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スキャフォールディングに関する考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 103-106)

第4章 北京在住年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

4.4 スキャフォールディング

4.4.3 スキャフォールディングに関する考察

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の同定ヒントの方は成功率が上がっている。③の中国語の漢字の確認はスキャフォールデ ィング数も多く成功数も多い。④の漢字の意味への注目・日本語への翻訳に対する成功率は 前期が36%に対し後期が44%となり、成功率は向上している。

図4.6 小一後期終了時調査タイプ別スキャフォールディング数と成功数及び成功率

以上の分析結果を踏まえて、次に考察を行う。

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漢字の意味に注目させたり、日本語への翻訳を促す必要があるということは、出題漢字を中 国語の漢字と同定した段階で、日本語として何と読むかというタスクで躊躇している場合 に使われる。したがって、④が増加したということは、漢字を同根語として認知できたが、

その次の一歩に少し困難を感じていることを示している。小学一年生後期終了時調査にお いて、④が使用された出題漢字で多いものは、「天気」「風」「雲」「吹き」「友だち」「同じ」

が挙げられる。「天気」「風」「雲」は簡体字とは異体字であり、「吹き」「友だち」は仮名交 じり語である。異体字である漢字を中国語の漢字と同定した後、中国語の漢字が意味するも のと異体字の日本語の漢字の読みが一致するかどうか自信が持てないか、或いは同定した 中国語の漢字の意味に相当する日本語の語彙を知らない或いは思い出せないというケース であると思われる。前者の場合はスキャフォールディングの成功を導き、「天気」では実施 した児童 6名のうち5名、「風」は5名中3名、「雲」は4名中2名が正答を出した。「吹 き」も「友だち」も、その前の段階のスキャフォールディングで、漢字の部分「吹」「友」

に注目させるスキャフォールディングを行っている。B1-16の例を以下に挙げる。

B1-17: (考える)

筆者: 意味分かる?〈中国語の漢字の確認〉

B1-17: “pengyou”(朋友)の“you”(友)。

筆者: “pengyou”(朋友)って日本語で何ていうの?〈日本語への翻訳〉

B1-17: ともだち。

次に、日本語スキャフォールディングの②において、前期では少なかった語彙ヒントと共 起関係ヒントが増え、文脈ヒントと同程度の頻度となっている一方で、スキャフォールディ ングの成功率は語彙ヒント、共起関係ヒント、文脈ヒントの順で下がり、前期の結果と同様 に文脈ヒントのスキャフォールディングは成功率が低いことを示した。語彙ヒントは主と して名詞に使われることが多く、後期出題漢字の中で最も頻度が高かったのは「車」である。

簡体字の“车”と日本語の「車」の字体差が大きく、日本語や繁体字の知識がある児童以外は 認識が困難であり、タスクの文脈からも「車」の同定ができない場合と、日本語の漢字知識 があっても「車」の訓読みが導き出せない場合の二通りある。後者は最初の読みで「電車」

や「自てん車」から「しゃ」と読むことが多い。この場合、カードのお話を読む際、文脈よ り漢字に注目するために生じる間違いと言える。児童には、「パパが運転するものは何?」

という文脈の中に埋め込まれている語彙ヒントが非常に有効であり、7名中5名が正答を出 した。共起関係ヒントは、語彙ヒントが適当でなく共起関係を強調することで適当な語彙が 引き出せる可能性が高い場合に用いる。例えば、「早く」は「あさ早く」という共起関係で、

「吹き」は「風」と、「飛ばして」は「風」と「雲」との関係を強調する。これらの共起関 係ヒントは、広い意味では文脈ヒントであるが、音声言語でも共起して表れる語彙であり、

文脈に比べるとヒントから選択肢に選ばれる範囲が限られるため、成功率も文脈ヒントよ

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り多少高くなると思われる。その結果、文脈ヒントは他のヒントや助けが難しい際に用いら れ、出題漢字の難度が高いことから、成功率は自ずと低くなると見られる。共起関係ヒント と文脈ヒントも語彙ヒントと同様に、漢字の同定が困難な場合と、漢字が同定されても意味 が抽象的或いは多義的である場合、そして中国語の漢字の意味から日本語の語彙を思いつ かない場合の 3つの場合が想定される。この 3つはそれぞれ独立した3通りではなく、複 合的な背景となる場合が多く、以下の「雲」の例からもその複合性が示される。

B1-9: ゆき。

筆者:「ゆき」かな?〈暗示的フィードバック〉

B1-9: 知らない、この字。

筆者: 外を見たら曇り空なんだよ。〈文脈ヒント〉

B1-9: あめ?

筆者:(「雲」の雨冠を隠す)〈漢字の同定ヒント〉

B1-9: “yun”(“云”=雲)?

筆者: だから?〈日本語への翻訳〉

B1-9: そら。

そして、③の中国語スキャフォールディングにおいては、前期と後期では出題漢字の変化 の影響を受け実施数が増えている。③に属するタイプである中国語の漢字の確認と同定ヒ ントの 2 タイプは線引きが難しいが、中国語の漢字の確認の方が軽い助け、同定ヒントの 方が手厚い助けと分けられる。例えば、「雲」の雨冠を隠して示すのは「提示」という方法 を採っているので手厚い助けであり、「同定ヒント」である。それに対し、「中国語で似た漢 字を知ってる?」と尋ねるのは「中国語の漢字の確認」となる。後期修了時調査では「雲」

に代表されるように提示により同定しやすい漢字があったことが同定ヒントの成功率を上 げる一因となったと考えられる。

もう一つ検討すべきは、前期調査と後期調査の両方に協力した児童が少なからずいるこ とが影響している可能性である。両調査の間は 2 ヶ月と短く、その間の認知の発達の変化 や日本語の漢字学習効果は考えにくいが、前期修了時調査のスキャフォールディング効果 があったという可能性は否定できない。中国語の漢字と日本語の漢字は形が同じものや似 たものがあるということを前期修了時のタスクで児童が学んだのであれば、③の中国語の 確認や同定ヒントの実施数が下がるか成功率が上がっても不思議ではない。しかしながら、

個別の協力児童の結果からはそのような変化はほとんど見られなかった。スキャフォール ディングの本来の機能を考えると、児童の発達に適したスキャフォールディングではなか ったということであろう。

Cumminsは、バイリンガル児童の二言語を育成するためには、「言語に注目し、L1の知

識をL2に関連づけるように仕向け、サポートするシステムを創るべき」(Cummins, 2008:

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72)と主張する。子どもの認知の発達や個々の能力や特性に合わせた言語間転移に効果的な サポートシステム、すなわち個々の子どもに適したL1の知識をL2に関連づけるようなス キャフォールディングのシステムがあれば、言語間転移が促進され、効果的に二言語を育成 できるはずである。漢字圏年少継承日本語話者が日本語のインタラクションを行うトラン スナショナル空間にそのようなスキャフォールディングのシステムを創るとしたら、どの ような空間なのであろうか。

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