• 検索結果がありません。

土地請負経営戸の法的地位

第三章 集団所有土地利用の内容とその法的関係

第二節 集団所有土地利用における法的関係

二 土地請負経営戸の法的地位

以上の考察により、中国農民集団所有土地の請負経営者は、当該集団経済組織内の 家庭でもない、構成員個人でもない、当該集団経済組織内の農戸であることが分かっ た。法律上には、土地請負経営戸の法的地位について規定されていない。現実的には、

農戸の法的地位という問題に関する研究は非常に重要である。改革開放後、農村土地 請負経営制の実施に伴って、土地請負経営戸は重要な民事主体となっている。土地請 負経営戸の権利を保護するために、法律上の主体地位を明確にする必要がある。1986 年制定された民法通則において、土地請負経営戸に関しては、自然人という章に規定 されている。そのゆえ、自然人説を主張する学者が多い。しかし、反対の意見も存在 する。農戸の法的地位という問題をめぐって、様々な議論がある。主に自然人説、新 主体説、非法人説などの学説がある。以下、この三つの学説の内容を概観する。

(一) 新主体説

新主体説は、土地請負経営戸が特別な権利主体とされるべきであると主張する362。農 戸が自然人及び法人と異なる主体であり、戸という名義で生産経営に従事することが できる。新主体説は多くの支持を受け、有力説になってきた。その内容は以下のとお りである。中国では、農戸は社会主義公有制を基礎として、農村集団構成員の家庭労 働を基礎とする結合体である。これは自然人、法人と異なる。多くの場合、農戸は一 定の親族関係がある家庭成員から成る社会組織である。農戸の創立、変更、消滅につ いては、ただ郷鎮、村の戸籍で登録すればすぐに効力が発生する。個別成員の脱退あ るいは死亡は、土地請負経営戸の権利主体地位に影響を与えない。それゆえ、土地請 負経営戸は個人性と団体性という特性があるため、自然人あるいは法人と明らかな区

362高寛衆「我国農戸法律地位初探」法学研究 1984 年第 2 期 42 頁。

別がある363

土地請負経営戸が自然人と異なる理由は以下のとおりである。第一に、農村請負経 営戸は婚姻と血縁関係によって成立する組織体であり、多くの場合は二人以上の構成 員がいるからである。従って、単独の自然人と異なる。第二に、多くの場合、農村請 負経営戸の財産は共同共有であるからである。これは公民の個人財産と区別がある。

第三に、農村請負経営戸において、構成員の死亡と労働力の喪失は戸の存続に影響を 与えないからである。第四に、農村請負経営戸は戸の名義によって経営管理に従事す ることができるからである。一般的には、戸主は戸の代表である。戸の構成員は、戸 主が戸を代表し、行う法律行為の結果を引き受ける364。第五に、農村土地請負経営契約 をめぐって紛争が発生した場合、訴訟の主体は集団経済組織員ではなく、農村土地請 負経営戸であるからである365。土地請負経営戸は法人でもなく、その理由は以下のとお りである。農戸という構造においては、構成員と組織体は互いに独立せず、各機能の 機関も持っていない。また、農戸が成立する時、登録手続きは履行しない。集団土地 の請負経営に従事する農戸はその権利能力と行為能力の範囲が法人と異なっている。

法人のように有限責任を引き受けることができない。これらを理由として、農戸は法 人の範疇に属しない366。従って、農戸は自然人でもなく、法人でもなく、特別な権利主 体であると主張されている。

(二) 自然人説

自然人説は農村土地請負経営戸を特殊の自然人とみなするべきであると主張してい る。1986 年制定された民法通則において、農村土地請負経営戸に関しては、自然人と いう章に規定されている。さらに、民法通則第 27 条は、農民集団の土地は集団内の構 成員により請負経営されることを明確に規定されている。それゆえ、自然人説は、農

363王利明・郭明瑞・方流芳『民法新論(上)』(中国政法大学出版社・1988 年)200 頁で、新主体説を 明確に主張したが、その後、王利明編の民法教科書では土地請負経営戸が新主体に属するか否かを言 明しておらず、ただ「土地請負経営戸は個体工商戸と同様に、商事主体に属する」と述べる(王利明 編『民法(第 5 版)(中国人民大学出版社・2010 年)60 頁)。

364王利明・郭明瑞・方流芳『民法新論(上)』200 頁。

365「最高人民法院関于審理及農村土地承包糾紛案件適用法律問題的解釈」(法釈[2005] 6 号)第三条 の規定により、請負に関する紛争の当事者は発注側と請負側である。前項の請負側は家庭請負方式に より集団経済組織の土地を請負う農戸である。およびその他方式によって農村土地を請負う個人また は単位である(「最高人民法院関于審理及農村土地承包糾紛案件適用法律問題的解釈」(法釈[2005] 6 号)中華人民共和国最高人民法院公報 2005 年第 8 期)

366王利明・郭明瑞・方流芳『民法新論(上)』199-200 頁。

村土地請負経営戸は法律の範囲内に請負経営契約の規定によって特殊な商品生産と経 営に従事し、自然人に従属する特別な民事主体であると主張している367。なぜなら、民 法通則においては集団土地請負経営戸に関して、自然人という章に規定されているか らである。民法通則は改革開放の初期に制定した民事の基本法である。その中で、自 然人と法人の二種類の民事主体だけが規定されている。また、農村土地請負経営戸と 個体工商戸も民法通則の第 2 章(自然人)で規定されている。そのため、農村土地請 負経営戸は個体工商戸と同様に、独立した民事の主体ではなく、自然人が民事主体と して民事活動に参与する特別な形式である368

(三) 非法人説

非法人説は土地請負経営戸の団体性を注目し、土地請負経営戸が非法人であると主 張する。中国の学界では、土地請負経営戸は自主的生産経営者であり、非法人組織369ま たは非法人経営体370であると主張する学者が多く、通説となっている。その理由は以下 の三つである。①土地請負経営戸においては戸主、構成員と財産があり、自分の名義 で集団経済組織と契約を結ぶことができる。②戸の構成員の変化は戸の存続に影響を 与えない。③土地請負経営戸はその営業範囲内に相応の民事権利能力と民事行為能力 が持っている371。以上の三つの理由により、土地請負経営戸は非法人組織または非法人 経営体であると主張する。

他に、土地請負経営戸は組合と類似し、家庭組合であると主張する学者もいる。組 合説は、組合と同じように土地を請負う農戸は法人ではなく、営利を目的とする経済 組織であり、家庭の構成員がその組合の構成員であると主張する372。さらに、組合説に より、農戸は組合と類似点があるが、独自の特徴がある。そのため、組合に関する法

367例えば、中国政法大学民法教研室編『中華人民共和国民法通則講話』(中国政法大学出版社・1986 年)60-62 頁(田建華執筆)、陳国柱編『民法学(修訂本)(吉林大学出版社・1987 年)44-45 頁(龍 斯栄執筆)

368李開国『民法原理与実務』(中国政法大学出版社・2002 年)115 頁。

369郭明瑞・房紹坤編『民法』(高等教育出版社・2012 年)70-71 頁(郭明瑞執筆)、魏振瀛編『民法

(第 5 版)(高等教育出版社・北京大学出版社・2013 年)117 頁(李仁玉執筆)、吳漢東・陳小君編

『民法学』(法律出版社・2013 年)(麻昌華執筆)129 頁、房紹坤編『民法(第 3 版)(中国人民大学・

2014 年)53 頁(房紹坤執筆)

370楊立新『民法総則』(法律出版社・2013 年)187 頁、陳華彬『民法総論』(中国法制出版社・2011 年)

332 頁。

371吳漢東・陳小君編『民法学』130 頁(麻昌華執筆)

372彭万林編『民法学(改訂版)(中国政法大学出版社・1999 年)119-123 頁(徐国棟執筆)。

律及び家族法の関連規定を組み合わせて、農戸の行為を規制する必要がある373。 以上、学界の議論を概観した。上述のように、土地請負経営戸の法的地位について、

学界では新主体説、自然人説、非法人説などの学説がある。新主体説の「土地請負経 営戸は法人でもなく、自然人でもない」という主張が賛成するが、土地請負経営戸は 一体どのような法的地位があるかについて解明されていない。新主体説と比べて、非 法人説は土地請負経営戸の法的地位を明確にし、最も妥当である。厳密にいうと、土 地請負経営戸は組合ではなく、非法人団体の中の権利能力なき社団に属する。その理 由は以下のように説明できる。権利能力なき社団は組合と類似し、法人格を有しない 点で共通しているが、両者は区別される。社団は個人的目的を超越し、構成員の個性 が薄弱な団体である。これに対して、組合は、組合員の個人的目的のために、組合員 相互間の債権的法鎖を持つ契約関係によって結合するゆえに、組合員の個性が顕著な 団体である374。土地請負経営戸は、契約関係によって結合する団体ではなく、多くの場 合、家庭を基礎として成立したものである。そのため、土地請負経営戸は組合ではな く、非法人団体の中の権利能力なき社団に属する。ただし、非法人団体の要件は複数 人によって組成された組織体(団体)であり、二人以上の構成員がいることを要求す る。土地請負経営戸は一人の構成員のみがいる場合も多い。このような場合、土地請 負経営戸は非法人団体ではなく、自然人である。