座長:岩﨑 靖
愛知医科大学加齢医科学研究所内原 俊記
新渡戸記念中野総合病院脳神経内 科・脳神経研究室≪ねらい≫
神経変性は疾患関連蛋白の沈着を軸に整理されているが、
各々の蛋白がどのように疾患を特徴づける病変分布や症状に つながるかは未解明である。本シンポジウムでは各疾患の病 変分布を肉眼所見から読み取り、肉眼所見のみでどこまで鑑 別できるかに迫る。萎縮部位の組合せだけでなく、障害され ない部位にも注目することで肉眼診断の精度は高まるが、最 新の知識を動員しても鑑別の精度は向上しない。臨床画像の 精度が乏しかった時代に臨床的鑑別に苦しんだ世代には、剖 検ではじめて観察できた脳の肉眼所見を鑑別に繋げようと苦 闘した経験の蓄積がある。肉眼観察はローテクの極致だが、
それを限られた画像と対比して、的確な診断に結びつけてい く老テク(老鍊、老獪)な経験と判断は日本の臨床神経病理の 真骨頂である。その極意を若い世代と共有させていただけれ ば、神経疾患の診療、教育、研究の新たな活性化につながる と信じる。
後援:日本神経病理学会、日本神経放射線学会
S-40-1 脳血管障害および全身疾
患に伴う種々の脳病変
~MRI所見とマクロ病理 所見の対比~
○宇高不可思
住友病院 脳神経内科
【略歴】
昭和52年 京都大学医学部医学科卒業 昭和56年 東京都養育院附属病院
(現東京都健康長寿医療セン ター)神経内科
昭和58年 京都大学医学部大学院
昭和62年 (財)住友病院 神経内科 昭和63年 同 主任部長 平成14年 同 内科系診療局長 平成20年 同 内科系副院長 平成27年 同 現職 専門:神経内科学、老年医学
主な研究領域:
脳血管障害・認知症疾患の診断と治療、脳の画像診断と病理の対比
本シンポジウムのテーマは主に神経変性疾患が対象である。変性疾患の 画像所見は占拠性病変のような陽性所見に乏しく、“地味”である。特定部 位の萎縮や、変性による信号強度変化がみられる場合もあるが、概して 疾患特異的な所見は明瞭でない。しかし、脳切時の注意深い肉眼病理観 察だけでもここまでわかるという実例が提示される予定である。演者は その前座として、画像上“派手な”所見を示す脳血管障害や全身性疾患によ る脳病変の画像と病理について述べる。MRIは極めて鋭敏かつ正確に脳 病変を描出できる優れた診断ツールであるが、白黒の点の集合であるそ の像の元は磁気共鳴で得られた電波信号からコンピューターによって構 成された数字の配列であり、言わば、“虚像”、“ヴァーチャル・リアリティー”
である。したがって、MRI所見の読影には背景にある病理所見の理解が 重要であり、両者の対比検討が必須である。演者は所属施設で経験した 二百数十剖検例より以下の症例を厳選し、生前のMRIと脳切時のマクロ 病理所見、大切片のルーペ像等を対比した写真を多数提示し考察する。
【出血性脳血管障害】抗凝固薬使用中の皮質下大出血、大脳鎌の局所硬膜 下血腫、局所くも膜下出血、被殻出血、微小出血
【虚血性脳血管障害】主幹動脈閉塞(アテローム血栓性梗塞、心原性 塞栓症)、大梗塞による脳ヘルニア、内頚動脈狭窄に伴うsubinsular infarction・白質梗塞・3枝境界域梗塞、MCA領域分枝閉塞、高血圧性 小血管病(ラクナ梗塞、多発性ラクナ状態、虚血性白質病変、Virchow-Robin腔拡大)、皮質微小梗塞
【特殊な原因による脳血管障害】NPSLE(Libman-Sacks心内膜炎による塞 栓性多発性脳梗塞、亜急性発症の前頭葉症候群から無動性無言状態で長 期経過したNPSLE、Sneddon症候群からSLEに移行した多発性脳梗塞)、
Trousseau症候群
【全脳虚血後脳症】急性期・亜急性期・慢性期における大脳皮質層状壊死、
線条体壊死、終末領域梗塞、白質変性と脳萎縮の進行、層状壊死部の鉄 沈着
【転移性脳腫瘍】転移巣の出血と浮腫、浮腫を伴わない脳転移、多発嚢胞 性脳転移、粟粒性脳転移、治療による変化、癌性髄膜症
【悪性リンパ腫】悪性リンパ腫のVirchow-Robin腔浸潤による白質病変、血 管内リンパ腫症
【感染症・炎症性疾患】MRSA菌血症による脳膿瘍、白血病に合併した 真菌症・脳静脈洞血栓症、急性出血性白質脳炎(Hurst脳炎)、PML、
Gerstmann-Sträussler-Scheinker病
1 シ ン ポ ジ ウ ム 日
シンポジウム 40
9月1日(火)16:00 ~ 17:30 第07会場(岡山コンベンションセンター2F展示ホール)
公募 Jp
S-40-2 認知症の脳肉眼所見の検討
○橋詰 良夫
福祉村病院 神経病理研究所
【略歴】
1969年3月 名古屋大学医学部卒業 1970年-72年 安城更生病院内科医師
1972年-74年 名古屋大学医学部第一内科神経研究室入局 1974年-1980年 名古屋市立大学病理学教室 助手、講師
この間ドイツ、ミュンヘンMax-Plank- Institute 神経病理部門へ留学 1980年-1990年 名古屋大学病理学教室、助手、講師、助教授
この間ニューヨークMontefiore Medical Center神経病理部門へ留学 1990年-1993年 名古屋大学医学部附属病院病理部 助教授
1993年-2010年 愛知医科大学加齢医科学研究所神経病理部門 教授 2010年4月~ 医療法人さわらび会福祉村病院 神経病理研究所所長 認知症の正確な診断は臨床所見の検討や画像検査の進歩から 生前に詳細な分析が行われることにより進歩してきている。
しかし最近では種々の新しい疾患概念の提唱により、従来よ りその診断は複雑で難しくなってきている。また高齢者の脳 では単一疾患のみの病理変化は珍しく、種々の病変が合併し ていることから決して単純ではない。認知症の正確な確定診 断は現在においても病理解剖による詳細な神経病理所見の検 討が必須である。病理解剖は臨床症候と脳病理変化、画像と の相関、病態解明、治療薬の効果判定などにも極めて重要な 役割を果たす。肉眼所見の検討とともに、凍結脳の保存、遺 伝子検索、生化学的検討のための資料保存も重要である。脳 のみでなく、脊髄、後根神経節、末梢神経、筋肉、交感神経 節の採取、全身臓器の病理所見との関連性も重要である。肉 眼所見の検討では、認知症の発症年齢、認知症の程度、死亡 までの期間の長さが肉眼所見に影響を及ぼす。肉眼所見のみ で認知症の正確な診断をすることはほぼ不可能であり、肉眼 的異常所見を考慮した適切な標本作製と種々の神経系特殊染 色と免疫染色を検討することにより最終診断に至ることを銘 記したい。認知症では脳萎縮による脳重量の減少を検討し、
脳穹隆面からの所見では脳回の萎縮、脳溝の拡大の程度から 萎縮部位を評価をし、左右差にも気を付ける。脳底面からは 大脳の萎縮に加えて、小脳・脳幹部の萎縮にも配慮する。側 面からは中心前回を決定して萎縮部位を評価する。硬膜、く も膜、脳底部の血管、嗅球、視神経、神経根の異常所見を検 討する。割面での評価は皮質の幅、白質の色調、基底核・視床・
扁桃核・海馬の萎縮、脳室の拡大の程度、脳梗塞の部位と数 の評価が重要である。小脳・脳幹部では萎縮の程度とともに、
黒質・青斑核の退色、小脳白質の萎縮、歯状核の変化の検討 が重要である。本シンポジウムでは神経病理学的に確定診断 されたアルツハイマー病、レビー小体型認知症、嗜銀顆粒性 認知症、神経原線維変化型認知症、前頭側頭葉認知症、血管 障害性認知症などの認知症の特徴的な肉眼所見について報告 し、その鑑別点、合併病理の評価について述べる。
S-40-3 脊髄小脳変性症
○岩淵 潔
みらい在宅クリニック
【略歴】
1978年 横浜市大医学部卒業後、同大学病院で研修医 1980年 同大学精神医学教室に入局
1981年から2001年 神奈川県総合リハビリテーションセンター精神 神経科に勤務
その間、1989年から1994年 東京都精神医学研究所神経病理に勤務 2002年 山手訪問診療所開設
2017年 同院閉院後、みらい在宅クリニックに勤務
現在、脊髄小脳変性症(SCD)は、画像や遺伝子でほぼ確実 に診断が確定できる。それを肉眼病理所見で診断する意味な どあるのか回答に困る。
1950年代にGreenfieldは小脳性運動失調が主症状で発展す る疾患群の総称をSCDと提唱して、小脳型、脊髄小脳型、脊 髄型に分類し、痙性対麻痺を付記した。1980年代になると、
SCDでは小脳症状に加えて、疾患に応じて独特な錐体外路症 状が遅れて出現することが注目され、病理診断でもその疾患 に特異的な錐体外路や眼球運動脳神経核の病変が重視される ようになった。そこで、演者らはSCA1の臨床病理学的位置 づけを試みる過程で、以下の点を重視した。SCDは小脳性運 動失調を主症状とする疾患群であることから、1)小脳皮質
(プルキンエ細胞主体か、皮質3層の変性か、その病変分布)、
2)橋核小脳求心系、3)脊髄小脳求心系、4)歯状核遠心系(グ ルモース変化の有無)の変性の有無と程度を明確にして、5)
下オリーブ核、6)錐体外路系、7)眼球運動脳神経核の病 変の有無と特性で分類した。それを踏まえてSCA1、SCA2, SCA3, DRPLAの病理像を示し、発病年令に応じて変化する 臨床症状と病理所見の相関を述べる。
一方で、まだ解明されていないことがある。SCDには「組 織学的検査を踏まえた病理所見」では、説明しにくい「肉眼所 見」があるという事実である。簡単にいうと、とりわけSCA 群では脳幹や脊髄が「肉眼的には明らかに萎縮」していても、
それに見合った組織反応を欠いており、一見すると「組織学 的には保たれているかのよう」に表現せざるを得ないという 奇妙な事実である。簡単に「萎縮」と言い難いことから、演者 らは暫定的にそれを「小造り」と表現したことがある。この背 景には安易に使いがちな「萎縮」と「変性」という用語は同じも のではないという落とし穴がある。ちなみに、「肉眼的に萎 縮した組織」には「二つの萎縮状態」がある。一つは組織を構 成する細胞や軸索などの成分が壊れて消えて、その「数が減 り」、組織反応が起きて、形が歪む「数的萎縮」である。もう 一つは構成成分がなんらかの要因で徐々に小さくなったため に「数は保たれて」、組織反応が起こらず、形もほぼ保たれた
「単純萎縮」である。どうも、SCA群ではそれが起きている ようだ。
最後に、痙性対麻痺について自験例を提示して私見を述べ る。
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 40
9月1日(火)16:00 ~ 17:30 第07会場(岡山コンベンションセンター2F展示ホール)
公募 Jp
脳肉眼診断の極意-ローテクのみでここま で鑑別できる-
座長:岩﨑 靖
愛知医科大学加齢医科学研究所内原 俊記
新渡戸記念中野総合病院脳神経内 科・脳神経研究室≪ねらい≫
神経変性は疾患関連蛋白の沈着を軸に整理されているが、
各々の蛋白がどのように疾患を特徴づける病変分布や症状に つながるかは未解明である。本シンポジウムでは各疾患の病 変分布を肉眼所見から読み取り、肉眼所見のみでどこまで鑑 別できるかに迫る。萎縮部位の組合せだけでなく、障害され ない部位にも注目することで肉眼診断の精度は高まるが、最 新の知識を動員しても鑑別の精度は向上しない。臨床画像の 精度が乏しかった時代に臨床的鑑別に苦しんだ世代には、剖 検ではじめて観察できた脳の肉眼所見を鑑別に繋げようと苦 闘した経験の蓄積がある。肉眼観察はローテクの極致だが、
それを限られた画像と対比して、的確な診断に結びつけてい く老テク(老鍊、老獪)な経験と判断は日本の臨床神経病理の 真骨頂である。その極意を若い世代と共有させていただけれ ば、神経疾患の診療、教育、研究の新たな活性化につながる と信じる。
後援:日本神経病理学会、日本神経放射線学会
S-40-1 脳血管障害および全身疾
患に伴う種々の脳病変
~MRI所見とマクロ病理 所見の対比~
○宇高不可思
住友病院 脳神経内科
【略歴】
昭和52年 京都大学医学部医学科卒業 昭和56年 東京都養育院附属病院
(現東京都健康長寿医療セン ター)神経内科
昭和58年 京都大学医学部大学院
昭和62年 (財)住友病院 神経内科 昭和63年 同 主任部長 平成14年 同 内科系診療局長 平成20年 同 内科系副院長 平成27年 同 現職 専門:神経内科学、老年医学
主な研究領域:
脳血管障害・認知症疾患の診断と治療、脳の画像診断と病理の対比 学会・研究会役員等:
日本認知症学会名誉会員、日本脳卒中学会名誉会員、日本神経治療学会功労会員、日本自律 神経学会理事、日本老年医学会代議員、日本老年精神医学会評議員、日本脳ドック学会評議 員、JAAD(JapanAcademyofAlzheimer'sDisease)世話人、大阪神経内科の集い代表 世話人、近畿老年期認知症研究会代表世話人、京都大学臨床教授、徳島大学非常勤講師、大 阪市北区医師会理事、大阪市北区認知症アドバイザー、住友生命福祉文化財団理事等
本シンポジウムのテーマは主に神経変性疾患が対象である。変性疾患の 画像所見は占拠性病変のような陽性所見に乏しく、“地味”である。特定部 位の萎縮や、変性による信号強度変化がみられる場合もあるが、概して 疾患特異的な所見は明瞭でない。しかし、脳切時の注意深い肉眼病理観 察だけでもここまでわかるという実例が提示される予定である。演者は その前座として、画像上“派手な”所見を示す脳血管障害や全身性疾患によ る脳病変の画像と病理について述べる。MRIは極めて鋭敏かつ正確に脳 病変を描出できる優れた診断ツールであるが、白黒の点の集合であるそ の像の元は磁気共鳴で得られた電波信号からコンピューターによって構 成された数字の配列であり、言わば、“虚像”、“ヴァーチャル・リアリティー”
である。したがって、MRI所見の読影には背景にある病理所見の理解が 重要であり、両者の対比検討が必須である。演者は所属施設で経験した 二百数十剖検例より以下の症例を厳選し、生前のMRIと脳切時のマクロ 病理所見、大切片のルーペ像等を対比した写真を多数提示し考察する。
【出血性脳血管障害】抗凝固薬使用中の皮質下大出血、大脳鎌の局所硬膜 下血腫、局所くも膜下出血、被殻出血、微小出血
【虚血性脳血管障害】主幹動脈閉塞(アテローム血栓性梗塞、心原性 塞栓症)、大梗塞による脳ヘルニア、内頚動脈狭窄に伴うsubinsular infarction・白質梗塞・3枝境界域梗塞、MCA領域分枝閉塞、高血圧性 小血管病(ラクナ梗塞、多発性ラクナ状態、虚血性白質病変、Virchow-Robin腔拡大)、皮質微小梗塞
【特殊な原因による脳血管障害】NPSLE(Libman-Sacks心内膜炎による塞 栓性多発性脳梗塞、亜急性発症の前頭葉症候群から無動性無言状態で長 期経過したNPSLE、Sneddon症候群からSLEに移行した多発性脳梗塞)、
Trousseau症候群
【全脳虚血後脳症】急性期・亜急性期・慢性期における大脳皮質層状壊死、
線条体壊死、終末領域梗塞、白質変性と脳萎縮の進行、層状壊死部の鉄 沈着
【転移性脳腫瘍】転移巣の出血と浮腫、浮腫を伴わない脳転移、多発嚢胞 性脳転移、粟粒性脳転移、治療による変化、癌性髄膜症
【悪性リンパ腫】悪性リンパ腫のVirchow-Robin腔浸潤による白質病変、血 管内リンパ腫症
【感染症・炎症性疾患】MRSA菌血症による脳膿瘍、白血病に合併した 真菌症・脳静脈洞血栓症、急性出血性白質脳炎(Hurst脳炎)、PML、
Gerstmann-Sträussler-Scheinker病