なお る神 経内 科
座長:
田中耕太郎(小金井リハビリテーション病院)
卜部貴夫(順天堂大学医学部附属浦安病院 脳神経内 科)
≪ねらい≫
わが国のアカデミアにおける基礎研究は脳卒中分野にお いても高いレベルにあり,創薬シーズとなり得る画期的な治 療コンセプトや遺伝子・タンパク質が数多く存在している.
しかし,残念なことに大学病院や研究機関では大型動物を用 いた研究や,安全性評価を実施するにあたっての必要な資 金・人材が不足しており,臨床の創薬までつながるものは極 めて少ない現状にある.その最大の理由として有望な創薬 シーズを実用化につなぐトランスレーショナル研究のシス テム整備が不十分であることが挙げられる.本シンポジウ ムでは脳梗塞の創薬と新しい治療戦略を視野に入れ,わが国 で期待されているシーズを洗い出し,将来の創薬に向けての ロードマップを検証する.
TN-09-1
Neurovascular protectionによる創薬研 究
福岡歯科大学 総合医学講座 内科学分野
○大星博明
血栓溶解薬や血管内治療の臨床導入により進歩した脳梗塞急 性期治療であるが,これらの治療法が実際に適応される割合は 少なく,therapeutic time window と適応範囲の広い新規治療法 の開発が求められている.2006年にneurovascular protectionの パラダイムシフトが提唱されて以降,脳神経のみならず血管な らびに神経周囲組織が重要視されているが,我々はその1つで ある浸潤炎症細胞に注目し,脳虚血後に生じる炎症機転,特に 自然免疫(innate immunity)の役割を明らかにしてきた.自然 免疫の応答細胞としては,脳内のミクログリアとともに全身循 環から傷害組織に浸潤する骨髄由来単球・マクロファージが重 要であり,脳梗塞巣の拡大をもたらす機序の1つとして,傷害脳 組 織 か ら 放 出 さ れ た peroxiredoxin family (Prx) が damage-associated molecular patterns (DAMPs)として作用することを 我々は最近見出している.Prxは,骨髄由来マクロファージの Toll様受容体(TLR)で認識され,マクロファージを活性化して インターロイキン23 (IL-23)を放出させる.IL-23は脳内に浸潤 したγδT細胞をさらに刺激してIL-17を放出させ,下流の炎症 性サイトカイン・接着因子などを活性化することで,脳梗塞巣 の拡大をもたらす.PrxやIL-23,IL-17,γδT細胞を特異的に 抑制する治療は脳梗塞を縮小し,神経機能を改善させるが,本 治療は虚血後12~24時間で開始しても有効であることから,
therapeutic time windowの広い新規脳梗塞治療法へと発展する ことが期待できる.また,近年役割が注目されている周皮細胞 の脳虚血での動態についても新たな知見を見出しており,組織 損傷や再生,修復機構における重要性が示唆されている.今後,
炎症・免疫応答や組織修復の機構をさらに解明し,有効な治療 標的を明らかにすることで,therapeutic time windowの広い新 規脳梗塞治療薬の開発に結びつくものと考えられる.
《略歴》1984年 九州大学医学部卒業,新日鉄八幡病院内科研修医 1985年 九州大学第二内科・循環器内科研修医
1986年 九州大学第二内科医員 1987年 九州労災病院脳卒中科医師 1988年 国立肥前療養所内科医長
1991年 九州大学医学部附属病院第二内科医員 1994年 米国アイオワ大学内科・循環器内科博士研究員 1997年 誠愛リハビリテーション病院脳血管内科医長 1998年 九州大学第二内科助手
2002年 九州大学病態機能内科講師
2009年 福岡歯科大学総合医学講座内科学分野教授 2014年 福岡歯科大学医科歯科総合病院副院長 現在に至る 主な所属学会
日本脳卒中学会(評議員),日本脳循環代謝学会(評議員),日本老年学 会(代議員),日本神経学会,米国脳卒中協会,国際脳循環代謝学会,世 界脳卒中機構
なおる神経内科 TN-09:脳梗塞の創薬と次世代医療
5月21日(土) 8:00~10:00 第9会場(ポートピアホテル偕楽3本館B1F)
172 -なお
る神 経内 科
TN-09-2
脳梗塞の創薬におけるG-CSFの現状と 展望
東海大学医学部内科学系神経内科
○瀧澤俊也
神経再生治療として,骨髄幹細胞,ES細胞,iPS細胞を用 いた先駆的研究が行われているが,技術的・倫理的なハード ルは高い.脳梗塞の創薬としてのG-CSF治療は既存薬の適 応拡大であり,安全面や倫理的側面で現実性が高い.
G-CSFは,我々の基礎研究も含め神経再生,血管内皮増殖 と血管新生,抗炎症,抗アポトーシス,抗グルタミン酸神経 毒性作用などを有し,特に少量G-CSFで副側血行路促進効果 を示した報告がある.
我々は,発症第1日ないし第7病日の脳梗塞患者にG-CSFを 5日間静注する第I相臨床研究を行った.G-CSF 150ないし 300μg/body/日投与では白血球数は40000/μL以下に推移 し,第7病日開始群と比べて第1病日開始群で,90日後の神経 徴候の改善を認めた(J Stroke Cerebrovasc Dis, 2013).
さらに国内5大学との共同研究で,発症24時間以内の脳梗 塞患者49例を登録し,G-CSF 150μg/body/日ないし300μ g/body/日投与群,placebo群の3群に振り分け,臨床徴候・脳 梗塞巣へ及ぼすG-CSFの有効性および至適投与量を評価す るランダム化第II相臨床試験を実施した.G-CSF(300ないし 150 μg/日) 5日間静注投与では,WBCは35,000/μl以下の安 全域であり,脾腫大も認めず安全性が確認された.一方,G-CSF投与群では3ヶ月後の臨床症候や脳梗塞サイズの有意な 改善を認めなかった(J Stroke Cerebrovasc Dis, In press, 2016).しかしながら,2015年の基礎研究でG-CSF静注+rt-PA療法が神経徴候の改善,脳出血の減少,vWF,CD34+,
VEGFR-2の発現増強を認めており,臨床での急性期血栓溶 解療法とG-CSFの併用療法が出血性梗塞を軽減する可能性 は期待される.また,G-CSFのみならず,現在我々が開発し ている血管内皮前駆細胞・抗炎症細胞群動注による脳梗塞治 療も基礎実験で梗塞巣縮小効果が示されており,今後の臨床 応用に向け研究を加速させたい.
《略歴》昭和56年3月 東海大学医学部医学科卒業
昭和56年6月~昭和58年3月 東海大学病院内科研修医
昭和58年4月~昭和62年3月 東海大学医学部大学院医学研究科(博士 課程)入学
昭和62年4月 東海大学医学部神経内科助手
平成元年7月~平成3年6月 Canada, Montreal Neurological Institute にHakim教授のもと2年間留学
平成 4 年4月 東海大学医学部神経内科講師
平成13年4月 東海大学医学部内科学系神経内科准教授 平成20年4月 東海大学医学部内科学系神経内科教授 平成22年4月 東海大学医学部中央臨床検査センター長兼務 平成24年4月 東海大学医学部内科学系神経内科領域主任教授,東海
大学総合医学研究所所長兼務.
TN-09-3
内在性神経幹細胞による脳梗塞の再生医 療
兵庫医科大学先端医学研究所神経再生研究部門
○松山知弘,中込隆之
我々は前回のシンポジウムで脳梗塞などの虚血性病変において脳血 管ペリサイトがリプログラミングを受けて多能性幹細胞となり,ニュー ロンやアストロサイト,血管内皮細胞を含む脳構成細胞のほとんどの 細胞に分化することを報告した (Stem Cells, 2015).そしてこれが脳障 害時に産生される内因性の神経幹細胞になるのではないかと考えてい る.
ペリサイトの脳修復機構への関与を検討するうえで,胎生期の脳組 織構築機序を参考にすることが重要であると思われる.我々のこれま での検討から,胎生期の脳血管ペリサイトは多能性幹細胞であり,
ニューロンに分化することが分かっている.一方,成体脳になるとペ リサイトはそのような能力は失われ,血液脳関門構成細胞のひとつと して脳循環調節に関わっているが,ひとたび虚血負荷がかかると,先祖 がえりをして再び多能性を獲得するのではないかと考えている.この ような現象を考案すると,このペリサイト(虚血ペリサイト: iPC)の能 力を虚血障害後の脳再生に活用できないかという期待が生じてくる.
しかし,現実にはまだその有効な手立ては確立されていない.
近年,再生医療の一環として種々の幹細胞の基礎的研究がなされて きている.これらの研究は,幹細胞の神経への分化というより,むしろ 幹細胞が分泌する栄養因子やサイトカインによる神経保護作用を期待 しているように思われる.我々はこれまでに骨髄単核球による細胞治 療に関し,その効果の主座が血管新生/再生にあること (Stem Cells, 2010),そして再生血管が内因性神経幹細胞のニッチを促進し,神経再 生に関与しうることを臨床研究や動物実験で検証してきた.また,大 脳皮質由来の内因性神経幹細胞がリンパ球や炎症性サイトカインに極 めて脆弱であることが,脳再生に立ちはだかる極めて高い壁であるこ とも示してきた (Cell Death Differ, 2012).
本シンポジウムでは,現在当教室において模索中のiPCを標的とした 治療法の可能性について述べる.従来脳血管障害の治療標的として主 役の座を占めていたのはニューロンや血管内皮細胞でペリサイトはそ の脇役でしかなかったが,我々の研究からはペリサイトこそ,その病態 研究の対象とすべき細胞ではないかと考えている.
《略歴》生年月日:昭和28年2月2日(63才)
昭和53年 3 月(1978) 大阪医科大学卒業
昭和53年 4 月 大阪大学医学部第一内科 入局 昭和53年12月 市立柏原病院内科 医員 昭和57年 1 月(1982) 大阪大学医学部付属病院 医員 昭和61年10月(1986) オランダ国立グロニンゲン大学 研究員 平成元年 4 月(1989) 兵庫医科大学第五内科 助手
平成 2 年 2 月(1990) 兵庫医科大学第五内科(内科学・神経SCU科) 講師 平成17年11月(2005) 兵庫医科大学内科学,神経・SCU科 助教授.
平成17年12月 兵庫医科大学,先端医学研究所,神経再生研究部門 教授 平成25年 4 月 兵庫医科大学,先端医学研究所 所長
現在に至る
なおる神経内科 TN-09:脳梗塞の創薬と次世代医療
5月21日(土) 8:00~10:00 第9会場(ポートピアホテル偕楽3本館B1F)
173
-なお る神 経内 科
TN-09-4
脳梗塞患者に対する自己骨髄幹細胞を用 いた再生医療の現状とその未来
先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療 研究部
○田口明彦
脳梗塞後には内因性神経幹細胞が大量に誘導されるが,ア ポトーシスにより死滅しほとんど生着しないことが知られ ていた.我々は,脳梗塞後の血管再生が内因性神経幹細胞の 生着に必須であり脳梗塞後の血管再生が脳神経機能の再生 をもたらすことを世界に先駆けて報告し,これらの知見に基 づき,脳梗塞患者に対する自己骨髄由来造血幹細胞の静脈内 投与の臨床試験を行ってきた.その結果,1.治療群(高用量 群+低用量群)はヒストリカルコントロール群に比し神経機 能予後が良いこと,2.高用量群は低用量群に比し神経機能 予後が良い傾向であること,3.自己骨髄由来造血幹細胞の 投与により脳循環代謝が改善すること,が示された.これら の知見は,脳梗塞モデルマウスと同様に,脳梗塞患者におい ても亜急性期の造血幹細胞の静脈内投与が血管再生を介し て神経機能再生を促進する可能性が高いことを示している.
脳梗塞後の再生過程においても,創傷治癒と同様に,1.脳 梗塞発症直後から数日間の急性期(=炎症期),2.発症後2週 間程度の亜急性期(=増殖期),3.その後に続く慢性期(成熟 期),が存在し,我々が実施している亜急性期における造血 幹細胞移植治療と同様に,急性期における炎症の制御を目的 とした間葉系幹細胞投与や成熟期における神経栄養因子等 のパラクライン作用を期待した神経幹細胞移植の臨床試験 での治療効果が報告されており,今後は脳血管障害患者に対 する再生医療開発がますます活性化されるものと考えられ ている.
《略歴》1989年 大阪大学医学部卒業.
1989年 大阪大学医学部附属病院 研修医(第一内科) 1990年 星ヶ丘厚生年金病院 脳卒中内科 医員
1993年 大阪大学大学院医学系研究科 博士課程(神経解剖学) 1996年 米国コロンビア大学 博士研究員
2000年 国立大阪南病院 循環器科 医員
2002年 国立循環器病研究センター 脳循環研究室 室長 /脳神経内科 医長 2011年 先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療研究部 部長 専門分野脳血管障害,認知症
研究テーマ
脳卒中/認知症患者に対する新規治療法開発
なおる神経内科 TN-09:脳梗塞の創薬と次世代医療
5月21日(土) 8:00~10:00 第9会場(ポートピアホテル偕楽3本館B1F)
なお る神 経内 科