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第五章 農民集団の法的形態に関する一考察

第一節 農民集団の法的形態に関する議論

二 学界の議論

中国の学界では、1980 年代から、労働群衆集団は法人であるという主張が存在して いた568。1990 年代から、集団財産は集団組織の法人所有であるという主張が有力にな った。例えば、『中華法学大辞典(民法巻)』においては、農村集団所有の主体は農村 集団組織の構成員ではなく、農村集団組織であり、各集団経済組織は法人格を持つと 述べた569

2000 年代以降、以下の二つの理由によって、農民集団は法人ではないと主張する学 者がいる。第一に、集団土地の主な所有者である村民小組は明らかに法人ではないか らである。実際に、中国農村の大部分の集団所有土地は村民小組の所有である570。とこ ろが、法律上、村民小組の法人格が認められない。村民小組においては、法人の法定 代表者と組織機関も設置されていない。従って、集団土地の主な所有者である村民小 組は明らかに法人ではない。換言すれば、集団土地所有権の主体である農民集団は必 ずしも法人格を持つことではない571。第二に、農民集団の法人化は構成員の権利を強化 する目的と一致しないからである。法人の財産は法人の単独所有であり、構成員が法 人財産の所有権を有することができない。それゆえ、集団構成員の権利を強化するた めに、農村集団を法人化することはできない572

2007 年から施行されている物権法においても、「法人所有」という言葉も採用されて いない。従って、集団土地所有権の問題を解決するために、民法上の主体制度によっ て農民集団を解釈する必要がある。民法上、権利能力を有する主体は自然人、法人の 二種類しかなく、学説上、非法人団体も権利主体として認められている。学界では、

民法上の主体制度と繋げるために、農民集団の法人化について議論されている。以下、

農民集団の法人化についての賛成意見、反対意見及び反対意見に対する反駁を概観し、

私見を述べる。

568例えば、1980 年代の著書に以下のような主張がある。

労働群衆集団所有権の客体は法人として存在している集団組織に属する (佟柔・趙中孚・鄭立編

『民法概論』111 頁(趙中孚執筆)

人民公社、生産大隊、生産隊及び法人条件を備える社隊企業は法人の一種である(王作堂ほか編『民 法教程』68 頁)

集団組織は法人格を持って、その所有権がその法定代理人あるいは法人機関から行使される(李由 義主編『民法学』216 頁。

569佟柔編『中華法学大辞典(民法巻)(中国検察出版社・1995 年)334 頁(張玉敏執筆)

570国土資源部の調査によると、農村の土地の 90%以上は村民小組の所有に属し、約 9%は村集団に属 し、残りの 1%弱が郷鎮農村集団経済組織の所有になっている(陳錫文『陳錫文改革論集』141 頁)。

571史際春「論集体所有権的概念」法律科学 1991 年第 6 期 42 頁。

572王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」49 頁。

(一) 賛成意見

中国の学界では農民集団の法人化に賛成する理由は概ね次の三つである。

第一に、中国では、農民集団を法人化する経験を持っていたからである。集団土地 所有権は合作化運動によって形成されたものである。現在の農民集団は人民公社時期 に農民の「入社」により形成され、人民公社時期の農民集団から発展して来たもので ある。人民公社時期の農民集団(人民公社、生産大隊、生産隊)は法人格を持ていた。

それゆえ、現在の農民集団は人民公社時期の農民集団を継続するものとして、人民公 社時期の農民集団と同じように、法人格を持つべきである573

第二に、農民集団が法人化されると、集団債務に対して構成員は有限責任を負うか らである。農民集団が法人格を持っていなければ、独立した民事主体ではないため、

集団の権利義務はその集団の構成員に帰属する。中国では、多くの農民集団には大量 の債務が存在している。農民集団が法人でないと、構成員が農民集団の債務を弁済し なければならず、その結果として、農民の利益が害される恐れがある574

第三に、農民集団を法人化した場合、村民委員会による権利濫用の問題を解決でき るからである。村民委員会は農民集団を代表し、集団所有権を行使し、その結果、権 利濫用などの問題が多発している。このような問題を解決するためには、村民委員会 の経済的機能と政治的機能が剥離されなければならない。農民集団を法人化すると、

村民委員会は村民自治組織としての機能のみを持つ。このようにすれば、農民集団の 法人化は村民委員会権利濫用の問題を解決できる575

学界では、以上の三つの理由によって、農民集団を法人化するべきであると主張し ている。

(二) 反対意見

学界では農民集団を法人化することに対し、反論も存在している。その理由は概ね 次の三つである。

第一に、農民集団の法人化は法律上の規定と一致していないからである。土地の単 独所有権とは、単独の主体が持つ土地所有権であり、自然人の単独所有と法人の単独 所有の二種類に分けられる。しかし、中国では、土地の所有権が国家所有権と集団所

573孙憲忠「確定我国物権種類以及内容的難点」55 頁。

574高飛『集体土地所有権主体制度研究』253-254 頁

575高富平『土地使用権和用益物権-我国不動産物権体系研究』(法律出版社・2001 年)396 頁。

有権の二種類しか認められず、いわゆる土地の公有制を実施している。そのため、農 民集団を法人化し、集団土地所有権を法人の単独所有権にすることは法律上の規定と 一致していない576

第二に、農民集団の法人化は村民委員会の権利濫用の問題を解決できないからであ る。中国の大部分の農村地区では農民の民主的意識・権利意識は強くないため、農民 集団の法人化を実現させても、村民委員会の権利濫用の問題は解決できない577

第三に、集団土地所有権を法人化すると、集団組織の構成員である農民は生活の基 盤を失う可能性があるからである。農民集団が法人化され、市場経済に参入すると、

一定のリスクがある。債務が発生すると、農民集団の財産により債務を弁済しなけれ ばならない。土地は農民集団の最も重要な財産である。集団所有土地を使って債務を 弁済すると、農民は生活の基盤を失う578。また、集団所有土地は社会保障機能を持って いるため、集団土地を使って債務を弁済することができない。そのため、農民集団を 法人化する必要はなく、非法人団体化するべきである。つまり、中国農村の現状に応 じて、農民集団所有権は法人所有ではなく、それぞれの農民集団の構成員全体に帰属 するべきである579

上述したように、学界では以上の三つの理由によって農民集団の法人化に反対して いる。

(三) 反対意見に対する反駁

上述したように、農民集団の法人化の反対者は三つの理由によって農民集団を法人 化する可能性を否定する。これに対して、法人説の支持者は以下の三つの理由を挙げ、

農民集団の法人化の反対意見を反駁する。

一つ目の理由は、中国の現行法律によれば、生産資材の社会主義公有制は法人の生 産資材所有権と矛盾しないということである。国有独資会社はその最も有力な例であ る。中国会社法の規定により、国有独資会社も社会主義全民所有制の実現形式である。

国有独資会社は法人格を有し、企業法人として、自主的法人財産を持つ。このように、

法人制は必ずしも中国の社会主義全民所有制と矛盾せず、農民集団の法人化は土地の 社会主義公有制と衝突しない580

576梁慧星編『中国物権法研究(上)』322 頁(陳華彬執筆)

577韓松「集体所有権研究」王利明編『物権法専題研究(上)』478 頁。

578韓松「集体所有権研究」王利明編『物権法専題研究(上)』481 頁。

579韓松「論成員集体与集体成員-集体所有権的主体」44 頁。

580高飛『集体土地所有権主体制度研究』251-252 頁。

二つの理由は、農民集団が如何なる形式を採用しても、集団構成員の利益を害する 可能性があるということである。農民集団が法人化されなくても、監督制度が欠如す ると、村民委員会は集団土地所有権を濫用し、集団構成員の利益を害する可能性があ る581。農民集団の法人化は村民委員会の専権を引き起こす可能性があるが、これを理由 にして、法人制度の優位性を否定してはならず、このような問題は立法によって解決 できる582

三つ目の理由は、農民集団が如何なる法的形態を採用しても、対外債務が発生する 可能性があるため、農民集団が法人であるかどうかと関係がないということである583。 法人は破産すると、自分の財産によって債務を弁済する必要がある。非法人団体も同 様であり、自分の財産によって無限責任あるいは無限連帯責任を負う。現行の法律に より、農民集団法人は集団土地を使って、債務を弁済することができない。農地は農 民の生存利益に関わるため、いかなる理由によっても農民の土地を剥奪することがで きず、集団土地の譲渡は厳しく制限されている。例えば、中国憲法第10条第4項の規定 により、いかなる組織または個人も、土地を不法に占有し、売買し、またはその他の 形式により不法に譲り渡してはならない。そのため、農民集団が法人化されても、農 村集団所有土地を使って、債務の弁済をすることができない584。従って、法人は破産す る可能性があるという理由により、農民集団の法人化を否定することができない。

上述したように、法人説の支持者は以上の三つの理由を挙げ、農民集団の法人化の 反対意見を反駁した。