ホッ トト ピッ クス
座長:
石川欽也(東京医科歯科大学医学部 長寿・健康人生推 進センター)
渡瀬 啓(東京医科歯科大学 脳統合機能研究センター)
≪ねらい≫
脊髄小脳変性症はアルツハイマー病,パーキンソン病に次 いで患者数の多い神経変性疾患で,多くの遺伝型病型の責任 遺伝子がこれまでに同定されてきた.そのうち優性遺伝性 脊髄小脳失調症については,これまで主に異常な折りたたみ 構造を呈する疾患関連タンパクの神経細胞内への蓄積に焦 点をおいた研究がマウスを筆頭とする動物モデルや培養細 胞株を用いて進められ,多くの知見が得られてきた.加えて 近年,脂質代謝異常・異常RNA依存性の病態発症機構など新 たな発症機構の解明・よりヒト病態に近い新たな動物・細胞 モデルの開発・遺伝子治療の開発等が急速に進展しており,
SCAの基礎研究・トランスレーショナルリサーチは新たな局 面を迎えている.本シンポジウムでは,我が国の研究者が世 界に発信した最近の成果に基づいて,病態の完全理解と治療 法の開発を目指した最新のSCA研究の展開について議論す る.
共催:日本神経科学学会/小脳研究会
HT-11-1
ELOVL4における新規変異の同定と SCA34の臨床的スペクトラムの拡張
1東京医科歯科大学大学院脳神経病態学分野,2横浜市立大学大学院医学研究科
神経内科学,3東京大学大学院医学系研究科神経内科学,4太田熱海病院神経内科,5横須賀共済病院神 経内科,6東京大学大学院新領域創成科学研究科バイオデータベース分野,7藤沢市民病院神経内科,
8がん・感染症センター都立駒込病院神経内科,9横浜市立大学大学院医学研究科遺伝学,10東京医科 歯科大学医学部附属病院長寿・健康人生推進センター
○尾崎 心1,土井 宏2,三井 純3,佐藤 望1,山根清美4,入岡 隆5,石浦浩之3, 土井晃一郎6,森下真一6,小山主夫7,三浦義治8,松本直通9,横田隆徳1,田中章景2, 辻 省次3,水澤英洋1,石川欽也10
本研究では,日本人の新たな未同定SCA二家系についてその臨床的及び画像的特徴を記載するとともに,連 鎖解析と次世代シーケンシングにより原因遺伝子変異の同定を行なった.
[臨床的特徴] 優性遺伝形式を示す,発症年齢が13歳から56歳で緩徐進行性の小脳失調症の二家系(家系Aお よびB,合計発症者9名・非発症者2名)において,発症者は全員歩行失調を主徴として,神経学的診察で多くの 発症者で上下方向でより顕著な眼球運動制限や水平方向注視眼振・小脳性構音障害,四肢体幹失調,錐体路徴 候のほか,膀胱障害(頻尿)・便秘を認めた.脳MRIでは施行した6人全員で小脳と橋萎縮,さらには多系統萎 縮症(MSA)に特徴的とされる十字サイン又は橋正中線状高信号いずれかが見られた.
[分子遺伝学的解析] 当初より注目していた家系Aを対象に連鎖解析(アフィメトリクスSNP6.0アレイ,SNP HiTLinkを用いた)を行い,次にエクソームシーケンス(HiSeq2000)を家系Aの3名で行なった.同定した非同 義置換のバリアントのうち,連鎖候補領域に存在し,かつ公共データベースや日本人in-houseコントロールデー タベースに存在しないものを選択し,唯一ELOVL4遺伝子のヘテロ接合性の新規変異c.736T>G, p.W246Gの みが変異候補として残った.又,類似する臨床的・画像的特徴を有する別の家系Bに注目し,発症者2名で ELOVL4の全コーディング領域を確認したところ全く同じ変異が同定された.さらにSNPを利用して二家系 のELOVL4遺伝子の周囲のhaplotypeを推定すると,共通祖先を有さない可能性が高いと考えられた.
[考察] 最近同じ遺伝子のアレル変異(p.L168F)をもつフランス-カナダの小脳失調症および変異性紅斑角皮症 を有する家系(SCA34)が報告されている.これまでSCA34の特徴とされていた変異性紅斑角皮症については 我々の二家系では発症者9人全員でこれまで認めていない点,そして我々の二家系では頭部MRIにおいてMSA に類似した十字サイン又は橋正中線状高信号を,MRIを施行した6人全員で認め興味深いと同時に臨床的に注 意が必要である.ELOVL4は,脂肪酸伸長反応を行なう7つのelongases(ELOVL1-7)遺伝子の1つであり,別 のelongaseであるELOVL5が最近SCA38の原因遺伝子として欧州から報告されている点も併せると,これら の脂肪酸伸長酵素の異常はSCAを生じる共通の分子的基盤を有していると考えられる.
《略歴》2005年 東京医科歯科大学医学部医学科卒業
2007年 東京医科歯科大学医学部附属病院臨床研修プログラム修了 2007年 土浦協同病院神経内科
2008年 東京医科歯科大学医学部附属病院神経内科医員 2009年 横須賀共済病院神経内科
2011年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程入学 2015年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程卒業 2015年4月 東京医科歯科大学大学院脳神経病態学分野助教 現在に至る
ホットトピックス HT-11:どこまで近づいたか,脊髄小脳変性症の治療法 開発
5月20日(金) 8:00~10:00 第7会場(ポートピアホテル本館B1F 偕楽1)
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トト ピッ クス
HT-11-2
SCA6病態におけるミクログリア炎症性 応答
東京医科歯科大学 脳統合機能研究センター
○渡瀬 啓
(目的)ミクログリアは脳内微小環境の変化により活性化し,神経障 害的あるいは保護的な役割をはたすことから,その活性化を適切に制 御することにより神経変性疾患の病態を修飾しうる可能性があるが,
詳細は明らかでない.
脊髄小脳変性症6型(SCA6)はP/Q型電位依存性カルシウムチャネル 遺伝子内に存在するCAGリピートの異常伸長による神経変性疾患で,
本邦に患者が多く,病理学的には小脳プルキンエ細胞の選択的変性が 特徴的である.我々はこれまでSCA6ノックイン(KI)マウスモデル (Sca684Q, Sca6-MPI118Q)の作製と解析から,SCA6変異は直接的には基 本的チャネル機能には影響せず,gain of function の機構で運動失調を 発症させること等を示してきたが示してきた (Watase K, et al, PNAS, 2008, Unno T, et al, PNAS, 2012など).今回,SCA6の発症早期の分子病 態を解明する目的で,Sca6 KIマウス小脳における遺伝子発現異常を検 討し,ミクログリア活性化の意義を検討した.
(方法・結果)cDNAマイクロアレイ解析による発症早期Sca6-MPI118QKIマウス小脳の遺伝子発現パターンから.Sca6-MPI118QKIマ ウス小脳ではミクログリア活性化と関連する遺伝子群や,好炎症性サ イトカインであるTnf, Il-6の発現の亢進がプルキンエ細胞死に先立って 認められ,多くは経過とともに増強した.ミクログリア活性化マーカー の免疫組織学的解析の結果,Sca6-MPI118QKIマウス小脳ではM1様の 好炎症性のミクログリアの活性化が早期から認められた.ミクログリ アの活性化に関与するToll-like receptors(TLRs)の発現を検討したと ころSca6-MPI118QKIマウス小脳ではTlr2及びTlr7の発現が更新してい た.同様の神経炎症性応答は発症早期のSca684Qマウス小脳でも認めら れた.Tlrシグナルの細胞内への伝達に関わる主要なアダプター分子 MyD88の発現をノックアウトしたSca6-MPI118QKIマウスではミクロ グリアの活性化マーカーの発現パターンが変化するとともに,プルキ ンエ細胞の変性が軽減し,協調運動障害が改善した.
(考察) Sca6 KIマウス小脳でみられるプルキンエ細胞変性の初期 病態において,TLRパスウェイを介したミクログリア活性化が病態の 進行に重要な役割を果たすことが示唆された.ミクログリア炎症性応 答の適切な制御によりSCA6の病態を改善できる可能性が高い.
《略歴》現職 東京医科歯科大学脳統合機能研究センター准教授.
(1987年大阪大学医学部卒業),医学博士.
1993年国立精神神経センター神経研究所流動研究員(和田圭司部長),
1998年ベイラー医科大学研究員 (Huda Y Zoghbi教授),2004年東京 医科歯科大学COE拠点形成特別研究員,2008年東京医科歯科大学特任 准教授(水澤英洋教授)を経て,同年より現職.専門は分子遺伝学.
ポリグルタミン病やパーキンソン病の病態解明・治療法開発やグリア 細胞の病態生理学的意義の解明に興味をもち,主に病態を比較的忠実 に再現するマウスモデルの開発と解析を通じて,SCA1やSCA6等の研 究を行なってきた.
HT-11-3
患者由来iPS細胞を活用した脊髄小脳変 性症の疾患モデル開発
国立研究開発法人理化学研究所 多細胞システ ム形成研究センター
○六車恵子
疾患特異的iPS細胞を活用した病態解析や治療法の開発が 盛んに進められている.患者由来のiPS細胞から疾患ごとの 標的細胞を作製し,病態をin vitroで再現する事によって,発 症機序の解明や治療標的を探索するという新たな研究戦略 である.この過程で必須となるiPS細胞から標的細胞への分 化誘導法には,高い誘導効率と安定した再現性が担保されて いることが基盤技術として求められる.
我々は,発生過程を忠実に模倣する事によって,ヒト ES/iPS細胞から小脳神経細胞への高効率な分化誘導法の開 発 に 成 功 し た(Muguruma et al., Cell Rep., 2015).ヒ ト ES/iPS細胞由来のPurkinje細胞は,大きな細胞体と高度に分 岐した樹状突起という特徴的な形態を示し,電気生理学的に もこの細胞に固有の神経活動パターンを有し,生体と同様の 形態と機能を持つことが示唆された.この誘導法は疾患特 異的iPS細胞に応用が可能であり,我々は既に脊髄小脳変性 症患者由来iPS細胞からPurkinje細胞への分化誘導に成功し ている.本講演では,ヒト多能性幹細胞から小脳神経への分 化誘導技術の概説と,疾患特異的iPS細胞由来のPurkinje細 胞を活用した疾患モデルの開発について,その取り組みをご 紹介させて頂く.
《略歴》京都薬科大学薬学部製薬化学科 卒業
1998年 学位取得(薬学博士)(大阪大学)
1992-1998年 財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 神経科学部門 1993年 科学技術振興事業団 国際共同研究プロジェクト(サブ
フェムトモルバイオ認識プロジェクト)
1999年 科学技術振興事業団 CREST研究員(脳の神経回路形 成と可塑性の分子機構)
2002年 大阪大学大学院・生命機能研究科・脳システム構築学 2003年 理化学研究所・発生・再生科学総合研究センター(CDB)研究員
専門職研究員
2015年 理化学研究所・多細胞システム形成研究センター(CDB) 専門職研究員
現在に至る
ホットトピックス HT-11:どこまで近づいたか,脊髄小脳変性症の治療法 開発
5月20日(金) 8:00~10:00 第7会場(ポートピアホテル本館B1F 偕楽1)
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