座長:深浦 彦彰
埼玉医科大学総合医療センター神 経内科鈴木千恵子
弘前大学医学部脳神経内科≪ねらい≫
神経疾患の患者の治療は、いつまで、そしてどのように継続 することが必要なのか? 病態の時間軸における変化に患者 の治療選択の意思は反映されているのか。若年発症の免疫性 神経疾患(MG, MS, NMOなど)は、免疫抑制薬や疾患修飾薬 の早期治療開始が疾患の進行予防や患者QOLを維持するた め重要だが、罹病期間が長くなり疾患活動性が低下した時点 では治療の変更や中止は病態生理学的にも必要なのか?高齢 で発症する神経変性疾患(パーキンソン病など)や認知症は、
病状をコントロールする薬剤治療が継続して行なわれるが、
病状が進行してベッド上での時間が多くなった段階ではどの ような治療戦略が必要なのか? 一方、ALSなど有効な治療 方法が未開発の疾患では、がん患者治療に準じた緩和ケアな ど終末期医療が必要なのではないのか? 脳血管障害の発症 と再発予防では抗凝固薬・抗血小板薬が用いられる。高齢化 に伴い腎機能、肝機能が低下した時点では、治療目標や治 療戦略の変更は必要なのか?1)基本的治療プラットフォー ムが異なる4つの疾患の治療戦略を見える化。2)shared decision making など患者の治療選択権尊重への配慮。3)
少子高齢化の日本で限られた医療資源の現実的な分配。3点 を中心に神経疾患の治療のあり方をアップデートする。
S-24-1 多発性硬化に、いつまで
疾患修飾薬の治療を続け るのか?
○清水 優子
東京女子医科大学病院 脳神経内科
【略歴】
1987年3月 東京女子医科大学医学部卒業 1987年5月 同 神経内科学教室入局 1991年6月 同 神経内科 助手
1992年2月~1993年12月 米国Cornell大学医学部NorthShore研究所リ ウマチ・アレルギー臨床免疫学教室Research
fellowとして研究留学 1994年3月 医学博士学位取得
2005年5月~2007年4月 東京都板橋中央総合病院 神経内科部長 2007年8月 東京女子医科大学神経内科講師
2012年5月 同 准教授
2013年4月 上智大学大学院外国語学科研究科言語学専攻非常勤講師 2018年8月 東京女子医科大学脳神経内科特命担当教授兼務
現在に至る
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の患者に疾患修飾薬(disease modifying drug:DMD)の必要性を説明した際に「治療が必要なこと はよくわかりました。でも、いつまで治療を続けるのですか?」と いう質問をうけることはよく経験する。そして、我々医療従事者も、
DMDを開始し、長年にわたり臨床症状やMRI画像診断において再 発はなく、EDSSで低スコアを維持し、治療効果が認められている 患者に対して、「いつまでDMDを続ければいいのか?」という疑問 が生じ、明確な回答がないことを実感する。
日常臨床で、一時的にDMDが中断になる理由は、有害事象(PML 含む)、挙児希望、もしくは妊娠が判明、他のDMDへの変更、自己 中断、経済的な問題、があげられる。また、DMDで治療効果が得 られない、病状が進行する場合はDMD中止も検討される。
近年、欧米ではMS患者1人あたりのDMDに年間10,000~50,000ユー ロの医療費がかかっており、医療経済的観点から「いつまでDMDを 続けるのか?」という問題が上がり「患者の予後を考慮したエビデン スに基づくDMD中止」について、検討が行われている。
その取り組みとして、DMD中止の年齢に関する研究が報告され ている。DMDの治験では、ほとんどの患者対象年齢は55歳以下 で、治験にエントリーしたMS患者の平均年齢は50歳未満であった。
MSBaseでは、注射薬DMDの検討を行い、DMDを中止した平均年 齢45歳の患者群は、DMD継続群と比較し、再発リスクは高くなら なかったが、若干進行した。また、ナタリズマブ休薬による解析では、
臨床経過やMRIによる疾患活動性が確認され本剤を再開したMS患 者の平均年齢は50歳以下であった。Hua LHら.は、60歳以上のMS 患者でDMD中止について後ろ向き観察研究を行い、その結果60歳 以上のMS患者では、DMD中止が継続できたと報告している。
DMD中止において、年齢を考慮する根拠は、加齢に伴い悪性腫瘍、
糖尿病、高血圧、感染症、JCV陽性のリスクが生じること、そして フィンゴリモド、フマル酸ジメチルによるPMLは50歳以上が多い、
などである。
現時点で、「DMD中止のエビデンス」について、確立していないが、
「55歳~60歳以上の年齢」は、その指標になる可能性がある。欧米で は、DMDを中止した再発寛解型および二次進行型MS患者を対象と した無作為コントロール臨床試験が行われている。
「MS患者に、いつまでDMDを続けるのか?」について、海外の動向 と最新知見を述べたいと思います。
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 23
9月1日(火)9:00 ~ 10:30 第07会場(岡山コンベンションセンター2F展示ホール)
Jp
S-23-4 神経磁界計測による脊
髄・末梢神経の伝導診断
○川端 茂徳
1、赤座 実穂
2、 橋本 淳
3、佐々木 亨
3、
宮野 由貴
5、渡部 泰士
3,5、関原 謙介
1、 星野 優子
1、足立 善昭
4、大川 淳
31 東京医科歯科大学病院 先端技術医療応用学講座、2 東京医 科歯科大学大学院 呼吸器神経系解析学分野、
3 東京医科歯科大学大学院 整形外科学、4 金沢工業大学 先端 電子技術応用研究所、5 株式会社リコー
【略歴】
学歴 平成 5年 3月 東京医科歯科大学医学部卒業 平成10年 4月 東京医科歯科大学大学院医
学系研究科入学 平成14年 3月 東京医科歯科大学大学院医
学系研究科卒業 職歴 平成 5年 5月 東京医科歯科大学整形外科 平成15年 1月 東京医科歯科大学整形外科入局 平成15年10月 ドイツ、マグデブルグ大学 助手
clinical fellow 平成23年 6月 東京医科歯科大学整形外科
講師
平成27年 4月 東京医科歯科大学先端技術 医療応用学講座 特任教授 専門 脊椎外科、脊髄・神経機能診断 所属学会及び役職等 日本整形外科学会 財務委員会 委員長 脊椎脊髄病委員会委員 日本脊椎脊髄病学会
脊髄モニタリングワーキンググループメン バー 日本臨床神経生理学会
専門制度委員会委員 試験委員会委員
術中脳脊髄モニタリング委員会委員
神経磁界計測は神経の電気活動により発生する磁界を体表から測定し逆 算することで、神経活動を単純X線やMRI画像に重ね合わせ表示できる次 世代の電気生理学的検査法である。脳の分野では脳磁計として既に臨床応用 されているが、脊髄・末梢神経については技術的な課題があり、これまで臨 床応用は困難だった。我々は1999年から脊髄・末梢神経用の磁界計測装置お よび信号解析法の開発をおこない、近年臨床応用が可能なレベルに近づいて きた。
神経の局所の伝導障害の診断には、神経走行に沿って電極を設置し神経誘 発電位を測定するインチング法が有用であるが、従来の電位計測では周囲組 織の電気抵抗の影響を強く受けるため、神経走行が浅い部位、もしくは手術 中に神経近傍に電極を設置することでしか検査することができない。一方、
神経の電気活動により発生する磁界は生体組織の影響を受けない。この磁界 を体外から測定し、発生源の電流を逆に計算することで、体の深部かつ骨組 織の中にある脊髄でさえ、神経電気活動をインチング法同様に詳細に評価す ることができる。
我々はこれまでに金沢工業大学、株式会社リコーと共同開発中の超伝導量 子干渉素子センサを用いた132ch生体磁気計測装置を用いて、健常者の末梢 神経刺激後に、頚椎での脊髄・神経根、腰椎での馬尾・神経根および、腕神 経叢、手根管の神経電気活動を可視化できることを報告してきた。現在、頚 髄症、腰部神経根症、手根管症候群、肘部管症候群の患者の測定をおこない、
神経磁界計測の有用性を検討している。まだデータ収集中ではあるが、神経 信号が減弱している患者群においても、ほとんどの症例で神経磁界の検出が 可能であり、診断に有用な神経機能情報が取得できている。頚椎・腰椎疾患 の神経伝導障害部位を診断できる装置はこれまでになく、有用であるのは間 違いないが、手根管症候群や肘部管症候群において、従来のMCV, SCVなど の神経伝導検査で正常とされた症例でも磁界計測では局所的な伝導遅延を 検出できる例があり、感度の高い検査法として期待している。
脊磁図・神経磁図は、これまで評価できなかった深部の神経機能情報を形 態画像に融合できる革新的な検査法である。無侵襲であることから、神経障 害の部位診断のみならず、病態解明や治療法の効果判定など、神経疾患医療 に幅広く貢献することが期待される。
1 シ ン ポ ジ ウ ム 日
9月1日(火)9:00 ~ 10:30 第09会場(岡山県医師会館4F402会議室)
S-24-2 Latestageのパーキンソ ン病診療
○前田 哲也
岩手医科大学医学部内科学講座脳神経内科・
老年科分野
【略歴】
学歴1993年 弘前大学医学部卒業
1997年 弘前大学大学院医学研究科修了、博士(医学)取得
研究歴1993年 弘前大学医学部第三内科および附属脳神経疾患研究施設臨床神経部門 2001年 滋賀医科大学解剖学第一講座
2002年 弘前大学医学部附属病院第三内科 助手 2003年 秋田県立脳血管研究センター 神経内科 2006年 同 神経内科診療科長
2009年 同 神経内科診療部部長
2016年 岩手医科大学医学部内科学講座神経内科・老年科分野 特任准教授 2019年 同 教授
パーキンソン病の運動症状に対する治療をいつまで続けるべ きであろうか。歴史的にドパミン補充療法が開発される以前 のパーキンソン病は、重症化および死亡率は発症5年以内の 早期でも約30%、10年では60%、15年では80%にも上るほ ど、予後不良な疾患であった。薬物療法が充実している現代 からは想像できない数字である。1960年前後の当時、パーキ ンソン病治療はむしろ如何に生命予後を改善するかが最大の 課題であったが、生命予後は改善され日常生活動作も長期に 維持が可能となった現代では、逆に本シンポジウムのような 命題が治療の現実となりうる。進行期パーキンソン病で治療 抵抗性かつ頻度の増加する転倒、幻視、認知症、施設入所と いったマイルストンについて、英国ブレインバンクの剖検症 例で後方視的に検討した研究が報告されている。おおよそ全 てのマイルストンは死亡5年前頃から増え始めることが明ら かにされ、進行期のその先にある臨床病期としてlate stage が提唱されるに至った。薬物療法への反応性が低下するため ADL重視の治療方針からより安全な生活を求め、QOL重視 へと舵取りをする時期と捉えられる。あるいは既に転倒、骨 折などによりADL低下が著しい患者や、順調な治療経過ゆ えに超高齢化してゆく長期罹患患者、発症年齢自体が超高齢 の患者の増加、認知症を発症したあるいは既に発症しながら にパーキンソン病を発症する患者などはその経過自体がlate stageと捉えざるをえないこともある。患者を抱える家族の 側にも問題があり、核家族化による独居老人の増加と若い世 代の介護の手の不足を背景に生じる経済的な問題は高額な薬 物療法はもとより施設入所費用の継続にも支障を来すことと なる。こうした問題を背景とした医療費負担の現実、さらに 実際のADLレベルとの費用対効果など、治療の継続には患 者個々に多様な問題が存在するものと思われる。本講演では late stageの診療に対して、幾つかの論点をあげて議論した いと考えている。
S-24-3 ALSの終末期はどこまで
治療するのか
○荻野美恵子
国際医療福祉大学病院 医学教育統括センター
【略歴】
神経内科専門医&指導医、内科認定医、日本在宅医学会認定専門医、日本プ ライマリ・ケア学会認定医
昭和60年 北里大学医学部卒業 平成 4年~7年 米国コロンビア大学留学
平成 6年 北里大学医学部大学院修了(医学博士学位取得)
平成12年 北里大学医学部神経内科学講師
平成17年 東京大学大学院医療倫理人材養成講座(CBEL)修了 平成18年~20年3月
東京医科歯科大学大学院医療政策学修士課程卒業(医療政策 学修士取得)
平成20年~ 神奈川県補助金事業難病治療研究センターセンター長 平成26年12月 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター横断的医療領
域開発部門包括ケア全人医療学講師 平成29年 3月 同准教授
現代はそう簡単には死ねない時代になった。心臓ですら補 助人工心臓を用いればすぐに心臓死になるわけではない。臓 器移植待機のために用いた人工心臓であったが、待っている うちに別の疾患で多臓器不全になり補助人工心臓の交換術の 適否が問題となった例があったときく。その後の人生の終焉 が難しい判断にゆだねられるものになってしまうという事態 が実際に起きている。医学の進歩は様々な恩恵をもたらすと ともに苦悩を生じる事にもなった。自分の命の限りをどのよ うに捉えるのか、という問いを突き付けられる状況はしばし ばみられるのだ。
ALSもそのような疾患の一つともいえる。というよりも終 末期をどこと捉えるのかの幅が非常に大きい。そして、誰が それを決めてよいのかという事もあいまいである。倫理原則 の一番とされるのは自律尊重であることは近代倫理学の基本 であり、日本においても近年制定された様々なガイドライン の基本は自律尊重である。しかし、実際に臨床現場でクリティ カルな状況に接していると、自己決定の危うさにも多く遭遇 する。そして、そのような場面に関わるものとして、ひとつ ひとつの言葉を選ぶにも内心冷や汗をかきながら話すのであ る。私に恣意性はないのか、パターナリズムになっていない か、オバタリアンパターナリズムであればいいのか、その判 断根拠は正当化されるのか、いちいち検証しながら会話を紡 いでいくのである。
「どこまで治療するのか」という問いは、逆にいうと「どう なったら治療しなくてよいのか」という問いである。ここで いう「治療」は根治術だけの事ではない。その意味では最期ま で治療は続けるべきである。そしてどの治療を続けるのかは、
自律尊重にゆだねるしかない。医療者には、どのようにすれ ば自律尊重といえるのか、という問題に対峙するだけのスキ ルが必要であるが、これまでの日本における医学教育におい てはこのようなスキルの獲得は不十分であったといわざるを 得ない。もちろん緩和ケアのスキルも十分でなければ選択肢 を提示できない。ALSを例として、なぜこのことが特に今後 の日本において重要であるのかにも言及したい。