第二章 入会権と集団土地所有権の比較
第二節 集団土地所有権の主体
一 法律上の規定
以下、集団土地所有権における「集団」というものは何を指すか、すなわち、集団 土地所有権の帰属主体と其の態様について法律上の規定を概観する。
259中尾英俊『入会権-その本質と現代的課題』226 頁。
260川島武宜・川井健編『新版注釈民法(7)物権(2)』549-550 頁(中尾英俊執筆)。
261川島武宜・川井健編『新版注釈民法(7)物権(2))』550 頁(中尾英俊執筆)。
表 2-2 集団土地所有権の主体に関する規定 法律 集団土地所有権の主体に関する規定 憲
法
第 6 条第 1 項 中華人民共和国の社会主義経済制度の基礎は、生産手段の社会主義公有 制、すなわち全人民所有制及び労働群衆による集団所有制である。社会主義公有制は、
人が人を搾取する制度を廃絶し、各人がその能力を尽くし、労働に応じて分配するとい う原則を実行する。
第 8 条第 1 項 農村集団経済組織は、家庭請負経営を基礎とし、統一と分散を結合させ た二重経営体制を実施する。農村における生産、供給販売、信用及び消費などの各種形 式の合作経済は、社会主義の労働大衆による集団所有制経済である。農村集団経済組織 に参加する労働者は、法律に規定する範囲内において自留地、自留山及び家庭副業を営 み、並びに自留家畜を飼養する権利を有する。
第 17 条第 1 項 集団経済組織は、関係法律を遵守することを前提として、独自に経済 活動を行う自主権を有する。
民 法 通則
第 74 条 労働群衆集団組織の財産は労働群衆の集団所有に属する。次のものを含む。
(1)法律に集団の所有に属すると規定する森林、山林、草原、荒地、干潟など。
(2)集団経済組織の財産。
(3)集団所有の建築物、ダム、生産設備、農地の水利施設教育、科学、文化、衛生、
体育などの施設。
集団所有の土地は法律によって村農民集団の所有に属するものとし、村農業生産合作 社などの農業集団経済組織または村民委員会が経営・管理する。
土 地 管 理 法
第 8 条第 2 項 農村と都市郊外区の土地は、法律の規定により国家所有とされるものを 除き、農民の集団所有に属する。宅基地と自己保留地、自己保留山地も農民の集団所有 に属する。
農 村 土 地 請 負 法
第 12 条 農民集団所有の土地が法律により村の農民集団所有である場合は、村の集団 経済組織または村民委員会が請負に出す。既に村内に二個以上の農村集団経済組織があ る場合には、村内の当該農村集団経済組織または村民小組が請負に出す。
物 権 法
第 58 条 集団所有の不動産と動産には次のものを含む。
(1)法律に集団の所有に属すると規定する森林、山林、草原、荒地、干潟。
(2)集団所有の建築物、生産設備、農地の水利施設。
(3)集団所有の教育、科学、文化、衛生、体育などの施設。
(4)集団所有のその他不動産と動産。
第 59 条第 1 項 農民集団所有の不動産と動産は、当該集団構成員の集団所有に属する。
人民公社時代、大部分の農村土地は生産隊に帰属した。農村土地所有権は私有化か ら集団化まで、合作社化から人民公社化まで複雑な変遷過程を経た。集団化の初期に は、集団所有制が 1962 年の「人民公社工作条例(修正草案)」を主な原則としていた。
それにより、「三級所有、隊為基礎」という農民集団所有制を実施し、集団土地の所 有権は生産隊に帰属した262(図 1-1)。1981 年中国国家統計局が公表した統計データ によると、約 99%の農村は生産隊を採算単位としていた263。全国 90%以上の農村土地 は生産隊に帰属する。
人民公社が解体された後、大部分の農村土地が村民小組に帰属することとなる。1982 年 11 月の全国人民代表大会において、人民公社の解体が決定された。1983 年から中国 全域で人民公社の解体が始まった。生産大隊と生産隊は村民委員会と村民小組に取っ て代った。1980 年代の農村改革によって、中国農村の「三級所有、隊為基礎」という 枠組みはその終焉を迎えた。人民公社、生産大隊、生産隊は郷鎮、行政村、村民小組 に改造された。管理上の便宜のために、郷・鎮政府、村民委員会、村民小組などを設 置している。このように、一部分の農民集団はその規模と範囲が調整されたが、大部 分は元々の土地占有関係を維持している。人民公社が解体された後、農村の土地の 9 割以上が村民小組に属し、約 9%が行政村農民集団に属し、残りの 1%弱が郷鎮農民集 団経済組織の所有になっていた264。
ただ、中国の現行法律においては、誰が農民集団土地の主な所有者であるかについ て、明言しておらず、集団土地所有権の主体について、法律の規定も一致していない
(表 2-2)。1982 年憲法においては、集団土地所有権の主体は「労働群衆」集団であ ると規定されている。しかし、民法通則、土地管理法、農村土地請負法、物権法など の法律は異なる言葉を使う265。集団土地所有権の権利主体の具体的な内容について、
1962 年の「人民公社工作条例(修正草案)」においては、「生産隊は集団土地所有者で ある」と規定し、集団土地所有権の主体が明確にされた。これと比べて、中国の現行 法律は、集団土地所有権の主体についての規定が一致しておらず、「人民公社工作条例
2621962 年 9 月「農村人民公社工作条例(修正草案)」第 21 条は生産隊範囲内のすべての土地は生産隊 に帰属すると規定した。
263人民公社が解体された直前の統計デ-タより、1980 年の基本採算単位は公社が 41 個、生産大隊が 42429 個、生産隊が 538 万個であった。1981 年の基本採算単位は公社が 31 個、生産大隊が 35754 個、
生産隊が 589.9 万個であった(国家統計局編『中国統計年鑑 1981 年』(中国統計出版社・1982 年)1 32 頁)。
264陳錫文『陳錫文改革論集』(中国発展出版社・2008 年)141 頁。
265法律が制定される際に、直接に憲法の規定を引用すると、その独立性を実現することが難しい。そ のため、民法通則、土地管理法、物権法などの法律は異なる言葉を使う(劉茂林・梁成意「論憲法的 物権法訟求-「物権法(草案)」中的農村集団所有土地為例」『公法評論(第 4 巻)』(北京大学出版社・
2007 年)第 2 頁)。
(修正草案)」よりも不明確になった。
表 2-2 から見ると、集団土地所有権の主体の問題について、物権法は他の法律の規 定と一致していない。物権法は集団土地所有権の主体の不明確さについて、新しい解 決策を探索しようとしている。物権法では集団土地所有権の主体を明確にするために、
第 59 条第 1 項が「農民集団所有の不動産と動産は、当該集団構成員の集団所有に属す る」と規定されている。さらに、構成員の権利を実行するために、物権法第 59 条第 2 項には集団重要事項について集団構成員の決定権が規定されている。