座長:加世田ゆみ子
広島市立リハビリテーション病 院脳神経内科林 健
埼玉医科大学国際医療センター神 経内科・脳卒中内科≪ねらい≫
パーキンソン病、脊髄小脳変性症等の神経難病の進行を抑制 するための神経リハビリテーションについて、基礎研究の最 新知見、機器を用いた訓練、集中的なリハビリテーションの 効果を理解し、臨床の場で、科学的根拠のあるアプローチが できることを目的としている。 可塑性に関する分子レベル のメカニズム、反復経頭蓋磁気刺激治療、HAL等のロボッ トリハ、集中リハビリテーションなどについて、最先端の知 見をまじえた教育的セッションとしたい。
S-41-1 運動による神経変性抑制
メカニズム
○武田 明子
1、武内 敏秀
1、 皆川 栄子
2、和田 圭司
2、 永井 義隆
11 大阪大学大学院医学系研究科 神経難病認知症探索治療学、
2 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第四部
【略歴】
【学歴】2016年3月 山梨大学生命環境学部生命工学科卒業
2018年3月 山梨大学大学院総合研究部医学域薬理学(小泉修一教授)
修士課程修了
2018年4月 大阪大学大学院医学系研究科神経難病認知症探索治療学(永 井義隆教授)
博士課程入学 現在に至る
【受賞歴】
2016年7月 第134回日本薬理学会関東部会優秀発表賞
アルツハイマー病は、認知症の中で最も頻度が高い加齢性 の神経変性疾患である。根本的な治療法は未だに確立されて おらず、現状では薬物療法および非薬物療法を組み合わせて 行われる。運動療法や認知機能訓練をはじめとする非薬物療 法のアルツハイマー病や認知症に対する有効性は十分に認め られているものの、これらの効果がどのようなメカニズムを 介しているのかは不明なままであり、詳細な分子機序の解明 が求められている。
近年の複数の疫学研究から、適度な運動はアルツハイマー 病や認知症の発症リスクを低下させることが明らかとなっ た。これらの報告に伴って、運動がアルツハイマー病および 認知症を改善する分子メカニズムの解明を目指した基礎研究 が進んでいる。一般的に運動は、抗炎症作用を含む全身性の 多様な作用を引き起こすことが知られている。アルツハイ マー病や認知症に対する改善効果の分子メカニズムに関して は、動物実験により、運動が神経新生や神経栄養因子の分泌 を促進させることなどが示されている。一方、これまでに我々 は、このような運動がもたらすアルツハイマー病および認知 症の改善効果において、エクソソームが重要な役割を果たし ているのではないかと考え、検討を行ってきた。エクソソー ムは細胞外小胞の1種であり、種々の細胞から血液や脳脊髄 液などの細胞外液中へ分泌され、核酸やタンパク質を運搬す る細胞間のコミュニケーションツールとして機能する。注目 すべきことに、ヒトでは運動時に血液中エクソソームが増加 することが報告されている。我々は最近、エクソソーム分泌 に対する運動の影響についてマウスを用いた解析を行ったと ころ、運動が血液中エクソソームの粒子数を増加させるとと もに、その性質も変化させていることを見出した。さらに、
我々は以前に、神経変性疾患に対する防御因子の伝播にもエ クソソームが関与している可能性を報告している。
本シンポジウムでは、これまでに様々な研究グループに よって行われてきた、アルツハイマー病や認知症に対する運 動の影響に関する最新の知見について概説する。また、どの ような分子機序によって運動がアルツハイマー病および認知 症の改善効果を呈するのか、我々が検討してきた基礎研究で の成果について考察を交えて紹介する。
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 40
9月1日(火)16:00 ~ 17:30 第07会場(岡山コンベンションセンター2F展示ホール)
公募 Jp
S-40-4 肉眼所見から読み解く
パーキンソン症候群
○吉田 眞理
愛知医科大学病院 加齢医科学研究所
【略歴】
1981年 名古屋大学医学部卒業 1981年 公立陶生病院臨床研修 1982年 岐阜県立多治見病院 神経内科 1986年 国立療養所東名古屋病院 神経内科 1993年 博士(医学)学位取得(名古屋大学)
1996年 愛知医科大学加齢医科学研究所 助手 2000年 同 講師
2004年 同 准教授 2010年4月 同教授
専門領域 神経病理学、神経内科学
パーキンソン症候群をきたす背景疾患は、パーキンソン 病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺
(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、多発性脳梗塞など多 岐にわたる。
変性疾患では、肉眼的に疾患特異的な病変分布を捉えられ るかがポイントとなる。鑑別頻度が高い症候は、パーキンソ ン症候群、認知症などであり、画像で描出される白質病変は 常に鑑別疾患が問題となる。パーキンソン病、レビー小体型 認知症はαシヌクレイン陽性のレビー小体が、黒質、青斑、
迷走神経背側核、脊髄中間質外側核、Meynert核、大脳皮質 に出現する。パーキンソン病では、中脳、橋上部の割面で、
黒質、青斑核の褪色が観察される。褪色は黒質、青斑核のメ ラニン含有細胞の脱落によって生じ、臨床経過とある程度対 応し、病期の短い症例では褪色は軽度であり、病期が長くな れば高度となる。脳幹部や小脳、大脳皮質や基底核には萎縮 はみられない。臨床的にパーキンソン症候群が指摘されてい ない症例に、黒質、青斑核の褪色を認めることがあり、肉眼 的に他の部位に異常がみられない場合にはLewy小体病が疑 われる。パーキンソン病では黒質の褪色に比して青斑核の褪 色が強くみられる。レビー小体型認知症では、アルツハイマー 病病理の合併の有無、程度により大脳皮質の萎縮の程度に違 いがみられる。アルツハイマー病病理を合併するレビー小体 型認知症では黒質の褪色が軽い場合がある。
多系統萎縮症は、オリーブ・橋・小脳系と線条体黒質系に 変性を示し、オリゴデンドログリア内にαシヌクレイン陽性 のglial cytoplasmic inclusions(GCI)が形成される。線条体 黒質系の萎縮は、冠状断割面で被殻の背外側に強い褐色調の 萎縮が特徴的で、頭部MRI所見の被殻の背外側の信号異常と 一致する。
PSPとCBDは、神経細胞とグリア細胞に4リピートタウが 蓄積するタウオパチーで、病変分布はPSPでは黒質、脳幹部 被蓋、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核、CBDでは黒質、淡蒼球、
大脳皮質、白質であるが、病変分布には重なりが多く、臨床 診断と病理診断の逆転がおこることが少なくない。また剖検 例の蓄積によりPSPとCBDの臨床像には多様性があり、疾患 のスペクトラムは広い。典型的なPSPでは脳幹部被蓋、小脳 歯状核、視床下核の変性が高度にみられ、左右差を伴う大脳 皮質・白質の変性がCBDでは典型的とされている。
1 シ ン ポ ジ ウ ム 日
9月1日(火)16:00 ~ 17:30 第09会場(岡山県医師会館4F402会議室)
S-41-2 神経難病に対する反復経
頭蓋磁気刺激治療
○花島 律子
鳥取大学医学部脳神経医科学講座脳神経内科分野
【略歴】
1990年 横浜市立大学医学部卒業 虎の門病院ジュニアレジデント 1992年 東京大学医学部神経内科入局
1995年~1999年
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程 2001年~2003年
トロント大学トロントウェスタン病院留学 2003年 東京大学大学院医学系研究科研究拠点形成特任助手 2014年 北里大学医学部神経内科講師
2016年 北里大学医学部神経内科診療准教授
2017年 鳥取大学医学部脳神経医科学講座脳神経内科分野教授(現職)
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ) 理事(財務)
MDSAOS Treasurer elect 日本神経学会 代議員
日本臨床神経生理学会 評議員・代議員、理事
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)では非侵襲的に中枢神経を刺激 し、神経可塑性を誘導することにより神経の興奮性を長期に 変化させることができると考えられている。長期に神経興奮 を変化させることにより、深部脳刺激療法のように精神・神 経疾患の症状改善に役立つ治療法としてrTMSを用いること ができないか、数々の臨床研究がこれまで行われている。中 でも、難治性のうつ病に対しては効果が認められ、近年一定 の条件下での保険診療が認められるようになった。パーキン ソン病などの神経難病に対してもこれまでいくつかの臨床試 験が行われている。
パーキンソン病に関しては、rTMS後に運動反応時間が速く なったと報告された後、種々の刺激法によるrTMSのパー キンソン症状の改善効果を検討されている。種々の刺激頻 度(0.2Hz, 0.5Hz, 1Hz, 5Hz, 10Hz,15Hz)、刺激部位(一次運動 野、前運動野、補足運動野)のrTMSや、バースト状の刺激 を与えるtheta burst stimulation (TBS)、Paired associative stimulation (PAS)などが試みられており、わが国からは補 足運動野上の1Hzもしくは5HzのrTMSにより運動症状が改 善すると報告している。メタアナライシスでも一定の効果が あると示され薬剤の追加療法として一定の効果が期待できる ものの、治療法として確立されるほどのエビデンスはまだ得 られていない。パーキンソン病のどの症状に対して、どこの 部位の刺激のどのような刺激法が最適であるのか更に検討す る必要がある。
その他、脊髄小脳変性症や、筋萎縮性側索硬化症、進行性核 上性麻痺、ジストニアなどの神経難病に対して、小脳や運動 野、前運動野などの大脳皮質上へのrTMSの治療効果の可能 性について報告されている。
神経難病に対するrTMSの有効性を確立するには、治療効果 を得るための最適な刺激箇所や刺激条件を今後も検索してい く必要がある。そのためには、神経難病の神経可塑性変化の 把握と生理学的な役割を明らかにしていくことが役立つと考 えられる。
S-41-3 神経難病に対する入院リ
ハビリテーション~脊髄 小脳変性症を中心に
○宮井 一郎
森之宮病院 神経リハビリテーション研究部
【略歴】
1984年大阪大学医学部卒。大阪大学第2内科、コーネル大学などを経て、
2002年ボバース記念病院院長。2006年より森之宮病院院長代理。大阪大 学医学部臨床教授, リハ医学会および神経学会代議員・専門医・指導医、脳 卒中学会代議員・専門医、ニューロリハ学会理事、回復期リハ病棟協会副会 中枢神経系損傷後の運動障害に対する課題指向型練習によ る運動技能の再獲得には、脳の可塑的変化 (use-dependent plasticity)が重要な役割を果たしている。脊髄小脳変性症
(SCD)に対するリハビリテーション(リハ)において検証す べき問題として、小脳機能低下による運動学習障害が十分な 練習量によって代償されるか、神経変性進行による機能低下 とのトレードの中で、リハ効果が維持されるかという点があ げられる。
近年、SCDに対する歩行やバランス改善を主体とした包括 的集中リハビリテーションの有効性を示唆する報告が蓄積 されてきた。介入量は1~2時間/回 x 週3~7回x 4週間、プ ログラムの内容は静的バランス、動的バランス、平地や凹 凸地の歩行、階段昇降、体幹と四肢の協調運動、ADL練習、
転倒防止のためのステップ練習、肩と脊椎の拘縮予防など であった。介入後には SARA, 歩行速度の改善が得られ、長 期的にもSARA、歩行速度とも改善が6~12カ月維持されて いた (Ilg W et al. Neurol 2009;73:1823, Miyai I et al. NNR 2012;26:515)。長期的なフォローでは、SARAが15~20点以上 になるとADLに支障が出る傾向が強く、ADLを標的とした 介入が重要性を増すと考えられる(Ilg W et al. Cerebellum.
2014;13:248)。
脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン(2018)で は、このような知見を踏まえて、理学療法、作業療法、言語 聴覚療法、摂食嚥下療法に対するclinical question が取り上 げられた。推奨はそれぞれ、「小脳失調を主体とする脊髄小 脳変性症に対して、バランスや歩行に対する理学療法を集中 的に行うと、小脳失調や歩行が改善する(グレード1B)」、「歩 行バランスなどの基本動作練習とADL練習を組み合わせて、
集中的に介入することにより、ADL指標が改善する(グレー ド1C)」、「失調性構音障害に対して、言語聴覚療法が行われ るが、具体的な方法論やその効果に呈する検証は十分ではな い(グレード1C)」、「摂食嚥下障害に対して、誤嚥性肺炎や脱 水などの合併症のない状態と栄養状態の維持を指標にしなが ら、食器の工夫、姿勢の工夫、食形態や栄養補給方法の検討 などの介入を、患者のQOLにも配慮しつつ、行う必要があ る(グレード1C)。」である。現実的な課題としては、リハ実 施施設へのアクセスの問題があり、その一環として、プログ ラム標準化の試みや患者支援サイトへの自主練習に関する動 画配信( http://scd-msa.net/)を行っている。