第三章 集団所有土地利用の内容とその法的関係
第二節 集団所有土地利用における法的関係
一 土地請負経営権の主体に関する諸学説
中国の法律では、土地請負経営権の権利主体に関する規定が一致していない。例え ば、1986 年制定された民法通則と 1998 年制定された土地管理法は、農民集団の構成員 は農民集団所有土地を請負うと規定する352。これに対して、農村土地請負法と物権法は 土地請負経営権の主体は農戸であると規定する。農業生産の安定性のために、2002 年 に制定された農村土地請負法は、請負期間内で、結婚、出産などの原因で土地請負経 営戸の構成員が頻繁に変更されるにもかかわらず、請負土地を調整・回収してはなら ないとされ、請負経営権の主体は家庭を単位とする農戸であると規定する353。中国では、
其々の農地請負経営権に関する法律及び政府文書は概ね農村土地請負法の規定を踏襲 し、農村請負経営戸を請負主体とする。2007 年に制定された物権法の第 124 条には「農 村集団経済組織は家庭請負経営を基礎とする」と規定されている。
上述したように、請負経営権の主体について法律上統一的な規定がない。請負経営 権の主体を明確にするのは非常に重要な課題である。土地請負経営権の主体が農戸で あるか個々の農民であるかは、主体が死亡する時に、その権利関係に差異をもたらす。
これだけでなく、権利の処分に関わりがあるため、明確にしなければならない。現在、
集団土地請負経営権の主体について、学界では概ね三つの学説がある。以下では、こ の三つの学説の詳しい内容を概観し、筆者の意見を述べる。
一つ目の学説は、集団土地請負経営権の主体は集団内の農戸であるという考え方で ある。この観点により、農民集団経済組織におけるすべての構成員は戸を単位として、
352民法通則第 27 条 農村集団経済組織の構成員であって、法律の許す範囲内で請負経営契約の規定 に従って商品取引に従事する者は、農村経営請負経営戸とする。
民法通則第 80 条第 2 項 集団所有の土地または国家所有で集団が使用している土地に対する、公 民・集団の土地請負経営権は法律の保護を受ける。請負双方の権利及び義務は、法律に照らして請負 経営契約が定めるところによる。土地は売買、貸出、担保又はその他の形式で不法に譲渡することは できない。
土地管理法第 14 条 農民の集団所有の土地は、その集団経済組織の構成員が経営を請負い、栽培業、
林業、牧畜業、漁業の生産に従事する。
353農村土地請負法第 3 条は、農村土地請負は、農村集団経済組織内の家庭請負方式を採用すると規定 されているが、同法第 34 条は、「土地請負経営権を移転させる主体は、請負側である」、第 15 条は「請 負側は、当該集団経済組織内の農戸とする」と規定されている。
集団から土地を請負うことができる。これは法律上剥奪できない資格と権利である354。 この観点は主に次の二つの根拠がある。第一の根拠は、民法通則第 27 条の規定である。
民法通則第 27 条が「農村集団経済組織の成員であって、法律の許す範囲内で請負経営 契約の規定に従って商品取引に従事する者は、農村経営請負戸とする」と規定されて いるからである。この規定からみると、農民個人は土地請負経営権を取得した後、商 品経営に従事する時は、農民個人の身分ではなく、特別な身分、すなわち、「請負経営 戸」によって行う。第二の根拠は、農村土地請負法第 15 条の規定である。農村土地請 負法第 15 条が家庭請負経営の請負経営者は集団経済組織の農戸であると規定している。
また、同法第 16 条、第 17 条においては、請負経営者の権利と義務を規定している。
すなわち、法律が農戸のみに請負経営者とする主体地位を授け、請負経営権の主体は 集団構成員ではなく、農戸であるということを明確した。さらに、「戸内の人員が増加 しても請負土地は増加しないし、減少しても請負土地は減少しない」という制度は農 村土地請負法と物権法で確立され、請負地の調整に関する規定により、農戸内の人数 の増減も請負地調整の理由とさていない355。以上の根拠によって、中国の学界では、集 団土地請負経営権の主体が集団内の農戸であるという主張が存在している。
二つ目の学説は、集団土地請負経営権の主体は集団の構成員であるという考え方で ある。この観点は、土地請負経営権の主体は集団構成員個人であると考える356。この観 点は主に以下の二つの理由がある。第一の理由は、民法通則第 27 条と土地管理法第 14 条357は、農民集団の土地が集団内の構成員により請負経営することを明確に規定されて いるからである。土地請負経営権は農民の特別な身分により享有する権利であり、農 民個人に帰属する。農村土地は相関規定に基づき、各構成員に分配される。そして、
土地が分配されるのは農戸ではなく、集団構成員である。そのため、請負経営権の主 体は農戸ではなく、集団経済組織の構成員である358。第二の理由は、農戸を請負経営権 の主体とし、集団構成員を請負経営権の主体から排除すると、理論と実践に多くの問 題が生じるからである。農戸を請負経営権の主体とすれば、各戸が平等に扱われるは
354王利明『物権法研究』460 頁。
355肖立梅「我国農村土地家庭承包経営権的権利主体探究」法学雑誌 2012 年第 4 期 52-53 頁。
356宋剛「論土地承包権-以我国『農村土地承包経営法』為中心展開」法学 2002 年第 12 期 68 頁。
また、農戸は集団構成員の一つの緊密な結合体であり、農戸はただ形式上で請負経営権の主体であ り、請負経営権の実際の権利者及び利益の帰属者は農戸の中の農民集団構成員、即ち、農業に従事す る農民であると主張する学者もいる(肖立梅「我国農村土地家庭承包経営権的権利主体探究」55 頁)。
357民法通則第 27 条 農村集団経済組織の構成員であって、法律の許す範囲内で請負経営契約の規定 に従って商品取引に従事する者は、農村経営請負戸とする。
土地管理法第 14 条 農民の集団所有の土地は、その集団経済組織の構成員が経営を請負い、栽培業、
林業、牧畜業、漁業の生産に従事する。
358肖立梅「我国農村土地家庭承包経営権的権利主体探究」55 頁。
ずである。しかし、理論上、実際に各農戸の請負土地の面積が異なる原因は解釈し難 い。また、一般的に農戸は複数人から成るため、土地の権利主体の重畳を引き起こし、
農民個人としての地位を失う。死亡、結婚、出産などの原因で、農戸内の人数の変動 を引き起こす場合にも、土地請負経営権の変動は引き起こさない。このようにして、
土地の実際占有量の不公平が生じる359。以上の理由により、中国の学界では、土地請負 経営権の主体が農戸ではなく、集団の構成員であるという主張が存在している。
三つ目の学説は、集団土地請負経営権の主体が集団内の農民家庭であるという考え 方である。この観点の根拠は一つ目の観点の根拠とほぼ同じである。ただし、この観 点では農戸と家庭の概念を区別しておらず、同じ概念としている360。その理由は以下の とおりである。農戸は一般的に家庭構成員の労働により、農業生産と経営を行う。農 戸は農業生産に従事する基本単位である。そのため、農戸は実質的に法律上の農村家 庭とすることが当然である。家庭と農戸は同じ概念として扱われ、両方とも請負経営 者として、請負経営契約を締結することができる。
以上、集団土地請負経営権の主体について考察した。上述の三つの学説の中に一つ 目の学説が最も妥当である。つまり、中国農民集団所有土地の請負経営者は、当該集 団経済組織内の家庭でもなく、構成員個人でもなく、当該集団経済組織内の農戸であ る。その理由は以下のとおりである。
第一に、現在では、中国において、「戸内の人員が増加しても請負土地は増加しない し、減少しても請負土地は減少しない」という制度を実施しているからである。農村 土地請負法と物権法の規定により、請負期間内で、結婚、出産などの原因で請負経営 戸の構成員が頻繁に変更されるにもかかわらず、請負土地を調整・回収してはならな い。つまり、現行土地調整制度によって、請負経営戸の構成員は増減を問わず、その 請負土地が調整されていない。これらの規定から見ると、土地請負経営権の分配と調 整は戸を単位としている。集団の構成員を請負経営権の主体とすると、人数の変動に より、請負地は頻繁に変動されなければならない。その結果として、農民は請負地に 資金を投入したくなくなり、農業生産にも有利ではない。従って、現行法律の規定、
農村の現状から見ると、集団土地請負経営権の主体は集団の構成員ではなく、当該集 団経済組織内の農戸である。
第二に、家庭と戸は、二つの異なる概念であり、区別しなければならないからであ る。家庭とは、生活をともにする夫婦・親子などの成員で創られている集まりで、血 縁関係で構成され、人間の社会生活においての基本単位である。簡単に言うと、家庭
359宋剛「論土地承包権-以我国『農村土地承包経営法』為中心展開」68頁。
360韓志才・袁敏殊「土地承包経営権主体辨析」安徽大学学報(哲学社会科学版)2007年第4期95頁。