座長:伊東 秀文
和歌山県立医科大学脳神経内科藤岡 伸助
福岡大学病院神経内科≪ねらい≫
パーキンソン病における非運動症状は、前駆期における臨床 的バイオマーカーとして、あるいは発症後のADL阻害要因 として重要である。さらに近年では便秘や嗅覚低下の責任病 変である腸管や嗅球は外的要因のエントリーゾーンであるこ とから、パーキンソン病の発症病態との関連からも特に注目 を集めている。本シンポジウムでは、非運動症状を生み出す 背景病理を、特に前駆期パーキンソン病との関連を中心に紹 介し、その後前駆期の非運動症状としても重要なレム睡眠関 連障害や便秘に焦点を当て、その病態と疾患修飾のターゲッ トとしての可能性を含めて紹介する。
S-32-1 パーキンソン病にみられ
る非運動症状の最新知見
○藤岡 伸助、坪井 義夫
福岡大学医学部 脳神経内科
【略歴】
1.学歴・職務経歴
2003年3月 福岡大学医学部卒業
2003年5月-2005年4月 福岡大学病院 初期臨床研修医(内科・救命
2005年5月-2007年3月 東京労災病院 後期臨床研修医(神経内科)救急科)
2007年4月-2007年8月 福岡大学病院 神経内科 助手 2007年9月-2010年3月 福岡和白病院 神経内科 医師
2010年4月-2014年3月 メイヨ・クリニック(アメリカ・フロリダ州) 客員研究員
2014年4月-2019年3月 福岡大学病院 神経内科 助教 2019年4月-至現在 福岡大学病院 脳神経内科 講師 2.資格
2006年日本内科学会 認定医 2009年日本神経学会 専門医 2019年 日本脳卒中学会 専門医 3.教育
MDSLEAPprogramprovidedbytheInternationalParkinsonand
MovementDisorderSociety(MDS)(2017-2018)
パーキンソン病は、運動緩慢、筋強剛、振戦、姿勢保持障害 といった脳内ドパミンの欠乏に伴う運動症状を特徴とする。
しかしパーキンソン病では、ドパミンに加え、アセチルコリ ン、セロトニン、ノルアドレナリンといったその他の神経伝 達物質の障害が関与した運動症状や非運動症状も経過中にみ られるようになる。特徴的な非運動症状としては、うつ症状、
不安、衝動制御障害といった精神症状、認知機能障害、起立 性低血圧症、排尿障害、便秘などの自律神経障害、レム睡眠 行動異常症、日中の眠気、不眠症といった睡眠・覚醒の障害、
痛み、疲労感、嗅覚障害などが挙げられる。特にレム睡眠行 動異常症、うつ症状、不安、嗅覚障害、疲労感などの非運動 症状は、運動症状を生じる何年も前から出現すること多いと いうことがわかっている。病末期になれば嚥下障害が顕著と なり、誤嚥性肺炎の原因となる。病気の進行とともに、非運 動症状の発症頻度も増え、その重症度も高くなる。それに従 い、患者QOLは低下し、介護者の介護負担を増え、施設入 所を余儀なくさせられることが多くなる。パーキンソン病の 診断は、特徴的な運動症状の存在に加え、頭部MRI検査、ド パミントランスポーターシンチグラフィや心筋MIBGシンチ グラフィといった核医学検査の組み合わせで行うことが主流 であるが、非運動症状の存在の確認も、診断のためには非常 に重要である。問診で前駆症状の有無を確認することで、診 断率は向上する。パーキンソン病に対してはいまだに疾患修 飾療法や根治療法はないため、非運動症状に対しては対症療 法やリハビリテーションを行っていくことが主流となる。抗 パーキンソン病薬による薬物療法やデバイス補助療法に加 え、症状に合わせた種々の薬剤の効果が報告されている。疾 患の重症度、性別、年齢、抗パーキンソン病薬などが非運動 症状発症の危険因子であるとされる。そのため、疾患修飾療 法が開発されるまでは、対症療法に加え、特定の非運動症状 を発症する危険性を早期に認知することにより、非運動症状 の発症予防または非運動症状を発症後に最小限に抑えること が可能になると考える。
1 日 シ ン ポ ジ ウ ム シンポジウム 31
9月1日(火)10:45 ~ 12:15 第09会場(岡山県医師会館4F402会議室)
公募 Jp
S-31-4 封入体筋炎の筋病理とそ
の鑑別診断
○久保田 暁
東京大学病院 神経内科
【略歴】
2002年東京大学医学部卒業.2002年~2006年東京大学医学部付属病院を 中心に研修.2007年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学分野神経内科 学入学,2011年同卒業,医学博士取得.2012年~2015年Department of Neurology, Columbia University Medical Centerに てpostdoc research fellow.2016年より東京大学医学部付属病院脳神経内科助教.
封入体筋炎は病理学的に炎症と変性の2つの異なる病態が併 存するのが特徴であり,筋生検が診断のゴールドスタンダー ドである.炎症と変性の併存を証明できれば封入体筋炎の診 断は難しくないが,症例によって,また生検部位によって炎 症あるいは変性が目立たない場合が有り,それぞれの病態に 類似する病理所見を呈する疾患との鑑別が重要になる.封入 体筋炎で見られる炎症所見は,ルーチン染色では筋内鞘に炎 症細胞浸潤が浸潤し,非壊死筋線維をしばしば包囲,時に浸 潤する像が認められる.免疫染色では非壊死筋線維膜上の HLA-ABC,HLA-DRの染色性が亢進し,筋内鞘に浸潤する 炎症細胞は多くがCD8陽性である.類似の炎症所見を呈する 代表的な疾患として多発筋炎が挙げられるが,他の炎症性筋 疾患でもCD8陽性リンパ球を中心とした炎症細胞の筋内鞘へ の浸潤が認められることがある.封入体筋炎で見られる変性 所見はルーチン組織化学染色では縁取り空胞,赤色ぼろ線維
(ragged-red fiber)として認められるが,必ずしも感度は高 くない.名称の元になった封入体は電子顕微鏡で細胞質およ び核に15-20 nmのフィラメント状構造として認められるが,
免疫染色で証明するのが簡便である.封入体はAβ42,リン 酸化タウ,TDP-43など様々なタンパクが異常蓄積している が,特にオートファジーの基質であるp62が最も高感度であ ることが知られており,p62に対する免疫染色が封入体の検 出に有用である.しかしながら,p62で検出できる封入体は 封入体筋炎に特異的な所見ではなく,遺伝性封入体筋症など の筋疾患にも認められる.類似の炎症(あるいは変性)所見を 呈する疾患においては,変性(あるいは炎症)所見を欠くこと を証明することで封入体筋炎との鑑別が可能になる.ただし,
変性所見とされる縁取り空胞や赤色ぼろ線維は慢性筋原性変 化あるいは高齢健常者でも少量認められることがあり,また 遺伝性筋疾患においても軽度の炎症細胞浸潤やHLA-ABC染 色性亢進が認められることがあり,炎症と変性というキー ワードだけで診断しようとすると誤診を招くため,封入体筋 炎の病理所見を正確に把握することが重要である.
S-31-5 封入体筋炎の嚥下造影検査所見
○山本 敏之
国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科
【略歴】
1996年 札幌医科大学医学部卒業.
1996年~1999年 札幌医科大学附属病院神経内科医局所属.
1999年~2000年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科レジデント.
2000年~2013年 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医師.
2004年~2005年 米国ジョンズホプキンス大学リハビリ生理学教室留学.
2006年~2010年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了.医学博士.
2014年~現在 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長.
2017年~現在 国立精神・神経医療研究センター嚥下障害リサーチセンター長.
【主な学会活動】
日本神経学会神経内科専門医・指導医・代議員,日本内科学会認定医・指導医,日本摂食嚥 下リハビリテーション学会認定士・評議員・学会誌編集委員,日本嚥下医学会評議員,難病 嚥下研究会代表世話人.
【分担研究者】
精神・神経疾患開発費「筋ジストロフィーの臨床開発促進を目指した臨床研究」班,精神・神 経疾患開発費「運動障害疾患における疾患進展予測に基づく先制的包括医療モデル構築」班
【診療ガイドライン委員】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー,進行性核上性麻痺/皮質基底核変性症,筋強直性ジスト ロフィー
封入体筋炎では40~80%の患者に嚥下障害が現れる.嚥下障害 を合併する時期は個人差があり,四肢・体幹の筋力低下の程度 とは相関しない.嚥下障害が初発症状であった場合,CKの上 昇が軽度で,筋力低下が目立たず,しばしば診断に苦慮する.
嚥下造影検査は嚥下評価に有効で,その所見は,ときに封入体 筋炎を疑う一助となる.封入体筋炎に特徴的な嚥下造影検査所 見の一つは,咽頭収縮不全である.咽頭収縮不全は,咽頭筋群 の筋力低下が原因で,そのために食物の輸送が障害され,特に 固形物の嚥下で,咽頭クリアランスが低下する.また,食道入 口部の開大不全もよく観られる所見である.嚥下造影検査の側 面像では,食道入口部の一部が隆起して見えることがあり,こ れを輪状咽頭筋圧痕像(cricopharyngeal bar)という.輪状咽 頭筋圧痕像は,封入体筋炎を含めた炎症性筋疾患でしばしば認 められる所見で,輪状咽頭筋の一部が弛緩しないことが原因と 推察される.逆に咽頭筋が広範囲に障害され,一部しか収縮し ない場合には,収縮した部分だけが咽頭後壁からの隆起とし て認められる.この所見は,pharyngeal muscle propulsionや cephalad prominenceなどといわれる.咽頭収縮不全や食道入 口部の開大不全は,喉頭蓋谷や梨状陥凹の残留,誤嚥の原因と なり,臨床的には栄養失調や誤嚥性肺炎のリスクとなる.封入 体筋炎の嚥下障害に対して,副腎皮質ステロイドの服用や免疫 グロブリン大量療法は,十分な効果が得られないことが多い.
封入体筋炎の嚥下障害にバルーン拡張法が有効なことがある.
バルーン拡張法とは,バルーンカテーテルを食道内まで挿入 し,そこでバルーンを膨らませて引き抜くことによって,物理 的に食道入口部を拡張する方法である.食事前にバルーン拡張 法を実施することで,嚥下困難感が改善する封入体筋炎患者が いる.また,海外では輪状咽頭筋にボツリヌス注射をすること で,食道入口部の開大不全を治療する報告がある.重度の嚥下 障害を合併した封入体筋炎患者には,輪状咽頭筋切断術の適応 がある.輪状咽頭筋切断術は外科的に輪状咽頭筋を切断し,食 道入口部を開大しやすくする治療である.術後は摂食嚥下リハ ビリテーションを行い,頸部回旋嚥下などを組み合わせるとさ らに効果的である.咽頭収縮筋の筋力を改善させることは難し く,摂取量が減り,栄養管理が困難になれば,胃瘻造設などの 代替栄養法の導入を検討する.