座長:尾方 克久
国立病院機構東埼玉病院神経内 科/臨床研究部齊藤 利雄
国立病院機構大阪刀根山医療セン ター神経内科・小児神経内科≪ねらい≫
小児慢性特定疾病には神経症状を呈するものが多く,また指 定難病で最多の神経・筋難病には小児期発症例が少なくない。
医療の進歩に伴い寿命が延び,医学的管理を受けつつ長く生 活する小児発症難病患者が増えた。患者がより良い人生を送 るため,患者の成長や加齢を念頭に置き,疾病特性を踏まえ,
小児科医と成人科医の相互理解の基に連係しながら医療を移 行することが望ましい。しかし現状では,小児医療と成人医 療の連携が医療制度上も専門医教育でも軽視され,現場の医 師が対応を模索している。第61回日本小児神経学会学術集会 での移行医療シンポジウムでは,小児神経科医と神経内科医 の移行医療に対する見方の違いが浮き彫りになった。このシ ンポジウムでは,小児神経科医と神経内科医が各々の立場か ら小児-成人移行医療の問題点を抽出し,お互いの視点での 課題を知るとともに,より良い移行医療を提供するため共に 検討する機会としたい。
後援:日本小児神経学会
S-28-1 小児−成人移行医療の現状
と課題:総合医療療育施設 の成人診療科での経験から
○望月 葉子
東京都立北療育医療センター 内科・神経内科
【略歴】
1984年 日本大学医学部卒業
同年から日本大学医学部附属板橋病院、翌年、横浜南共済病院で臨床研修 1988年 日本大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)
1984年から2002年
日本大学医学部神経内科(日本大学医学部附属板橋病院、日本大学 医学部付属練馬光が丘病院、関連病院勤務)
2002年 東京都立北療育医療センター内科医長 2002年から2016年
東京都立神経病院検査科・神経病理兼務 2015年 東京都立北療育医療センター内科部長
2016年 日本大学医学部病態病理学系人体病理学分野兼任講師
当院は障害児・者に対する総合医療療育施設で、当初か ら内科が設置されており、神経内科医が外来・入院診療に 加えて、障害福祉サービスとしての短期入所(ショートステ イ)、指定生活介護(旧重症心身障害者通所施設)および医療 型障害児入所施設(旧重症心身障害児施設)利用者への医療を 提供している。2017年8月~2018年3月に当院内科で診療した 患者の診療録より、小児科からの紹介を持参された症例を移 行例とし、診療内容を調査した。その結果、移行例は近年増 加しており、その多くは小児科医の勧めによりものであっ た。多くの患者にてんかんが合併し、また、神経難病患者も あったので、移行医療は神経内科医が必要とされる領域であ り、移行医療のために必要とする診療時間、小児科医師と成 人診療科医師との情報共有のための手段が必要であること、
そして小児科と成人診療科での診療報酬や小児慢性特定疾 病事業と難病制度の対象疾患の違い等を認識した(臨床神経 2019;59:279)。その後、院内の小児科医と神経内科医による 移行カンファレンスを開始し、移行対象者の事前検討と、移 行後の経過報告を行っている。カンファレンスの事前準備等 の負担はあるが、移行前後の情報共有に有効で、また、両科 の医師が移行に関するお互いの考え方を十分に理解していな い現状も明らかになった。現在は、作成した移行チェックリ ストの活用を試みている。
移行カンファをしたが移行できなかった患者の経験から、
小児科医および家族が成人期診療の必要性を念頭に置いて、
将来的な見通しを患者・家族と共有して診療をすることが重 要であること、移行への不安が強い場合は、成人診療科と併 診するなどの段階的移行も必要であることが明らかになっ た。一方、移行できた例について調査すると、移行が診断・
治療を見直すきっかけとなり、神経難病の診断がついた例も あった。そして、患者・家族の病状の理解を向上させ、適切 な医療・福祉サービス利用につながった。小児科医、神経内 科医、医療ソーシャルワーカー、在宅支援室看護師などの多 職種のかかわりが、移行をより良いものにすることができる こともあることが明らかになった。
地域医療機関や行政・福祉サービス、急性期医療機関とも 適切に連携しながら、より良い移行医療を提供できればと考 えている。
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 27
9月1日(火)10:45 ~ 12:15 第04会場(岡山コンベンションセンター3F301会議室)
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S-27-4 免疫性神経疾患としての
筋痛性脳脊髄炎・慢性疲 労症候群(ME/CFS)
○山村 隆、佐藤和貴郎
国立精神・神経医療研究センター 免疫研究部
【略歴】
1980年 京都大学医学部卒業
京都大学医学部付属病院老年科・神経内科研修医 1981年 財団法人住友病院神経内科医員
1984年 国立武蔵療養所神経センター(現:国立精神・神経医療研究セン ター(NCNP))
1987年 フンボルト財団奨学金により西ドイツMax-Planck研究所へ留学 1989年 Harvard大学客員研究員
1990年 国立精神・神経センター疾病研究第六部第一研究室長 1999年 国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部長
2010年 多発性硬化症センター長併任(国立精神・神経医療研究センター 2016年 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 特任研究部長病院)
筋痛性脳脊髄炎(Myalgic encephalomyelitis: ME)は、従 来、慢性疲労症候群 (Chronic fatigue syndrome; CFS)の名 称で記載されてきた症候群であり、先行感染に続発して発症 する高度の疲労症状や労作後消耗に加えて、睡眠障害、記銘 力低下、認知機能低下など、さまざまな中枢神経症状が出現 する。それらは患者や家族の生活を破壊するほどの深刻な症 状であるが、基幹病院で実施可能な一般検査では異常を検 出しにくいことから、適切な治療が受けられないことが多 い。近年、脳画像解析の結果から、脳血流低下、脳内炎症・
グリア細胞活性化、右上縦束の異常などを示唆する所見が報 告され、多くの研究者は脳器質異常がME/CFSの一次的な 原因であると考えるに至っている。診断基準は複数存在する が、その誤った適用による誤診例も多く、それが混乱を産み、
確実なME/CFS症例を経験したことのない医師にとっては、
対応がきわめて難しい疾患になっている。
ME/CFSではNK障害活性低下、抗自律神経系抗体の上昇 などの免疫異常が以前から報告され、海外では抗CD20抗体 によるB細胞除去が有効であるという結果も発表されてい る。我々は本疾患の免疫異常の実態解明を目指し、フロー・
サイトメーターによる末梢血リンパ球解析、自己抗体測定、
次世代シークエンサーを応用したB細胞レパトア解析などを 実施し、本疾患の診断や治療に有用な情報を集積している。
その結果、過剰な免疫応答にブレーキをかける"制御性T細 胞"が減少していることや、B細胞のV遺伝子使用偏倚などを 確認し、免疫性神経疾患として把握されるべき症候群である と考えるに至った。本講演では、国内に10万人の患者が存 在すると推定される難病ME/CFSについて、我々の研究成 果や内外の研究動向を紹介する。ME/CFSは根本治療を目 指すべき免疫性神経疾患であり、より多くの医師がこの疾病 に関する理解を深めるべきであることを強調する。
1 シ ン ポ ジ ウ ム 日
9月1日(火)10:45 ~ 12:15 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
S-28-2 小児−成人移行医療の現
状と課題:地域中核病院の 脳神経内科での経験から
○崎山 快夫、堤内 路子
自治医科大学附属さいたま医療センター 脳神経内科
【略歴】
1998年 東京大学医学部卒業
初期研修( 東京大学医科学研究所附属病院, 東京大学医学部附属病院, 日本赤 十字社医療センター)
後期研修(横浜労災病院、東京都健康長寿医療センター、虎の門病院)
を経て2004年 東京大学大学院入学
東京都老人総合研究所にて高齢者ブレインバンクの一員として神経病理を 学ぶ.
2008年3月 同卒業 学位取得(医学博士)
2008年4月より 自治医科大学附属さいたま医療センター 神経内科 助教 2014年10月より 同講師・診療科長
現在に至る
医療の進歩により,近年では小児期発症疾患を有する患者の 約9割が成人期を迎えるようになった1), 2). 患者の加齢に伴い 原疾患の病態が変化し動脈硬化性疾患や悪性腫瘍などの合併 症が発生した場合, 小児診療科のみでは十分対応できない可 能性があること, また, 患者の自律と社会参加を計画的に支 援するために成人診療科への移行のための医療が必要であ る.
我々の施設は高度急性期病床を有する地域中核病院である が, 近隣の小児医療センター移転に伴い脳神経内科への移行 症例が増加している.てんかんを有する患者が多く4割が脳 性麻痺や先天代謝異常・ミトコンドリア病などの重症心身症 者である.てんかん患者では精神遅滞の合併が多く, 重症心 身症者では気道管理・経管栄養などの医療処置を要する症例 が多く, 救急搬送への対応力と脳神経内科の専門医療の観点 から移行患者選定がされていると思われる.てんかん患者で は怠薬により頻回の発作を起こす例があり,患者自律に課題 があった.重症心身症者では気道感染症による入院が多く,
環境整備や地域医療と連携面で複雑な対応を要することが多 かった.
当科で実施したアンケート調査では,当施設への移行症例の 7割は療育手帳を有し,自律困難と考えられ,6割以上が転医 に不安を抱いていた.
「ずっと診て行きます」から「最もよい診療をともに考え,他 の医療機関への紹介・連携を含めて医療の選択肢を提供しま す」に小児科の方針変更が打ち出されているが,脳神経内科 領域では自律困難例が多く移行困難例が多いのが現状と思わ れる.しかし,移行のための準備期間を設け, 小児科-成人診 療科間のカンファレンスの開催や段階的移行などを行ってい くのが現実的対応と思われる.
1) Blum RW. Transition to adult health care: setting the stage. J Adlesc Health 1995: 17: 3-5.
2) 横谷進. 他. 小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に 関する提言。日本小児科学会雑誌 2014: 55 (Suppl 3): 37-40.
S-28-3 小児成人期医療の現状と
課題:広域専門医拠点(国 立病院機構)での経験から
○高橋 和也
独立行政法人国立病院機構医王病院 統括診療部
【略歴】
平成 6年 3月 金沢大学医学部医学科 卒業 平成15年 1月 京都大学医学博士
平成 6年 4月 京都大学医学部付属病院(神経内科研修医)
平成 6年 8月 天理よろづ相談所病院(神経内科医員)
平成10年 5月 国立精神・神経センター神経研究所
平成14年12月 European Neuroscience Institute(Neuroimmunology unit
【はじめに】2014年1月に小児科学会より「小児機発症疾患を有す る患者の移行期医療に関する提言」が発表され,移行期医療には 医療介入中止を除いて,1.成人診療科に完全に移行する場合,2.小 児科と成人診療科の両方を併診する場合,3.小児科に継続して受 診する場合の3パターンが提唱された.一般的に気管支喘息,糖 尿病やアトピー性皮膚炎などは1のパターン,筋ジストロフィー 症などは2のパターン,長期入院を行なっている重症心身障害児・
者などは3のパターンで移行期医療を行なっていることが多い.
一方で,国立病院機構は政策医療の提供として積極的に重症心身 障害児・者や筋ジストロフィー患者の受け入れを行なっている.
今回,地方の重症心身障害や筋ジストロフィー専門病院で行われ ている移行期医療への関わりを脳神経内科医の立場から述べた い.
【筋ジストロフィー】デュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)
患者は主に確定診断後当院小児科に紹介受診される場合が多い.
しかしDMDは遺伝性疾患であり患児だけでなく母の保因者診断 などの問題も生じるため,初期から多職種での診察チームが関 わっている.多職種チームは遺伝カウンセリング部門を構成する メンバーが中心となるが,その中には脳神経内科医が含まれてお り,患者や両親に比較的早期から接するようにしている.小,中,
高等学校などでの指導は小児科中心となってくるが,呼吸器導入,
心筋症の治療などや特に終末期の緩和医療的薬剤の選択には積極 的に脳神経内科医が関与している.
【重症心身障害】先天性代謝障害や多発奇形などがある患者が多く DMDと異なり現在でも長期にわたり小児科医が診療している場 合が多い.しかし多くの患者が40歳を超えるようになり,認知症 の発症や各種癌の発症など小児科単独での診療は難しくなってき ている.成長段階での運動機能や認知機能の変化(発達)ではなく 老化としての運動機能や認知機能の変化の評価は脳神経内科医が 行い,食事内容の見直しや抗てんかん薬の見直しなどに関与して いる.またDMDの場合同様終末期の緩和医療は脳神経内科医が 積極的に薬剤調整などに関与している.
【おわりに】小児神経領域から脳神経内科への移行は,喘息などと 異なり難しい場合が多い.しかし移行期医療以外でも多職種が連 携して医療を行うように求められてきており,筋ジストロフィー 症や重症心身症医療は多職種連携医療のモデルケースとなりう る.