第二章 入会権と集団土地所有権の比較
第三節 農村集団構成員の資格
三 戸籍の位置づけ-入会権との比較から
本章第一節の考察により、入会集団の構成員の資格を取得することは、国家権力の 干渉を受けず、多くは入会集団の慣習によって決定されることが分かった。入会権者 の資格の取得と喪失について、各入会集団の慣習により、様々な規則がある。入会集 団の構成員の資格について、各地でそれぞれ異なった基準を設けている。一般的に、
最も重要な条件は入会集団の構成員がこの村落あるいは部落内の住民でなければなら ないことである。それ以外にも各入会集団によって、さらなる条件をつけられること もある。
入会権者の資格に対して、中国農村集団構成員の資格は一般的に戸籍によって取得 する。中国の二元戸籍制度と農村集団構成員の資格の判断基準は、都市人口の急激的 増加を抑制し、社会安定を維持することに一定の役割を果した。人口があまり流動し ない時代には、このような制度は一定の合理性がある。改革開放後、人口の流動は増 え、市場経済の発展に伴い、現行戸籍制度の弊害は一層深刻化し、経済の発展と農民 生活の改善を妨げた。例えば、多くの農民はすでに都市へ移住しているが、その戸籍 は依然として農村に残され、集団構成員の資格を持ち続ける。自分の将来の生活を保 障するために、出稼ぎ農民は自分の請負地を使っていないにもかかわらず、他人に移
300経済の発展につれて、中国では、食料供給の配給制及び主食や副食品などの購買制限はなくなった。
住宅政策の改革で、一部農村戸籍保有者が都市で自宅を購入し、都市で生活するようになった。しか し、戸籍は教育、医療、年金、就職などの面に依然として重要な意味を有するのである。例えば、中 国の義務教育は戸籍所在地を基準とする。農村戸籍の子供が都市の学校に入学したり、または都市の 子供が戸籍所在地以外の都市の学校に入学すると、高額の「借読費」や「賛助費」を納めなければな らない。また、大学入学者の都市優遇の政策がある。大学受験は戸籍所在地で受けることが基本であ る。北京や上海などの大都市の受験生を優遇する制度が未だに持続している。現在、北京大学や清華 大学の農村出身者は、わずか 1 割であると報道された。他に、都市より、農村の医療制度と年金制度 の整備が遅れている。国営企業への就職も公務員の採用は都市の戸籍が前提となっている場合が多い。
一般的に、失業手当・保険も都市の戸籍保有者にしか与えられない。そして、たとえ農業戸籍は廃止 されても、このような改革は単に名称上の改正であり、実質には大きな変化がない。城鎮戸籍保有者 と農村部戸籍保有者には、依然として、福祉の面において明らかな差が存続している。
転しようとしない。その結果、農村土地を効率的に利用することができない。都市ま たは他の農村集団から移住してきた人は、その集団の構成員資格を持っていないため、
集団土地に対し権利を持たない。集団土地を耕作しようとしても、様々な制限がある。
このように、経済の発展につれて、人口の流動は頻繁になるため、戸籍により集団構 成員の資格を判断するのは不適切である。
集団構成員の資格の判断基準についても様々な議論がある。戸籍登録の申請は農村 集団に加入する意思表示とみなす。これは基本原則としてきた。これらの基本原則は 継続されるべきである。ただし、細かい集団構成員の資格の判断基準については改革 が必要である。集団構成員の資格の判断基準は概ね二つある。一つ目は、成年の集団 構成員の子供は生まれてすぐ集団構成員の資格を取得する。中国婚姻法第 9 条は「婚 姻届を出してから、男女双方の協議で、女性が男性の家庭の一員になり、あるいは、
男性も女性の家庭の一員になることができる」と規定されている。これによって、成 年の集団構成員の配偶者は集団組織の構成員になる。これは基本的原則であり、通説 として認められている。二つ目は、集団構成員による、民主的な決議301を通して、集団 構成員の資格を取得する。例えば、本集団に移住してきた者は都市の社会保障システ ムに加入できないため、日常生活においては集団土地に依存する必要がある。このよ うな人たちは集団の規約に規定する条件と手順によって、民主的な決議を通して、集 団構成員の資格を取得できる302。また、農村部住民の生活を平等に保障することは、農 村集団所有制の一つの設立理念である。農村集団土地が生活の基本的保障となるかど うかは、集団構成員の資格の判断基準をとするべきである。
他に、入会権者の資格の基準から以下の示唆がある。集団構成員の資格を判断する 際に、集団土地所有権が実質に必要であるかどうか重視されるべきである。前述した ように、一部の入会集団はその構成員が単に農業を営むだけではなく、専業農家とし て認められ、一定量以上の土地を所有することが必要である。従って、形式上部落の 住民であるが、農耕に従事しない、単に菜園程度の畑しか耕作しない者など、実質的 に入会権が必要でない人は、入会集団の構成員ではないのである。中国農村の土地を 効率的に利用するために、この慣習を参考にする必要がある。構成員自身は請負地を 経営管理することができない場合、他人に委託して経営管理する。または賃貸、互換、
下請け、譲渡によって、他人に経営管理を任せ、または土地を株式化し、他の会社、
企業の経営管理に任せる。このようにすると、農村集団土地を効率的に利用すること ができる。つまり、農村集団から得る請負地は荒廃すると、集団構成員の資格を失う。
301民主的な決議は一般的に法律上及び集団の慣習に従う。法律上では規定しておらず、集団の慣習も ない場合、特殊多数決即ち三分の二以上の構成員の賛成が必要である。
302韓松「論成員集体与集体成員-集体所有権的主体」法学 2005 年第 8 期 50 頁。
構成員は自分自身が農業を営むことを要件としないが、構成員の請負地が効率的に利 用されていることが必要である。形式上集団内の住民であるが、農耕に従事しなく、
単に菜園程度の畑しか耕作しない者は、多くの請負地を使わずにそのまま放置してい る。このような人々には、実質的に集団土地所有権は必要でない。それらの農村集団 構成員の資格は改めて考慮される必要がある。
また、入会権と同じように、農民集団の慣習も重視されるべきである。実際には、
集団構成員の資格を決める時には、集団の慣習が軽視されることが多い。例えば、す でに集団から他の地方に嫁いだが、戸籍はもとの集団に残っている女性がいる(以下
「外嫁女」と称する)。「外嫁女」の集団構成員の資格について、裁判所は一般的に 戸籍によって判断する。しかし、大部分の農村集団の慣習により、「外嫁女」は結婚 した時からもとの集団構成員の資格を失う。裁判所の判断は集団の慣習に違反すると、
当事者は裁判所の裁判を受けない場合が多い303。そして、集団構成員の資格を判断する 際には、農村集団の慣習も重視されるべきである。
さらに、集団構成員資格の喪失についても、法律上具体的な規定がない。各地の慣 習により、集団構成員は死亡したら、当然に集団構成員資格を喪失する。学界では、
集団構成員資格の喪失について、以下の観点は通説として認めている。集団構成員は 城鎮に移住し、且つ、社会保障を獲得すると、集団構成員の資格を喪失する。この観 点は日本の入会集団の「離村失権」の慣習と類似するところがある。ただし、中国の 集団土地所有権が社会保障機能を持つため、集団構成員は城鎮に移住し、且つ、都市 の社会保障を獲得する、または他の集団組織に加入し、その集団の構成員資格を得る と、もとの集団の構成員資格を喪失する。例えば、集団構成員の大学生は卒業後、都 市部で就職し社会保障システムに加入すると、その資格を喪失する。しかし、多くの 出稼ぎ農民は、都市の社会保障システムに加入できないため、彼らのもとの農村集団 所有土地は老後において、生活の保障になる。そのため、出稼ぎ農民は農村集団構成 員の資格を喪失しないのである。
303王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」53 頁。