地 域の土地で、法律の規定 により国有となる場合を 除くもの

②宅基地、自留地及び自 留山5

2物権法第 126 条 耕地の請負期限は 30 年とする。牧草地の請負期限は 35 年から 50 年とする。林 地の請負期限は 30 年から 70 年とする。特殊な材木の林地の請負期限は、国務院林業行政主管部門の 審査承認を経て延長することができる。

前項に定める請負期限の満了後、土地の請負経営権の権利者が国家の関連規定に基づき引き続き請 負う。

物権法第 152 条 宅地使用権の権利者は法に基づき集団所有の土地に対して、占有と使用の権利を 享有し、法に基づき当該地の建造住宅及びその付属施設を利用する権利を有する。

都市不動産管理法第 13 条及び「都市国有土地使用権の払下及び譲渡に関する暫定条例」(城鎮国有 土地使用権出譲和転譲暫行条例)第 12 条の規定により、土地使用権の使用期限は以下の用途によって 確定する。

居住用地 70 年 工業用地 50 年

教育、科学技術、文化、衛生、スポ-ツ用地 50 年 商業、観光、娯楽用地 40 年

総合又はその他の用地 50 年。

3厳密的に言うと、都市部土地範囲の区画は、都市の行政区分を基準とするか、それとも都市開発の完 成度を基準とするかといった問題について、現行の法律は明確に規定されていない。ただ、中国の憲 法の第 10 条は、「都市部の土地は、国家所有に属する」と規定されている。また、土地管理法第 8 条 では、「都市市区の土地」という制限的な用語が使われている。そして、中国では、多数の都市の行政 区内に農村区域及び都市郊外の土地が多く含まれていることを鑑み、憲法第 10 条の立法本意、及び土 地管理法第 8 条の「都市市区」という限定的な言い方に従い、解釈上、都市開発完成区域を基準とす るべきである。これは中国土地管理機関と学界の通説となっている(王衛国『中国土地権利研究』(中 国政法大学出版社・1997 年)76 頁)

(8)

⑥移民、自然災害などの原因により、農民が使用し なくなった農民集団所有土地4

使用権 の年限

居住用地 70 年、 工業用地 50 年

教育、科学技術、文化、衛生、スポーツ用地 50 年 商業、観光、娯楽用地 40 年

他の用地 50 年

耕地 30 年

牧草地 35 年-50 年 林地 30 年-70 年 宅基地 無期限

二つ目の特徴は土地所有権が多くの場合、法律だけでなく、政策によって調整されて いることである。中国では政策によって、私権とする土地所有権が管理されており、こ れは特別な根源がある。民事の分野においても、政策は重要な地位がある。その原因は 政策自身の特徴と中国の国内情勢にある6。政策は特定の時期によるどの法律よりも一 定の優位性を持っている。法律は新しい情況、新しい問題に対し、急速に制定し対応す るのは不可能である。これと比べると、政策は決断性、多様性、執行が速いなどの特徴 があり、計画経済を管理する有効な手段である7。従って、法律がない場合、政策によ って調整することがある。

5土地管理法第 8 条 都市の中心区域の土地は、国の所有に属する。農村の土地及び都市の郊外地区の 土地は、法律の規定により国の所有に属する場合を除き、農民集団所有に属する。宅地、自留地及び 自留山は農民集団所有に属する。

4中華人民共和国土地管理法実施条例(1998 年 12 月 24 日国務院令第 256 号)第 2 条 下記の土地は、全人民の所有、即ち国家の所有に属する。

① 市区の土地。

② 農村と都市近郊区の中で法律により没収、収用、買収して国有地となった土地。

③ 国家が法律により収用した土地。

④ 法律により集団所有に属さない林地、草地、荒地、干潟地およびその他の土地。

村集団組織のすべての構成員が都市又は鎮へ移転したとき、原構成員が集団所有していた土 地。

⑥ 国家が組織した移民、自然災害等の原因により、農民が建制地から集団移転した後使用しな くなった移転した原農民集団所有に属する土地。

6民事政策とは、国家権力機関は民事の生活領域に国家の利益と意志を実現するために、権威と政令に よって確定される一定の期間に民事活動が従うべき原則、民事秩序が達すべき目標、およびその具体 的措置である(斉恩平「民法適用解釈的政策検視」南開学報(哲学社会科学版)2012 年第 5 期 116 頁)

71949 年、中国共産党は軍事上の大きな勝利を獲得した。1949 年 2 月から国民党の「六法全書」が撤 廃され、解放区(占領区)の新しい司法原則が確立された。新中国は建国後に計画経済体制を実施し ている。計画経済体制とは、経済の資源配分を市場の価格調整メカニズムに任せるのではなく、国家 の物財バランスに基づいた計画によって配分し、政府が直接的に経済を管理し、コントロ-ルする体 制である。政府が社会の変化に基づき、戦略を作ることを要求される。このような背景をもとに、政 策には決断性、多様性、執行が速いなどの特徴があり、計画経済を管理する有効な手段となっている

(蔡定剣・劉丹「从政策到法治社会兼論政策対法治建設的消極影響」中外法学 1999 年第 2 期 9 頁)。

(9)

特に、中国建国後、民事立法活動がほぼ停滞していたため、1949 年国民党の旧法が 廃止された時から、1986 年民法通則が公布されるまで、この段階で政策(主に共産党 の政策)は民事法律の代わり、主導的な役割を果たしていた。何十年にもわたって、民 事の活動は主に政策によって規制されていた8。そのため、国家政策が主導的地位にあ るという観念はすでに中国の人々の間に浸透していた9。1986 年、民法通則が公布され た後、中国の民事法制が次第に整えられ、比較的完全な民事法律体系が形成された10。 この変化は、国家政策が民事活動にある役割空間を縮小してきた。民事関係は主に法律 により調整されていくこととなる。それにもかかわらず、「民事政策が法律あるいは準 法律である」という観念はすでに形成された。民事政策は依然として重要な位置づけで ある。土地所有権についても例外的でなく、大量の政策が存在している。特に、農業・

農村・農民の「三農問題」について、多くの政策が制定され、指導的な地位を据える。

8新中国が成立した後、各立法の進度は非常に緩慢である。民事の立法については、1950 年婚姻法を 公布され、それ以後に何度も民法草案が制定された。しかし、すべてが政治運動のため停止された。

例えば、1954 年、全国人民代表大会常務委員会は民法の起草に着手し、1956 年 12 月に民法草案を完 成させたが、政治運動のため民事立法は中断された。1962 年、中国で商品生産と商品交換を発展させ ることを目的としたことを背景に、二回目の民法起草が開始された。1964 年 7 月に民法草案が完成さ れたが、再び政治運動のため中断された。上述したように、国務院(政務院)は国民経済を回復し発 展させるために、相次いで幾つかの民事法規を公布したが、民法の制定は停止された。このように、

計画経済体制下で、民事立法活動はほぼ停滞している状態になっていた(梁慧星「制定民法典的設想」

現代法学 2001 年第 2 期 3 頁)

「建国以来有関民事重要法規目録(草稿)」から見ると、この時期、制定された民事法律・法規は非常 に少ない(何勤華等主編『新中国民法典草案総覧(下卷)(法律出版社・2003 年)320-348 頁)

9多くの学者は「党の政策は法律の魂である」、「法律は党の政策に服従しなければならない」と主張 していた。例えば、趙擎「関于法律和政策的若干問題」法学 1958 年第 2 期 23-27 頁、王珍ほか「政 策和法律的関係」法学 1958 年第 4 期 45-47 頁、万山「略論政策和法律的関係」法学 1958 年第 4 期 4 8-51 頁、光博「法律必須服従党的政策」法学 1958 年第 5 期 54-57 頁、高呈祥「適用法律必須服従 党的政策」法学 1958 年第 8 期 47-49 頁、楊一平「党的政策是具有最高科学性的理論」法学 1958 年第 8 期 49-50 頁。

このように、国家政策(特に党の政策)は民事活動に明らかな勝勢を占拠し、法律はただ国家政策 の道具である。政策は一面において、法律の不足を補い、他方では、国家権力が民事活動を干渉する 手立てとなった。1986 年、民法の土台となる基本的な規範-民法通則が公布された。しかし、これは 計画経済時代から発展して来たものとして、その多くの内容に計画経済体制の烙印が残っている。例 えば、民法通則の第 6 条では「民事活動は必ず法律に従わなければならず、法律に規定がないときは、

国家の政策を従わなければならない」とされている(劉穎「論民法中的国家政策-以民法通則第 6 条 為中心」華東政法大学学報 2014 年第 6 期 81-83 頁)

102011 年 8 月末まで、中国はすでに民法、商法に関する法律 33 部と大量な行政法規、地方法規を制定 した(「2011 年政府白皮書-中国特色社会主義法律体系」http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/2011 /Document/1034943/1034943.htm(2011 年 10 月 27 日発表)

(10)

例えば、2004 年から、連続 12 年中央一号文書はすべて三農問題を主題とし、三農に関 する各作業の中で綱領的かつ指導的な地位を据える11

このような背景をもとに、政策は集団土地所有権を調整する重要な役割を果たしてい る。しかし一方で、集団土地所有権管理の混乱を引き起こす側面もある。つまり、国家 権力の不当な干渉を原因として多くの問題が起こされるのである。土地所有権は私権に 属し、主に民事の法律によって調整されるべきだが、政策から過多に干渉され、その私 権の属性が弱くなる。また、現行の集団土地所有制により、農民が都市部への移住など により農村の戸籍を失うと、農地に対する権利も消滅する。なお、現在、農村で多くの 労働者は都市部に出稼ぎに行っているが、現行の農村土地制度により、請負経営地の処 分について様々な制限がある。そのため、農村において利用されずに放置されている土 地が多くなり、農村経済の発展が妨げられている。また、最新の動向から見ると、農村 土地制度の改革が徐々に全国的に展開してきている12。現実においては、集団所有とい

11「三農」とは農村、農業、農民を指し、三農問題とは、農村問題、農業問題、農民問題の総称であ る。

農民問題とは、農民の収入が低く、増収は困難であり、都市-農村間の貧富の差は拡大し、農民は 社会保障の権利を実質的に得ていないという問題である。これは三農問題の中核となる問題である。

農村問題とは、農村の経済が発達していないという問題である。

農業問題とは、農業の収益が少なく、産業化のレベルが低いという問題である。

中央 1 号文書(中国語「中央一号文件」)とは、中国共産党中央委員会が毎年出す最初の文書で、中 国の 1 年間の作業の中で綱領的かつ指導的な地位を持つものである。

表 0-2 2004 年-2015 年の一号文書 年 度 一号文書の名称

2004 年 関于促進農民增加収入若干政策的意見

2005 年 関于進一歩加強農村工作提高農業綜合生産能力若干政策的意見 2006 年 関于推進社会主義新農村建設的若干意見

2007 年 関于積極発展現代農業扎実推進社会主義新農村建設的若干意見 2008 年 関于切実加強農業基礎建設進一歩促進農業発展農民增収的若干意見 2009 年 関于促進農業穏定発展農民持続增収的若干意見

2010 年 関于加大統筹城郷発展力度進一歩夯実農業農村発展基礎的若干意見 2011 年 関于加快水利改革発展的決定

2012 年 関于加快推進農業科技創新持続增強農産品供給保障能力的若干意見 2013 年 関于加快発展現代農業進一歩增強農村発展活力的若干意見

2014 年 関于全面深化農村改革加快推進農業現代化的若干意見 2015 年 関于加大改革創新力度加快農業現代化建設的若干意見

「一号文件回顧」中華人民共和国農業部 http://www.moa.gov.cn/ztzl/yhwj2015/(2015 年 9 月 20 日 最終検索)

12農村経済を発展させるために、2004 年から、連続 12 年中央一号文書はすべて三農問題を主題とする。

さらに、2013 年 11 月、中国共産党第 18 回の中央委員会第 3 回の全体会議で「中共中央全面深化改革 若干重大問題的決定」(以下「決定」と略称する)が通過された。この「決定」により、厳格な農地保 護制度を堅持することを前提として、農民は請負地に対する占有、使用、収益、流転と抵当、担保の

(11)

う原則を尊重しながら、農地の効率的な利用を目指し、各地方では農地の流動化を通じ て、土地の効率利用の試みも続出している。

しかし、中国の物権法は集団所有権を規定するが、多くの問題が取り上げていない。

農民集団所有土地について、最も重要なのはその所有権と使用権であり、集団土地の権 利主体には、所有権の主体と使用権の主体がある。中国法律上の規定から見ると、集団 土地所有権と土地使用権の主体に関する規定は不明確である。そのため、集団土地所有 権の主体と使用権主体の「虚位」の問題が生じる。

集団土地所有権主体の「虚位」とは、集団土地所有権の主体は何を指すか不明確であ り、集団土地所有権の権利主体が存在しても、完全な所有権を持つことができないとい うことを意味する。具体的に、次の三つに分けて説明する。第一に、法律上の規定から 見れば、集団土地所有権の主体について明確な規定がない。物権法第 59 条は、「農民集 団所有の不動産と動産は、当該集団構成員の集団所有に属する」と規定されている。し かし、この規定では集団土地所有権主体の実態は何であるか、依然として不明確である。

第二に、現実から見れば、権利主体とされる農民集団は実在しておらず、農村集団土地 所有権の権利主体が存在していない場合が多い。人民公社時期と異なって、現在では、

農村土地はすでに請負方式という形式によって各農戸に分配され、集団経済組織もすで に採算の単位ではなく、生産の組織、収益の分配などの機能も持っていない。厳密にい うと、農民集団というものは、現行の体制では事実上存在していない。それに加え、都 市化に伴って、多くの農民はすでに都市へ移動していて、村の戸籍上は、多くの人数が 存在するにもかかわらず、実際には村内で生活していない。結果として多くの場合、農 村集団として名義上は存在するが、実際には存在していない。第三に、権利の行使から 見れば、農民集団は直接に集団所有土地を経営・管理することがきない。物権法第 60 条による集団所有権の行使主体として、郷鎮集団経済組織、村集団経済組織又は村民委 員会、村内集団経済組織または村民小組の三種がある。つまり、農民集団は集団所有権 の主体であるが、直接に集団所有財産を経営・管理することができない。しかしながら、

村民自治組織である村民委員会は集団財産を経営・管理することができる。

次に、集団土地使用権主体の「虚位」とは、使用権の主体は不明確で、農民が農地の 処分や収用に参与できる保障がないということである。法律上、集団土地使用権の主体 についての規定が一致していない。各集団の構成員は農戸の構成員として、集団土地の 使用権が分配されるが、土地使用権の主体は集団構成員であるか、それとも農戸である 権能を保障されるようになった。土地請負経営権を株式化し、農業産業化経営を発展することも可能 となった。2014 年 10 月、中共中央は農民株式合作と農村集団財産の株式改革試行に関する方案を審 議した。そして、多数の賛成により、この方案が通過された。この方案の通過は、中国農村集団土地 制の改革がまもなく全面的に展開することを意味した(高雲才「中央通過有関農民股份合作和農村集 体資産股份権能改革試点方案農民将獲更多財産権利」人民日報 2014 年 10 月 19 日第 2 版)

(12)

かの法律上の規定が一致していないため、学界では継続して議論されている。集団所有 土地使用権の主体が農戸の場合、集団土地使用権を管理・処分する際に、農戸における 各構成員はどのように決定するか、誰がこの戸を代表して対外の活動に参加するかなど の問題をめぐって、多くの紛争が起きている。なお、現実から見ると、土地請負経営権 の行使は様々な制限を受けている。例えば、土地請負経営権の処分は厳しく制限されて いる。現在では、一般的に戸籍により集団構成員の資格を判断し、構成員という身分に より集団から土地の使用権を獲得している。現行の二元戸籍制度の下に、多くの農民は 都市に移転し、農地を耕作できなくなっても、依然に農村で土地請負経営権を持ってい る。しかし、現行法律の規定により、土地請負経営権の処分は厳しく制限されているた め、結果として、農村で荒廃された土地が多くなっている。また、農民に対して、請負 経営地の処分や収用に参与できる保障もなく、村民委員会または政府からの干渉も多い。

上述したように、集団土地所有権の主体と使用権主体の「虚位」の問題が存在してい る。結果として、集団土地所有権の主体は農民集団であると規定するが、農民集団は何 を指すか、その法的地位が何であるかなどについて不明確である。農村集団所有土地の 管理・処分をめぐって、村民委員会の権利濫用などの問題が生じる。一方、使用権の主 体は不明確で、農民が農地の処分や収用に参与できる保障がないため、政府による土地 の収用などをめぐって中国各地で紛争が起こっており、大きな社会問題となっている。

農村集団土地に関する問題は早急に解決される必要がある。

二 問題意識

最近の動向から見ると、今後中国各地で大規模な土地流動化が生じる可能性が高い。

土地の流動化の過程で農民個人の権利を保護するために最も重要なことは、集団所有土 地をめぐる各権利義務関係及び農民個人の権利を明確にすることである。農民は農民集 団において二つの身分を有する。それは農民集団の構成員と請負経営戸の構成員である。

これらの身分はそれぞれ集団土地所有権と集団土地使用権に関わっている。農民は、こ れらの身分に基づきどのような権利義務を有するのかを検討することが本研究の中心 課題である。この課題を解明するできれば、集団所有土地をめぐる各権利義務関係が明 確にされ、権利主体の虚位という問題が解決できる。そして、本研究では、法律の規定、

学界の議論などに基づき、具体的に以下の四つの問題を検討する必要がある。

一つ目は、農民は農民集団の構成員としてどのような権利義務を有するかという問題 である。具体的には、以下の問題を明確にしなければならない。すなわち、農民集団は 何を指すのか(集団土地所有権の帰属主体と其の態様)、集団構成員の資格はどのよう

(13)

な条件が必要か(資格要件)、また、集団構成員の権利はどのように行使されるか(権 利の行使)などの問題である。中国憲法第 8 条、民法通則第 74 条および物権法第 59 条の規定によれば、集団所有権とは、労働大衆の集団組織または農民集団が持つ権利で ある。これは多くの法学著書の一般的な解釈でもある。しかし、労働大衆の集団組織ま たは農民集団とは、いったい誰であるのか、その法律形態はどのようなものであるのか の問題について、法律上および政策上においては明確な規定がない。そこで、本研究で は、法律上の規定と学界の議論に基づき、中国の集団土地所有権の主体、構成員の資格、

権利の行使などを考察する。

二つ目は、土地請負経営権の主体は一体何であるか、農民集団の構成員は土地請負経 営戸においてどのような権利義務を有するかという問題である。現行法律では、土地請 負経営権の権利主体についての規定が一致していない。また、学界においても、様々な 議論がある。さらに、法律上、土地請負経営戸の事務の決定についても明確な規定がな い。実際には、戸主は戸の名義で対外的な経済活動を行うことが多い。例えば、土地請 負契約を結び、土地請負経営権を流動する時、戸主のみが契約書に署名する。このよう に、対外関係において、戸主は実際に戸の代表者となる。しかし、戸主の権限について、

法律上での明確な規定はない。それゆえ、現実においては、多くの紛争が生じる。中国 の学界では、土地請負経営権の主体、土地請負経営戸の法的地位、戸主の権利などにつ いて様々な議論が存在している。農民の利益を保護し、紛争を減らすために、農民集団 の構成員は土地請負経営戸においてどのような権利義務を有するかについて明確にす る必要がある。

三つ目は、中国集団土地所有権に総有理論を適用するべきかという問題である。民法 は単独所有を原則とするが、一つの物に対し複数人が所有することも多い。伝統民法上 では、複数人所有の形態は共有、合有、総有の三種類がある。しかし、中国物権法では、

持分共有(共有)と共同共有(合有)の二種類しか規定されていない13。この二種類の 共有のいずれにも、構成員の変動などの原因で、集団土地所有権の頻繁な変動が引き起 こされ、集団土地所有権を個人私有権に変更される可能性がある14。そのため、中国集 団土地所有権の法的性質について学界では様々な議論があっても、民法上の共有でも、

合有でもないことについては異論がない15。学界の議論は主に総有説に集中しており、

総有説または新型総有説に有力ではあるが、集団土地所有権に総有を適用することにつ

13物権法第 93 条 不動産または動産は二つ以上の組織、個人により共有できる。共有には持分共有と 共同共有を含む。

第 94 条 持分権共有者は共有の不動産や動産に対して、その持分額に基づき所有権を有する。

第 95 条 共同共有者は共有の不動産や動産に対して共同で所有権を有する

14韓松「集体所有権研究」王利明編『物権法専題研究(上)(吉林人民出版社・2002 年)482-483 頁。

(14)

いて疑問が出ている。総有は、沿革的にはゲルマンの村落共同体における所有に由来す るものである。日本では、総有という性質を持っている権利は存在している。すなわち、

長い歴史がある入会権である。日本の学界では入会権の性質を解釈するために、ゲルマ ン法における総有理論を援用し、詳しく研究をしている。これに対して、中国の学界に おいて、集団土地所有権の性質が総有であるという学説は有力説として存在してはいる が、総有についての詳しい研究が欠如している。本研究では、日中比較の視点から、中 国の学界における総有説を再検討し、集団土地所有権に総有理論を適用するべきか否か を検討する。

四つ目は、中国集団土地所有権は総有理論を適用するべきではないとした場合、どの ように解釈されるべきかという問題である。既述したように、集団土地所有権の法的性 質は中国民法上の二種類の共有形態ではない。そして、なおかつ、中国集団土地所有権 は総有理論をも適用しないとした場合、共同共有いずれの三つの形態にも属さない。民 法上の民事権利主体により、農民集団の法律形態を明確にできないと、集団所有土地を めぐる各権利義務が明らかにできず、国家権力の干渉を減らして、集団土地所有権の完 全な私権化も実現できない。従って、農民集団の法的形態を明確にすることが重要であ る。なお、民法上の民事権利主体には、法人、自然人および非法人団体の三種類が認め られているが、集団所有権の主体である労働大衆の集団組織または農民集団は、明らか に自然人ではない。それでは、法人か非法人団体であるか、それとも両者に属しないか は学界で様々な議論がある。また、法人の設立については法人法定主義がとられている。

つまり、法律上の根拠がなければ、法人化できない。本研究では、農民集団の法人化に ついて法律上の規定がない段階で、将来的に農民集団の法人化という法制度設計が可能 であるかどうか、可能であれば、具体的にどのように設計するべきかを検討する。

三 先行研究と本研究の位置づけ

中国国内で農村集団土地の所有権の改革をめぐって、①国有化案、②私有化案、③国 家所有、集団所有、農民私人所有三者併存案、④集団土地所有権を再構築する案などの 四つの改革案がある。集団所有という原則を尊重しながら、農地の効率的な利用を目指 し、集団土地所有権を再構築すると主張する学説が多い。その中で、農民集団の地縁性 や、土地財産の共同所有の形態、集団土地所有権の行使などから、農村集団土地所有権 の性質は総有、または新型総有であると主張する学説が有力である16。物権法が制定さ

16梁慧星(代表)『中国物権法草案建議稿』(社会科学文献出版社・2000 年)271 頁、渠涛『民法理論 和制度的比較研究』(中国政法大学出版社・2004 年)377-378 頁、402 頁、孟勤国「物権法如何保護

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れる前は、その諸草案において、集団土地所有権について「民法における総有理論を参 考する」と示される提案もあった17。2007 年 10 月から物権法が施行され、その第 59 条 第 1 項は「成員集団所有」という言葉を用いて、総有と類似する立場を取っている18。 集団利益が最優先されるのは社会主義法理論の特徴である19。総有理論も構成員の利益 より、集団の利益を優先すると提唱し、中国の社会主義法理論の要請に応じる。そのた め、総有説は農村集団土地所有制度改革の重要な構想と言え、総有説または新型総有説 は有力になっている。日本では、入会権との比較から、中国農村集団土地所有権の性質 が総有によって解釈できると主張する学者もいる20

中国の学界では、農村集団土地所有権の性質について、総有説または新型総有説が有 力であるが、総有の基盤である村落共同体に関する研究が少ない。総有権は村落共同体 の慣習を反映したものであるため、総有権であるかどうかを検討する前に、村落共同体 について詳しく研究する必要がある。つまり、集団土地所有権は総有であるかどうかを 検討する前に、農村社会が村落共同体の性質を持っているかどうかを明確にしなければ ならない。中国村落の沿革及びその共同体の性格の有無についての検討は不可欠である。

また、中国の学界では、総有説または新型総有説以外に、構成員共同所有説21、合有 説22、法人説23、一定社区範囲の農民共同共有説24、合作社説25などの学説も存在してい る。特に、法人説、すなわち、農民集団を法人化すると主張する学者が多い26。近年、

集体財産」法学 2006 年第 1 期 72-77 頁、小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」島大法学 49 巻 4 号(2006 年)37-90 頁、小川竹一(牟憲魁・高慶凱訳)「中国土地所有権論」比較法研究 2007 年第 5 期 145-160 頁、韓松「論総同共有」甘肅政法学院学報 2000 年第 4 期 1-9 頁、李永燃「中国 農民集体土地所有権的性質和構造-参考日本民法上的入会権」西南交通大学学報(社会科学版)2010 年第 4 期 132-139 頁。

17梁慧星「物権草案建議稿」の「集団所有土地の所有権」に関する規定は民法上の「総有」理論を参 考する(梁慧星(代表)『中国物権法草案建議稿』271 頁)

18王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」中国法学 2012 年第 1 期 49 頁。

19例えば、現行中国憲法第 51 条には「中国公民は、その自由及び権利を行使するときには、国、社会 及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」と規定されている。

20小川竹一「中国集団的土地所有権と総有論」37-90 頁、「中国物権法の制定と農村土地所有関係」島 大法学 51 巻 2 号 1-57 頁、小川竹一「中国農村集団所有関係の研究動向について」地域研究 10 号(2 012 年)25-33 頁、李永燃『中国農村の土地公有制及びその法的分析』(晃洋書房・2011 年)18 頁。

21王利明編『中国物権法草案建議稿及説明』(中国法制出版社・2001 年)281 頁(王利明執筆)

22王鉄雄「集体土地所有権制度之完善-民法典制定中不容忽視的問題」法学 2003 年第 2 期 41-47 頁。

23孫憲忠「確定我国物権種類以及内容的難点」法学研究 2001 年第 1 期 50-65 頁、高飛『集体土地所 有権主体制度研究』(法律出版社・2012 年)249 頁。

24肖方揚「集体土地所有権的缺陷及完善対策」中外法学 1999 年第 4 期 86-90 頁。

25馬俊駒「対我国民法典制定中几个焦点問題的看法」馬俊駒『民法典的展望和探索』(中国民主法制出 版社・2005 年)127 頁。

26張広栄『我国農村集体土地民事立法研究論綱』(中国法制出版社・2007 年)113-155 頁、高飛『集 体土地所有権主体制度研究』256 頁、董景山『農村集体土地所有権行使模式研究』(法律出版社・2012

(16)

中国の学界では、農民集団を法人化するべきという議論がなされている。ただし、法人 には多種多様な種類があり、農民集団をどの種類の法人に改革するかについては、比較 的大きな相違が学説内に存在している。

集団土地の所有権だけではなく、集団土地の請負経営権について様々な議論もある。

集団土地請負経営権については、権利の主体、その主体の法的地位、戸主の権限、土地 請負経営戸の権利義務帰属などについて、不明確なところが多い。中国の学界では、多 くの著書、論文などは土地請負経営権の主体とその性質などに注目している。ただし、

土地請負経営戸の権利義務帰属、戸主の権限などについて言及する研究は少ない。

全体から見ると、集団土地所有権に関する研究は多くの場合、依然として立法論にと どまっている。例えば、多くの研究はただ法律規定の不足を指摘し、法律条文の修正に ついて彼らの意見を述べているにすぎない。実証の視点(歴史的、社会的、比較的な角 度など)からの研究は少ない。集団所有土地をめぐる各権利義務関係を明確にし、集団 土地が効率的に利用されることは集団土地所有制度改革の目標であると考える。この目 標を実現するために、上記のような先行研究に鑑み、本研究では、実証の視点から農村 集団所有土地の権利主体について考察する。さらに、ただの立法論ではなく、法政策学 を参考にし、具体的な法制度設計を求める。

法政策学について日中の区別を説明する必要がある。中国大陸と台湾の学者の研究に よる、法政策学は次のものである。それは政策と法律に関する研究であり、その主な目 的は政策と法律の間の関係を究明することである27。政策は政治と法律の共通点を目指 し、法政策学は法律学と政治学の共通点を研究して28、法律解釈に直接的または間接的 な影響を与えるものである29。法政策学の研究対象は社会の中の具体的な紛争ではなく、

国民と関連する現在または将来における公共的問題である30。つまり、中国の学界では、

法政策学は政策と法律に関する研究であると理解されている31。これに対して、日本の 学者-平井宜雄の研究による、法政策学とは、「意思決定理論を「法」的に再構成し(再 年)194-215 頁、高海『土地承包経营権入股合作社法律制度研究』(法律出版社・2014 年)などの著 書がある。

27陳銘祥『法政策学』(元照出版有限公司・2011 年)1-3 頁。

28陳銘祥『法政策学』3 頁

29陳銘祥『法政策学』3 頁

30解亘「法政策学-有関制度設計的学問」環球法律評論 2005 年第 2 期 191 頁。

31そのため、法政策は法律政策とも呼ばれる。さらに、法律政策について次のように解釈している。

広義の法律政策は一定の社会目的に達するために、法律上採用する各種の手段と方法である。つまり、

法律政策は立法政策と司法政策だけではなく、社会政策も含まれる(例えば、住宅政策、農業政策、

労働政策、人口政策、環境政策)。狭義の法律政策は立法政策のみを指し、即ち、立法上に様々の社会 問題を解決し、一定の社会目的を達するために採用する対策である(胡平仁「法律政策学的研究路向」

当代法学 2010 年第 5 期 1 頁)

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構成された意思決定を法的意思決定または法的政策決定と呼ぶ)、実定法体系と結び付 け、法制度またはルールの体系を設計する。これにより、社会の直面する公共的ないし 社会的問題をコントロールし、問題を解決するための諸方策について法的意思決定者に 助言し、またはそれを提供する一般的理論枠組み及び技法である」32。以上から見ると、

日本の法政策学は中国の法政策学と異なる。日本の法政策学は、法律学を基礎としてお り、従って法律家を対象として構想されたものである33。これに対して、中国の法政策 学は社会問題を解決するために採用する政策が法律との関係を究明することを目的と するものである。つまり、中国の法政策学は政策と法律の間の関係を研究の対象として いる。

本研究では、日中両国の法政策学を参考にする。つまり、農村集団所有土地に関する 法律と政策を概観し、農村集団土地所有制度に与える影響を分析する。その上で、日本 の法政策学を参考にし、集団土地所有制度の改革に関する制度設計を求める。平井の法 政策学により、法的意思決定は問題形成、対策立案、問題解決の三段階がある。最初に、

問題形成段階で、「何が問題なのか、何を問題とするべきか」を明確にし、問題の「原 因」を考察する34。次に、対策立案段階で、目標を達するための対策を探し、問題解決 のために最も適切な代替案を選択する35。最後に、問題解決段階で、選択された代替案 を実定法の用語におきなおし、実定法体系に整合的に組み込み、法律またはルールとし て実施に移る36。本研究では、上述した三つの段階に従って、集団土地制度をめぐる問 題を発見し、問題の解決案を求める。

本研究の流れが以下である。まず、農民集団の歴史的な沿革を考察する。歴史的、社 会的な角度から、中国の農村社会が村落共同体の性質を有するかどうかを考察し、村落 共同体的性質を有しないことを証明する。中国は国土が広いため、農村社会の実情も異 なる。農村社会の性質を検討する際に、各地方の差異を重視し、分類して検討するべき だが、調査資料が限定され、十分に考察できない。それにもかかわらず、本研究では、

日本満州鉄道株式会社の「中国農村慣行調査」と中国土地改革委員会の「農村調査」に 基づき、実証の視点から、集団土地所有権が設立された時期の農村社会の実情を考察す る。次に、入会権と比較し、その角度から、農民は集団の構成員としてどのような権利 義務を有するかについて考察する。集団土地所有権は入会権と同じように総有により説 明できるか否かを検討し、集団土地所有権が入会権と同じように総有により説明できな いことを論証する。さらに、農民は土地請負経営戸の構成員としてどのような権利義務

32平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)(有斐閣・1995 年)5 頁

33平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』3 頁。

34平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』166-173 頁

35平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』174-176 頁。

36平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』176-177 頁

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があるかについて考察する。集団土地請負経営権の主体は個人ではなく、家庭でもなく、

農戸であることを証明する。土地請負経営戸の権利義務帰属関係は、中国法における共 有関係でもなく、日本法における共有関係でもなく、英国法における合有不動産保有関 係(Joint Tenancy)と類似することを論じる。最後に、以上の考察に基づき、集団土 地所有権には「何が問題なのか、そして何を問題とするべきか」を明らかにし、その原 因を検討する。その上で、学界の議論に基づき、集団土地所有権にとって、最も適切な 制度設計を求める。結論として、集団土地所有権にとって最も適切な制度設計は、総有 ではなく、農民集団を法人化し、集団土地所有権を法人の単独所有権にすることを論証 する。

四 本論文の構成

上述の構想に基づき、本論文の各章の内容は以下のとおりである。

第一章では、農民集団の歴史的な沿革を考察する。日中比較の視点から、中国の農村 は、村落共同体の性質を有するかどうかについて検討し、村落共同体の性質を有しない ことを論証する。本章では、日本の村落共同体と中国農村集団のそれぞれの沿革・研究・

現状を考察する。その上で、日中両国の村落共同体を詳しく比較し、中国の農村社会は 村落共同体の性質を持っていないことを論証する。

第二章では、中国の集団土地所有権と日本の入会権を比較的角度からみて、農民が集 団の構成員としてどのような権利義務を有するかについて考察し、両者の差異をまとめ る。入会権の性質について、様々な議論があったが、「総有である」ことが通説として 認められている。集団土地所有権は、入会権と同じように総有によって説明できるか。

本研究では、入会権との比較を通じて、この問題を解明する。本章では、日本の「共有 の性質を有する入会権」を比較の対象とする。比較研究を通じて、集団土地所有権の権 利主体について考察する。最初に、入会権の主体、入会権者の資格、入会権の行使主体 の三つの方面から考察する。次に、中国集団土地所有権の権利主体、集団土地所有権の 行使主体、集団構成員の資格について考察する。最後に、所有権の権利主体、権利の行 使主体、構成員の資格などの方面から、中国の集団土地所有権と日本の入会権を比較し、

両者の差異が多いであるという結論を導き出す。

第三章では、集団土地利用の内容とその法的関係を考察し、農民は土地請負経営戸の 構成員としてどのような権利義務を有するかという問題を明確にする。まず、土地請負 経営権の設立とその内容、学界の議論、請負経営土地の調整などの集団所有土地の利用 に関する内容について考察する。また、土地請負経営権の主体、土地請負経営戸の法的

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地位、戸主の権限、戸の内部関係などのような集団土地利用に関する法的関係について 考察する。本章の考察に基づき、以下の四つのことを論証する。一つ目は、土地請負経 営権の主体は農戸であること。二つ目は、農戸は非法人団体に帰属するべきであること。

三つ目は、戸主が戸の代表であること。四つ目は、土地請負経営戸の権利義務帰属は中 国法と日本法の共有理論によって説明できず、むしろ、英国法における合有不動産保有 関係(Joint Tenancy)と類似するところがある。さらに、土地請負経営権の権利主体 は、入会地の使用収益権の権利主体と比較する。

第四章では、中国の集団土地所有権は総有説を適用するべきではないことを論証する。

本章では、第一章から第三章まで導き出した結論に基づき、集団土地所有権には総有説 を適用するべきか否かを検討する。まず、日本における入会権の法的性質に関する学説 を概観する。また、中国改革開放前の集団土地所有権の性質及び現行の集団土地所有権 と総有論の関係を考察する。さらに、中国の新型総有説を考察し、その上で、日本の総 有論と比較する。以上の考察を踏まえて、中国集団土地所有権に総有説を適用するべき ではないことを論じる。

第五章では、第四章から得た結論に基づき、集団土地所有権の法的性質について再検 討し、集団土地所有権は法人の単独所有であることを論じる。本章では、農民集団には 法人格を持たせるべきか否かという問題を念頭において、農民集団の法的形態について 検討する。最初に、法人と非法人団体の区別を明確にする。次に、農民集団の法人化に 関する議論を考察し、法人化に関する諸学説を概観する。また、農村集団所有権の株式 合作社法人化の典型例-南海モデルを分析する。最後に、農村土地の株式化の性質を検 討し、最新の動向、中国現行法律上及び各地の規定、学界の議論などに基づき、集団土 地所有権に存在する問題の解決案を求める。

終章では、本研究の結論を要約する。それにより、集団土地所有権の権利主体をめぐ る今後の課題を指摘する。

五 用語の説明

本研究では、使用されている用語を統一するため、以下の説明をする。

第一に、本研究では、「土地請負経営権」という用語を使う。農村請負経営権の名称 について様々な議論がある。多くの場合、土地請負経営権は「家庭請負経営権」と呼ば れるが、「家庭請負経営権」という言葉は法律上に現れない。これは学者たちの「家庭 請負の方式よって設定した土地請負経営権」に対する略称である37。また、中国の学界

37房紹坤『物権法用益物権編』(中国人民大学出版社・2007 年)47 頁。

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では、農地使用権により土地請負経営権という名称を替えると主張する意見が存在する

38。これに対して、土地請負経営権は億万の農民に熟知され、他の名称に変えれば、農 村土地関係の不安定を引き起こす可能性があり、そのため、土地請負経営権という名称 を継続し用いられるべきと主張する学者もいる39。本研究では、言葉を統一するために、

現行法律の規定に従い、土地請負経営権という用語を使う。

第二に、本研究では、「発注側」という用語を使う。発注側は村集団経済組織あるい は村民委員会、村内集団経済組織あるいは村民小組などを含める。しかし、実際には大 部分の地区では、集団経済組織が村民委員会あるいは村民小組と合体する。本研究では それらを厳密に区分せず、発注側と総称する。

第三に、「農村戸籍」と「城鎮戸籍」という言葉を使う。中国の戸籍について、農業 戸籍と非農業戸籍、農村戸籍と都市戸籍(あるいは城鎮戸籍)などの分類がある。農業 戸籍と非農業戸籍は戸籍の性質であり、前者は農業に従事する人の戸籍を指し、後者は 農業に従事しない人の戸籍を指す。戸籍簿には「戸籍の性質」という欄があり、農業ま たは非農業が記入される。また、国民の戸籍は所属地によって、農村戸籍と都市戸籍(あ るいは城鎮戸籍)に分類される。最初に、戸籍の所属地による、戸籍の性質を判断する。

すなわち、戸籍は農村に所属すれば、その性質が農業である。そのため、通常、農業戸 籍を農村戸籍と呼ばれ、非農業戸籍は都市戸籍または城鎮戸籍と呼ばれる。本研究では、

言葉を統一するために、「農村戸籍」と「城鎮戸籍」という言葉を使う。ただし、法律・

法規の規定を翻訳する際に、変更せず、原文の言葉を使う。

第四に、城鎮の範囲は以下のとおりである。城鎮とは、城区と鎮区を含める。城区と は、市轄区と区を設定しない市の政府の所在地である。鎮区とは、城区以外の県人民政 府所在地と鎮政府の所在地である。また、常住人口は 3000 人以上の独立鉱区、開発区、

科学研究機関、大学などの特別な地域及び農場、林場の所在地は鎮区とみなす。

38梁慧星編『中国物権法研究(上)(法律出版社・1998 年)309-310 頁(陳華彬執筆)

39王利明編『中国物権法草案建議稿及説明』371 頁(房紹坤執筆)

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第一章 村落共同体に関する日中比較

日本では村落共同体の実態があり、その慣習を反映した入会権が存在している。日 本の村落自治制がいつから発生したかは不明である。村落自治制が充分な発達を示し たのは徳川時代である40。徳川時代には、村民が共同で村有地や藩有地である山林の薪 炭用の間伐材や堆肥用の落葉などを伐採・利用していた。村有地の利用及び管理に関 する規律は各々の村落において成立し、各村落の慣習となっていた。明治期に入り、

日本の国民の半分以上は村落で生活していた。また、工業、商業などの経済はまだ発 達していなかったため、農業生産は農村生活者にとって、村民間の団結互助は重要で あった。徳川時代から村落において成立した慣習を維持することは、当時、大多数の 国民にとって、不可欠であった。それゆえ、現行民法の制定過程において、法典調査 会により、その実態を踏まえた規定を設けるために、大規模な実態調査が行われた。

しかし、各地の慣行は異なるところが多く、法典調査会はすべてを民法上で規定する のは不可能であると判断した41。最終的に、民法典の 263 条と 294 条二カ条で「入会権」

として簡単な規定を設置した。入会権は共有ないし地役権の規定を適用または準用す るほか、各地の慣習に従うとされている。

時代の流れとともに、村落共同体は崩壊し、入会権が大きく変化した。第二次世界 大戦後、日本は貧困からの脱却と豊かさを実現するために、都市において工業化が進 められ、全国の復興・発展の中心となった。1950~60 年代の間、日本の農村から都市 への大規模な人口移動が起こった。農村から移住して、都市で就職する人(特に若い 人)は増加した。さらに、大型機械一貫体系の確立、商業経済の発展、農家数・農業 就業人口の減少、高齢化及び農産物流の自由化などによって、村落共同体が解体する 傾向が現れた。このようにして、村落共同体が崩壊し、間伐材などの利用がほぼなく なった。そして、現行民法典の立法時に想定していた入会権は、村落共同体の崩壊に より、その意義を失ったかに見える。ただし、日本の学界では、村落共同体の自治的 な規制をコモンズと位置づけた上で、環境保全の手法などについて論じている。

一方、中国は昔から農業国であり、村落制度も長い歴史と伝統がある。建国後、政 府は互助組、初級合作社、高級合作社と集団化の道に農民を導き、その後、農村で集

40中田薫『村及び入会の研究』(岩波書店・1949 年)1 頁。

41第 31 回法典調査会議事で福井政井の発言を参考、法典調査会編『法典調査会民法議事速記録』(法 務図書館・1977 年)80-81 頁。

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団土地所有制度を実施している。しかし、中国政府及び学界には集団土地所有権の基 礎とする共同体意識についての考察が欠如している。現在では、13 億の人口のうち、9 億近くの人が農村部に生活している。三農問題は中国社会の顕著な問題になっている。

特に、近年の都市化に伴って、仕事、子供の教育などのために、農村部から都市部に 移住する農民が増えている。中国の農村集団土地所有権について、権利主体が不明確 であり、公権力の干渉が多すぎるなどの問題が指摘されている。このように、農村集 団土地所有制度は多くの問題が現れており、これらの問題を解決するために、集団土 地所有権の法的性質を明確にすることが肝心である。

中国の学界では、集団土地所有権の法的性質を明確にするために、様々な議論を行 っている。農村集団土地所有権の性質について、総有説または新型総有説が有力説と して存在しているが、総有の基盤とする村落共同体に関する研究が少ない。集団土地 所有権は総有であるかどうかを検討する前に、農村社会が村落共同体の性質を持って いるかを明確にしなければならない。中国村落の沿革及びその共同体の性格の有無に ついての検討は不可欠である。本章では日本の村落共同体と中国農村集団のそれぞれ の沿革・研究・現状を考察する。その上で、日中両国の村落共同体を詳しく比較し、

中国の農村社会は村落共同体の性質を持っているか否かについて検討する。

第一節 日本の村落共同体-沿革・研究・現状

一 徳川・明治時代の村落共同体

日本では、その村落自治制がいつから発生したかは不明であるが、古来から村有地 の利用及び管理に関する規律は各々の村落において成立し、各村落の慣習として存在 している。日本古代の養老律令雑令42においては、「山川藪沢之利公私共之」と規定し た。すなわち、農民に分け与えられた口分田以外の山林原野・池沼などは村民が共同 で利用できるようになっていた。古代から村民村落付近の山林原野・池沼で、自由に 薪を集めたり牛馬の飼料を刈り取ったり、獣や魚を採ることが許されていた43。自治 的・地縁的組織とする村落の自治的結合組織である惣(惣村あるいは郷村)が形成さ れ44、16 世紀に日本全国的な検地が行なわれた。村の境界を定め、村落の範囲を確定す

42養老律令は日本で 757 年に施行された基本法令である

43阿部猛「山川藪沢」『日本古代史事典』(朝倉書店・2005 年)261 頁。

44「惣村」と呼ばれる「村」が中世後期から戦国期にかけて各地で自生的に生まれ、それが近世につ ながっていたのである。それ以前にも村落共同体は存在したが、それは農民経営の流動性・不安定性 のために、「惣村」成立以降の村落共同体とはその内実を異にしていた(渡辺尚志「日本近世からみ

参照

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