• 検索結果がありません。

入会権者の資格

第二章 入会権と集団土地所有権の比較

第一節 入会権の権利主体

二 入会権者の資格

本項では、入会権の獲得はどのような条件が必要であるか、すなわち、入会権者の 資格について考察する。

入会地の使用・収益権能の主体とする入会権者は集団内の家、若しくは世帯の代表 者としての世帯主である。入会集団の構成員は当該共同体に居住する家族を含めた居 住者全員を指すものではなく、入会集団内に世帯を構える一家の代表(戸主ないし世 帯主)を指す。入会権者は個人でなく、集団内の世帯若しくは世帯の代表者としての 世帯主である231。そのため、入会権を有する集団が所有する入会地は集団住民の共同所 有に属するが、集団の住民のすべてが入会権者であるわけではない。

入会権者とは、入会権を有する者である。入会権者は入会集団の構成員であること によって認められ、その入会集団の構成員でなくなれば、その権利を失う232。入会集団 の構成員とは、当該共同体に居住する家族を含めた居住者全員を指すものではなく、

入会集団内に世帯を構える一家の代表(戸主ないし世帯主)を指す233。つまり、入会権

231川島武宜・川井健編『注釈民法(7)物権(2)(有斐閣・1968 年)556 頁(渡辺洋三執筆)。

232中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』75 頁。

233戦前の判例においては、世帯主だけに認めるもの と世帯主・非世帯主の別なく認めるものがあっ た。戦後の判決は入会権者が集団内の「世帯」若しくは世帯の代表者としての世帯主であることを明 示した。「入会権ハ部落民全部カ之ヲ有スルモノ二アラスシテ係争部落ノ住民二シテ一戸ヲ構フル主 ザイ主宰者タル戸主若クハ世帯主タル資格ヲ有スル者ノミ之ヲ有シ其ノ家族僕婢ノ如キハ只其ノ戸 主若クハ世帯主ノ権利の補助者又ハ代行者トシテノミ使用収益シ得ルヲ通例トス」(盛岡地昭和 5 年 7 月 9 日法律新聞 3157 号 9 頁)

「…権利者ノ資格ヲ戸主若ハ世帯主二限定シタルコトノ不当ナラサル所以ヲ領シ得ㇸキ二ヨリ原 判決二ハ所論ノ如キ違法アルモノト做スヲ得ス論旨ハ採容シ難シ…」(大判昭 10 年 8 月 1 日法律新聞 3879 号 13 頁)

第一審那覇地裁平成 15 年 11 月 19 日の判決は男女という性差によって入会権を認めないのは不当 であり、原告のXらの権利を認めた。その後、部落会は控訴し、Xらはいずれも世帯主でないから、

者は個人でなく、集団内の世帯若しくは世帯の代表者としての世帯主である234。また、

入会権の内容は、最も重要なのは入会権者が共同で収益を獲得することである。入会 権者の収益権は平等であるが、この場合における平等は数字的平等ではなく、家また は世帯を単位としての平等である。

現行日本民法典では、263 条と 294 条の規定によって、入会権は共有ないし地役権の 規定を適用または準用するほか、各地の慣習に従うとされている。そして、入会権者 の資格の取得と喪失には、各入会集団の慣習によって、様々な規則がある。地方によ って多少の相違は存在しているが、全体として一定の基準がある。以下では、入会権 者の資格の取得と喪失の基準を概観する。

入会権者の資格を取得するために、次のような条件を一つでも満たす必要がある。

(ア)入会権者の分家、(イ)入会権者の親族、(ウ)入会権者が土地と賃借関係のあ るものあるいは転出者から持株を譲りうけたものなど、(エ)入会集団内に一戸を構え て定住して集団に加入金や一定の負担金を納め、集団の共同作業に参加従事するもの、

上述(ア)、(イ)、(ウ)に当該する者も当然(エ)と同様の義務負担が必要である235。 具体的には、入会集団の構成員はこの村落あるいは入会集団内の住民でなければなら ない。ただし、この村落あるいは部落の全員が構成員であるとは限らない。他の条件 もある。例えば、入会集団の構成員は単に農業を営むだけではなく、専業農家として 認められ、一定量以上の土地を所有するものである。従って、形式上部落の住民であ るが、農耕に従事しなく、単に菜園程度の畑しか耕作しないものなど、実質的に入会 権が必要でない人は、入会集団の構成員ではない236。また、入会集団に加入金や一定の 負担金を納め、集団の共同作業に参加従事する者は入会権者として認められるところ も多かった237。戦前、日本では、村民の移動は少なく、入会集団の人々は農耕を営む者 が多かった。燃料、草肥などの供給源として、入会地は不可欠であった。一般的には、

入会権者の資格はない、と主張した。第二審福岡高裁那覇支部平成 16 年 9 月 7 日判決は入会権者が 一世帯につき一名のみであることを前提に、その資格を一家の代表としての世帯主に限定する慣習は、

入会権の本質にも合致するものであって何ら不当がないと判示した。また、平成 18 年 3 月 22 日最高 裁判所は当該団体の正会員たる資格を、明治以前の住民の男子孫に限定していることは、女子孫に対 して合理的な理由なく異なる取扱いをするものであって、憲法 14 条 1 項及び民法 1 条 2 項の趣旨に 反するため、民法 90 条によって無効であり、上告を破棄したが、各世帯の代表者にのみ入会権者の 地位を認めるという慣習は入会集団の統制の維持、各世帯の平等などの点からも、不合理ということ はないと判示した(那覇地民判平成 15 年 11 月 19 日判例時報 1845 号 119-127 頁、福岡高那覇支民 判平成 16 年 9 月 7 日判例タイムズ 1170 号 198-216 頁、最判平成 18 年 3 月 17 日民集 60 巻 3 号 773

-819 頁)

234川島武宜・川井健編『注釈民法(7)物権(2)』556 頁(渡辺洋三執筆)

235中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』44-45 頁。

236戒能通孝『民法学概論』(日本評論新社・1956 年)98-99 頁。

237中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』44 頁。

上記の基準により、入会権者の資格を取得した。

戦後、入会権者の資格の取得は厳しくなる。経済の発展に伴い、直轄利用、契約利 用などの利用形態が増える。直轄利用と契約利用の形態において、入会権者は入会集 団の収益を割り当てるため、新入会権者は直接的にもとの入会権者の収入に影響を与 える。それゆえ、入会権者の資格の取得には非常に厳格な規定がある。村落あるいは 部落内の住民であることに加えて、さらに他の条件もある。村落の住民であっても、

一定の耕地を擁しないと、入会集団に加入することができない場合がある。また、村 落あるいは部落内部の住民は必ずしも対等な地位と権利を持っているとは限らない。

特に、外村から引っ越した新家、あるいは分家によって生まれた新家は、入会権の資 格を取得することにも様々な条件が付けられる。例えば、村落あるいは部落内の居住 期間が一定の長さを満たさなければならない。入会集団に対して一定金額の出資が必 要である。入会集団の中に人望、地位がある人に推薦がされる必要がある。村落ある いは部落の自治会に管理されることを認めるなどの条件が必要である。

入会権者の資格の喪失は、一般的に、入会集団の慣習によって決定する。日本の判 例から見ると、一般的に離村失権という原則を従う238。すなわち、他村へ移住すると、

入会権者の資格を喪失する。また、他の原因で入会権者の資格を失う場合もある。例 えば、入会権者は、入会集団に納めるべき費用が払えない場合には、その資格は喪失 する239。また、入会権者は自分の志願で資格を放棄することもできる。各入会権者が持 っている権利は構成員である資格の喪失とともに消滅する。入会権は相続譲渡の対象 とはなりえない。他に、別段の慣習がある場合のほかは、入会権者全員の同意により、

入会権を廃止し、入会関係を消滅すると、入会権者の資格を喪失する。また、かつて の入会権者でも、入会集団を立ち去ることにより、収益を放棄するに至った時は、入 会集団から除外されることもある240。入会権は入会集団の構成員である資格によって、

取得したものである。そのため、入会集団構成員としての資格を失った場合には、入 会権が消滅することは当然である。

三 入会権の行使

以上の考察により、入会地の所有権が誰に、どのような条件で帰属するかという問 題が明確にされた。以下、入会権はどのように行使されるかについて考察する。

238大判明治 33 年 6 月 29 日民録 6 輯 6 卷 168-174 頁、秋田地判昭和 30 年 8 月 9 日下級民集 6 卷 8 号 1590-1606 頁。

239安濃津地判明治 45 年 3 月 20 日法律新聞 777 号 22-23 頁。

240戒能通孝『民法学概論』98-99 頁。

入会権の行使は一般的に各入会集団の慣習に従う。入会地の所有権がどのような人 に帰属したかという問題と入会地所有権が如何に行使されたかという問題とは異なる 問題である。入会地が村の住民の全体に属するため、村が団体として住民の権利を行 使することもできず、また、何等の干渉もなさなかったとはいえない241。日本民法では、

入会権の内容と権限について具体的な内容を規定しておらず、ただ「地方の慣習に従 うほか」と規定している。入会地に関する権利がどのように行使されたかに関しては、

判例や学説により一定の原則が形成される。一般的には、入会集団の事務は集団の慣 習によって決定される。

入会地の利用目的や利用形態の変更は総会の決定によって決められ、少数の意見も 重視される。例えば、入会山を採草地から造林地に変更することに対し、少数の反対 者が存在する場合、最小限度で採草地として残すか、または別に採草地を設定するか、

最低限で何らかの措置を講ずる。このように、全員の同意を得た上で、入会地の利用 目的を変更する242。入会地の分割やその他の決定に関しても、原則として権利を有する 部落民全体の同意を必要とする243。入会集団の財産を処分する時、特に、入会権者の利 益に影響を及ぼす時には、全体の同意が必要である。すなわち、全員一致原則を実行 している。例えば、入会地全体の売却、入会地全体を個人に分割すること、入会集団 の解散(入会集団の解散は入会権の完全な処分である)などについて入会権者全員の 同意が必要である244。これらは入会集団の一般的慣習である。

また、入会集団の訴訟提起には入会権者全員の同意を要する245。一般的に、入会集団 は全員一致でなければ処分ができないという原則に従っている。入会権は、権利者で ある一定の部落民に総有的に帰属するものであるため、その管理処分は構成員全員で なければできないものである246。訴訟行為は敗訴すれば、入会地を処分することと同じ ことになるゆえ、入会権の対外的確認請求訴訟において入会権者の一人でも欠ければ 実体法と抵触することになり、原告適格を認めない247。このように、入会権の対外的訴 訟は固有必要的共同訴訟であるとする意見が日本の学界で支配的意見であった。つま り、入会権の対外的確認請求訴訟は固有必要的共同訴訟であり、共同訴訟人たるべき 構成員全員が当事者となってはじめて原告適格が認められる248。これから見ると、全員

241石田文次郎『土地総有権史論』514-515 頁。

242中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』215 頁

243宗宮信次・池田浩一『物権法論』(有斐閣・1979 年)188 頁。

244中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』218 頁

245舟橋諄一『物権法』453 頁。

246最判昭和 55 年 2 月 8 日集民 129 号 173 頁。

247最判昭和 41 年 11 月 25 日民集 20 巻 9 号 1921 頁。

248伊藤眞『民事訴訟法(第 4 版補訂版』(有斐閣・2014 年)627 頁。