座長:稲葉 一人
中京大学法務総合教育研究機構永野 功
独立行政法人国立病院機構宮城病 院神経内科≪ねらい≫
神経難病患者に対する医療には、疾患の進行に伴い胃瘻設置 や人工呼吸器の選択、終末期での人工栄養や緩和ケアの在り 方など、さまざまな臨床倫理的問題がつきまとう。このよう な重大な治療方針の選択に際して、医療者と患者・家族との 間で考えが異なることもまれではない。医学的に妥当かつ本 人・家族の意思を尊重する医療の実践には、多職種による臨 床倫理的検討が必要不可欠と思われる。特に終末期の治療方 針選択に当たっては法的な問題が生じることもあり、社会的 にも透明性のある検討プロセスが求められる。臨床倫理的問 題に対応するために、多くの医療施設で臨床倫理委員会があ り倫理コンサルテーションが行われているが、不十分な検討 に終わることもある。このシンポジウムでは難病医療に必須 の臨床倫理コンサルテーションについて、法的基盤、哲学的 基盤を紹介し妥当な倫理的判断に到達するための方法論を紹 介し現場での運用について議論を深める。
後援:日本難病医療ネットワーク学会
S-09-1 臨床倫理コンサルテーショ
ンを支える哲学的基盤
○浅井 篤
東北大学大学院医学系研究科医療倫理学
【略歴】
出身地愛知県名古屋市
1988年 3月藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部医学科卒業 1988年 5月国立東京第二病院(現・東京医療センター)研修医 1990年 4月国立東京第二病院総合診療部レジデント
1993年 7月カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部医療倫理プ ログラム研究員
1995年10月京都大学医学部附属病院総合診療部助手
1998年 2月モナッシュ大学生命倫理学センター客員研究員、同人文科 学大学院・生命倫理学修士課程在籍、生命倫理学修士取得 1999年 5月医学博士号取得(京都大学)
2000年 4月京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療倫理学 分野助教授
2005年 3月熊本大学大学院医学薬学研究部生命倫理学分野教授 2014年 4月東北大学大学院医学系研究科医療倫理学分野教授
臨床倫理コンサルテーション(以下コンサルテーション)は、
倫理的不確実性と葛藤が内含される事例に直面した医療従事 者および医療を受ける人々の依頼に応じて、生命・医療倫理 の専門家が患者診療における倫理的問題を同定、分析し、依 頼者に適切な倫理的アドバイスを行う活動である。過去10 年間にわが国でもコンサルテーションは多くの医療施設で行 われるようになり、倫理委員会や個人コンサルタント、少人 数チームによる倫理支援など様々なタイプのコンサルテー ションが始まっている。コンサルテーション活動の役割には 関係者に対する倫理教育する、依頼事例に対して倫理的に最 も適切な推奨を行う、適切な手続きを確認する、患者ケアに 関わる人々の見解や関連情報をまとめる、弱い立場にある医 療専門職の代弁者となる、医療専門職をケアする等がある。
日本国内では、倫理コンサルテーションの仕組み、体制、構 成員、主要倫理問題のカテゴリーや頻度、代表的事例、基本 方針及び関連ガイドライン、施設の活動紹介、当該活動の課 題、教育・研修の必要性などが近年盛んに報告されている。
コンサルテーション回答に記載された具体的提案と提案に至 る倫理的推論は、依頼診療チームの方針、ひいては患者の受 ける診療内容を左右する可能性があるため、コンサルテー ションで最も大切なアウトカムの一つであり、提案内容と提 案に至るプロセスの道徳哲学的基礎を再確認することは非常 に重要である。今回はコンサルテーション活動及び同活動の 結果生じる回答や提案を様々なレベルで支える道徳哲学的基 礎を、発表者が参加するコンサルテーションおよび倫理委員 会の活動をひとつの具体例として、1)規範倫理理論、「倫理 理論多元主義」、及びメタ倫理、2)倫理原則、原則主義と共 通道徳、3)意思決定能力や最善利益、理性などの重要概念、
そして4)コンサルテーション及びコンサルタントの役割と 未決問題の4つの観点から検討する。
31 シ ン ポ ジ ウ ム 日
シンポジウム 09
8月31日(月)13:30 ~ 15:00 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
Jp
S-09-2 臨床倫理コンサルテー
ションの法的側面
○稲葉 一人
中京大学法務総合教育研究機構
【略歴】
現職中京大学(法務総合教育研究機構)教授 熊本大学大学院客員教授
久留米大学医学部客員教授 三重大学医学部客員教授 藤田医科大学医学部客員教授 群馬県病院局顧問
経歴等1983-1998 東京地裁判事補、大阪地裁判事等 1992-1997 法務省訟務局付検事等
1996-1997 米国連邦最高裁判所連邦司法センター客員研究員 2000-2005 京都大学大学院医学研究科修士・博士課程後期 2008年~ 中京大学法科大学院教授(現法務総合教育研究機構)
その他厚生労働省の委員・委員長
国、地方公共団体、評価機構、大学、協会、病院の、研究・臨床倫理・監査・
事故調査委員・委員長等。
海外のJICA法整備(Mediation)支援(インドネシア、モンゴル、ネパール、
バングラデシュ、ベトナム等)専門家
日本私法学会、日本民事訴訟法学会、日本仲裁人協会(理事)、日本仲裁人協 会中部副支部長、日本法社会学会、日本生命倫理学会(理事)、日本家族性腫 瘍学会、日本医学哲学・倫理学会(評議員)、日本臨床倫理学会(理事)、日本 インドネシア法律家協会(理事)、モンゴル日本法律家調停人協会(事務局長)
臨床倫理コンサルテーションの法的側面
0 私の経験 ある神経難病の患者からの呼吸器の取り外し の要望書
1 アメリカでは、カレンクインラン事件をきっかけに広 がったこと
2 日本での、現実の臨床倫理コンサルテーションにおける 現場からのニーズには法的な問題が多い
3 日本での、 ガイドラインと、終末期の判例・川崎協同病 院事件上告審判決・ 最判平成21年12月7日「 被害者が気管支 ぜん息の重積発作を起こして入院した後,本件抜管時までに,
同人の余命等を判断するために必要とされる脳波等の検査は 実施されておらず,発症からいまだ2週間の時点でもあり,
その回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況には なかったものと認められる。そして,被害者は,本件時,こ ん睡状態にあったものであるところ,本件気管内チューブの 抜管は,被害者の回復をあきらめた家族からの要請に基づき 行われたものであるが,その要請は上記の状況から認められ るとおり被害者の病状等について適切な情報が伝えられた上 でされたものではなく,上記抜管行為が被害者の推定的意思 に基づくということもできない。以上によれば,上記抜管行 為は,法律上許容される治療中止には当たらないというべき である。そうすると,本件における気管内チューブの抜管行 為をミオブロックの投与行為と併せ殺人行為を構成するとし た原判断は,正当である。」
4 法律家の、臨床倫理コンサルテーションでの役割 法的に「合法」「違法」を判定して、アドバイスをするだけなら、
法律家は寂しい仕事である。医療者が、安心して、(職業・医療)
倫理的な態度をとれるように、その環境を整えることにある。
S-09-3 臨床倫理コンサルテーショ
ンのインテーク・プロセス
○板井孝壱郎
宮崎大学大学院医学獣医学総合研究科
【略歴】
1991年3月 立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業
1997年3月 京都大学大学院文学研究科博士後期課程倫理学専修研究指導認定 1997年4月 京都大学研修員、京都府立医科大学非常勤講師、京都大学リサー
チアソシエイト等を経て、
2002年4月 宮崎医科大学(現:宮崎大学医学部)専任講師
2005年1月 宮崎大学医学部 医学科 社会医学講座 生命・医療倫理学分野 准 2010年4月 宮崎大学医学部 医学科 社会医学講座 生命・医療倫理学分野 教教授
授 〔現在に至る〕
2010年8月 宮崎大学大学院医学獣医学総合研究科生命倫理コーディネー ターコース 教授 〔現在に至る〕
2012年9月 宮崎大学医学部附属病院 中央診療部門 臨床倫理部 部長 (併 任)〔現在に至る〕
2014年4月 宮崎大学医学部附属病院 臨床研究支援センター 教育研修部門 長(併任)〔現在に至る〕
宮崎大学医学部附属病院では2012年6月より「臨床倫理コン サルテーション」の体制を整備し、運用してきた。それに先立っ て2012年4月には「臨床倫理委員会」を設置(プロトコールを審 査する「研究倫理審査委員会」は1993年より設置)していたが、
委員会招集には日程調整等のために開催まで時間を要してし まう。このため、緊急性を伴う極めて迅速な判断を要する事 案については、現場スタッフが問題を抱え込んでしまい、独 断してしまうというリスクを避けるためにも「臨床倫理コンサ ルテーションチーム」が状況を確認、内容の検討を行い、支援 するシステムを構築した。チーム・メンバーは事案の特性に 応じて3名以上で構成される。
倫理的な問題が生じた際にはまず、①可能な限り現場の多 職種からなる「医療ケア・チーム」で検討することを推奨して いる。しかし、チームで検討しても解決の方向性が見えない 場合には、臨床倫理コンサルテーションを依頼することとなっ ている。コンサルテーションを依頼するにあたっては、「倫理 コンサルシート」を提出する方法と、直接「臨床倫理部」(直通 内線あるいはPHS)へ連絡する方法の2通りがあり、緊急性が 高い場合はシートの提出は求めていない。シートの提出を義 務化してしまうと、記入に手間取り時間を要するだけでなく、
現場からは「面倒である」等の理由でコンサルトを躊躇してし まう等の障壁となるリスクがあるため、シート記入はインテー クしたコンサルタントが情報収集をしながら代筆することも 行っている。次に、②医療ケア・チームで検討して一定の結 論を見い出した場合でも、その結論にどうしても違和感を覚 え納得ができないスタッフが疑問を感じた際には、その個人 が臨床倫理コンサルテーションを依頼することも可能である し、③チームで検討する猶予さえない場合には、すぐさま個 人で依頼できるようにしている。可能な限り24時間対応とす るため、きわめて緊急性が高く重大事象に関連するケースで は、医療安全の観点から専従ジェネラル・リスク・マネージャー の業務専用携帯電話に連絡されると、GRMから臨床倫理部長 へ緊急対応の電話連絡が入ることになっている。
「倫理サポート」のシステム構築なく「倫理原則」だけが抽象 的に振りかざされるならば、現場に混乱をもたらすだけでな く、倫理的感受性の高いスタッフをバーン・アウトさせてし まう。
31 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 09
8月31日(月)13:30 ~ 15:00 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
Jp
難病患者の意思決定を支える臨床倫理コン サルテーション
座長:稲葉 一人
中京大学法務総合教育研究機構永野 功
独立行政法人国立病院機構宮城病 院神経内科≪ねらい≫
神経難病患者に対する医療には、疾患の進行に伴い胃瘻設置 や人工呼吸器の選択、終末期での人工栄養や緩和ケアの在り 方など、さまざまな臨床倫理的問題がつきまとう。このよう な重大な治療方針の選択に際して、医療者と患者・家族との 間で考えが異なることもまれではない。医学的に妥当かつ本 人・家族の意思を尊重する医療の実践には、多職種による臨 床倫理的検討が必要不可欠と思われる。特に終末期の治療方 針選択に当たっては法的な問題が生じることもあり、社会的 にも透明性のある検討プロセスが求められる。臨床倫理的問 題に対応するために、多くの医療施設で臨床倫理委員会があ り倫理コンサルテーションが行われているが、不十分な検討 に終わることもある。このシンポジウムでは難病医療に必須 の臨床倫理コンサルテーションについて、法的基盤、哲学的 基盤を紹介し妥当な倫理的判断に到達するための方法論を紹 介し現場での運用について議論を深める。
後援:日本難病医療ネットワーク学会
S-09-1 臨床倫理コンサルテーショ
ンを支える哲学的基盤
○浅井 篤
東北大学大学院医学系研究科医療倫理学
【略歴】
出身地愛知県名古屋市
1988年 3月藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部医学科卒業 1988年 5月国立東京第二病院(現・東京医療センター)研修医 1990年 4月国立東京第二病院総合診療部レジデント
1993年 7月カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部医療倫理プ ログラム研究員
1995年10月京都大学医学部附属病院総合診療部助手
1998年 2月モナッシュ大学生命倫理学センター客員研究員、同人文科 学大学院・生命倫理学修士課程在籍、生命倫理学修士取得 1999年 5月医学博士号取得(京都大学)
2000年 4月京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療倫理学 分野助教授
2005年 3月熊本大学大学院医学薬学研究部生命倫理学分野教授 2014年 4月東北大学大学院医学系研究科医療倫理学分野教授
臨床倫理コンサルテーション(以下コンサルテーション)は、
倫理的不確実性と葛藤が内含される事例に直面した医療従事 者および医療を受ける人々の依頼に応じて、生命・医療倫理 の専門家が患者診療における倫理的問題を同定、分析し、依 頼者に適切な倫理的アドバイスを行う活動である。過去10 年間にわが国でもコンサルテーションは多くの医療施設で行 われるようになり、倫理委員会や個人コンサルタント、少人 数チームによる倫理支援など様々なタイプのコンサルテー ションが始まっている。コンサルテーション活動の役割には 関係者に対する倫理教育する、依頼事例に対して倫理的に最 も適切な推奨を行う、適切な手続きを確認する、患者ケアに 関わる人々の見解や関連情報をまとめる、弱い立場にある医 療専門職の代弁者となる、医療専門職をケアする等がある。
日本国内では、倫理コンサルテーションの仕組み、体制、構 成員、主要倫理問題のカテゴリーや頻度、代表的事例、基本 方針及び関連ガイドライン、施設の活動紹介、当該活動の課 題、教育・研修の必要性などが近年盛んに報告されている。
コンサルテーション回答に記載された具体的提案と提案に至 る倫理的推論は、依頼診療チームの方針、ひいては患者の受 ける診療内容を左右する可能性があるため、コンサルテー ションで最も大切なアウトカムの一つであり、提案内容と提 案に至るプロセスの道徳哲学的基礎を再確認することは非常 に重要である。今回はコンサルテーション活動及び同活動の 結果生じる回答や提案を様々なレベルで支える道徳哲学的基 礎を、発表者が参加するコンサルテーションおよび倫理委員 会の活動をひとつの具体例として、1)規範倫理理論、「倫理 理論多元主義」、及びメタ倫理、2)倫理原則、原則主義と共 通道徳、3)意思決定能力や最善利益、理性などの重要概念、
そして4)コンサルテーション及びコンサルタントの役割と 未決問題の4つの観点から検討する。