第五章 農民集団の法的形態に関する一考察
第三節 農民集団の株式合作社法人化
二 株式合作社法人化の典型例-南海モデル
土地株式合作社制改革の主なやり方は、土地などの集団財産が株式化され、集団の戸 籍を持っている構成員に分配するというものである。構成員は株主権により、集団か ら収益を配当される。同時に、構成員は法人定款によって取締役会と監事会などのメ ンバ-を選出し、機関を設立する。すなわち、農民の土地請負経営権は集団経済組織 に流動され、その代わりに、集団経済組織から一定の株主権を割り当てられる(図5-
1)。農民集団は大規模な集団土地使用権を支配することとなる。このように、南海区 で株式合作制が普及され、これにより、集団土地所有制度が大きく変わった。
以下、南海を例として、株権の設置、株主の資格、収益の分配、株主権の取扱い、
集団の意思決定などについて概観する626。
農民がもっと多くの利益を得るために、土地の開発に従事するほうがよいと気がついた。そこで、南 海区では、農家の収入を増やす一方で工業化に必要な建設用地の需要を満たすために、1990 年代に多 くの土地株式合作社がつくられた。「南海モデル」と呼ばれるようになったこの仕組みは、具体的に 二つの特徴によって構成される(図 5-1)。一つ目は管轄区内の土地を、商業住宅区、経済発展区、
基本農地保護区に再編し、農地の面積を一定の水準以上に維持しながら、その有効的な利用を図ると いう特徴である。二つ目は、「全員が参加し、全員に配当する」という原則により、土地株式合作社 の各構成員に株式を分配し、それにより配当金を支払うという特徴である。
1990 年代、南海市の少数の何カ所かの村は土地株式制の方式によって、新しい農地制度を普及し、
さらに、地元政府機関の推進で、土地株式制は全市の範囲で広げられた。現在まで、南海区ではすで に 1870 個の土地株式合作社を築いた。そのうち、村委員会を単位として 191 個のグル-プ会社を創 設して、村委員会の総数の 80%を占めている。村民小組を単位としては 1678 個の土地株式協同組合 を創設して、村民小組の総数の 99.8%を占めている。株配当のみを実施する村は 34 村であり、17.8%
を占めている。また、974 社の株式合作社が株配当を実施しているが、それは 52%を占めるにとどま っている(温鉄軍ほか「農村改革中的財産制度変遷-30 年 3 個村庄的案例介紹」6-7 頁、蒋省三・
韓俊編『土地資本化与農村工業化-南海発展模式与制度創新』55-56 頁、66 頁などを参考する)。 しかし、ここで、説明する必要があるのは、南海モデルは南海市の特有のものではなく、珠江デル タ地区で集団土地に対し、普遍的に実行している一つモデルだということである。1987 年の中国共産 党中央委員会は農村改革実験区を設立した際に、南海市を農村土地制度の構築と土地適度の規模経営 の実験区としたので、南海市モデルは今後も有名であろう。例えば、南海モデル以外に、東莞モデル もある。その主な内容は南海モデルに相似する。ただし、東莞では農民集団の資産を経営性資産と非 経営性資産に分けて、農民に株を配当している。そして、農村集団所有権の外部監督管理主体、即ち、
市農村集団資産管理オフィスと鎮農村集団資産管理機関を設立している(劉憲法「南海模式的形成、
演変与結局」『中国制度変遷的案例研究(第 8 集)』80 頁)。
なお、1993 年 8 月、南海市委市政府「関于推行農村股份合作制的意見」「南発(1993)24 号」が制 定された後には、南海市の農村で農村股份合作制が急速に実施され始めた。また、1995 年 3 月に、南 海区では全部で 1574 社の合作社を築き、すべての協同組合総数の 96%を占めて、土地を主とする 13 0 億元の農村資産は、株式化され、76 万の農民に配置された(仏山市南海区人民政府「農村股份合作 制-南海掀起的第三次土地革命」http://www.nanhai.gov.cn/cms/html/7959/2008/200811191127388 77265093/20081119112738877265093_1.html (2008 年 11 月 19 日発表))。
626本文では、南海区の四つの典型的な村を例をとして考察する。この四つの村の株式合作化に関する 規定は付録 5-1、5-2、5-3、5-4 を参考すること。
(一) 株主権の設置
南海区の幾つかの典型的な村の株主権の規定から見ると、それぞれの村にはその方 案に一定の差異があるが、以下の四つの共通する原則がある(付録5-1)。第一に、株 主権の分配は「個人を単位とする」と「戸を単位とする」という二つ形式を採用して いる。だが、農村土地請負法及び物権法の規定と一致するために、2015年3月、南海区 政府は「確権到戸、戸内共享」という方針を公表した。この方針により、株主権の分 配は戸を単位とし、戸の人数が変化しても調整されない。戸の構成員はそれぞれ均等 的な株式を持つ。株主権は戸を単位として登録し、株式の頻繁な調整を避け、長期の 安定さを図る。第二に、国家政策を執行するために、附加条項を設置する。集団の管 理の便宜上、特に計画出産政策、兵役政策を執行するために、各株式経済組織は株主 権の取得と株分配について付加条項を設置する。第三に、村民の株は強い福祉性質を 持つ。その上で、南海区の各株式合作社は一般的に構成員の情況に基づき、基本株、
年齢株、労働株などの様々な種類の株を設置する。第四に、株主権の設置について民 主的な評決を重視する。例えば、株主権の配置についてどのような方法を採用しても、
すべてが構成員の民主的な評決が必要である627。
(二) 株主の資格
株主の資格の判断基準について、南海区は多元な標準を採用している(付録5-1)。 その基本的な条件は当該村の戸籍を持っている農業人口があげられる。また、他の標 準もあり、多元的な標準を採用している628。一般的に、集団構成員資格の確定は法律・
法規と政策上の規定がある場合、その規定に従う。法律・法規と政策上の規定がない 場合、集団経済組織の定款に従う。集団経済組織の定款に規定がない場合、株主大会 の民主議決により決定する629。
627中共南海市委、南海市人民政府「広東南海農村股份合作制改革試验的主要做法和成効」http://210.
43.24.225/html/?14972.html(2013 年 6 月 10 日発表)。
628「南海区農村集体経済組織成員資格界定弁法」南弁発「2008」59 号(2008 年 10 月 30 日)。
6292013 年 12 月公布した「南海区村(居)集体経済組織成員股権(股份)管理交易弁法」(征詢意見稿)
は集団構成員の資格について上述した統一的な規定を制定する(「南海区村(居)集体経済組織成員 股権(股份)管理交易弁法」(征詢意見稿)(http://cxtc.nanhai.gov.cn/cms/html/3726/2013/20131 223175146541272635/20131223175146541272635_1.html(2013 年 12 月 23 日公布))。
(三) 収益の分配
収益の配当について、南海区各村は様々な状況に応じて異なる規定がある(付録5-2)。 共通する原則は、収益から一定の累積金及び費用を控除し、残る部分を持株により各 構成員に配当することである。集団土地所有権を株式合作化することにとって、農民 の収益を高めることが重要である。株式合作制が実施された後、農民の収益は土地請 負経営制を実行する時の収入より高く、集団経済組織と農民両方が利益を得ることで きれば、株式合作制の実施が順調に推進できる。逆に、株式合作制が実施された後、
農民の収益が以前よりも高くなければ、株式合作制を実施する意味がないので、各農 民集団は土地の開発や農地の規模化経営などによって、できるだけ収益を上げ、収益 から一定の累積金及び費用を控除し、残る部分を持株により各構成員に配当する。
(四) 株主権の取扱
株主権の取扱について、各村には詳しい規定がある。一般的に、株式の相続、譲渡、
贈与、担保などが禁止され、農民は株の配当のみに参与し、農民集団を離れると、株 主権を喪失する。国家の法律と政策を貫徹するために、株主資格の取得と喪失に関し て、さらなる規定が制定された(付録5-2)。このように、農民が株主として持つ権利 は厳しく制限されている。しかし、時間が経つにつれ、その弊害は露呈し、農民権利 の保護、農村労働力の移転を妨げるようになった。上述した問題を解決するために、
1996年から、南海区の一部の農民集団は「株主権を確定し、出資によって株式を購入 することができ、株式の合理的な流動を推進する」、「生不増、死不減」などのような 措置をとっている。集団内で、株主は自分の株式を譲渡、贈与、担保などを行うこと ができる630。さらに、現行法律の規定と一致するために、2013年12月、南海区政府は公 布した「南海区村(居)集体経済組織成員股権管理交易弁法」(征詢意見稿)を公布し、
2015年3月、南海区政府は「確権到戸、戸内共享、社内流転、長久不変」という方針を 確認した。それらにより、株主権の取扱いの原則は以下のように総括できる。
株主権は譲渡、相続、贈与、抵当などの方式で流動することができるが、原則とし て、株主権の流動は集団内部に限る。さらには以下の規定がある。(ア)流動された株
6302005 年まで、南海区の約 130 個の農村株式合作組織(全市総数の約 8%を占す)と 25 個の村民委 員会(全市行政村総数の 10%を占す)は「生不增、死不减」という制度を実施している。2008 年の 報道により、株主権が確定され、「生不增、死不减」という制度を実施する合作社は 10%に達す(仏 山市南海区人民政府「農村股份合作制-南海掀起的第三次土地革命」)。