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英語を学校教授言語とする児童の日本語の漢字認識

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 113-117)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.2 英語を学校教授言語とする児童の日本語の漢字認識

本研究では、継承日本語児童の中国語から日本語への言語間転移が、漢字圏でどのように 共通するか、どのように異なるのかを探究するために、北京・台北・香港を漢字圏を代表す る都市として比較分析の対象とした。その基本的な前提条件は、現地校で中国語を先行学習 することである。

北京や台北では大半の継承日本語児童が現地校に通っており、少数児童が日本人学校に 在籍するという状況であった。しかしながら、香港では大きく事情が異なり、現地校の中で も英文校あり国際校あり、中国語をネイティブレベルで教えるクラスあり外国語として教 えるクラスあり、また外国系国際学校には選択科目として日本語を「国語」として教える学 校もあるという、非常に複雑で多様な状況である。同じ漢字圏でありながら、香港では英語 を学校教授言語とする児童は決して例外的な存在ではなく、それは香港の広東語・英語・中 国語が鼎立した多言語状況を反映しているのである。

5.2.1 香港の英語を学校教授言語とする児童のデータ比較

本節では英文校・国際校児童について取り上げ、学校で学ぶ中国語の知識がどの程度日本 語の漢字に影響しているのか、或いは影響していないのかを分析する。具体的には、香港の 英語を学校教授言語とする英文校・国際校の児童13名を、週単位の中国語授業数をもとに、

週5時間以上、すなわち毎日中国語の授業がある現地英文校・現地国際校・外国系国際校の 外国系(A)とし、外国系国際校の週1時間の中国語授業しかない外国系(B)の4グルー プに分けて、小学一年生後期修了時調査の結果を分析する。現地英文校3名、現地国際校3 名、外国系国際校(A)2名、外国系国際校(B)5名の結果を次頁の表5.5に示す。同じ学 校区分の中でも中国語ネイティブクラスやノンネイティブクラスという授業レベルの違い があるが、授業レベルを分ける客観的な基準がないため分類はしないが、表5.5の注に明記 した。

表5.5で比較に使った語彙は、日本の小学二年生の学年配当漢字である「家」「星」、四年 生の「笑いました」の他は、一年生で学習する漢字である。日本の学年では、H1-13, 14, 15,

17, 18が調査時小学一年生一学期、それ以外は二年生一学期に相当し、週末の日本語の学習

もその学年に合わせていることを考慮する必要がある。したがって、分析の焦点はまず、日 本の二年生以上で学習する漢字をどのように認識するかである。

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表5.5 香港の国際学校児童の漢字読み比較注(1)

現地英文校注(2) 現地国際校注(3) 外国系国際校(A)注(4) 外国系国際校(B)注(5) H1-5:て○

1-10:て○

1-13:て○

H1-3:て○

H1-14:“手”、て○

H1-18:て○

H1-12:て○

H1-15:て○

H1-4:これ読めれない×

H1-6:分からない×

H1-7:ま(平仮名から)×

H1-11:日本語で習った○

H1-17:公文で習った○

今日 H1-5:きょう○

H1-10:きょう○

H1-13:きょ に ち

→「『きょにち』

かな?」注(6)→き ょう?◎

H1-3:きょう○

H1-14:分からない(「今」

に注目させる)‟今日‟→

きょう◎

H1-18:きょう○

H1-12:きょう○

H1-15:分からない×

H1-4:分からない×

H1-6:分からない×

H1-7:分からない×

H1-11:コ レ 読 め な い ん だ けど×

H1-17:コレ(「日」)は覚え てるけど、コレ(「今」)は 忘れた。(カード全文読ん で)→きょう◎

行く H1-5:いく○

H1-10:いく○

H1-13:いく○

H1-3:(0.5秒)いく○

H1-14:いく○

H1-18:いく?○

H1-12:いく○

H1-15:いく○

H1-4:いく○

H1-6:いった?△

H1-7:「あそびに・・」→い く◎

H1-11:いく○

H1-17:いく H1-5:あめ○

H1-10:あめ○

H1-13:あめ○

H1-3:あめ○

H1-14:あめ○

H1-18:あめ○

H1-12:あめ○

H1-15:あめ○

H1-4:みず×

H1-6:「点々がついてるね、

な にが ふっ たら いや だ な あ」→あめ◎

H1-7:「なにがふったらい やだなあ」→あめ◎

H1-11:あめ○

H1-17:あめ○

H1-5:いえ H1-10:(考える)

familyは分かる けど。いえ?○

H1-13:いえ○

H1-3:いえ○

H1-14:‟家‟、おうち?△

H1-18:‟家‟、かぞく、み んな×

H1-12:おうち△

H1-15:分 か ら な い

(中国語では既習)

×

H1-4:分からない×

H1-6:分からない×

H1-7:分からない×

H1-11:(日本語で)まだ習 ってない×

H1-17:忘れちゃった×

107 笑い

まし

H1-5:わ ら い ま した○

H1-10:くれ い ま した×

H1-13:わら い ま した○

H1-3:わらいました○

H1-14:‟笑‟、laugh、(日 本語では)分からない×

H1-18:いいました×

H1-12:分からない、

この字見たことない

×

H1-15:分からない、

習ってない×

H1-4:分からない×

H1-6:分からない×

H1-7:分からない×

H1-11:(日本語で)まだ習 ってない×

H1-17:見 た こ と あ る け ど 知らない×

一人 H1-5:ひとり○

H1-10:ひとり○

H1-13:ひとり○

H1-3:ひとり○

H1-14:いっこ×

H1-18:ひとり○

H1-12:ひとり○

H1-15:いちにん△

H1-4:い・・ひとつ×

H1-6:い・・いちばん×

H1-7:いちおおきい、いち だい、いちひと△

H1-11:ひとり○

H1-17:いちにん△

H1-5:ほし○

H1-10:ほし○

H1-13:ほし○

H1-3:ほし○

H1-14:‟星星 ‟は分かる けど、(日本語では)分 かんない。「あんまり見 ないんだね、空を」→ほ し(思い出した)◎

H1-18:‟星星‟、え~なん だっけ?ながれぼし、ほ し○

H1-12:分からない×

H1-15:日本語でまだ 習ってない。「英語で は?」→star×

H1-4:分からない「空、きら きら」→ほし◎

H1-6:分からない

H1-7:分からない「空、きら きら」→ほし◎

H1-11:くも、あめ、おひさ ま・・きらきら、何がきら きら?ほし!○

H1-17:(3秒)ほし○

注(1) 正答は○、準正答は△、スキャフォールディングによる正答は◎、不正答は×で示した。

注(2) H1-5, 10はノンネイティブクラス、H1-13はネイティブクラスに所属する。

注(3) H1-14はネイティブクラス、H1-18はノンネイティブに属し、H1-3の学校では1年生は区別しない。

注(4) H1-12, 15ともにネイティブクラスに在籍する。

注(5) H1-11は一年生の3月まで日本語選択のある国際校に在籍した。現時点では全員日本語は学校で教 授されない学校に在籍している。

注(6) 表中の鍵括弧は、筆者のスキャフォールディングである。

前章で北京在住児童グループ分けに使用した尺度を用いて13名の得点を見ると、A群に は現地英文校児童H1-13、B群には得点が高い順に現地国際校児童H1-3、現地英文校児童 H1-5、外国系国際校(A)児童H1-12が入る。C群は現地英文校児童H1-10と現地国際校

児童H1-18の2名である。また前章の準正答分析と同様に、現地国際校や外国系国際校(A)

の児童が「家」を「おうち」と読むのは、中国語の漢字の意味概念を利用して読んでいると 判断できる。一方、外国系国際校(B)の児童は漢字を認識できない。「星」は、現地英文校

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の児童が全員正答したのに対し、現地国際校や外国系国際校(A)では、漢字の意味を理解 しても日本語の語彙検索でつまずいている。他方、外国系国際校(B)では、漢字を認識で きないため、文脈ヒントから答えを導き出しているが、H1-17が一人正答している。四年生 配当漢字である「笑いました」は、現地英文校のH1-5, H1-13と現地国際校のH1-3, H1-14 の4人が漢字を認識している。また、一年生学年配当の漢字について、外国系国際校(B) の 児童は多様な漢字認識を示している。

以上の分析結果から、次に考察を行う。

5.2.2 考察

外国系国際校(A)と(B)の児童は全員幼稚園から英語を教授言語とする教育機関を経 ている。一方、現地校児童では、現地英文校 3 名のうち H1-5 が英語の幼稚園に通った外

は、児童H1-10とH1-13、さらに現地国際校3名も全員広東語の幼稚園に通い、小学校で

現地国際校へ入学したことは共通している。しかし家庭の言語背景はそれぞれ異なる。英文

校の児童 H1-5 とH1-10 は両親ともに日本語母語話者、児童H1-3 は父親が広東語母語話

者、母親が日本語母語話者の国際結婚家庭であるが、家庭では日本語使用をしている。現地 国際校児童では、H1-3は両親が日本語と英語を母語とする国際結婚家庭で、両親は子供に 対してそれぞれ言語の使い分けをし、妹との間では日本語、英語、広東語をその時の気分で 話すようなトランスナショナルな家庭である。児童H1-14も日本語と英語の国際結婚家庭 であり、英語と広東語を話す家政婦がいて、英語、広東語、中国語、日本語(母親が判断す る言語の優勢順)で使い分けができる。児童H1-18は日本人家庭であるが、英語を話す家 政婦がいる。この6名のうち、H1-14とH1-18が週末の日本語補習校に通っている。

漢字読み調査の結果、この 6 名の漢字認識には中国語が介在していることが明らかにな った。現地英文校の3名に関して、H1-5 とH1-10 は中国語の授業は外国人クラスである が、H1-5は公文で中国語の勉強をしているため、H1-10より漢字知識が豊富であるように 思われる。H1-10が「笑」を認識できなかった以外は、全員中国語の漢字から日本語の漢字 の読みを引き出した。H1-5は「中国語の意味を日本語で言った」と語り、H1-13もまず中 国語の漢字として認識したことを述べた。現地英文校児童 3 名の共通点は家庭のウチと外 で日本語と広東語、学校で英語と授業科目の中国語というふうに使い分けがはっきりして いることであり、家庭内で複数言語が使用されている現地国際校児童とは異なる特徴であ る。現地国際校児童H1-14とH1-18は中国語と日本語の漢字学習が同時並行でなされてい るが、漢字に関しては日本語より中国語の方が知識量が多いため、「星」の例に見られるよ うに、配当学年以上の漢字の読みの助けになっている。H1-14 は言語優勢順で分かるよう に、日本語の語彙不足である。H1-3の家庭では、読み書きもトランスナショナルな実践を 行っており、母親は「中国語の教科書に書いてある事を日本語で息子に話してもらったりし ています。漢字の書き取りの宿題の時は、『同じ漢字でも日本語だったら』の読み方、書き 方を教えています」とアンケートに回答している。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 113-117)