座長:砂田 芳秀
川崎医科大学神経内科学教室後藤 雄一
国立精神・神経医療研究センターメディカル・ゲノムセンター
≪ねらい≫
ミトコンドリアの機能異常はさまざまな神経疾患・筋疾患の 発症に関与しているが、遺伝子変異によるミトコンドリア病 では主として酸素需要の高い脳や筋肉が侵される。本シンポ ジウムでは、ミトコンドリア病の診断へのアプローチ方法、
遺伝子変異と病型の関連、新たに発見された病型、新規治療 法開発の動向など、神経内科医に必要なミトコンドリア病に 関する最新の知見を提供する。
S-07-1 ミトコンドリア病の診断
アプローチ
○後藤 雄一
1,21 国立精神・神経医療研究センター メディカル・
ゲノムセンター、2 国立精神・神経医療研究センター 神経研 究所 疾病研究第二部
【略歴】
1982年北海道大学医学部卒業、北海道大学医学部附属病院小児科医員 1988年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部流動研究員 1990年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部研究員 1991年-米国スタンフォード大学医学部発生生物学講座研究員/科学技術
庁長期在外研究員(併任)
1993年-国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科医長 1994年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部室長 1999年-国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第二部部長 2010年-独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研
究第二部部長、トランスレーショナル・メディカルセンター副セ ンター長、病院遺伝カウンセリング室医長/臨床検査部遺伝子検 査診断室医長(併任)
2015年-国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターメディカル・
ゲノムセンター長、神経研究所疾病研究第二部部長、トランスレー ショナル・メディカルセンター副センター長、病院遺伝カウンセ リング室医長/臨床検査部遺伝子検査診断室医長(併任)
ミトコンドリア病の特徴は「多様性」にあり、病因の多様性、
ミトコンドリア機能とその障害の多様性、臨床症状の多様性、
臨床経過の多様性、遺伝様式の多様性などがある。臓器毎の 診療科の集合体である病院機能においてはやや苦手な病気に なり、なかなか確定診断に至らない場合がある。その解決法 としては、臓器横断型の診療体制を敷くか、もしくは、ミト コンドリア病の特徴を理解した各臓器の専門医師の養成が重 要である。最近の遺伝学的研究の進歩により核DNA上の原 因遺伝子が数多く報告され、従来のミトコンドリアDNA検 査とともに遺伝学的検査の重要性が増している。一方で、病 態に関与するミトコンドリア機能の種類が増加しているにも かかわらず、それら個々の機能変化と密接に関係するバイオ マーカーが十分には見いだされておらず、従来から行われて いる骨格筋や培養細胞を用いた病理学的、生化学的解析の重 要性は少しも低下していない。さらに、MELASのタウリン 大量療法やコエンザイムQ10欠乏症に対するコエンザイム投 与など、病因特異的な治療法や予防法を開発するために、機 能解析手法をさらに向上させ、治療効果判定に耐えうるバイ オマーカーや臨床的評価法の確立を急ぐ必要がある。本発表 では、診断に関係するミトコンドリア病の「多様性」の解説と 今後の診断アプローチの方向性を論じたい。
31 シ ン ポ ジ ウ ム 日
シンポジウム 07
8月31日(月)10:30 ~ 12:00 第13会場(岡山国際交流センター5F会議室(1))
Jp
S-07-2 ミトコンドリア病の原因
遺伝子変異と病型対応
○米田 誠
1、井川 正道
21 福井県立大学 看護福祉学部、
2 福井大学医学部附属病院 脳神経内科
【略歴】
1983年 新潟大学医学部医学科卒業.新潟大学脳研究所 神経内科 医員.
1990年 医学博士学位取得.米国カリフォルニア工科大学 生物学部 研究員 1995年 名古屋大学医学部 第二生化学講座 助手
2007年 福井大学医学部内科学(2)(神経内科) 准教授 2009年 福井大学医学部附属病院 遺伝診療部 部長(併任)
2011年 同 診療教授(神経内科 科長)
2013年 福井県立大学 看護福祉学部 研究科 教授
福井大学高エネルギー医学研究センター 客員教授(併任)
2019年 福井県立大学 看護福祉学部学部長・ 研究科長
【所属学会・役員・資格】
日本神経学会(代議員・専門医・指導医),日本ミトコンドリア学会(評議員・
理事),日本神経治療学会(評議員),日本神経免疫学会(評議員),日本神経 感染症学会(評議員),日本人類遺伝学会(専門医・指導医),日本てんかん学 会(評議員),日本内科学会(総合内科専門医・指導医)
【専門領域】
脳神経内科学,ミトコンドリア病,脳分子イメージング,臨床遺伝学,神経 免疫学
1985年、MELAS、MERRF、KSS/CPEOが、臨床病理学 的見地からミトコンドリア脳筋症の3大病型としてまとめら れた(S. DiMauro, Ann Neurol 1985)。1990年頃までには、3 大脳筋症とレーベル遺伝性視神経萎縮症 (LHON) 、リー 脳症などの主なミトコンドリア病の病型に対応するミトコ ンドリア遺伝子(mtDNA)変異が次々と同定された。しか し、その後、同一mtDNA変異においても異なる臨床型を呈 することや(臨床的多様性;clinical diversity)、同一の臨床 型における異なる原因mtDNA変異(遺伝的異質性;genetic heterogenity)が見出され、ミトコンドリア病における原因 遺伝子変異と病型の対応は混沌としてきた(詳細はmtDNA databaseであるMITOMAP参照)。また、次世代シークエン サーによる遺伝子解析速度の飛躍的進歩によって、ミトコン ドリア病において、mtDNA変異のみならず、様々な核DNA 変異も疾患原因や病態修飾因子として同定されてきている。
MtDNA変異と臨床病型の対応からは、以下の分類が提 唱されている(D.C. Wallace, Nat Genet 2018)、①生体に有 害な母系遺伝mtDNA変異:a) 有害度の小さなホモプラス ミー点突然変異(LHON/難聴など)、b) 有害度の大きいヘ テロプラスミー点突然変異(MELAS/DM/MERRF/Leigh 脳症/NARPなど多数)、②祖先から伝えられたmtDNA多 型(DMなどの生活習慣病に関連)、③受精卵や体細胞にお ける孤発性mtDNA変異:a) 有害性の大きいヘテロプラス ミーmtDNA欠失(CPEO/KSS, Pearsonなど)b)加齢に伴う mtDNA多重欠失・点変異の蓄積。
また、LHONやミトコンドリア難聴においては、既知の mtDNA変異の影響を修飾する核DNA変異(modifier遺伝子 変異)も同定されている。さらに、ミトコンドリア病の病態 は、mtDNAや核DNA変異によって規定されるばかりでなく、
様々な環境因子(喫煙、アルコール、農薬、腸内フローラなど)
も影響することが分かってきている。
S-07-3 近年見出された新たなミ
トコンドリア病
○西野 一三
国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第一部
【略歴】
1989年3月京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、舞鶴市民病院、
和歌山赤十字病院(現、日赤和歌山医療センター)、東京都立神経病院で臨床 研修。都立神経病院在籍中に国立精神・神経究センターでの「筋病理セミナー」
に参加し、埜中征哉先生と出会う。
1994年4月に埜中先生の研究部(国立精神・神経センター[現・国立精神・神 経医療研究センター]神経研究所微細構造研究部)へ。以後一貫して筋疾患研 究。2年間のコロンビア大学留学を経て、2000年4月より微細構造研究部・
室長、2001年 8月より疾病研究第一部・部長(現職)。メディカル・ゲノム センター併任。
山梨大学医学部、マヒドン大学医学部シリラート病院(タイ)、高雄醫 學大學(台湾) 、北京大学 第一医院(中国)等で客員教授。American Academy of NeurologyおよびAmerican Neurological Associationの Corresponding Fellow(FAAN, FANA)。世界筋学会理事、アジアオセア ニア筋学センター副代表等の学会役職。
本講演では、我々が近年原因を明らかにしたCOX6A2変 異による横紋筋特異的原発性のチトクロームc脱水素酵素
(COX)欠損症とCHKB変異による巨大ミトコンドリア型先 天性筋ジストロフィー(megaconical CMD)に焦点を当てる。
原発性COX欠損症では、Leigh脳症を初め中枢神経系を含む 各種の臓器が障害されることが一般的で、横紋筋のみが特異 的に障害されるCOX欠損症はこれまで知られていなかった。
最近、我々は2例の横紋筋特異的COX欠損症患者を見出し た。両例ともに、臨床的には先天性ミオパチー様の筋緊張 低下と筋力低下を呈していた。1例は心筋症も伴っていた。
両例とも、COX6A2遺伝子に両アレル性変異を有していた。
COX6A2は横紋筋特異的に発現しており、罹患臓器が骨格筋 と心筋に限定されることとよく合致していた。生化学的解析 では、呼吸鎖複合体IVのアセンブリが障害されていた。
Megaconical CMDは1998年に我々が世界に先駆けて報 告した疾患である。長らく原因遺伝子は不明であったが、
Chkb欠損マウスが同様の筋病理所見を呈することが手がか りとなり、同症がヒトCHKB異常症であることを明らかにし た。CHKBはホスファチジルコリン生合成経路の最初の反応 を触媒するコリンキナーゼβをコードしている。CHKB変異 によりホスファチジルコリン合成量が低下し、脂質膜組成に 異常が起こることが原因と考えられる。筋線維の中心部では 異常なミトコンドリアがmitophagyによって消化されて失わ れ、周辺部に残ったミトコンドリアが代償性に肥大するため に巨大なミトコンドリアが認められるのであろうと考えられ る。
31 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 07
8月31日(月)10:30 ~ 12:00 第13会場(岡山国際交流センター5F会議室(1))
Jp
ミトコンドリア病 UPDATE
座長:砂田 芳秀
川崎医科大学神経内科学教室後藤 雄一
国立精神・神経医療研究センターメディカル・ゲノムセンター
≪ねらい≫
ミトコンドリアの機能異常はさまざまな神経疾患・筋疾患の 発症に関与しているが、遺伝子変異によるミトコンドリア病 では主として酸素需要の高い脳や筋肉が侵される。本シンポ ジウムでは、ミトコンドリア病の診断へのアプローチ方法、
遺伝子変異と病型の関連、新たに発見された病型、新規治療 法開発の動向など、神経内科医に必要なミトコンドリア病に 関する最新の知見を提供する。
S-07-1 ミトコンドリア病の診断
アプローチ
○後藤 雄一
1,21 国立精神・神経医療研究センター メディカル・
ゲノムセンター、2 国立精神・神経医療研究センター 神経研 究所 疾病研究第二部
【略歴】
1982年北海道大学医学部卒業、北海道大学医学部附属病院小児科医員 1988年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部流動研究員 1990年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部研究員 1991年-米国スタンフォード大学医学部発生生物学講座研究員/科学技術
庁長期在外研究員(併任)
1993年-国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科医長 1994年-国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部室長 1999年-国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第二部部長 2010年-独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研
究第二部部長、トランスレーショナル・メディカルセンター副セ ンター長、病院遺伝カウンセリング室医長/臨床検査部遺伝子検 査診断室医長(併任)
2015年-国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターメディカル・
ゲノムセンター長、神経研究所疾病研究第二部部長、トランスレー ショナル・メディカルセンター副センター長、病院遺伝カウンセ リング室医長/臨床検査部遺伝子検査診断室医長(併任)
ミトコンドリア病の特徴は「多様性」にあり、病因の多様性、
ミトコンドリア機能とその障害の多様性、臨床症状の多様性、
臨床経過の多様性、遺伝様式の多様性などがある。臓器毎の 診療科の集合体である病院機能においてはやや苦手な病気に なり、なかなか確定診断に至らない場合がある。その解決法 としては、臓器横断型の診療体制を敷くか、もしくは、ミト コンドリア病の特徴を理解した各臓器の専門医師の養成が重 要である。最近の遺伝学的研究の進歩により核DNA上の原 因遺伝子が数多く報告され、従来のミトコンドリアDNA検 査とともに遺伝学的検査の重要性が増している。一方で、病 態に関与するミトコンドリア機能の種類が増加しているにも かかわらず、それら個々の機能変化と密接に関係するバイオ マーカーが十分には見いだされておらず、従来から行われて いる骨格筋や培養細胞を用いた病理学的、生化学的解析の重 要性は少しも低下していない。さらに、MELASのタウリン 大量療法やコエンザイムQ10欠乏症に対するコエンザイム投 与など、病因特異的な治療法や予防法を開発するために、機 能解析手法をさらに向上させ、治療効果判定に耐えうるバイ オマーカーや臨床的評価法の確立を急ぐ必要がある。本発表 では、診断に関係するミトコンドリア病の「多様性」の解説と 今後の診断アプローチの方向性を論じたい。