第三章 集団所有土地利用の内容とその法的関係
第一節 集団所有土地利用の内容
二 土地請負経営権の性質に関する議論
土地請負経営権は物権法で用益物権として規定されるが、物権法が制定される以前 は、土地請負経営権に関する議論は主にその性質に集中していた。当時の土地請負経 営の性質に関する議論は、概ね物権説と債権説に分けられる。
物権説は、土地請負経営権が物権であると主張する。物権説の中には、土地請負経 営権はどの種類の物権に属するかについても永小作権(永佃権)説330、複合土地所有権 説(すなわち集団と個人の二層所有権である)331、新型用益物権説(すなわち中国の独 有な、特色のある新型用益物権である)332などの観点がある。
物権説の理由は主に以下のとおりである。第一に、土地請負経営権は民法通則の第 5 章第 1 節で規定される権利であり、しかも、学界では民法通則の第 5 章第 1 節が物権 に関する規定があるからである。これにより、民法通則の第 5 章第 1 節で規定される 請負経営権も物権である。第二に、物権とは、物を直接的に支配する権利であり、請 負経営者が自分の請負地を支配する権利を持つからである。例えば、請負経営者が自 分の請負地を使用するだけでなく、法律と契約の規定に従って、占有、収益などのよ うな権利を有す。そのため、土地請負経営権の性質は債権ではなく、物権である。第 集団組織の構成員に限定されず、すべての農業経営者に拡大される。正確に言えば、家庭請負経営者 という方式で設立した土地請負経営権は、その主体がこの集団経済組織構成員から成る農戸である。
これに対して、荒山、荒溝、荒丘、荒灘などの農村土地の請負経営権の主体について制限がなく、集 団外の人、会社、法人などにも請負うことができる。本研究で論及するのは狭義の農村土地のみであ る。即ち、建設用地と「四荒」以外の未利用地は含まれない。
329土地請負経営権の取得方式は「法律行為によって」と「法律に基づかず」の二種類がある。法律行 為によって取得する方式は、土地請負経営契約に基づいて請負経営権を取得する方式と入札、競売、
公開的な協議などによって土地請負経営権を取得する方式がある。現在では、「法律に基づかず」に より、土地請負経営権を取得するのは相続という方式のみである農村土地請負法第 31 条は「請負っ た者が取得した請負の収益は、継承法規の規定により継承される。林地を請負った者が死亡した場合 は、その承継人は請負期間内に請負を継続することができる」と規定されている。第 50 条は、「土地 請負経営権を入札、競売、公開協議の方式によって取得した場合において、当該請負側が死亡した時 は、その請負による収益は継承に関する法規の規定により継承される。請負期限内においてはその承 継人が請負を継続することができる」と規定されている。この二つの条文より、土地請負経営権は継 承によって取得することができる(梁慧星・陳華彬『物権法(第 5 版)』(2012 年)261 頁)。
330楊立新・尹艶「我国他物権制度的重新構造」中国社会科学 1995 年第 6 期 78-93 頁。
331叶華「農地承包権具有所有権性質」中国農村観察 1998 年第 6 期 16-18 頁。
332丁関良「農村土地承包経営権性質的探討」中国農村経済 1999 年第 7 期 23 頁。
三に、請負権は契約から取得する権利であるが、その性質は債権であると考えること ができない。ここでの契約は物権を設立する行為で、あるいは物権変動の原因行為で あると言える。伝統的民法に、地上権、地役権、担保権などの権利の成立は土地請負 経営権と同様に契約を締結することが必要である。これらは契約により設立する権利 であるが、債権ではなく、物権である333。
債権説は土地請負経営権が債権であると主張する。物権法が制定される前に、農村 土地請負経営権の性質は債権であり、農民の利益を保護するために、物権に改造され るべきであると主張する学者も多い334。
債権説の内容が以下のとおりである。土地請負経営契約は債権関係であるため、土 地請負経営契約に基づいて取得する土地請負経営権は債権的性質を持っている335。債権 説は請負経営契約が契約法の原理を適用し、契約法の規制を受けるべきであると主張 する336。中国では農村土地請負責任制を実行し、農戸は集団と契約を結ぶことを通じて 農地使用権を獲得する。このように農地の使用権と所有権の分離を実現する。土地請 負経営契約は債権関係に属し、土地請負経営契約に基づいて取得する農地使用権は債 権の性質を持っている。
農民の利益を保護するために、土地請負経営権は物権化されるべきである。その理 由は以下のとおりである。債権は物権よりその効力が弱く、原則として物権に対抗す ることができない。改革開放以来、発注側は土地請負経営契約に違反し、請負経営者 の権利を侵害することが多発である。このようなことは、土地請負経営契約が債権関 係に属し、農戸が取得する使用権は債権であることと密接な関係がある。また、債権 は期限のある権利であるため、契約の満期が近づくと、農戸は土地に投資したくなく なり、土地荒廃や過度な利用などの問題さえも発生する。再び土地請負経営契約を結 ぶと、農村社会の秩序の不安定を引き起す可能性がある。債権に対して、物権は優先 的効力を持ち、それと抵触する債権に優先する。土地請負経営権を用益物権にすると、
物権の効力により、非権利者と対抗することができる。それだけではなく、所有権者 に対抗することもできるようになり、農戸利益の侵害を防ぐことができる337。
土地請負経営権を物権化するために、物権法が起草される際に、土地請負経営権の
333孫憲忠「確定我国物権種類以及内容的難点」63 頁。
334例えば、中国社会科学院法学研究所物権法研究課題組「制定中国物権法的基本思路」法学研究 199 5 年第 3 期 7 頁、陳甦「土地承包経営権物権化与農地使用権制度的確立」中国法学 1996 年第 3 期 87
-89 頁、梁慧星「制定中国物権法的若干問题」2000 年第 4 期 14 頁、陳祥健「農村土地承包法草案若 干問題的思考」法学 2001 年第 9 期 52 頁。
335中国社会科学院法学研究所物権法研究課題組「制定中国物権法的基本思路」7 頁。
336銭忠好「農村土地承包経営権的法律属性探討」南京社会科学 2011 年第 11 期 68 頁。
337梁慧星・陳華彬『物権法』(法律出版社・1997 年)10-11 頁。
名称についての議論もあった。梁慧星の物権法草案(以下では梁稿と略称される)に おいては、土地請負経営権ではなく、土地使用権という言葉を用いる。梁稿では、農 村土地制度を改善するために、請負経営権は物権の性質を持たなければならず、また、
混乱を避けるために、土地請負経営権という名称を継続に用いることはできないと提 案する338。これに対して、王利明の物権法草案(以下では王稿と略称される)において は、土地請負経営権という言葉を使う。王稿は農村土地制度の改革の内容について、
重要なのは権利の名称ではなく、権利の内容であると強調する。さらに、土地請負経 営権は億万の農民に熟知され、他の名称に変えれば、農村土地関係の不安定を引き起 こす可能性があるゆえ、土地請負経営権という用語が変わることはできないと主張す る339。王稿では、農村土地の問題について主に土地使用権、集団土地請負経営権、宅基 地使用権などの名称を使った。最終的に、土地請負経営権という名称はすでに広大な 農民に熟知され、法律・政策の安定を図るために、物権法は王稿の提案を採用し、土 地請負経営権という名称を継続して用いる。
物権法には、土地請負経営権を用益物権として規定するが、実際には、土地請負経 営権は多くの債権的な性質を持っている。現行の土地請負経営権は物権的属性と債権 的属性両方を持っている。その根拠は以下のとおりである。物権は物を直接的に支配 する権利である。債権は特定の者に対して特定の行為を請求する権利であり、権利を 実現するために、債権の場合には、債務者の履行などのような他人の行為が必要であ るが、物権においては他人の行為が不要である。しかし、土地請負経営権に対して、
様々な制限がある。大部分の農民は請負経営土地からの収入に頼って生活している。
請負経営土地は生活の保障である。請負経営土地の自由的な譲渡を認めると、農民は 生活の保障を喪失する可能性がある。そのため、譲渡の条件が厳格に制限するべきで ある。従って、農村土地請負法第 37 条、第 41 条は、土地請負経営権の譲渡について 発注側の同意を経なければならないという制限を設けた340。物権法も農村土地請負法と 同趣旨の規定を設けることにした。発注側は農地が譲渡できるかどうかを判断する。
集団土地を請負う農戸(以下では土地請負経営戸と略称する)は自由に土地請負経営 権を譲渡することができない。物権では、制限なしで自由に譲渡されることができる。
土地請負経営権の譲渡について他人の意思が介入することは物権原理と相反する。そ のため、土地請負経営権の物権的属性は完全ではなく、債権的属性が残っている。農 民の権利を保護するために、土地請負経営権を全面的に物権化されることは重要な課
338梁慧星(代表)『中国物権法草案建議稿』514 頁(陳甦執筆)。
339王利明編『中国物権法草案建議稿及説明』371 頁(房紹坤執筆)。
340顧昂然「全国人大法律委員会関于中華人民共和国農村土地承包法(草案)修改情況的汇報」全国人 民代表大会常務委員会公報 2002 年第 5 期 358 頁。