座長:濵野 忠則
福井大学医学部脳神経内科久留 聡
鈴鹿病院脳神経内科≪ねらい≫
筋疾患は疾患の種類も多岐にわたり、診断を確定すること は必ずしも容易ではない。病歴、特に家族歴の詳細な聴取、
および神経学的診察を行ったのちに、血液検査、画像検査
(CT,MRI)、筋電図、そして筋病理所見により最終診断に至 る。遺伝子診断が必要な場合もある。筋画像検査、特にMRI により筋の罹患範囲を特定することが診断の一助となる場合 もある。また筋MRIは炎症性筋疾患の生検部位の特定のため にも重要である。筋電図検査により神経原性疾患と筋原性疾 患(ミオパチー)の鑑別を行い、反復刺激試験により重症筋 無力症やLambert Eaton筋無力症候群の診断に役立てる。診 断の決め手となる筋生検の手技の実際、検体の処理法・送 付法、組織の評価法(HE染色、ゴモリ・トリクローム変法、
ATPase染色、各種免疫染色)についても学習する。また炎 症性筋疾患、壊死性ミオパチーで陽性となる特異的自己抗体 についても概説し、参加者に筋疾患の診断までの一連の流れ をつかんでいただくことが本シンポジウムの主たるねらいで ある。
S-50-1 筋疾患の診察法
○久留 聡
鈴鹿病院 脳神経内科
【略歴】
1990年 名古屋大学卒
1990年 社会保険中京病院研修医 1992年 社会保険中京病院神経内科 1996年 国立療養所中部病院神経内科 1997年 国立療養所鈴鹿病院神経内科
筋疾患は、神経内科の他領域の疾患に比べて診療の機会が比 較的少ない。筋疾患を診療するにあたって注意すべき点や、
ピットフォールについて概説する。
(1)どのような時に筋疾患を疑うか?
筋力低下の他に、筋痛やミオトニア、高CK血症などがある。
Ⅱ型呼吸不全の鑑別疾患として挙がる場合もある。
(2)病歴聴取
現病歴は、主訴となる症状が、いつからどのような形
(acute, subacute, incidous)で出現し、どのような経過を取っ ているかを把握する。家族歴は、広範囲に類症者の有無や血 族婚の有無を確認する。薬剤歴は、スタチン製剤やステロイ ドのみならず、サプリメントも含め聴取し、症状出現との関 連も確認する。既往歴は、てんかん、白内障、糖尿病、心疾患、
習慣性流産、難聴、甲状腺疾患、悪性腫瘍など鑑別診断に大 きな手がかりとなることが多い。ミトコンドリア病や筋強直 性ジストロフィーは筋外症状の把握が重要な意味を持つ。
(3)診察
一般内科的および神経学的診察を行う。特有の顔貌、翼状 肩甲、拘縮、側弯の有無を確認する。皮膚症状も重要であ る。高次機能障害や性格傾向が診断の手がかりとなることも ある。筋萎縮・筋力低下の分布(顔面筋罹患、近位/遠位優 位、左右差など)や程度について詳しく記載する。ミオトニア、
fasciculation、ripplingなどの有無を観察する。ガワース徴候、
歩容異常も重要である。
(4)検査
一般血液・生化学検査、検尿、各種筋炎関連自己抗体、甲 状腺ホルモンなどのチェックを行う。必要に応じて筋エコー、
筋CT・MRIも行う。電気生理学的検査は極めて重要である。
一次的なスクリーニングを実施した上で、筋生検や遺伝子検 査の実施を考慮する。筋病理や遺伝子検査結果の解釈には基 本的な臨床情報が必須である。
(5)診断
非典型例では診断に苦慮することが少なくない。ポンペ病、
SLONMなど治療可能な疾患は見逃すべきではない。壊死性 ミオパチーの中には、筋ジストロフィーに類似した経過をと るものがあることが報告されている。筋ジストロフィーにお いても、DMDは新薬が承認されており、早期に遺伝子型も 含めた診断が不可欠である。また、診断的治療として免疫修 飾治療を行う場合があるが、結果の解釈は慎重にすべきであ る。すぐに確定診断に至らない場合にも、丁寧な経過観察が 診断につながることも覚えておきたい。
2 シ ン ポ ジ ウ ム 日
シンポジウム 50
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
Jp
S-50-2 神経筋疾患における筋
MRI所見の特徴
○濵野 忠則
福井大学病院 脳神経内科
【略歴】
1990年 福井医科大学医学部医学科卒業
1997年 福井医科大学大学院博士課程修了 生化学 2020年~ 福井大学医学部附属病院 脳神経内科 診療教授 2013年~ 福井大学医学部第二内科准教授・神経内科診療科長 2006年 福井大学医学部第二内科講師
2004年 Mayo Clinic Jacksonville, FL, USA 客員研究員 2000年 福井大学医学部第二内科助手
1992年 名鉄病院神経内科医師 1990年 福井医科大学第二内科研修医
【所属学会】
日本神経学会 代議員・専門医・指導医 日本頭痛学会 代議員・専門医・指導医
日本内科学会 総合内科専医・指導医 米国内科学会 FACP 日本認知症学会 専門医・指導医 日本神経治療学会 評議員 日本脳卒中学会 専門医・指導医 日本神経感染症学会 評議員 日本老年医学会 専門医・指導医
神経筋疾患は疾患の種類も多岐にわたり、診断を確定する ことは必ずしも容易ではない。病歴、特に家族歴の詳細な聴 取、および神経学的診察を行ったのちに、血液検査、筋電図、
筋疾患筋病理所見により最終診断に至る。遺伝子診断が必要 な場合もある。特に筋疾患では筋病理所見が診断確定の際の ゴールドスタンダードといえるが、侵襲性がある点がネック となり、繰り返し検査を行うことは通常困難である。また生 検部位によっては診断に役立つ所見が得られない場合もあ る。
近年筋画像検査の重要性が高まっている。筋CT検査は一 度に全身の筋肉を撮影できる利点があり、筋ジストロフィー では、筋内部の虫食い像の低吸収域から病変部位の広がりを とらえることが容易である。しかし炎症性疾患の診断には不 向きである。筋MRIはCTと異なり一度に全身の筋肉の評価 を行うことは困難である。しかし炎症性筋疾患における生検 部位の特定には最も威力を発揮する。また筋強直性ジストロ フィー、封入体筋炎、脊髄性筋萎縮症、あるいは球脊髄型筋 萎縮症では罹患筋の分布のパターンに特徴があり、筋MRIは これらの疾患の鑑別診断の手段としても期待されている。ま た特に頻度の高い筋強直性ジストロフィーでは重症度判定、
機能評価や経過観察にも有用であることが報告されている。
また、筋CT, MRIともに繰り返し検査を行うことが可能であ る。
日常臨床で筋MRIが撮影される機会は増加しているが、
オーダーした脳神経内科医師が筋MRI画像を十分に評価し活 用できているかについては疑問がのこる。本シンポジウムで は、筋MRI撮影部位(頚部、上下肢筋、体幹筋)、および解剖、
T1強調画像、STIR(脂肪抑制)画像、T2強調画像の使い分 け、各疾患での特徴的MRI所見(炎症性筋疾患、筋ジストロ フィー、神経原性筋萎縮症)について習得し、筋MRI画像を より積極的に、また有効に活用していただけることを主たる 目的とする。
S-50-3 筋生検の方法と筋病理診断
○木村 正剛
1,2、數田 知之
1,2、 村上あゆ香
1,2、野田 成哉
1,2、 久留 聡
2、勝野 雅央
11 名古屋大学大学院医学研究科神経内科、
2 鈴鹿病院 脳神経内科
【略歴】
平成4年3月名古屋大学医学部卒業、同年4月から名鉄病院研修医、平成5年 4月から名鉄病院神経内科、平成12年4月から国立療養所東名古屋病院神経 内科、平成13年4月から国立療養所中部病院神経内科、同年10月より名古 屋大学附属病院、平成14年4月から国立療養所鈴鹿病院神経内科(現、独立 行政法人国立病院機構鈴鹿病院)に勤務、現在は独立行政法人国立病院機構 鈴鹿病院脳神経内科第一脳神経内科医長。平成12年より名古屋大学神経内 科研究生、平成28年より客員研究員。鈴鹿病院では筋ジストロフィー、神 経難病の臨床に従事。名古屋大学では筋生検、筋病理の解析、研究に従事。
筋生検は筋疾患の診断において有効かつ重要な手段である。
特に治療可能な炎症性筋疾患では早く診断を確定させる必要 もあり、日常診療において広く頻繁に筋生検が行われている。
また臨床的に手掛かりの乏しいミオパチーの症例でも筋生検 を行うことで診断がつくことはしばしばある。一方、筋生検 は侵襲を伴う検査であるため、その必要性を十分考えて実施 する必要がある。筋生検を検討する際には侵襲がどの程度の ものか実際の手技を理解すること、および有用性について具 体的なデータを把握することが重要である。我々は平成20~
30年の11年間に名古屋大学神経内科で筋生検及び筋病理の解 析を行った連続1018例について、筋生検で得られた病理所見 がどの程度診断に結び付いたかを検証した。各症例を病理組 織診断に従いA群:病理診断で疾患が確定した症例 B群:
病理診断のみでは診断基準を満たさないが臨床情報と合わせ て診断ができた症例 C群:筋原性変化のみで診断に至らな い症例 D群:非特異的な変化のみの症例、の4群に分類した。
この結果A群631例、B群69例、C群62例、D群256例で全体の 69%が、筋病理と臨床情報とを合わせれば診断がつけられた。
A群に関しては筋生検前の臨床診断と病理診断で異なる結果 になった症例が98例存在した。臨床診断では何らかのミオパ チーもしくは筋ジストロフィーとされていた症例が159例存 在し、この中で筋生検の結果84例がA群、また筋力低下を伴 わない高CK血症でも26例の内13例がA群に分類された。こ れらの結果は、筋生検の有効性を示すものと考える。今回は、
この検証結果と合わせ、筋生検の手順と方法を侵襲の程度も 含めて理解できるように解説する。また頻度の高い疾患の代 表的な筋病理所見をお示しする。
2 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 50
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
Jp
キソから学ぶ筋疾患
座長:濵野 忠則
福井大学医学部脳神経内科久留 聡
鈴鹿病院脳神経内科≪ねらい≫
筋疾患は疾患の種類も多岐にわたり、診断を確定すること は必ずしも容易ではない。病歴、特に家族歴の詳細な聴取、
および神経学的診察を行ったのちに、血液検査、画像検査
(CT,MRI)、筋電図、そして筋病理所見により最終診断に至 る。遺伝子診断が必要な場合もある。筋画像検査、特にMRI により筋の罹患範囲を特定することが診断の一助となる場合 もある。また筋MRIは炎症性筋疾患の生検部位の特定のため にも重要である。筋電図検査により神経原性疾患と筋原性疾 患(ミオパチー)の鑑別を行い、反復刺激試験により重症筋 無力症やLambert Eaton筋無力症候群の診断に役立てる。診 断の決め手となる筋生検の手技の実際、検体の処理法・送 付法、組織の評価法(HE染色、ゴモリ・トリクローム変法、
ATPase染色、各種免疫染色)についても学習する。また炎 症性筋疾患、壊死性ミオパチーで陽性となる特異的自己抗体 についても概説し、参加者に筋疾患の診断までの一連の流れ をつかんでいただくことが本シンポジウムの主たるねらいで ある。
S-50-1 筋疾患の診察法
○久留 聡
鈴鹿病院 脳神経内科
【略歴】
1990年 名古屋大学卒
1990年 社会保険中京病院研修医 1992年 社会保険中京病院神経内科 1996年 国立療養所中部病院神経内科 1997年 国立療養所鈴鹿病院神経内科 2001年 国立病院機構鈴鹿病院神経内科医長 2004年 同神経内科部長
2014年 同臨床研究部長 2017年 同院長
筋疾患は、神経内科の他領域の疾患に比べて診療の機会が比 較的少ない。筋疾患を診療するにあたって注意すべき点や、
ピットフォールについて概説する。
(1)どのような時に筋疾患を疑うか?
筋力低下の他に、筋痛やミオトニア、高CK血症などがある。
Ⅱ型呼吸不全の鑑別疾患として挙がる場合もある。
(2)病歴聴取
現病歴は、主訴となる症状が、いつからどのような形
(acute, subacute, incidous)で出現し、どのような経過を取っ ているかを把握する。家族歴は、広範囲に類症者の有無や血 族婚の有無を確認する。薬剤歴は、スタチン製剤やステロイ ドのみならず、サプリメントも含め聴取し、症状出現との関 連も確認する。既往歴は、てんかん、白内障、糖尿病、心疾患、
習慣性流産、難聴、甲状腺疾患、悪性腫瘍など鑑別診断に大 きな手がかりとなることが多い。ミトコンドリア病や筋強直 性ジストロフィーは筋外症状の把握が重要な意味を持つ。
(3)診察
一般内科的および神経学的診察を行う。特有の顔貌、翼状 肩甲、拘縮、側弯の有無を確認する。皮膚症状も重要であ る。高次機能障害や性格傾向が診断の手がかりとなることも ある。筋萎縮・筋力低下の分布(顔面筋罹患、近位/遠位優 位、左右差など)や程度について詳しく記載する。ミオトニア、
fasciculation、ripplingなどの有無を観察する。ガワース徴候、
歩容異常も重要である。
(4)検査
一般血液・生化学検査、検尿、各種筋炎関連自己抗体、甲 状腺ホルモンなどのチェックを行う。必要に応じて筋エコー、
筋CT・MRIも行う。電気生理学的検査は極めて重要である。
一次的なスクリーニングを実施した上で、筋生検や遺伝子検 査の実施を考慮する。筋病理や遺伝子検査結果の解釈には基 本的な臨床情報が必須である。
(5)診断
非典型例では診断に苦慮することが少なくない。ポンペ病、
SLONMなど治療可能な疾患は見逃すべきではない。壊死性 ミオパチーの中には、筋ジストロフィーに類似した経過をと るものがあることが報告されている。筋ジストロフィーにお いても、DMDは新薬が承認されており、早期に遺伝子型も 含めた診断が不可欠である。また、診断的治療として免疫修 飾治療を行う場合があるが、結果の解釈は慎重にすべきであ る。すぐに確定診断に至らない場合にも、丁寧な経過観察が 診断につながることも覚えておきたい。