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正答が多い語彙と正答が少ない語彙

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 126-129)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.4 北京・台北・香港の出題漢字に関する比較

5.4.1 分析

5.4.1.1 正答が多い語彙と正答が少ない語彙

小学一年生前期修了時、後期修了時調査結果について、北京・台北・香港それぞれの正答

る。

72 3.5.2を参照、香港3へのインタビューによる。

73 正答数別語彙リストは、小学一年生前期修了時は附表5.1、後期修了時は附表5.2を参照のこと。

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数ランキングの上位下位語彙リストを以下の表5.9、表5.10に掲げる。

小学一年生前期修了時では、共通して正答が多い語彙は「手」「山」「水」の3語である。

いずれも日本の小学一年生学年配当漢字であり、且つ漢字圏でも漢字の成り立ちを学ぶ初 期に出現する単漢字である。具体性が強く、児童にとって日本語でも中国語でも非常に分か りやすい漢字である。

表5.10 小学一年生前期修了時調査の北京・台北・香港別正答数ランキング上位下位(1)

北京 台北 香港 共通語彙

正答が比較 的多い

二ひき、山、水、手、

下、目、人、上、魚、

来て

(上位10)

手、山、水、人、月、上、

下、風、白、日(よう日)、

(日)よう日

(上位11)

手、山、水、鳥、白、

二ひき、(入り)口

(上位7)

手、山、水、

(3語)

正答が最少 入り(口)、小鳥 小鳥 小鳥 小鳥(1語)

正答が比較 的少ない

日(よう日)、

(日)よう日、中、

鳥、飛び (下位7)

中、来て、飛び、小さな、

入り(口)

(下位6)

天、風、来て、一人、

入り(口)

(下位6)

入り(口)

(1語)

注(1) 「書く」漢字として、台北では「飛」未習、香港では「風」未習とのことである。しかし、教科書本 文には出現しているため、漢字の意味の理解には支障がないと判断した。

正答数が最も少なかった「小鳥」は、北京・台北・香港とも同じように、日中で形態的に 同一な語彙であることから、意味は分かっていても「ことり」という日本語の語彙を引き出 せなかったことによる。「小鳥」の次に、正答数が比較的少ない共通語彙は「入り(口)」で ある。これも3都市とも同じ傾向が見られる。まず「入り」の読み方を「はいり」や「いれ り」という読み間違いがあり、「入」の字の意味は分かっているが、「入り口」という語彙と して認識していないことである。次に、似た字の「人」と取り違えて「ひと」と読む児童も 共通して見られた。そして、「小鳥」と同様、「いりぐち」という語彙が定着していないこと も正答数が少ない原因である。

北京・台北・香港の児童の正答数で大きく異なる傾向を見せた語彙は、「来て」「鳥」「日 よう日」の3語である。

「来て」は、北京で正答数が10名中7名であるのに対し、台北では7名中3名、香港は 4名中1名である。これは、「来」が中国語の簡体字とは同形であるのに対し、台北・香港 で使用されている繁体字(”來”)では形態が少し異なることが、児童に同じ字種の漢字であ るという認識を難しくさせたと思われる。

「鳥」は逆に、北京の簡体字(”鸟”)は日本の漢字と字形を大きく異にし、台北・香港の 繁体字は同形である。その結果、香港では全員正答、台北でも7名中6名であるのに対し、

北京では10名中4名の正答であった。

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「日よう日」については、台北で全員正答したのに対し、香港では半数の2名、北京では 10名中3名の正答であった。「日よう日」は一つの語彙の中で「日」を「にち」「び」と読 み分ける難しさがあるが、これは簡体字と繁体字という字体の相異とは無関係であり、台北 と香港・北京の児童の読みで何故このような差が出たのかは、現データでは明らかではない。

推測でしかないが、台北の調査協力児童の大半が、「こくご」教科書を中心に学習する週末 の授業校に通っていることから、教科書の単元で取り扱われた学習効果であることが考え られる。

以下の表5.11は、小学一年生後期修了時調査結果の正答数ランキングである。

表5.11 小学一年生後期修了時調査の北京・台北・香港別正答数ランキング上位下位

北京 台北 香港 共通語彙

正答が比較 的多い

手、笑いました、三人、

雨、今日、星、行く、

女の子、一ばん、

男の子

(上位10)

手、雨、星、見る、行く、

笑いました、一ばん、二 人、三人、女の子、

男の子

(上位11)

雨、女の子、手、

見る、行く、車、

出る、一かいてん、

三人、今日

(上位10)

手、雨、行く、

三人、女の子

(5語)

正答が最少 出発 なし

正答が比較 的少ない

間、別、雲、時、

飛ばして、心、同じ、

車、明るく、一日

(下位11)

家、間、同じ、時、出発、

別、明るく

(下位8)

心、別、明るく、

吹き、同じ、

出発、家

(下位8)

心、間、別、

明るく、同じ、

出発

(6語)

小学一年生後期修了時では、共通して正答が多い語彙は前期でも出題した「手」の他に、

「雨」「行く」「三人」「女の子」の5語である。いずれも日本の小学一年生学年配当漢字で あり、具体性が強く、児童にとって日本語でも中国語でも非常に分かりやすい漢字である。

正答数が最も少ない語彙は、3都市でそれぞれ「出発」「心」「間」と分かれたが、どれも 正答数が比較的少ない語彙の中に含まれるものである。「心」と「間」は二年生学年配当漢 字、「出発」は二年生と三年生の配当漢字である。「出発」と「間」は、前章第2節2.4.2で 既に分析を行っているが、「出発」に関しては、後の異体字についての 5.4.1.2 で取り上げ る。「心」は手書きと教科書の規範的な字形との差異があり、児童が筆者手書きの「心」を 認識しにくい状況が散見されたが、日本人学校児童にはそれが見られなかった。「心」を既 習の漢字だと認識した後も、訓読みの「こころ」を導き出せなかったのは、抽象的な語彙で あるからであろう。

北京・台北・香港の児童に共通して正答数が少ない語彙は、その他に「時」「別」「明るく」

「同じ」が挙げられる。「別」は同じく前章第2節2.4.2で、「時」と「明るく」「同じ」は前

章第2節2.4.5の語彙種類別傾向で分析を行った。

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では、北京・台北・香港の児童間で正答の多少に異なる傾向を見せている語彙は何かとい うと、簡体字と字形を大きく異にし、且つ繁体字と字形が同じである「雲」「車」が北京と 台北・香港間で正答数の開きが大きい。ほぼ同形と言える「笑いました」は北京・台北でほ ぼ全正解に近いのに対し、香港では半数の正答しか得られていない。しかし、その内訳を見 ると、正答したのは現地校・現地英文校児童9名中6名、国際校では6名中1名のみであ る。

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