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第二章 入会権と集団土地所有権の比較

第二節 集団土地所有権の主体

三 現状

前述したように、農村集団土地所有権の主体について、法律上の規定は一致してお らず、学界では統一した見解も存在していない。それは集団構成員権の主体が不明確 などの問題をもたらす。以下、農村集団土地所有権が不明確であるという現状の三つ の具体例をあげ、この現状をもたらした原因を述べる。

一つ目の現状は、集団所有土地と農民の利益は密接に関連していないことである。

その結果として、農民は集団所有土地に対して関心を持たず、「誰でも持分を持ってい て、誰でも持分を持っていない」274という状態になって、集団土地所有権主体について、

農民が誤った認識を生じているということである。二つ目の現状は、集団土地所有権 の権利主体が不明確であり、その結果として、集団所有土地の権利が侵害される場合、

誰が損害賠償を請求するのか明確ではないということである275。三つ目の現状は、現在 では、大部分の農村土地が村民小組に帰属するが、村民小組が集団土地所有権に対し、

272厳金泉・劉介模「村、組集体土地所有権的産権共識-以福建省 10 個村為例」中国土地科学 1999 年第 4 期 17 頁。

273厳金泉・劉介模「村、組集体土地所有権的産権共識-以福建省 10 個村為例」17 頁。

274王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」46 頁。

275王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」46 頁。

行政管理機能を行使する権力を持っていないということである276。村民小組は農民と最 も近いため、農民利益を代表することができる。しかし、現実には、村民小組の機能 が弱体化され、多くの場合、集団所有土地を管理する権力を持っていない。結果とし て、集団土地所有権は上級集団とする行政村ないし地方政府に浸食されやすい。農民 の利益を有効に保護することができない。

以上の現状をもたらした原因は二つある。一つの原因は、農民が請負地の所有権の 法的概念に対し、適切に理解していないことである。この原因について、既存の研究 調査では明らかになっている277。農民は集団土地に対し、自分が所有者であるという意 識に欠けている。そのため、集団土地所有権の虚位の問題が生じる。多くの農民は村 農民集団が国家を代表し、村民委員会が国家機関であるという誤った認識を持ってい る278。もう一つの原因は、国家公権力の不当な介入である。それにより、農民は集団土 地の権利帰属に対し、誤った認識を持っている。法律上では、集団土地の権利主体に ついて明確的な規定がないため、集団土地所有権の行使は国家公権力からの干渉が多 い。農民集団土地の権利者が不明確な場合、村民委員会と郷鎮政府が集団土地の経営 管理権を行使する279。このような現状に基づき、農民には集団土地の権利の帰属に対し、

誤った認識が生じている。

また、注意する必要があるのは、「農村土地問題立法研究課題組」の調査データによ り、回答者である農民は農村土地所有権の主体に対する認識が地区によってその差異 が比較的大きいということである (表 2-4)。他の省と比べて、広東省と江蘇省では、

276王利明・周友軍「論我国農村土地権利制度的完善」49 頁。

277農地所有権の帰属・利用・保護、土地請負経営権の取得・調整・移転、土地徴収に存在している問 題、宅地使用権の取得・移転、農村女性土地権益の保護および農村の社会保障、公益事業管理などの 現状を明確するために、農村土地問題立法研究課題組は 2007 年 5 月から 8 月までの間に、中国全国 1 0 個の代表性がある省を選び、大規模な農村調査を行った。東部、南部、中部、西部、北部の地域の 区分により、江蘇、山東、広東、湖北、湖南、河南、山西、四川、貴州、黒龍江の十個の農業大省を 調査対象とした。次に、上述の十省内の位置、経済構造、地形などの要素により、各省で三つの県を 選出した。そして最終的に、各県から三つの郷鎮を選出し、個々の郷鎮は二つの村を選出し調査を行 った。その調査結果に基づいて、『農村土地法律制度的現実考察与研究-中国十省調査研究報告書』(法 律出版社・2010 年)という本を出版した。

農村土地問題立法研究課題組の十省調査研究は、行政権力の過分な干渉が集団土地所有権主体制度 の機能を妨げていることを明らかにした。集団土地所有権主体の虚位と行使主体の転位などの問題が 深刻であることも分かった。その結果、現実においては、集団土地所有権主体について、農民が誤っ た認識を持っている。

278「農村土地問題立法研究課題組」の十省調査研究報告書により、集団土地所有権の主体について、

農民自身の認識と希望は表 2-4 のとおりである。表 2-4 が示したように、半数近くの回答者は自分 の請負地が国家に属すると考える。

279李鳳章「通過『空権利』来『反権利』集団土地所有権的本質及其変革」法制与社会発展 2010 年第 5 期 17 頁。

調査を受けた農民は集団土地所有権の主体について、正確な認識を持っている人が多 い。他に原因があるかどうかについて再び調査する必要があるが、先行研究によりそ の原因は以下のように説明できる。広東省の多くの地区では株式合作制を実施し、農 民が株式によって、集団から利益の分配に参与できる。また、江蘇省では、工業化、

都市化に伴って、多くの耕地は徴収され、また、その土地の徴収での農民の参与度も 高いため、農民の土地の権利帰属に対する関心が深い。さらに、江蘇省政府は 2002 年 から積極的に農村土地権利を確定し、土地所有権証明書と土地請負経営権証明書の交 付制度を推進している。よって、江蘇省の調査は、集団土地所有権の帰属が明晰であ る280。これに対して、多くの地方は 1980 年代から現在まで、ほぼ 30 年以上請負経営地 を調整せず、結果として、農民は土地所有権と土地請負経営権を区別することができ なくなり、誤った認識が生じている。今回の調査では、貴州省は最も典型的な例であ る281

表2-4 集団土地の帰属について農民の認識と希望282(%)

請負経営地の所有者は誰であるか 請負経営地は誰に帰属するべきか 個人 村民

小組

行 政

郷鎮 集団

国家 個人 村民小

村集団 郷鎮 集団

国家

山西省 36.17 1.11 23.89 2.78 38.33 65.00 1.11 16.11 1.67 11.67 黒 龍 江

32.60 1.10 19.89 2.21 41.99 67.40 2.21 13.26 1.10 12.71

山東省 8.99 6.74 37.64 3.93 42.70 25.28 2.25 42.13 4.49 23.60 貴州省 20.99 2.76 14.92 4.42 53.04 49.17 4.45 8.29 0.55 31.49 四川省 16.48 3.41 7.95 6.25 64.20 50.00 3.98 6.82 1.14 31.25 河南省 11.80 6.74 19.10 3.93 58.43 35.96 6.18 19.66 2.25 34.83 湖北省 16.57 6.08 16.57 9.94 49.72 57.46 0.00 4.97 3.31 29.28 湖南省 26.23 6.56 13.11 1.09 53.01 54.10 2.73 7.65 0.55 28.96 江蘇省 7.78 22.78 66.11 0.00 3.33 7.78 25.56 63.33 0.00 3.33 広東省 2.76 4.97 76.24 1.11 14.92 51.38 2.21 39.78 0.00 5.53 平均値 17.62 6.23 29.57 3.56 41.91 46.41 5.06 22.18 1.50 21.23

以上の考察により、次のことができれば、農民が集団土地所有権の帰属について認

280徐偉・肖広文「工業化進程中的農地法律制度-江蘇省蘇州市・溧阳市農地調査報告」陳小君ほか『農 村土地法律制度研究-田野調査解読』(中国政法大学出版社・2004 年)87-99 頁。

281高飛『集体土地所有権主体制度研究』158 頁

282農村土地問題立法研究課題組の調査デ-タによる。

識上の誤差を減少できることが分かった。すなわち、経済が発達して、農民が集団の 構成員として集団から確実に利益を獲得することができるか、あるいは、政府が積極 的に農村土地権利を確定し、土地所有権証明書と土地請負経営権証明書の交付事業を 推進することである283。広東省と江蘇省には、集団所有土地の主体について正確な認識 を持つ人が多いことは最も有力な例である284

このように、農村集団の経済が発達している地域においては、集団土地所有権制度 の運行状況は比較的に順調である。集団経済の状況がよい地域には、農民が集団から 利益を得られるので、大部分の農民は集団所有土地の権利主体について関心があり、

集団所有の現状が維持されることを望んでいる。それゆえ、表 2-4 で示したように、

広東省と江蘇省には、現行の村集団所有を維持しようとする人が多い。これに対して、

農民集団の経済が発達していない地区では、農民は集団土地所有権を行使する動力が 欠乏している。農民は農民集団から実利を獲得することができなければ、集団所有土 地の権利主体について関心がなく、集団の意思決定にも参与したくない。その結果、

集団所有土地の主体について正確な認識を持っていないのである。

以上、現行の法律規定と学界の議論に基づき、集団土地所有権の権利主体について 考察した。集団土地所有権主体の虚位と行使主体の転位などの問題が深刻であり、現 実においては、集団土地所有権主体について、農民が誤った認識を生じているなどの 現状が分かった。さらに、以上の現状をもたらした原因について検討した。以下、入 会権との比較を通じて、問題の解決策を検討する。