座長:下畑 享良
岐阜大学大学院医学系研究科脳神 経内科学分野関島 良樹
信州大学医学部脳神経内科,リウ マチ・膠原病内科≪ねらい≫
学生時代の代謝性疾患のイメージといえば数多くの難しい酵 素の名前を記憶する事が目的化し、また、治療方法がない珍 しい疾患だったかもしれない。しかしながら、診断方法の進 歩ににより、決して希少な疾患ばかりでない事が判明してき ている上、新規の治療方法も次々と発表されている。これは
「難しい酵素の名前」を突き詰めて病態研究が成されてきた事 の証である。本シンポジウムでは見逃していけない代謝性疾 患を気づくtipsとその最新の治療、マネジメントについて議 論頂く。
S-35-1 siRNAによる遺伝性ATTR アミロドーシスの最新治 療と非集積地での診断
○関島 良樹
信州大学病院 脳神経内科,リウマチ・膠原病内科
【略歴】
1991年 信州大学医学部 卒業 1998年 信州大学大学院医学研究科 終了
1999年 東京都精神医学総合研究所 分子生物研究部門 研究員 2001年 信州大学医学部 脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 助手 2002年 米国スクリプス研究所 post-doctoralresearchfellow
2005年 信州大学医学部 脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 講師 2006年 信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部 准教授
2013年 信州大学医学部 脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 准教授 2018年 信州大学医学部 脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 教授 現在に至る
遺 伝 性ATTRアミロイド ー シス は トランスサイレチン
(TTR)遺伝子変異に起因する常染色体優性遺伝の疾患である.
本症は従来,集積地のみに存在する非常に稀な疾患と考えられ ていたが,近年本症の認知度の向上により,日本全国・全世界 に存在する比較的頻度の高い疾患であることが明らかになっ ている.
本症に対する疾患修飾療法としては1990年代から肝移植が 実施され患者の予後が劇的に改善したが,侵襲性や適応患者が 少ないなどの問題があった.2000年代に入り,TTRの天然構 造である四量体の不安定化が本症の原因であることが明らか になり,四量体安定化薬であるジフルニサルとタファミジスの 臨床的な有効性が証明された.タファミジスは2013年に本邦で 本症治療薬として認可され,現在世界40カ国以上で認可されて いる.しかし,肝移植やTTR四量体安定化薬のみでは疾患の 進行を完全には抑制できないなどの課題が残っていた.
本症は毒性機能獲型の疾患であり,動物モデルでTTR遺 伝子をノックアウトしても明かな表現型を呈さない.また,
TTRのほとんどが肝臓で産生されるため核酸医薬品のデリバ リーが比較的容易であることから,本症は遺伝子サイレンシ ングの手法を用いた遺伝子治療の良い標的であると考えられ ていた.このような背景の中で, TTR mRNAを標的とした低 分子干渉RNA(siRNA)製剤であるパチシランが開発され,本 症患者を対象とした無作為化比較試験の結果が2018年に報告 された.本試験の主要評価項目は末梢神経障害の指標である mNIS+7に設定され,225名の患者に対して18ヶ月間にわたり3 週間毎に試験薬が点滴静注された.その結果,パチシラン群で ベースラインに比べ約80%の血中TTR濃度の低下を認め,偽薬 群に比べ有意差を持ってmNIS+7の改善が認められた.本試験 の結果を受け,パチシランは2019年6月に遺伝性ATTRアミロ イドーシスに対する治療薬として本邦で認可された.アンチセ ンスオリゴヌクレオチド(ASO)製剤であるであるイノテルセ ンも同様に,無作為化比較試験でmNIS+7を偽薬に比べ有意に 改善させることが証明された.しかし,重篤な有害事象として 糸球体腎炎と血小板減少が発生しており,本邦では認可されて いない.
神経変性疾患のほとんどは,アミロイドーシスと同様に異 常蛋白の蓄積が原因であることが明らかになっており,今後 siRNAやASOを用いた遺伝子治療が多くの脳神経内科疾患に 応用されることが期待される.
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 34
9月1日(火)14:15 ~ 15:45 第07会場(岡山コンベンションセンター2F展示ホール)
公募 Jp
S-34-4 視神経脊髄炎スペクトラ
ムの治療展望
○荒木 学
1,21 河北総合病院 神経内科、2 国立精神・神経医 療研究センター神経研究所免疫研究部
【略歴】
1994年 滋賀医科大学医学部卒業
1994年 神戸市立中央市民病院 内科研修医・神経内科専攻医
1999年 国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部,免疫究部 研究員 2003年 博士(医学)学位取得(京都大学大学院医学研究科)
2003年 ハーバード大学医学部・ブリガム&ウイメンズ病院神経疾患センター リサーチフェロー
2006年 防衛医科大学校内科学講座(神経内科) 助教 2009年 神戸市立医療センター中央市民病院 神経内科医長 2011年 国立精神・神経医療研究センター病院 専門職 2019年 現職
<所属学会>
日本内科学会(認定内科医,総合内科専門医,指導医)
日本神経学会(専門医,指導医)
日本神経免疫学会(評議員)
日本臨床免疫学会(免疫療法認定医)
<受賞歴>
2006年 Postdoctoral Fellowship Award, Juvenile Diabetes Research Foundation
2013年 Investigator Award, 6th congress of the Pan-Asian committee for treatment and research in multiple sclerosis (PACTRIMS)
視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica, NMO)は主に視神経や 脊髄に炎症を引き起こす疾患として報告されてきた.抗アク アポリン4抗体が疾患特異的自己抗体であることが明らかに なり,アストロサイト障害を主体とした免疫病態は中枢神経 系脱髄疾患である多発性硬化症(MS)と大きく異なることが 分かってきた.視神経や脊髄以外の大脳や脳幹にも特徴的 な臨床症状を呈することがわかり,現在ではNMOスペクト ラム(NMO Spectrum Disorders, NMOSD)という統一名称 が提唱されている.MSに比べ,NMOSDは女性,高齢発症,
他の自己免疫疾患の合併が多い臨床的特徴を持つ.
治療法については,急性増悪期(発症時,再発時)はMSと 同様にステロイドパルスと血液浄化療法を行う.NMOSD の急性増悪期はMSに比べ症状の進行が速く重症化しやす いため,治療は「迅速に」かつ「十分に」行うことが重要であ る. 再発予防治療はMSと大きく異なり,インターフェロン β,フィンゴリモド,ナタリズマブなどのMS疾患修飾薬は NMOSDの免疫病態を悪化させるため選択しない.現時点
(2020年1月)では副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬が第一選 択薬であり,ステロイド単独療法,または,ステロイドと免 疫抑制薬の併用療法が行われる.一方,既存の治療薬では再 発が抑えられない難治性患者の存在から,NMOSDの免疫病 態に関連する分子を標的とした新規治療薬の第III相治験が 行われている.その中で,終末補体活性化経路C5阻害薬の エクリズマブが2019年11月に承認された.その他にも,IL-6 阻害薬である抗インターロイキン6受容体抗体サトラリズマ ブ,B細胞除去療法である抗CD19抗体のイネビリズマブと 抗CD20抗体のリツキシマブの治験も進んでおり,更に複数 のNMOSD治療薬が承認される見込みである.これらの新薬 が承認された後には,再発予防の治療アルゴリズムを再考す る必要が出てくる.長年の使用経験と医療経済的にメリット のある既存の再発予防薬の選択肢を残しつつ,新薬の有効性・
安全性を考慮し,NMOSD患者の病状・病態に応じて適切な 治療法を選択する時代が間もなく到来するであろう.
1 シ ン ポ ジ ウ ム 日
9月1日(火)14:15 ~ 15:45 第09会場(岡山県医師会館4F402会議室)
S-35-2 副腎白質ジストロフィー
に対する造血幹細胞移植
○松川 敬志
東京大学医学部附属病院 分子神経学講座
【略歴】
2006年 東京大学医学部卒業 2006年 茨城県立中央病院初期研修 2007年 東京大学医学部附属病院初期研修
2008年 東京大学医学部附属病院、NTT東日本病院神経内科後期研修 2010年 東京大学大学院医学系研究科 神経内科学 博士課程 2013年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014年 医学博士
2014年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2015~2017年 東京大学学院医学系研究科 神経内科学 学術支援専門職員 2017年4月~現在 東京大学医学部附属病院 分子神経学 特任助教 副腎白質ジストロフィー(ALD)はABCD1を原因とするX連 鎖性遺伝性の神経変性疾患で、副腎不全を伴うこともある。
全身の組織に極長鎖脂肪酸の蓄積を認める。多彩な臨床病型 を特徴とし、同一家系内でも異なる病型を呈し、臨床病型を 予測することができない。急速に大脳白質の炎症性脱髄が進 行し予後不良である小児/思春期/成人大脳型や、緩徐進行 性の下肢痙性を主体とする副腎脊髄ミエロパチー(AMN)、
AMNから成人大脳型への移行例などの臨床病型が存在す る。発症早期の小児大脳型ALDに対しては、造血幹細胞移 植によって症状の進行停止を認めることが確立されている。
一方で成人大脳型ALDに対しては、造血幹細胞移植の少数 の報告があるものの臨床効果は様々であり、治療効果は確立 されていなかった。
我々は発症早期の成人発症の大脳型、小脳・脳幹型ALD 12 例(思春期発症2例を含む)に対して造血幹細胞移植を行い、
治療効果の検討を行った(Brain communications in press, 2020)。併せて造血幹細胞移植をできなかった8例の予後との 比較を行った。全例で骨髄非破壊的前処置を用い、造血幹細 胞は骨髄を用いた。発症早期に造血幹細胞移植を施行した 12症例ではいずれの症例においても生着を認め、全例生存 している(生存期間の中央値28.6ヶ月)。造血幹細胞移植施行 後3.5ヶ月以内に頭部MRI上造影効果の消失/不明瞭化を認め、
白質病変の拡大停止または縮小を認めた。一方で造血幹細胞 移植を行うことができなかった8例の内6例は大脳/小脳/脳幹 病変出現後中央値69.1ヶ月で死亡しており、発症早期に造血 幹細胞移植を行った場合は行わなかった場合と比較して有意 に生存率が良いことを示した(P=0.0089)。発症早期の成人大 脳型ALDにおいて造血幹細胞移植は安全に施行可能であり、
症状の進行停止に有効であった。頭部MRI上白質病変の広が りが初期段階で、Loes scoreが13点以下、ADL・協調性が保 たれており、認知機能が保たれているか、わずかに低下して いるにとどまる(MMSE ≥ 25)症例が造血幹細胞移植で良好 な成績を得る上で良い適応となり得ると考える。発症早期に 白質病変を検出するために、慎重に前向きに非大脳型ALD 症例を経過観察すること、at risk男性を含むご家族へ、疾患、
治療の詳細な情報を提供することが重要となる。
S-35-3 Wilson病:見逃してはい けない症例と持続的治療
○宮嶋 裕明
浜松医科大学病院 脳神経内科
【略歴】
1981年 浜松医科大学卒業 1989年 浜松医科大学大学院修了 1996年 浜松医科大学第一内科講師 1999年 浜松医科大学第一内科助教授 2010年 浜松医科大学第一内科教授 2014年 浜松医科大学学長特別補佐(併任)
2016年 浜松医科大学副学長(併任)
Wilson病の神経症状の発症年齢は6歳~50歳と幅広いが、多 くは15歳~25歳頃である。初発症状は、構音障害、不随意運動、
巧緻運動障害が多い。言語障害は発語が緩徐で不明瞭となり、
音程が単調である。また会話の際に流涎を伴いやすい。不随 意運動では動作時または姿勢時の振戦が多く、書字で増強す る。巧緻運動障害は手先が不器用になった、字が下手になっ たという訴えが多い。進行例では緩徐かつ不明瞭な言語、ジ ストニアによる姿勢異常が目立ち、易転倒性もみられる。精 神症状では、意欲低下、集中力低下、突然の気分変調などに よる学業成績低下が初発症状のことが多い。病初期には気分 が多幸的となり、性格変化などをきたす。態度が乱暴になり、
嘘をつくようになることもある。一方、表情に乏しく仮面様 顔貌となり、うつ病と診断されることもしばしばある。神経 型では肝型と比較してKayser-Fleischer輪が高頻度に認めら れ、検出率は72~100%である。
頭部MRIでは、被殻(特に外側の外包に接した部分)、尾状核、
淡蒼球、小脳歯状核(+中小脳脚)、視床外側部での左右対称 性のT2強調像の高信号が特徴的である。大脳白質(前頭葉)
に左右別々のT2強調像高信号病変を認めることがある。脳 幹では、赤核、黒質網様部、上丘を除く中脳でT2強調像の 高信号がみられ、face of the giant panda signと呼ばれる。
治療は銅キレート薬の塩酸トリエンチン、D-ペニシラミン、
亜鉛製剤を用い、治療開始から数か月は初期治療を行い、体 内に蓄積した銅を排泄させる。その後は維持治療を持続的に 生涯行う必要があり、中断すると再燃することが多い。これ らの薬剤は、食事の1時間以上前、あるいは2時間以降に服用 することが効果発現には重要である。神経症状は治療開始後 1~6か月で徐々に改善するが、初期増悪が10-25%にみられ る。また、ジストニア、精神症状は治療反応性が鈍いことを しばしば経験する。症状とその程度により薬剤を選択するが、
初期治療、維持治療ともに亜鉛製剤が推奨されている。ただ し、亜鉛製剤の効果発現は遅いので、初期治療では塩酸トリ エンチンと併用してよい。日常生活においては、銅の極端な 制限は必要ないが、摂取を控えることも大切である。今回は 症候と治療のポイントについて述べる。