シン ポジ ウム
座長:
美馬達哉(立命館大学先端総合学術研究科) 花島律子(北里大学東病院 神経内科)
≪ねらい≫
昨今,神経のオシレーション現象が,神経ネットワーク全 体の活動を表すとして注目されており,単一ニューロン活動 から機能画像までオシレーション活動の分析が進んでいる.
神経疾患においても,オシレーション活動の異常が注目され ている.これまで解明されていない神経疾患の病態機序を,
オシレーション現象の異常という切り口から分析するとい うオシロロジーが我が国で提案された.これにより,新しい 切り口で病態機序の解釈が可能となり,オシレーション異常 を改善することにより治療法の開発にもつながると考えら れる.実際に,パーキンソン病やてんかんでは,オシレー ションの異常現象の解明がすすみ治療にも関係した現象と わかってきている.
本シンポジウムでは,オシロロジーという切り口からの パーキンソン病およびてんかんでの最新の病態生理の解明・
治療への応用の知見を提示し,今後の治療法の開発に役立て るものとする.
S-15-1
パーキンソン病の病態とオシロロジー
1福島県立医科大学神経内科学講座,2京都大学 こころの未来研究センター,3東北大学大学院
加齢医学研究所,4福島県立医科大学先端臨床研究センター
○小林俊輔1,浅野孝平2,阿部十也3,松田 希1, 久保 均4,宇川義一1
【目的】パーキンソン病 (PD) は黒質ドパミン細胞の変性によ り固縮,振戦,無動等の運動症状やアパシー,抑うつ,衝動制御 障害などの非運動症状が出現する神経変性疾患である.多彩な 臨床症状は基底核,視床,皮質を結ぶ神経回路がドパミン欠乏 による情報処理の障害によると推察されるがその病態には不明 な点が多い.我々は安静時機能的MRI (rs-fMRI)を用いてPD患 者の脳活動の同期性からPDの病態基盤をネットワークレベル で評価した.【方法】臨床的に確定診断されたPD患者 (n=27) および健常対照群 (n=27) を対象としてシーメンス社製3T MRIを用いてrs-fMRIを撮像した.L-DOPA投与後45分 (on) お よび非投与時 (off) における開眼安静状態でのrs-fMRIを撮像 し た (GRE-EPI TR = 3000ms, TE = 30ms, Voxel size = 3 × 3 × 3mm3,スライス数=50枚,撮像時間=9分). 画像データはSPM で 位 置 ず れ 補 正,標 準 化 等 の 前 処 理 を 行 っ た 後 に FSL MELODICで独立成分分析を行いノイズを除去した.98の関心 領域 (ROI) を設定し,onおよびoff時の脳活動の時系列データ について2つのROI間の相関係数を機能的結合の指標とした.
また,BOLD信号遷移周期に注目し相対的に高周波と低周波の 帯域別に機能的結合を評価した.【結果】健常群ではL-DOPA投 与により機能的結合が増強するのに対してPD群ではネット ワーク機能のL-DOPAに対する反応性が低下していた.健常群 ではBOLD信号の遷移周期はL-DOPA投与により低周波帯 (<
0.04Hz) にシフトしており,L-DOPAによる機能的結合の増強 は低周波成分の寄与によるものであった.一方,PD群ではL-DOPA投与によりBOLDの時間周波数はほとんど変化せず,ど の周波数帯においてもネットワークのL-DOPA反応性は低下し ていた.【結論】PDでは皮質・基底核を含む広範な領域で情報 伝達効率が低下しており,このようなネットワーク機能不全が 多彩な臨床症状の基盤となっている可能性がある.また本研究 の結果はrs-fMRIが神経疾患の病態生理をネットワークレベル でとらえるのに有用であり,治療効果の評価に応用できる可能 性を示唆する.
《略歴》平成 5 年 東京大学医学部卒業 平成 8 年 東京大学医学部神経内科入局 平成14年~17年 玉川大学脳科学研究施設 研究員 平成17年~22年 ケンブリッジ大学 研究員 平成22年より 現職
シンポジウム S-15:オシロロジーからみた神経疾患の病態と治療
5月20日(金) 13:15~14:55 第14会場(神戸国際会議場5F Room 501 )
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S-15-2
ネットワーク異常としてパーキンソン病 を考える
1自然科学研究機構生理学研究所統合生理研究
系生体システム研究部門,2総合研究大学院大学生理科学専攻
○南部 篤1,2
神経・精神疾患は,何らかの物質的な原因,例えば遺伝的・
環境的原因があり,その結果,引き起こされるが,原因と症 状との間には,神経ネットワークの異常による神経活動の変 化が想定される.異常神経活動が閾値を超えると,正常な機 能を維持できなくなり症状として現れる.したがって,この ようなネットワーク病態に介入し,神経活動を正常化あるい は変化させることにより,症状を軽減できる可能性がある.
例えばパーキンソン病を考えてみると,一部遺伝性である が多くは原因不明の孤発性疾患で,黒質緻密部のドーパミン 作動性ニューロンが変性・脱落し,脳内のドーパミンが減少 することにより,無動,振戦,筋強剛などを来す.治療法と しては,不足したドーパミンを補充する薬物療法以外に,定 位脳手術による淡蒼球内節・視床の凝固術や,視床下核に高 頻度連続刺激を加える脳深部刺激療法(DBS)が有効である.
すなわち,ドーパミン作動性ニューロンの変性を防ぐなどの 原因療法ができなくても,ネットワーク病態に介入すること により,症状を軽減することが可能である.
このような治療法を可能にするには,正常な大脳基底核 ネットワークの機能と,疾患時のネットワーク病態を理解す る必要がある.私たちは,これまでパーキンソン病モデル霊 長類,ジストニアモデルげっ歯類などの大脳基底核から神経 活動を記録することにより,運動異常症の病態生理を調べて きた.その結果,大脳基底核の出力核である淡蒼球内節の平 均発射頻度の増減ではなく,直接路・間接路・ハイパー直接 路を介する大脳基底核の動的な活動変化が,より本質的な病 態であること,また,DBSの作用メカニズムとして,単に局 所のニューロンの興奮あるいは抑制ではなく,刺激部位を介 する神経情報の伝達ブロックが考えられることなどがわ かってきた.本シンポジウムでは,ネットワーク病態という 視点から,大脳基底核疾患の病態や治療法について考察して みたい.
《略歴》1982年京都大学医学部卒,医学博士.1985年京都大学医学部助手,
1989年米国ニューヨーク大学医学部博士研究員,1991年生理学研究所 助教授,1995年東京都神経科学総合研究所副参事研究員,2002年生理 学研究所教授.
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成人てんかんとオシロロジー
京都大学医学研究科 てんかん・運動異常生理 学講座
○池田昭夫
新学術領域研究「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」(オシ ロロジー)で,発振oscillationにologyをつけたoscillologyが導入された.本領域は,神 経細胞の非線形な発振現象から,ヒトの人たる所以,神経・精神疾患の病態を理解し,
治療法にもつなげようと考える研究領域である.遺伝子の最小情報単位がヌクレオチ ドあるいはトリプレットであるように,神経細胞,神経細胞群,そのネットワークを形 成した領野,脳葉,個体脳までの様々なレベルでの機能発現の基盤は,周波数で規定さ れる発振現象からなる.
1)てんかん発作の定義:大脳皮質の神経細胞が,異常に過剰および突発的に興奮し て発現する病態である.焦点起始では,少数の神経細胞群の集団の突発過剰興奮にす ぎなく,その興奮性が増強され,活動が隣接さらに遠隔領域に波及し,その結果,症状 がダイナミックに進展増強変容する発作を引き起こし,ネットワーク病とも称される.
2)小児では全般てんかんが主体である一方,成人てんかんでは,焦点が病態の主体 となる.成人てんかんでのoscillationは,病態と正常機能で重要な情報をもたらすが,
その例として焦点解析を示す.1929年以降の臨床脳波は1-70Hz帯域の脳波分析から始 まり,1990年からのデジタル脳波時代,2000年代からのwide-band EEG時代へと発展 してきた.現在は,DC電位やinfraslow(1Hz未満)の超低周波帯域から,数百Hzの超 高周波帯域まで,臨床レベルで記録可能となり,細胞レベルの活動電位も一部反映さ れる.これにより,臨床と基礎のてんかん生理学で同時にパラダイムシフトが現在進 んでいる.
2-1)てんかん活動の指標の変革:従来の脳波の「棘波,鋭波」から,150Hz, 300Hz帯 域の高周波律動(HFO)がより特異的に焦点を反映することが基礎と臨床で示唆され た.またDC電位やinfraslowは発作開始時に神経細胞群の過剰興奮状態に先行するこ とが示されてきた.
2-2)グリアの積極的関与:神経細胞だけてんかんの原因でなく,アストロサイトのK やCL緩衝機構,自発的能動的律動機構,神経細胞間のシナプス間隙とそれを取り巻く アストロサイトのtripartite synapses機構が示され,またDC電位やinfraslowがアスト ロサイトのfunctional syncytiumを反映する.
低周波数と高周波数の両極端の一見無関係なoscillationは病態レベルで密接に関連 し,発作発現にはグリアと神経細胞の両者の相互作用が示唆される.
《略歴》京都大学医学研究科 てんかん・運動異常生理学講座 教授 1985年 3 月 佐賀医科大学医学部卒業
1993年11月 医学博士(京都大学)
1985年 6 月 佐賀医科大学医学部附属病院研修医(内科)
1988年 6 月 佐賀医科大学附属病院医員(内科/神経筋部門)
1989年 7 月 米国オハイオ州クリーブランドクリニック財団病院
(神経内科/てんかん・臨床神経生理学部門)
1991年 9 月 京都大学医学部 脳病態生理学講座 助手 2000年 3 月 京都大学医学研究科 臨床神経学 助手に転籍 2001年 4 月 同上 講師
2007年 6 月 同上 准教授
2013年 8 月 京都大学医学研究科 てんかん・運動異常生理学講座 教授,現在に 学会役職:日本てんかん学会副理事長,評議員,国際担当委員会(委員長)他.日至る 本臨床神経生理学会評議員,脳波セミナーアドバンスコース委員会(委員長)他.
日本神経学会評議員,診療向上委員会他.
編集:Epilepia:associate editor, Neurology and Clinical Neuroscience:associate editor,臨床神経生理学:副編集長.編集委員: Epilepsy & Seizure, International Journal of Epilepsy,臨床神経学他.
シンポジウム S-15:オシロロジーからみた神経疾患の病態と治療
5月20日(金) 13:15~14:55 第14会場(神戸国際会議場5F Room 501 )
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