第四章 集団土地所有権と総有論に関する一考察
第二節 集団土地所有権と総有論
一 改革開放前の集団土地所有権の性質
新中国が成立した時から、改革開放まで、中国農村の土地制度は大きな変化が生じ た。新中国が成立した直後に、農村は国の工業化を進めるための資源と原料の供給源 として位置づけられた。農村の収穫物を統一的に買付し、統一的に販売するというよ うな政策により、農民は重い負担を負っていった。しかも、建国直後の土地改革によ って、多くの零細農家が誕生したため、宗族の公有財産も村民に分配された489。また、
485堀田泰司・柳勝司編『民法総則』(嵯峨野書院・2015 年)128 頁(柳勝司執筆)。
486堀田泰司・柳勝司編『民法総則』128 頁(柳勝司執筆)。
487近江幸治『民法講義Ⅰ民法総則(第 6 版)』121-122 頁。
488福地俊雄「法人に非ざる社団について」神戸法学雑誌 16 巻 1=2 号(1966 年)161-162 頁。
489建国前、農民の支持を得るために、共産党は農村土地問題の徹底的解決という方針を打ち出した。
建国直後の 1950 年、土地改革法が公布され、共産党政権の強力な指導下で封建的土地所有制が廃止
農民私人の生産工具は極めて不足していたゆえ、生産力を高めるために、互いに助け ることが必要となり、このような背景において、農業生産の必要上、互助組が形成さ れた。互助組は臨時的なものから季節的なもの、さらに恒常的なものへと発展した。
その後、農業合作社は初級合作社から高級合作社へと展開し、それを中心にして、全 国で農村の集団化を推進していた。そして、人民公社という農村集団が次第に形成さ れることとなった。
このように、1949 年以来、中国農村では農業生産互助組、1953 年以後の初級農業合 作社(以下、初級合作社と略称する)、1956 年以後の高級農業合作社(以下、高級合 作社と略称する)という過程により、農業生産の共同化が推進された。さらに、1958 年 から人民公社が創立された。以下、互助組-合作社(初級合作社、高級合作社)-人 民公社という三つの段階について、農民集団の法的性質及びその沿革を考察する。
(一) 互助組時期
まず、第一段階である農業生産互助組の時期における農民集団の性質を考察する。
1951 年 12 月「中共中央農業生産互助合作決議」により、農業生産互助運動が始まった。
農民の土地、家畜などの生産資材と収穫の農産物はすべて農民私有に属することとな った。これを基礎として、農民は労力、家畜、農具などを交換して助け合うことを実 行するようになった。同時、農民は土地、生産用具などの出資及び労働によって、集 団から収益が分配された。互助組の加入と脱退は強制的な規定がなく、脱退する際に、
自分の生産資材の分割を要求することもできた。そのため、互助組の社員は生産資材 と収穫の農産物に対し持分共有であることは比較的に明確であった。
(二) 合作社時期
次に、第二段階である合作社時期における農民集団の性質を考察する。1955 年から 合作社運動が始まり、合作社は初級合作社と高級合作社の二つの種類があった。「農業 生産合作社模範条項」では、初級合作社の財産の帰属と使用、構成員の脱退などにつ された。そして、農民個人の土地所有権を確立する農地改革が行われた。土地改革の結果として、約 三億人の農民が約 4666 万ヘクタ-ル(7 億畝)の土地と大量の役畜・農具などの生産手段を無償で取 得した。土地改革前後、農村土地所有の変化は以下のとおりである。新中国が成立する前に、農村人 口の約 10%は地主と富農であり、彼らは農地の 70%以上を占有していた。それに対して、90%以上 の農村人口は貧農と中農であり、彼らは全国農地の約 30%を所有する。土地改革後、貧農、中農が全 国農地の約 90%以上を所有し、もとの地主と富農は全国農地の約 8%を所有する(国家統計局編『偉 大的十年』23 頁-25 頁)。
いて、次のように規定している490。
①合作社に加入する人(以下社員という)は、その私人所有の土地と生産資材を合 作社で共同使用することとなる。
②合作社はその社員の土地と生産資材を使用すると、一定の対価を支払う必要があ る。
③社員は合作社からの脱退は自由である。脱退する際には、自分の持分の分割を要 求することができる。
初級合作社は民主管理を実行し、その最高の管理機関は社員大会である。社員大会 により管理委員会と監察委員会が設立された。初級合作社は農業生産互助組と比べる と、大きな違いがあった。たとえ土地とその他の主な生産資材は本来私有であっても、
共同経営を実行し、公有財産もまた累積された。それゆえ、初級合作社は大量の社会 主義の要素も持っていた。以上の特徴から見ると、初級合作社の段階では、集団土地 に対して、民法上の持分共有に類似していることが分かった。
初級合作社の時期から、国家権力は農民の土地権利に干渉し始めた。「農業生産合作 社模範条項」では「加入と脱退が自由である」と規定されていたが、実は多くの場合、
合作社に加入することは自発的ではなく、脱退も不自由である。多くの農民は自発的 に互助組、合作社に加入することではなかった。例えば、一定の経済力を持っている 中農と富農は個人的な農業生産経営の形式を維持したがっていたが、個人の農業生産 経営者は生産・生活について巨大な圧力を受けた491。強制的に合作社に加入しなければ ならない。それゆえ、この段階は集団土地に対して、持分共有から集団の共同共有へ の過渡期であると解釈すればいっそう適合する。初級合作社の時期から、国家権力は
490「農業生産合作社模範条項」は 1956 年 3 月に通過された(中国語で「農業生产合作社示范章程草 案」と呼ばれ、以下「条項」と略称する。以下、「条項」の第 1 条第 1 項、第 15 条、第 17 条、第 18 条について、条文の一部分のみを翻訳する)。
第 1 条第 1 項 農業生産協同組合は農民の自分の意思で、お互いの利益になるなどの原則によって 組織する。共同で社員の土地、役畜、農具などの生産資材を使用する。その上、次第にこれらの生産 資材を公有化にする。共同的に労働をして、それに応じて、収穫物を分配する(…略…)。
第 15 条は「社員は合作社から脱退する自由がある。社員は退社する時、生産資材、基金、投資か ら自分の持分の分割を要求することができる(…略…)」と規定されている。また第 19-31 条にも詳 しく規定がある。
第 17 条 社員の土地は農業生産合作社で、共同で使用しなければならない(…略…)。
第 18 条 合作社は社員の入社土地の数量と品質によって、毎年の収入の中から一定の費用を支出 する(…略…)。
491例えば、新共産党占領区で「合作社又は互助組に加入しない農民に打撃を加える」と唱えた。旧共 産党占領区で「土地、役畜、農具などの共有」を唱えた。合作社に加入しないと、合作社のものを貸 出できず、しかも、自分が井戸を掘らなければならない(有林・鄭新立・王瑞璞編『中華人民共和国 国史通鉴1949-1992』(红旗出版社・1993 年)151 頁)。
農民の土地権利を干渉し始め、ますます深刻化していった492。
このように、全国で農業合作化が推進され、1956 年から高級合作社の時期に入った。
1956 年 6 月通過された「高級農業生産合作社模範条項」では、高級合作社の財産の帰 属と使用、構成員の脱退などについて次のように規定している493。
①共用した個人のすべての土地と生産資材は、集団所有に変更しなければならない。
②脱退の自由。脱退する時、生産資材、基金、投資から自分の持分の分割を要求す ることができる
③集団は個人のすべての入社土地を無償で使用することができる。
以上の特徴から見ると、高級合作社において、農民の個人所有土地は集団所有に変 更された494。社員は脱退の自由があり、しかも脱退する時には、自分の持分の分割を要 求することができる。高級合作社の段階では、初級合作社と同じように、集団土地に 対して、民法上の持分共有に類似していた。
初級合作社と高級合作社は共通点があるが、相違点もある。中国は広いため、上記 の規定を全国各地で厳格に執行することができなかった。合作社から脱退することが できず、自分の持分の分割を請求できないことが多かった。そして、学界では、高級 合作社は実際に合有とほぼ一致すると主張する学者がいる495。厳密的にいうと、高級合 作社時期の集団所有権は持分共有から合有への過渡である。また、高級合作社から人 民公社に転化する期間が短かったため、多くの場合、これらの規定が施行されなかっ た。従って、これらの規定は実質上意義がないとされている。多くの場合、高級合作 社は実際に合有とほぼ一致する496。そして、高級合作社によって、土地などの主な生産 資材の公有制と労働に応じる分配が実現された。以上により、高級合作社は完全な社 会主義の性質を持っている経済的組織に等しい。前述したように、初級合作社は農民 の私有を維持し、土地を株式化し、統一経営を実行していた。これに対して、高級合 作社は生産資材の完全な集団所有制を実行した。これは初級合作社と高級合作社との
492于大水「物権法視野下農村土地制度若干問題探析」法学論壇 2008 年第 1 期 100 頁。
4931956 年 6 月「高級農業生産合作社模範条項」(以下、第 13 条、第 11 条、 第 14 条の一部分のみを 翻訳する)第 13 条は、「入社の農民は私有土地、役畜及び大型農具などの主な生産資材を合作社の集 団所有に変更しなければならない」と規定されいている。第 11 条は、「社員は合作社から脱退する自 由がある。社員は退社する時、生産資材、基金、投資から自分の持分の分割を要求することができる」
と規定されいている。第 14 条は、「社員の土地は合作社集団所有に変更し、土地報酬を取り消す」と 規定されいている。
494当時、政府や学界では土地は価値がないものであると主張していた。農民の私有土地が高級合作社 に加入させられ、無償で合作社所有に変更させられた(中央政法幹部学校民法教研室編『中華人民共 和国民法基本問題』149 頁)。
495渠涛『民法理論和制度的比較研究』369-371 頁。
496渠涛『民法理論和制度的比較研究』369-371 頁。