第三章 集団所有土地利用の内容とその法的関係
第三節 小 括
以上、集団土地利用の内容とその法的関係について検討してきた。本章の考察によ り、土地請負経営権は政策によって規範化され、次第に立法により具体化され、学説 の解釈により厳密化が図られていることが分かった。本章の結論をまとめると、以下
407於保不二雄編『注釈民法(4)総則』(有斐閣 ・1967 年)12 頁(於保不二雄執筆)。
の点が挙げられる。
中国農村集団所有土地の使用・収益の主体は入会地の使用・収益の主体と異なると ころがある。第二章で考察したように、入会地の使用・収益権能の主体とする入会権 者は集団内の家若しくは世帯の代表者としての世帯主である。入会集団の構成員は当 該共同体に居住する家族を含めた居住者全員を指すものではなく、入会集団内に世帯 を構える一家の代表(戸主ないし世帯主)を指す。入会権者は個人でなく、集落内の 世帯若しくは世帯の代表者としての世帯主である408。これに対して、中国農村集団の構 成員は一般的に、当該集団の戸籍を持っている全員を指す。本章では、集団土地請負 経営権の主体に関する議論を概観した上で、中国農民集団所有土地の請負経営者は、
当該集団経済組織内の家庭でもなく、構成員個人でもなく、当該集団経済組織内の農 戸であるということを明らかにした。農民は二つの身分がある。すなわち、農村集団 の構成員と農戸の構成員である。集団構成員は構成員という身分により、集団の土地 所有権と使用権を有し、農戸の構成員という身分により、使用収益権能を実現する。
以上が、中国農村集団土地の使用・収益の主体と入会地の使用・収益の主体の区別で ある。
農戸の法的地位については、諸学説中において非法人説が最も妥当である。詳細に 言うと、非法人団体の中の権利能力なき社団に属する。ただし、その構成員は一人し かいない場合、自然人とみなされることが妥当である。土地請負経営戸の権利義務の 帰属について、中国法と日本法の共有理論によっては解釈できず、英国法における合 有不動産保有関係により説明できるという結論を得る。厳密に言えば、中国全国の範 囲で、土地請負経営戸の権利義務の帰属は英国法における合有不動産保有関係によっ て解釈できるということができないが、「戸内の人員が増加しても請負土地は増加しな いし、減少しても請負土地は減少しない」という制度を実施している地域では、特別 の約定がない場合のみ、土地請負経営戸内の構成員間の関係が形式上英国法における 合有不動産保有関係と類似する。
しかしながら、土地請負経営戸は特殊なところがあり、個別的な処理が必要である。
特に、請負経営権を処分する場合には、全員の合意が必要であり、全員の合意が得ら れなければ、処分できない。また、戸主の権限について、代表説が最も妥当であるが、
紛争を減らすために、法律においてどのような法律行為は戸主あるいは戸主の授権に よってなされるかを規定するべきである。また、農村請負経営戸の内部の制限は善意 の第三者と対抗することできるかなどの問題を明確に規定する必要もある。このよう に行えば、土地請負経営権の主体、土地請負経営戸の法的地位、及び権利義務の帰属 などを明確にでき、土地請負経営権の虚位問題も解決できる。
408川島武宜・川井健編『注釈民法(7)物権(2)』556 頁(渡辺洋三執筆)。
第一章から本章まで、入会権と比較しながら、中国農村の村落共同体性質、所有権 の権利主体、構成員の資格、集団の意思決定、集団土地利用をめぐる諸関係などにつ いて考察し、農民集団土地所有権の実態が明確にされた。集団土地所有権について、
肝心なのはその法的性質に関する問題である。農民集団土地所有権の法的性質は総有 であるという学説が有力であるが、比較的な視点から再検討する必要がある。次章で は、以上のような問題意識に従い、第一章から第三章まで得た結論に基づき、日中比 較の角度から、農民集団土地所有権の法的性質について検討する。