脳神経内科
木村百合香
東京都保健医療公社荏原病院耳鼻 咽喉科≪ねらい≫
パーキンソン病の摂食嚥下障害は予後や生活の質に関わる重 要な合併症であるが、早期に診断しても、服薬調整、摂食嚥 下リハビリテーション、外科手術といった治療選択肢の、い ずれを選ぶべきか、対応に苦慮することが多い。本シンポジ ウムでは、パーキンソン病の摂食嚥下障害をテーマに、最新 の知見を解説する。まず脳神経内科医が、パーキンソン病の 摂食嚥下障害の病態を示し、摂食嚥下障害が治療に及ぼす影 響を解説する。そして、耳鼻咽喉科医が、嚥下造影検査や嚥 下内視鏡による評価法を示し、重度の摂食嚥下障害に対する 嚥下機能改善術や誤嚥防止術の適応を解説する。リハビリ テーション医が病態に応じた食形態の調整や摂食嚥下リハビ リテーションについて解説する。パーキンソン病の摂食嚥下 障害に対する理解を深め、明日の臨床に役立たせることが本 シンポジウムの狙いで、脳神経内科医だけでなく、すべての 医療従事者を対象とした企画である。
S-53-1 パーキンソン病の摂食嚥
下障害の問題
○山本 敏之
国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科
【略歴】
1996年 札幌医科大学医学部卒業.
1996年~1999年 札幌医科大学附属病院神経内科医局所属.
1999年~2000年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科レジデント.
2000年~2013年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医師.
2004年~2005年 米国ジョンズホプキンス大学リハビリ生理学教室留学.
2006年~2010年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了.医学博士.
2014年~現在 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長.
2017年~現在 国立精神・神経医療研究センター嚥下障害リサーチセンター長.
【主な学会活動】
日本神経学会神経内科専門医・指導医・代議員,日本内科学会認定医・指導医,日本摂食嚥下
パーキンソン病の摂食嚥下障害は,(1) 運動症状が重症であ るほど,嚥下は悪い傾向にあるが,Hoehn & Yahr分類や罹 病期間と必ずしも相関しない,(2) さまざまなタイプの嚥下 障害を合併し,錐体外路徴候だけが原因ではない,(3) 不顕 性誤嚥が多く,自覚に乏しいなどの特徴がある.パーキンソ ン病の診療においては,ADLやQOLに影響する摂食嚥下障 害の合併を早期に発見し,対処することが重要である.一般 に,摂食嚥下障害がもたらす臨床的な問題には,誤嚥性肺炎,
栄養失調,窒息などがある.摂食嚥下障害を合併したパーキ ンソン病患者はこれらのリスクだけでなく,服薬困難による 運動症状の悪化・変動も明らかになってきた.すなわち,摂 食嚥下障害のためにL-dopaの服薬が困難,あるいは不確実に なるために,運動症状が悪化・変動する状態である.抗パー キンソン病薬の進歩によって,内服薬だけでなく,ドパミン アゴニストの貼布剤や注射製剤など,治療の選択肢は増えた が,L-dopaと同等の効果が期待できる貼布剤や持続的な効果 を期待できる注射製剤はまだなく,パーキンソン病治療の軸 となるのはL-dopaの服薬である.摂食嚥下障害がある患者に は抗パーキンソン病薬を胃瘻から投与する方法やレボドパ・
カルビドパ水和物の経腸投与する方法が,運動症状の改善に 有効な場合がある.摂食嚥下障害のために運動症状が悪化・
変動している状態と,薬剤の効果が乏しくなった進行期とを 混同しないようにする.摂食嚥下障害を合併したパーキンソ ン病患者では,誤嚥性肺炎の治療にも苦慮する.誤嚥性肺炎 を発症した場合,新たな誤嚥を避けるため内服薬が中断され ることがあるが,末梢点滴でレボドパを投与しても,半減期 が短く,かつ十分量を入れることができない.また,ドパミ ンアゴニストを貼付しても,L-dopaと同等の効果は得られな い.誤嚥性肺炎を治療している間に運動症状や栄養状態が悪 化し,肺炎治癒後も元のADLに戻らないことが多い.短期 間のうちに体重が減少したパーキンソン病患者が誤嚥性肺炎 を発症した場合には,摂食嚥下障害を合併していると考え,
早い時期に胃瘻造設を検討する.胃瘻造設によって栄養管理 できるようになり,また確実な投薬で運動症状の改善も見込 める.しかしながら,パーキンソン病の摂食嚥下障害の原因 は,錐体外路徴候だけではないため,胃瘻造設後も改善する とは限らないことに留意する.
2 シ ン ポ ジ ウ ム 日
シンポジウム 53
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第12会場(岡山国際交流センター8Fイベントホール)
公募 Jp
S-53-2 パーキンソン病の嚥下機
能評価UptoDate
○木村百合香
1,2,31 東京都保健医療公社 荏原病院 耳鼻咽喉科、
2 国立精神・神経医療研究センター 嚥下障害リサーチセン ター、3 昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座
【略歴】
平成10年3月 東京医科歯科大学医学部医学科卒業 平成10年5月 東京医科歯科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科入局 平成15年7月 東京都老人医療センター耳鼻咽喉科 医員 平成21年4月 東京都健康長寿医療センター 医長 平成27年9月 昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座 准教授
平成29年4月 東京都保健医療公社荏原病院 耳鼻咽喉科医長 現在に至る 資格 : 医学博士(東京医科歯科大学,平成20年)
日本耳鼻咽喉科学会専門医,指導医 日本気管食道科学会専門医 がん治療認定医
所属学会 : 日本耳鼻咽喉科学会(学術委員),日本気管食道科学会(評議員), 日本嚥下医学会(評議員),日本老年医学会,日本喉頭科学会, 日本口腔咽頭科学会,日本摂食嚥下リハビリテーション学会,他 パーキンソン病において、嚥下障害はほぼ必発であり、誤嚥性 肺炎は重要な予後因子である。一方、嚥下機能の程度は必ずしも 重症度や臨床症状と相関せず、また病態も多彩である。先行期で は、認知機能障害や幻視に対する環境調整が必要となり、口腔期 の障害に対しては、錐体外路症候に起因する場合はL-DOPAなど の抗パーキンソン薬が有用である。咽頭期に関しては、迷走神経 喉頭枝や上喉頭神経の内枝の障害が喉頭挙上障害や食道入口部の 開大不全、咽喉頭知覚の低下による不顕性誤嚥などを引き起こす が、L-DOPAの効果が限定的とされる。したがって、ひとことで 嚥下障害といっても、病態に基づいた対応が求められる。
われわれ耳鼻咽喉科医は、「嚥下障害」という漠然とした症候か ら、口腔から食道という解剖学的な食物の通過経路としての側面 と、入力から出力、中枢神経から筋に至るまでの神経学的な側面 の両面からアプローチし、病態を評価することが可能である。特 に嚥下内視鏡検査は、耳鼻咽喉科医が日常診療で駆使する喉頭 ファイバーを用いた検査で、嚥下障害診療ガイドライン2018年版
(日本耳鼻咽喉科学会編)では、嚥下障害への基本的対応をアルゴ リズム化し、嚥下内視鏡検査の評価の結果を中心とした対応基準 を示している。器質的な疾患の有無に加え、咽喉頭の運動機能の 評価、ピオクタニン水・色付きゼリーなどを経口的に摂食・嚥下 した状態をリアルタイムに観察する方法で、主に咽頭期嚥下運動 の評価が可能である。誤嚥の検出率は、嚥下造影検査との一致率 が90%以上と遜色ない感度とされている。咽喉頭の鼻咽腔閉鎖機 能、咽頭麻痺や喉頭麻痺、咽喉頭の不随意運動の有無、咽喉頭の 唾液貯留や咽喉頭の感覚機能の評価、ホワイトアウトの有無や程 度、早期咽頭流入の有無、嚥下反射の惹起のタイミング、咽頭残 留の有無などを評価する。兵頭らは、①喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾 液貯留の程度、②咳反射・声門閉鎖反射の惹起性、③嚥下反射の 惹起性、④着色水嚥下後の咽頭クリアランスの4項目について4 段階で点数化するスコア評価法を報告している。この評価法は、
簡便で検者間のスコアの一致率も高く、情報の共有や経口摂取の 可否の判断、および障害の経時的な変化の比較に有用である 本シンポジウムでは、嚥下内視鏡検査を中心とした耳鼻咽喉科 医による嚥下機能評価の実際を紹介する。明日からのパーキンソ ン病の連携診療に役立てていただきたい。
S-53-3 パーキンソン病の摂食嚥
下リハビリテーション update
○西田 大輔
国立精神・神経医療研究センター 身体リハビリテーション科
【略歴】
2019年10月 - 現在
国立精神・神経医療研究センター 身体リハビリテーション科 医長 2019年 4月 - 2019年 9月
国立精神・神経医療研究センター 身体リハビリテーション科 医師 2018年 4月 - 2019年 3月
済生会東神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション科 2018年 4月 - 2019年 3月 医長
慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 特任助教 2018年 2月 - 2018年 3月
済生会東神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション科 2015年 4月 - 2018年 1月 医師
済生会神奈川県病院 リハビリテーション科 医師 2014年 4月 - 2018年 3月
慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 助教 2010年 4月 - 2014年 3月
亀田総合病院 神経内科・リハビリテーション科 後期研修医 2008年 4月 - 2010年 3月
亀田総合病院 初期研修医
リハビリテーションは障害に向き合う医学医療であり、WHO の提唱する国際生活機能分類(ICF)で示されるように障害と生活 機能は階層構造を認めている。すなわち機能、活動、参加という 3層において障害を層別に概観し、その各層にアプローチを行う。
リハビリテーション訓練において障害の評価、評価に基づいた予 後予測を行い、リハビリテーション訓練プログラム策定、実施を 行い、一定期間で再評価・策定・訓練を行う。
パーキンソン病の摂食・嚥下機能障害のリハビリテーションは 機能維持・改善を目指す。障害は嚥下の5相モデルで考えると、
先行期・口腔準備期・口腔期・咽頭期・食道期に分類されるが、
全ての相において障害される。その評価法はスクリーニング法と してSDQといった質問紙法、反復唾液嚥下試験や改訂水飲み試 験といった嚥下スクリーニング法がある。さらに詳細な評価とし て嚥下造影、嚥下内視鏡があり、標準的な嚥下評価となっている。
機能障害に対する訓練法は口腔期に対して舌の運動訓練、シャキ アなどの運動訓練や集中プログラムであるLee Silverman Voice Treatment (LSVT-LOUD)、リズム障害に対してメトロノーム を用いた訓練なども行われている。
機能障害の訓練に加えて重要なのが活動に関わる障害の是正 で、食形態の調整と姿勢のコントロールである。食形態は水分の とろみの度合い、食事形態の状態(ゼリー・ペースト・ソフト・
きざみ・かゆ・軟飯など)を病態評価に合わせることである。体 位はリクライニングの角度調整、頸部の屈曲、回旋を用いて咽頭 機能の低下をはじめとした状態を補う。
パーキンソン病の嚥下訓練に限らず、摂食・嚥下機能訓練には 大規模な母集団によるエビデンスの構築が不十分である。これは 各疾患において個別性が高いことが考えられ、層別化した検証が 必要と考えられる。
パーキンソン病の摂食・嚥下リハビリテーションは機能障害へ の訓練も重要であるが、患者の生活を見据え、機能、活動、参加 を見据えてゴール設定を行い、個別症例に応じた適切な訓練を行 うことで安全な栄養摂取を行うことが重要である。
2 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 53
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第12会場(岡山国際交流センター8Fイベントホール)
公募 Jp
パーキンソン病の摂食嚥下障害対策 座長:山本 敏之
国立精神・神経医療研究センター脳神経内科
木村百合香
東京都保健医療公社荏原病院耳鼻 咽喉科≪ねらい≫
パーキンソン病の摂食嚥下障害は予後や生活の質に関わる重 要な合併症であるが、早期に診断しても、服薬調整、摂食嚥 下リハビリテーション、外科手術といった治療選択肢の、い ずれを選ぶべきか、対応に苦慮することが多い。本シンポジ ウムでは、パーキンソン病の摂食嚥下障害をテーマに、最新 の知見を解説する。まず脳神経内科医が、パーキンソン病の 摂食嚥下障害の病態を示し、摂食嚥下障害が治療に及ぼす影 響を解説する。そして、耳鼻咽喉科医が、嚥下造影検査や嚥 下内視鏡による評価法を示し、重度の摂食嚥下障害に対する 嚥下機能改善術や誤嚥防止術の適応を解説する。リハビリ テーション医が病態に応じた食形態の調整や摂食嚥下リハビ リテーションについて解説する。パーキンソン病の摂食嚥下 障害に対する理解を深め、明日の臨床に役立たせることが本 シンポジウムの狙いで、脳神経内科医だけでなく、すべての 医療従事者を対象とした企画である。
S-53-1 パーキンソン病の摂食嚥
下障害の問題
○山本 敏之
国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科
【略歴】
1996年 札幌医科大学医学部卒業.
1996年~1999年 札幌医科大学附属病院神経内科医局所属.
1999年~2000年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科レジデント.
2000年~2013年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医師.
2004年~2005年 米国ジョンズホプキンス大学リハビリ生理学教室留学.
2006年~2010年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了.医学博士.
2014年~現在 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長.
2017年~現在 国立精神・神経医療研究センター嚥下障害リサーチセンター長.
【主な学会活動】
日本神経学会神経内科専門医・指導医・代議員,日本内科学会認定医・指導医,日本摂食嚥下 リハビリテーション学会認定士・評議員・学会誌編集委員,日本嚥下医学会評議員,難病嚥下 研究会代表世話人.
【分担研究者】
精神・神経疾患開発費「筋ジストロフィーの臨床開発促進を目指した臨床研究」班,精神・神経 疾患開発費「運動障害疾患における疾患進展予測に基づく先制的包括医療モデル構築」班
【診療ガイドライン委員】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー,進行性核上性麻痺/皮質基底核変性症,筋強直性ジストロフィー
パーキンソン病の摂食嚥下障害は,(1) 運動症状が重症であ るほど,嚥下は悪い傾向にあるが,Hoehn & Yahr分類や罹 病期間と必ずしも相関しない,(2) さまざまなタイプの嚥下 障害を合併し,錐体外路徴候だけが原因ではない,(3) 不顕 性誤嚥が多く,自覚に乏しいなどの特徴がある.パーキンソ ン病の診療においては,ADLやQOLに影響する摂食嚥下障 害の合併を早期に発見し,対処することが重要である.一般 に,摂食嚥下障害がもたらす臨床的な問題には,誤嚥性肺炎,
栄養失調,窒息などがある.摂食嚥下障害を合併したパーキ ンソン病患者はこれらのリスクだけでなく,服薬困難による 運動症状の悪化・変動も明らかになってきた.すなわち,摂 食嚥下障害のためにL-dopaの服薬が困難,あるいは不確実に なるために,運動症状が悪化・変動する状態である.抗パー キンソン病薬の進歩によって,内服薬だけでなく,ドパミン アゴニストの貼布剤や注射製剤など,治療の選択肢は増えた が,L-dopaと同等の効果が期待できる貼布剤や持続的な効果 を期待できる注射製剤はまだなく,パーキンソン病治療の軸 となるのはL-dopaの服薬である.摂食嚥下障害がある患者に は抗パーキンソン病薬を胃瘻から投与する方法やレボドパ・
カルビドパ水和物の経腸投与する方法が,運動症状の改善に 有効な場合がある.摂食嚥下障害のために運動症状が悪化・
変動している状態と,薬剤の効果が乏しくなった進行期とを 混同しないようにする.摂食嚥下障害を合併したパーキンソ ン病患者では,誤嚥性肺炎の治療にも苦慮する.誤嚥性肺炎 を発症した場合,新たな誤嚥を避けるため内服薬が中断され ることがあるが,末梢点滴でレボドパを投与しても,半減期 が短く,かつ十分量を入れることができない.また,ドパミ ンアゴニストを貼付しても,L-dopaと同等の効果は得られな い.誤嚥性肺炎を治療している間に運動症状や栄養状態が悪 化し,肺炎治癒後も元のADLに戻らないことが多い.短期 間のうちに体重が減少したパーキンソン病患者が誤嚥性肺炎 を発症した場合には,摂食嚥下障害を合併していると考え,
早い時期に胃瘻造設を検討する.胃瘻造設によって栄養管理 できるようになり,また確実な投薬で運動症状の改善も見込 める.しかしながら,パーキンソン病の摂食嚥下障害の原因 は,錐体外路徴候だけではないため,胃瘻造設後も改善する とは限らないことに留意する.