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法人と非法人団体

第五章 農民集団の法的形態に関する一考察

第一節 農民集団の法的形態に関する議論

一 法人と非法人団体

既述したように、農民集団は法人格を有するかについては学界では様々な議論があ る。農民集団を法人化するべきか、それとも非法人団体化するべきかという問題を検 討する前に、法人と非法人団体が一体どのようなものであるかを明確にしておこう。

簡単に言うと、法人は以下のようなものである。団体は法人格を有するかどうかに より、法人と法人格を有しない団体に分けられる。法人とは、法律の規定により、民 事権利能力を有する多数人の結合体または財産の集合体である539。もともと、法人は組 合の特別な形態として発展してきたものである540。法人は、その名において、契約を締 結し、権利を取得し、義務を負い、訴訟の当事者となることができる。また、法人の 財産は構成員の財産と区別され、特別な約定がない場合、法人の債務に対しては、構 成員は有限責任を負う(本研究では無限責任法人を対象としない)。

改革開放前の中国では、法律上に法人制度を規定していなかった。その原因は中国

539梁慧星『民法総論(第 4 版)(法律出版社・2011 年)143 頁。

540星野英一「いわゆる『権利能力なき社団』について」法学協会雑誌 84 巻 9 号(1967 年)41-42 頁。

の特別な国内情勢にあった。中国では、社会主義公有制を基礎とする経済制度が採用 され、生産資材は国民全体あるいは労働者集団所有に属する。国家所有権が、法律上 全民所有制と表現され、すべての国家財産は、国家の代表とする人民全体に属する。

国民全体の財産の所有権は国民全体に属し、その管理・処分は相応の国家機関が行わ れるものとされる。国民全体以外のものは、国家所有権の主体とする資格を持つこと ができない。そこで、法人の単独所有権は社会主義公有制を損なう可能性があるため、

法人の単独所有権は認められなかった。企業は企業財産の所有権主体になることがで きず、さらには自らが生産する製品に対しても、その所有権を持つことができない541。 上述した背景をもとに、改革開放前、中国の企業は自主的商品生産経営者ではなく、

法律上にも、法人制度を規定していなかった。

中国の法人制度の設立は 1980 年代から始まった。改革開放後は、非公有制経済の健 全な発展を奨励しており、個人経営者や私営企業も大幅に増加し、法人制度を設ける 必要性が高まった。そのため、民法の学者の呼び掛け下にあって、法人制度が重視さ れるようになり、民法通則などの民事立法によって確立された542。中国民法通則によれ ば、法人は法に基づき、独立して民事権利を有し、民事義務を負う組織である(36 条 1 項)。また、法人は以下の条件を具備しなければならないとされる。(ア)法律に基 づいて成立し、(イ)必要な財産または経費を有し、(ウ)自己の名称、組織機構お よび場所を有し、(エ)独立して民事責任を負わなければならない(37 条)。中国民 法通則は社団、財団あるいは社団法人、財団法人などのような分類を採用しておらず、

学説は企業法人、協会、学会などは社団法人に属すると解釈している543

非法人団体について中国の学界の研究は以下のように総括できる。非法人団体とは、

法人格を持っていないが、自分の名義によって民事活動に従事することができる組織 体である544。非法人団体について、中国民法上の規定がないため、それに関する研究は 学説の議論に留まる。非法人団体は、その民法上の権利能力が認められていないもの の、中国契約法第 2 条により、契約の主体になることができる545。また、民事訴訟法第 49 条の規定により、非法人団体は民事訴訟の当事者になることもできる546。中国の学 界の研究によると、非法人団体の要件は以下のとおりである。(ア)複数人によって組

541梁慧星「論企業法人与企業法人所有権」法学研究 1981 年第 1 期 29 頁。

542張友漁編『中国民法四十年』(上海人民出版社・1989 年)340-341 頁(佟柔執筆)

543梁慧星『民法総論(第 4 版)』147 頁。

544梁慧星『民法総論(第 4 版)』143 頁。

545中国契約法第 2 条 本法にて称する契約は、平等的主体である自然人、法人、その他組織の間にお ける民事的権利義務関係の設立、変更、終了に関する協議である。婚姻、養子 縁組、親権等身分に 関する協議は、その他の法律の規定を適用する。

546中国民事訴訟法第 49 条 国民、法人及びその他組織は民事訴訟の当事者になることができる。法 人はその法定代理人によって訴訟を遂行する。その他組織はその主要責任者が訴訟を遂行する。

成された組織体(団体)である。(イ)一定の目的がある。(ウ)一定の財産がある。(エ)

管理人または代表人がいる。(オ)団体の名義で法律行為をなす547。中国民法は、民事 行為と商事行為とを区別せず、いわゆる「民商合一」という形式を採用しているため、

非法人団体は、権利能力なき社団だけではなく、組合も含まれる548。つまり、法人格が ない団体としては、その実体が社団であるかどうかによって、さらに権利能力なき社 団と組合の二種類に分けられる。

次に、権利能力なき社団と組合の区別を検討する。中国の学界では、権利能力なき 社団と組合について、日本の学界の研究を参考にするものが多い549。以下、日本の学界 の研究を参考にし、権利能力なき社団と組合の区別を検討する。

権利能力なき社団に関して、日本はドイツの学説を継承した。ドイツ民法典第 54 条 第 1 項には、「権利能力なき社団には、組合の規定を適用する」という規定が置かれて いる。日本法では、非法人団体を権利能力なき社団・財団と呼ぶ。権利能力なき団体 とは、組合よりも団体としての独自性の強い社団でありながら、法人格が与えられて いない団体のことである550。従来、団体は社団法人と組合に二分され、社団法人でない ものは、すべて組合と考える傾向があった。法人格のない団体は組合であると考えて、

いかなる団体にせよ、法人格を取得していない以上は、組合として扱う。戦後、組合 と権利能力なき社団の区別が重視され、法人と組合以外に、権利能力なき社団の存在 を意識してきている。権利能力なき社団は組合と類似し、法人格を有しない点では共 通しているが、両者は区別されている。権利能力なき社団は社団実体を有する団体で ありながら法人格を持たない団体として、特別に扱われている551。権利能力なき社団は 法人格を有しないが、社団の実体を有するものであるから、民法上の組合の規定は適 用できず、社団法人の規定を適用している。組合、権利能力なき社団、法人の区別は 表 5-1 で示したとおりである。

権利能力なき社団は、歴史的には、ローマ法継受後、各国が法人の設立につき特許 主義、免許主義、準則主義といった制限主義を採用してから生じた問題である552。従来 は、日本では、営利法人については準則主義が採られており、公益法人については原 則として許可主義が採られ、一部の公益法人や中間法人については認可主義や認証主

547梁慧星『民法総論(第 4 版)』145 頁。

548江平編『民法学』(中国政法大学出版社・2007 年)124 頁(李永軍執筆)

549例えば、江平編『民法学』124-125 頁、梁慧星『民法総論(第 4 版)』143 頁-148 頁、非法人団体 について日本の学界の研究を参考する。

550内田貴『民法Ⅰ総則・物権総論』(東京大学出版会・2008 年)226 頁。

551林良平・前田達明編『新版注釈民法(2)総則』74 頁(森泉章執筆)

552兼平裕子「権利能力なき社団と人格のない社団等:民事法における実体論・手続論と租税法におけ る借用概念」愛媛大学法文学部論集総合政策学科編 33 号(2012 年)70 頁。

義により設立された。ところが、中間法人法を経て553、さらには 2006 年の法人法改革554 によって、一般社団・財団法人は行政庁の認定を受けなくても設立でき、法人格の取 得が格段に容易になっている。このような新しい状況をもとに、権利能力なき社団と いう理論が必要なのか、あるいは必要であれば、その適用範囲を改めて検討するべき であるとされている。例えば、権利能力なき社団の理論は不要となったと主張する学 者がいる555。これに対して、現実の必要性と市民の団体活動を保障するために、権利能 力なき社団の理論は必要であり、その適用を厳格に限定するべきではないという主張 も存在している556

表 5-1 組合、権利能力なき社団、法人の区別557

組 合 権利能力なき社団 法 人 構 成

員 の 結合

組合員の個人的目的のた めに、組合員相互間の債 権的法鎖を持つ契約関係 に よ っ て 結 合 す る ゆ え に、組合員の個性が顕著 な団体である。

個人的目的を超越し、構成 員の個性が薄弱な団体で ある。構成員の結合は密接 ではなく、多数決による意 思決定が行われる。

一定の目的を達成するた めに形成する多数人の結 合体または財産の集合体 である。社員総会で意思 決定が行われる。

組織 構成員間の契約によって 個別的に処理される。

団体としての組織を備え、

代表の方法・総会の運営・

財産の管理、その他社団と しての主要な点が、規則に よって確定しているもの でなければならない。

健全的且つ規範的な機関 組織がある。定款によっ て画一的に規律される。

加 入

・ 脱 退

構成員間の信頼関係が重 視され、全構成員の同意 が必要とされる。

構成員の変動ははじめか ら予定されているため、ま ったく自由とされている。

構成員の変動は自由とさ れている。

業 務 執行

組合員全員が担当者にな るか、全員によって選任

総会などで選任された特 定の者が担当者となる。

登記事項に記載される代 表者が担当者となる。一

553中間法人法(平成 13 年法第 49 号)は 2008 年に廃止された。

554平成 18 年 6 月 2 日法第 48 号。

555柳勝司「権利能力なき社団の財産の帰属といわゆる総有理論について」103 頁。

556四宮和夫・能見善久『民法総則(第 8 版)』148-149 頁。

557我妻栄『民法総則』(133 頁、林良平・前田達明編『新版注釈民法(2)総則』74-75 頁、87 頁、1 09 頁(森泉章執筆)、川井健『民法概論Ⅰ民法総則(第 4 版)』105 頁、内田貴『民法Ⅰ総則・物権総 論』235 頁、最判昭和 48 年 10 月 9 日民集 27 巻 9 号 1129-1139 頁参考。