神経学
小池 春樹
名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科学≪ねらい≫
末梢神経疾患(ニューロパチー)の多くは病態に応じた治療が 可能であり、原因を正確かつ早期に診断することが重要であ る。この領域における近年の病態解明と治療の進歩は目覚ま しく、複数の治療オプションの中から、それぞれの患者に適 した治療を選択する必要がある。本シンポジウムのねらいは、
日常診療で遭遇する機会の多いニューロパチーにおける近年 の病態解明と治療の進歩を、各疾患のエキスパートの先生方 に初学者にもわかりやすくアップデートしていただき、今後 の日常診療に役立てていただくことである。
S-14-1 ギラン・バレー症候群の
最新治療の動向
○三澤 園子
千葉大学病院 脳神経内科学
【略歴】
【学歴及び職歴】
1999年 3月 千葉大学医学部卒業
2006年 3月 医学博士号取得(千葉大学大学院医学研究院)
2008年12月 千葉大学大学院医学研究院神経内科学助教 2014年 7月 千葉大学医学部附属病院神経内科講師 2017年 3月 千葉大学医学部附属病院神経内科准教授
【専門領域】
臨床神経生理学・末梢神経疾患・臨床試験・ボツリヌス治療
【受賞】BrazierAward(国際臨床神経生理学会、2006年)、第52回日本神経学会 学術大会優秀口演賞(2011年)、第24回日本神経免疫学会学術集会学会賞
(2012年)、第110回日本内科学会奨励賞(2013年)
第8回日本臨床神経生理学会奨励賞(2018年)、日本神経学会賞学術部門
(2019年)、日本医師会医学研究奨励賞(2019年)など
ギラン・バレー症候群(GBS)は先行感染後に急性の四肢麻痺 を呈する免疫介在性ニューロパチーである。免疫グロブリン 療法と血漿浄化療法が標準治療として確立されている。し かし、良好に回復する例がいる一方、重症化する例も少なか らず存在する。急性期に進展する神経障害を抑制し、重篤な 後遺障害を予防することを目的とした新規治療の開発が進 められている。現在、補体の活性化の抑制を目的とした、2 系統の薬剤の開発が進められている。補体に対するモノク ローナル抗体と、IgG degrading enzyme of Streptococcus pyogenes(IdeS)である。
補体に対するモノクローナル抗体の開発は、C5とC1qに 対して進められている。C5に対するモノクローナル抗体、
eculizumabは、英国と本邦で第II相試験が実施された。英国 では目標症例数を集積できず、試験は中断された。本邦で実 施された試験(JET-GBS)では、プラセボ群と比較し、エク リズマブ群において、神経症状の良好な回復が示唆された。
今後、次相への展開が期待されている。C1qに対する抗体は、
Ib相が終了し、忍容性、薬物動態等が確認され、神経症状へ の有効性の傾向が示唆された。今後、II相が進められる予定 である。
IdeSはA群溶血性レンサ球菌の病原性因子である。免疫グロ ブリンをFab領域とFc領域の2つに切断する作用を持つ。現 在、腎移植後の拒絶反応、GBSに対する開発が進められてい る。In vitroの実験では、IdeSを添加することで、抗GM1抗 体に対する補体C3の沈着が生じなかったことが示されてい る。ヒトにおいては、現在、imlifidaseの第II相試験が、フ ランスを中心としたヨーロッパで進められている。
31 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 13
8月31日(月)13:30 ~ 15:00 第12会場(岡山国際交流センター8Fイベントホール)
Jp
S-13-4 全身性ジストニアに対す
る両側淡蒼球DBS療法
(GPi-DBS)の効果
○谷口 真
1、横地 房子
2、
沖山 亮一
2、熊田 聡子
3、磯尾 綾子
11 東京都立神経病院 脳神経外科、
2 東京都立神経病院 脳神経内科、
3 東京都立神経病院 神経小児科
【略歴】
昭和58年3月 東京大学医学部医学科卒
平成 9年~ 東京都立神経病院 脳神経外科 医長、平成18年~ 部長 平成15年~ 東京大学 脳神経外科 非常勤講師
平成18年~ 杏林大学 脳神経外科 非常勤講師 平成30年~非常勤教授 日本脳神経外科学会
平成 5年~ 専門医 平成23年~ 関東地方会評議員 平成25年~ 関東地方会理事 日本脊髄外科学会
平成16年~ 脊髄専門医、平成18年~ 指導医、平成22年~ 理事(令和2年会長)
日本定位機能神経外科学会 平成20年~ 理事、技術認定医 日本脊椎脊髄外科手術手技学会(JPSTSS)
平成19年~ 理事 日本運動器疼痛療法学会
平成25年~ 理事、痛み専門医療従事者 日本ニューロモデュレーション学会 平成25年~ 理事(平成29年 会長)
日本脳神経外科学会機関紙 NMC (Neurologia Medico-Chirugica) 編集委員 日本脊髄外科学会機関紙 脊髄外科 平成28年~ 副編集長、平成31年~ 編集長
Asiaspine Official Journal Neurospine 平成30年~ deputy editor, editor in chief of Japan 平成24年~ 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 専門委員
平成18年~ 東京都国保連合会 審査専門部会委員
ジストニアは、今日症候名であって疾患名ではない。しかし、最 初に Hermann Oppenheim が dys-tonia を定義した時はこれは、
単一の疾患の病像、現代でいう DYT1 のそれを記述した言葉で あった。すなわち、筋のトーヌスの dysregulation、主として hypertonic だが、時に hypotonic でもあるというのが最も重要 な特徴である。 後に、症例数が多く、hypertonic な部分だけ を見ると共通の発症メカニズムを持つと思われる成人の局所性ジ ストニアを同じカテゴリーに含めたためにその後の定義や概念の 混乱が発生した。
症状の分布範囲からみて成人型の局所性ジストニアが皮質脊髄路 を異常信号の出力路とする大脳の疾患であるのは容易に想像出来 るが、体幹や下肢伸筋群の筋緊張調節異常など皮質脊髄路と最 も関係が薄いと思われる領域を主病像とする捻転ディストニア
(DYT1)を同一のメカニズムで説明するのは無理がある。また、
前者の特徴のひとつである sensory trick が後者で見られないこ とも単に筋緊張の程度の強弱では説明しがたい。脊椎動物の進化 を考えると体幹、四肢近位、上肢帯、頚部、手はそれぞれ違う時 代に発達した運動制御系のヒエラルギーによって成り立ってい る。ジストニアがより上位の運動制御系による旧来の制御系抑制 からの逸脱であると言う観点が、手術効果の予測、採用する手術 術式決定に有効と思われる。
今日、遺伝子診断の進歩とともに多数のジストニアを症状の一部 に含む病態がDBS手術による症状の改善を求めて我々にコンサル トされるが、残念ながら治療経験が絶体的に不足している現在、
それぞれの病態について手術で改善が期待できるかどうかの判断 は、疾患でよりはむしろ症候で判断している状況である。
発表では、遺伝性全身性ジストニアの原因遺伝子毎の症状の多彩 さ、また同一遺伝子異常でも示される症状の多彩さを供覧し、ま たそれぞれについて治療前後の状態を提示することで、DBSが有 効な症候について論じ、考えられる病態について論じたい。
31 シ ン ポ ジ ウ ム 日
8月31日(月)15:15 ~ 16:45 第04会場(岡山コンベンションセンター3F301会議室)
S-14-2 自己抗体からみたCIDP の病態と治療法の選択
○海田 賢一
埼玉医科大学総合医療センター 神経内科
【略歴】
1990年 防衛医科大学校医学科卒業
1993年 神経内科専門研修(防衛医科大学校病院)
1996年 防衛医科大学校医学研究科(神経学)「免疫性ニューロパチーにお ける抗糖脂質抗体の研究」
2002年 防衛医科大学校第3内科 神経内科助教
2007年 ジョージア医科大学留学 (Robert K. Yu教授研究室)
2009年 防衛医科大学校第3内科 神経内科 講師
2011年 防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科准教授(神経内科科長),
現在に至る 所属学会:
日本内科学会(総合内科専門医、指導医),日本神経学会(専門医、指導医、
代議員),日本神経免疫学会(評議員),日本末梢神経学会(評議員、理事),
日本神経治療学会(評議員),日本自律神経学会、日本宇宙航空環境医学会(認 定医),パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ),日本神経感染症学会,
日本脳卒中学会.その他:日本神経学会CIDP/MMN治療ガイドライン作成 委員会委員,日本神経学会ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群治療 ガイドライン作成委員会委員
慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)は筋力低下,感覚障 害で発症し,2ヵ月以上にわたり慢性進行性に経過する免疫 性脱髄性多発ニューロパチーと定義されるが,その病態は 均一ではない.EFNS/PNSによるガイドラインではtypical,
atypical CIDPに分類され,さらにatypical CIDPは遠位優位 型(DADS),多巣性脱髄性感覚運動型(MADSAM),focal,
pure sensory,pure motorに分類される.これらの病型は 単に障害される神経の分布,機能が異なるのではなく,背景 にある病態が異なり,その結果治療反応性も異なることが報 告されている.しかしながら,各病型に関連するバイオマー カーは未同定であり,治療反応性が診断を支持する根拠とし て考慮されることも少なくない.近年,CIDP患者の一部に 傍絞輪部に局在する神経蛋白neurofascin 155, contactin1等 に対する自己抗体が同定され,抗体陽性例では比較的均一な 臨床的特徴,および治療反応性を示すことから病態に関与し ていると考えられている.これらのIgG抗体のサブクラスは ほとんどがIgG4であり,補体活性化を介さず,各分子の機 能的阻害,軸索ミエリン結合の破壊などの機序で神経障害を きたすと考えられている.しかし,IgG3サブクラスが優位 な例では補体活性化の関与も指摘されている.また,CIDP の約10%に陽性であるガングリオシドLM1およびLM1関連 複合体抗原に対するIgG抗体については,本抗体陽性例の生 検神経ミエリンに活性化補体が沈着し,マクロファージによ るミエリン貪食像がみられることから,IgG4抗体陽性CIDP とは異なる病態を有することが指摘されている.傍絞輪部蛋 白に対するIgG4抗体陽性例はIVIg抵抗性であり,難治例で はモノクローナル抗CD20抗体であるリツキシマブの有効性 を示す報告があることから,CIDPにおける自己抗体の同定 およびIgGサブクラスの解析は治療方針決定に重要な情報で ある.本講演では,CIDPにおける自己抗体の種類とその病 的意義について整理し,治療法選択への影響について解説す る.
S-14-3 シャルコー・マリー・
トゥース病と遺伝性圧脆 弱性ニューロパチー:
診断の進歩と治療の試み
○岡本 裕嗣
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 脳神経内科・老年病学
【略歴】
H.7 鹿児島大学医学部卒業 同年 京都府立医科大学 神経内科入局
H.12 鹿児島大学医学部 第三内科(現脳神経内科)入局 H.13 国立療養所沖縄病院 神経内科
H.15 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 脳・神経センター 神経内科
H.23 米国テキサス州ヒューストン ベイラー医科大学分子人類遺伝学教室 (Postdoctral associate)
H.25 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 脳・神経センター 神経内科 助教 H.27 鹿児島大学学術研究院 医歯学域医学系 神経病学講座 脳神経内科・老年病学 講師
遺伝性ニューロパチーの代表である Charcot-Marie-Tooth病(CMT) は末梢神経系が主に障害される遺伝性神経 疾患である。次世代シークエンサーの登場により遺伝子診断 の効率は飛躍的に上昇したが、未解明な部分も多く、有効な 治療法は確立していない。本日のシンポジウムでは遺伝子診 断の実情と頻度の高いCMTとHereditary neuropathy with liability to pressure palsy (HNPP) について述べ、これま で行われてきたCMTの治療について述べる。
我々の施設では、次世代シークエンサーを用いてTarget resequencingもしくはwhole exome sequencing (WES) を 行い、CMTの既知遺伝子の変異スクリーニングを行い、さ らに原因未同定症例に対してはWESデータを用いて新規 原因遺伝子を探索している。昨年度CMT 1005例中301 例
(30.0%)に病的変異を同定し、地域別の疫学を明らかにした.
また近年、新規原因遺伝子COA7を同定し、軸索型ニューロ パチー以外に小脳失調症および錐体外路障害、痙性、認知 機能障害、ミオパチーなど多系統の障害をきたすことが明 らかにした。次に最も頻度の高いCMT1AとHNPPについて 述べる。両疾患はPMP22の重複/欠失によりもたらされる が、本邦においては,多くの施設が医療保険内の検査を提 出していると考えられるため包括的な疫学のデータが乏し い。最新のデータではCMT疑いの症例2842例中,CMT1A が22.4% (637例),HNPPが5.5% (155例)であった。またゲ ノム再構成が明らかにされるにつれ、重複/欠失が共存す る症例なども発見され、通常のFISH (Fluorescence in situ hybridization) 法では同定されない症例があることも知って おく必要がある。またCMT2A2、CMT 1Bなど頻度の高い CMTについても本邦のまとめを紹介する。
治療については未だ有効な治療法は確立されていないが、
ゲノム医療の開発は、遺伝性疾患であるCMTにおいて根本 治療に向けて必須の研究課題である。本日は、ゲノム医療の 進行具合について述べると共に、これまで行われてきた薬理 学的アプローチを主とする治療研究についての動向をまとめ る。最後に最も臨床応用に近い薬剤として治験薬PXT3003 について最近の動向を紹介する。