date-座長:岩坪 威
東京大学大学院医学系神経病理学小野賢二郎
昭和大学医学部内科学講座脳神経 内科学部門≪ねらい≫
レビー小体型認知症やパーキンソン病をはじめとするαシヌ クレイノパチーの病態におけるαシヌクレインの役割が少し ずつ明らかになるに伴い、αシヌクレインをターゲットにし たバイオマーカーと疾患修飾療療法開発の研究も全世界で精 力的に行われている。本シンポジウムでは上記に関するαシ ヌクレイン研究の現状を共有し、将来の展望および今後の解 決すべき課題に関して再考したい。
S-51-1 αシヌクレイン:Lewy小 体における同定と病的意義
○岩坪 威
東京大学大学院医学系研究科 神経病理学
【略歴】
昭和59年 東京大学医学部卒業 昭和61年 東京大学神経内科入局
国立水戸病院、日本赤十字社医療センター、東京都老人医療センターを経て 平成 元年 東京大学医学部脳研病理 助手
平成10年 東京大学大学院薬学系研究科・臨床薬学教室 教授 平成19年 東京大学大学院医学系研究科・神経病理学分野教授、J-ADNI 主任研究者
専門:神経病理学(アルツハイマー病・パーキンソン病の分子病態)、アルツ ハイマー病治療薬開発に関する研究
主な受賞 2004年度日本神経学会賞、MetLifeFoundation2008Award
forMedicalResearch,Alzheimer'sAssociationHenryWisniewski LifetimeAchievementAward2010、2011年ベルツ賞2等賞,2012 PotamkinPrizeforResearchinPick's,Alzheimer'sDiseaseand RelatedDiseases、第10回高峰記念第一三共賞
αシヌクレインは1988年Schellerらにより、シナプス伝達に 関与するタンパク質の探索の過程で、シビレエイの電気器官 のコリン性シナプス小胞画分に対する抗血清が認識するタン パク質として単離された。その局在はシナプス前末端および 核膜とされ、これがシヌクレイン(sy+nuclein)の語源となっ たが、その後の研究では核には存在しないか少量であり、シ ナプス前末端に豊富であると考えられている。αシヌクレイ ンは脳可溶タンパク質の約0.1%を占める豊富なタンパク質 で、140アミノ酸からなり、N末端側にはKTKEGVを基本モ チーフとする不完全な7回繰り返し配列が存在し、この配列 を介してシナプス小胞に結合することが予想されてきた。α シヌクレインノックアウト(KO)マウスは生育や行動に顕著 な異常を示さず、ドパミンの放出と取り込みに微細な異常を 呈した。ホモログであるβシヌクレインとの二重KOマウス でも異常は軽微であることから、αシヌクレインはシナプス 前末端においてシナプス小胞の放出やリサイクリング、成熟 過程に作用するが、単独でシナプス機能に不可欠な分子では ないと考えられた。αシヌクレインとパーキンソン病(PD)
の関係は、1997年、常染色体優性遺伝性の家族性PDの病因 遺伝子としてαシヌクレインが同定されたことに遡る。まも なく孤発性のPD, レビー小体型認知症(DLB)脳においても、
αシヌクレインがレビー小体の主要構成タンパク質であるこ と、蓄積αシヌクレインはSer129において高度にリン酸化さ れていることが示され、広くPD, DLBの病因に関わるものと 考えられるに至った。家族性PD, DLBでA53Tをはじめとす る幾つかのミスセンス変異と遺伝子重複が報告されており、
優性遺伝性の発症様式を考え合わせると、αシヌクレインの gain of toxic function効果が病因に関わるものと考えられて いる。特にαシヌクレインの家族性変異はその凝集を促進す ること、また近年凝集αシヌクレインが蓄積病変の伝播に関 わることが示され、αシヌクレインを主成分とする凝集体、
あるいはその中間産物であるオリゴマーの形成が神経細胞死 を引き起こすとの考え方が有力である。本講演ではαシヌク レイン同定の研究史を振り返りつつ、αシヌクレイン蓄積を 生じるもう1つの主要な家族性PD病因遺伝子であるLRRK2 との関係についても考察してみたい。
2 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 50
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第05会場(岡山コンベンションセンター3F302会議室)
Jp
S-50-4 炎症性筋疾患と自己抗体
○鈴木 重明
慶應義塾大学医学部 神経内科
【略歴】
1993年 慶應義塾大学内科学教室入局 1997年 慶應義塾大学医学部助手
2003年 ニューヨーク医科大学Department of Cell Biology and Anatomy留学 2007年 慶應義塾大学専任講師(内科学・神経)
2019年 慶應義塾大学准教授(内科学・神経)
学会活動:
日本内科学会,日本神経学会,日本脳卒中学会,日本脳循環代謝学会,
日本神経免疫学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会,日本頭痛学会,
日本臨床神経生理学会
専門領域:重症筋無力症,炎症性筋疾患,免疫チェックポイント阻害薬による 免疫関連有害事象
受賞:2006年 慶應医学三四会奨励賞 2009年 内科学会奨励賞 2014年 日本神経免疫学会創世賞 2016年 日本神経治療学会活動賞
炎症性筋疾患(筋炎)は免疫学的機序により筋線維が障害される 疾患の総称である.筋炎はさまざまな病態機序を背景にもつ疾 患のあつまりであり,その病態や臨床像は多様性に富んでいる.
筋炎の病型はこれまで臨床像,筋病理,自己抗体の3つの側面 から別々に議論されてきた.また筋炎に従事する診療科は脳神 経内科,膠原病内科,呼吸器内科,皮膚科,小児科など多岐に わたっている.したがって,立場の違いにより筋炎の疾患概念 には大きな乖離が存在する.
代 表 的 な 臨 床 診 断 は 多 発 筋 炎 と 皮 膚 筋 炎 で あ り, 両 者 は polymyositis/dermatomyositis (PM/DM) として一括に扱わ れてきた.しかし筋病理診断では多発筋炎と皮膚筋炎は別々の 病態機序を背景とした異なる疾患と定義されている.炎症細 胞浸潤をほとんど認めず,筋線維の壊死・再生所見が特徴的な 筋病理所見に基づいた免疫介在性壊死性ミオパチー (immune-mediated necrotizing myopathy, IMNM) やアミノアシルtRNA 合成酵素に対する自己抗体が陽性となる抗合成酵素症候群が筋 病理診断の病型として加わった.疾患概念の変遷や自己抗体の 発見から,筋炎の中にはIMNM,抗合成酵素症候群,皮膚筋炎 の代表的な病型が存在する.IMNMでは抗signal recognition particle (SRP)抗体と抗3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase (HMGCR)抗体の測定が重要である.
「筋炎の統合的診断研究」ではIMNMにおいて40%で抗SRP抗体,
25%で抗HMGCR抗体が検出された.わずかな例外を除き,両 者が同一の患者血清中に存在することはなく,互いに独立した 血清マーカーである.抗SRP抗体陽性例と抗HMGCR抗体陽性 例は基本的には同様の臨床的特徴を有するものの,一般的には 抗SRP抗体陽性例の方が抗HMGCR抗体陽性例に比べて重篤な 症例が多く,免疫治療に対する反応も悪く治療抵抗性の場合が 多い.
慢性型IMNMは平均発症年齢が若く,筋力低下がより重篤で,
筋萎縮を高頻度に認める.筋萎縮は肩甲帯を中心とした体幹に 顕著であり,一見すると顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーに類 似する.抗SRP抗体や抗HMGCR抗体の測定が行われず適切な 免疫療法を行わない場合には筋力低下は進行し,重い障害を残 す可能性がある.治療可能な筋疾患を見逃さないためにも,小 児期から高齢者まであらゆる年齢層において,血清クレアチン キナーゼが1,000 IU/Lを超えるミオパチーの場合には自己抗体 測定を考慮すべきである.
2 シ ン ポ ジ ウ ム 日
9月2日(水)10:45 ~ 12:15 第06会場(岡山コンベンションセンター2Fレセプションホール)
S-51-2 αシヌクレイン凝集の動的観察
○小野賢二郎
1、中山 隆宏
21 昭和大学医学部内科学講座 脳神経内科、2 金 沢大学新学術創成研究機構ナノ生命科学研究 所
【略歴】
1997年 昭和大学医学部卒業
2002年 金沢大学大学院医学系研究科博士課程修了
2007年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校神経学教室博士研究員 2011年 金沢大学附属病院神経内科講師
2014年 金沢大学附属病院神経内科病院臨床准教授
2015年 昭和大学医学部内科学講座脳神経内科学部門教授、診療科長 受賞2013年 金沢大学十全医学賞
2015年 日本神経学会賞(学術研究部門)
2016年 日本神経化学会優秀賞、日本医師会医学研究奨励賞
2017年 日本神経治療学会賞(学術賞)、東京都医師会医学研究賞奨励賞 2018年 第11回風戸賞(風戸研究奨励会)
アミロイド形成タンパク質の構造ダイナミクスと症状/表 現型との相関関係が様々な神経疾患で注目されている。高速 原子間力顕微鏡(HS-AFM)は、アミロイド形成タンパク質の 構造ダイナミクスを明らかにする強力なツールであり、我々 は以前にアミロイドβ凝集体の構造ダイナミクスを直接可視 化することを報告した。 HS-AFMは、液体中でナノメート ルスケールの解像度で動的過程を捉え、凝集経路の過程で 個々の凝集体を精製することなく、単一の凝集レベルで構造 とその変化を観察できる。今回、我々は、パーキンソン病、
レビー小体型認知症、多系統萎縮などのα-シヌクレイノパ チーの病態蛋白であるα-シヌクレイン(αS)凝集をHS-AFM を用いて観察した。
αS線維は厚さ約10 nmであり、単量体αS添加後に生成され た個々の線維の構造は元の線維と同じであり、成長速度が単 一線維の両端で異なる伸長様式を示した。いくつかの線維は 断片化されたが、それでも線維は伸長を続けた。
α-シヌクレイン線維の成長様式は、様々なアミロイドタン パク質の凝集経路で受け入れられている自己鋳型複製モデル と一致することが示された。HS-AFMを用いた観察システム は、αS凝集の促進および阻害剤の特性評価に使用できると 考えられる。
S-51-3 バイオマーカーとしての
αシヌクレイン
○佐藤 克也
1、佐野 和憲
21 長崎大学医歯薬学総合研究科医療科学専攻保 健科学分野(脳神経内科学専攻)、
2 福岡大学薬学部生体機能制御学
【略歴】
1995年 長崎大学医学部卒業
1995-1996年 長崎大学医学部附属病院・北九州市立八幡病院・長崎原爆 病院にて研修
1997年 長崎県離島医療組合富江病院勤務 1998-2002年 東北大学大学院講座病態神経講座 大学院
2002-2005年 長崎大学医学部 第一内科 神経グループ 客員研究生 2006年 長崎大学医学部・歯学部付属病院 へきち病院再生支援・
教育機構・助教
α-シヌクレイン蛋白は従来,細胞内蛋白としてのみ存在する と考えられており、α-シヌクレイン蛋白はモノマーからオリ ゴマー,そしてα-シヌクレイン蛋白フイブリル線維といった 多量体に凝集していくが,近年,早期中間体であるα-シヌク レイン蛋白オリゴマーの毒性がα-シヌクレイン蛋白フイブリ ル線維より強いとされている.さらに最近では異常化及び凝 集化した細胞外α-シヌクレイン蛋白の生理的機能や凝集動態 に関与する シヌクレイノパチーにおける病態との関係が注 目されている.
最近,パーキンソン病やレビー小体型認知症で脳脊髄液中α-シヌクレイン蛋白濃度が有意に減少している一方,パーキン ソン病でα-シヌクレイン蛋白オリゴマー濃度が上昇している ことも報告されている.
徳田らはパーキンソン病患者における脳脊髄液中のα-シヌク レイン蛋白が低下し、同一検体でα-シヌクレイン蛋白オリゴ マー濃度が上昇していることを報告されている.その後多く の海外の研究機関が大規模研究にてアルツハイマー病患者群 とパーキンソン病患者群とレビー小体型認知症群で脳脊髄液 中のα-シヌクレイン蛋白とそのオリゴマーの測定を行い、同 様の結果を示している。
我々が2011年プリオン病で極めて微量な異常プリオン蛋白を 試験管内増幅する法"Real-time qucking-induced conversion
(RT-QUIC)法"を開発し、このRT-QUIC法をα-シヌクレイン 蛋白に応用し、パーキンソン病でα-シヌクレイン蛋白オリゴ マー濃度が上昇していることを証明した。さらに池中らはプ リオン病で開発した極めて微量な異常プリオン蛋白を試験 管内増幅する法を応用した方法である"HANABI法"を用い、
パーキンソン病でα-シヌクレイン蛋白オリゴマー濃度が上昇 していることを証明し、さらにパーキンソン病の進行と共に α-シヌクレイン蛋白オリゴマー濃度が上昇する事を証明し
た。
今後シヌクレイノパチーは大規模研究を行い、これらのバイ オマーカーとの相関関係をみる必要性があり、シヌクレイノ パチーによる各病気での分類では単一のバイオマーカーでは なく複数のバイオマーカーを利用する必要性があると考えら れる。