第五章 農民集団の法的形態に関する一考察
第一節 農民集団の法的形態に関する議論
三 学説に関する考察
二つの理由は、農民集団が如何なる形式を採用しても、集団構成員の利益を害する 可能性があるということである。農民集団が法人化されなくても、監督制度が欠如す ると、村民委員会は集団土地所有権を濫用し、集団構成員の利益を害する可能性があ る581。農民集団の法人化は村民委員会の専権を引き起こす可能性があるが、これを理由 にして、法人制度の優位性を否定してはならず、このような問題は立法によって解決 できる582。
三つ目の理由は、農民集団が如何なる法的形態を採用しても、対外債務が発生する 可能性があるため、農民集団が法人であるかどうかと関係がないということである583。 法人は破産すると、自分の財産によって債務を弁済する必要がある。非法人団体も同 様であり、自分の財産によって無限責任あるいは無限連帯責任を負う。現行の法律に より、農民集団法人は集団土地を使って、債務を弁済することができない。農地は農 民の生存利益に関わるため、いかなる理由によっても農民の土地を剥奪することがで きず、集団土地の譲渡は厳しく制限されている。例えば、中国憲法第10条第4項の規定 により、いかなる組織または個人も、土地を不法に占有し、売買し、またはその他の 形式により不法に譲り渡してはならない。そのため、農民集団が法人化されても、農 村集団所有土地を使って、債務の弁済をすることができない584。従って、法人は破産す る可能性があるという理由により、農民集団の法人化を否定することができない。
上述したように、法人説の支持者は以上の三つの理由を挙げ、農民集団の法人化の 反対意見を反駁した。
ローチできるように定式化し585、(イ)効率性基準と正義性基準を用いて、それぞれの 決定類型と長所および短所を見出し、(ウ)問題解決にとって最も適切な決定を考え出 すという三つの作業である586。法制度がおよそ法制度である以上、効率性要件と正義性 要件を満たさなければならない587。農民集団の法人化という制度設計は上述した二つ要 件を満たす。
第一に、農民集団の法人化は効率性要件を満たす。まず、法人は安定性を持つ。既 述したように、法人とは、自然人以外のもので、権利義務の主体となることのできる ものである。法人制度は近代的資本主義商品経済成長の産物である。法人団体は、こ れを構成する個人の増減・変更などに関係なく、継続し、安定性を持つ。また、法人 は訴訟と取引の当事者となり、独立的に責任を負うことができる。ところが、非法人 団体は、中国契約法第2条により、契約の主体になることができ、また、中国民事訴訟 法第49条の規定により、民事訴訟の当事者になることもできるが、独立的に責任を担 うことはできない。農民集団に法人格を持たせると、訴訟と取引の便宜をはかり、法 制度設計の正義性要件を満たすことができる。
第二に、農民集団の法人化は正義性要件を満たす。まず、集団構成員の責任範囲に ついては、無限責任より有限責任のほうが、農民利益の保護に対して有利である。既 述したように、日本の通説は、権利能力なき社団の構成員の有限責任を肯定する588。し かし、中国の通説は、非法人団体は民事責任能力を備えず、その構成員は連帯責任を 引き受けると主張する589。つまり、農民集団が非法人団体とすれば、農民は連帯責任を 負う。こうすると、農民の利益は害される可能性が高い。これに対して、構成員の財 産は法人の財産と区別されるゆえ、特別の約定がない場合、法人の債権者が追及でき ない。逆に、構成員の債権者も法人の財産を追及できない。法人の構成員が個人的に 債務を負っていたとしても、債権者は、構成員が法人に拠出した財産に請求できない590。 また、中国においては、権利能力なき社団の財産がどの種類の共有に属するかについ て峻別しておらず、構成員の共有であると解釈している。日本の学界の研究によると、
585市場的決定は私法の基本的な法技術に対応する。①新たな問題解決のために新たに法制度を設計す べき場合、目的・手段の間における因果法則の存在が明らかでない場合、②解決すべき問題が時間の 経過に応じて変動し、予測が不可能であり、且つそれに応じて決定の内容も継時的に変化せざるを得 ないようなものである場合、市場的決定が採用されるべきである(平井宜雄『法政策学-法制度設の 理论と技法(第 2 版)』(有斐閣・1995 年)128-136 頁)。
586平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』120 頁
587平井宜雄『法政策学-法制度設の理论と技法(第 2 版)』70 頁。
588東京高裁昭和 34 年 10 月 31 日判決下民集 10 巻 10 号 2324-2337 頁、最判昭和 48 年 10 月 9 日民集 27 巻 9 号 1129-1139 頁。
589梁慧星『民法総論(第 4 版)』148 頁。
590内田貴『民法Ⅰ総則・物権総論(第 4 版)』234 頁。
権利能力なき社団の財産は各構成員にではなく、社団の構成員の全員に総有的に帰属 する591。第四章の考察により、総有は時代に遅れる所有形態として、集団土地所有権に 適用できないことがわかった。他に、改革開放後、中国は次第に計画経済体制から市 場経済体制に変わってきている。集団土地所有権の問題の解決策を求める際には、市 場的決定を採用し、国家の介入や命令を減少し、市場発展に順応するべきである。上 述したように、取引がますます頻繁になる今日、農民集団に法人格を授けることは農 民集団の利益の保護、農村経済の発展にとって有利であり、法制度設計の正義性要件 を満たす。
第三に、農民集団の法人化は法律上の依拠がある。法人の設立は法人法定主義をと っている。つまり、法律上の根拠がなければ、法人化することができない。中国民法 通則によれば、法人は民事権利能力と民事行為能力を有し、法に基づき独立して民事 権利を有し、民事義務を負う組織である(36 条 1 項)。法人は以下の条件を具備しな ければならないとされる。(ア)法律に基づき成立し、(イ)必要な財産または経費 を有し、(ウ)自己の名称、組織機構および場所を有し、(エ)独立して民事責任を 負わなければならない(37 条)。農民集団はこの四つの条件に一致させることは、決 して難しくない。また、2006 年、農民専業合作社法が公布され、合作社の法人地位が 認められる。農民集団は合作社という形式を採用すれば、法人格を持つことができる。
さらに、2007 年物権法には、農民集団が所有する不動産及び動産の所有権は、その集 団の構成員全体に属すると規定し、「集団構成員全体に属する」という言い方を使っ て、構成員の権利を強調している。物権法第 59 条の規定から見ると、物権法は構成員 権・社員権などの概念の導入を通して、集団所有権の主体を明確にしようとした592。社 員権とは、法人の構成員の権利、特に株主が持つ権利であり、法人と社員の関係を表 す593。従って、物権法第 59 条の規定は農民集団の法律形態を解明しないが、農民集団 法人化の法律上の依拠になる。つまり、農民集団の法人化という制度設計は現行法の 規定を超越しておらず、現行法の規定と一致する。
上述したように、農民集団の法人化は法制度設計の効率性要件と正義性要件を満た し、現行法の規定と一致するため、農民集団を法人化するべきである。
591権利能力なき社団の財産は、社団を構成する総社員に総有的に帰属するという学説が、日本で支配 的見解であり、判例もこれを支持する(林良平・前田達明編『新版注釈民法(2)総則』87 頁(森泉 章執筆))。
592王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」49 頁。
593謝懷栻「民事権利体系」法学研究 1996 年第 2 期 75-76 頁。