第7章 総合考察
7.2 トランスナショナル空間と継承日本語教育
7.2.5 トランスナショナル空間の「越境」から捉える日本語の継承
北京在住の日本人母親を持つ日中国際結婚家庭の日本語の継承は、家庭の教育方針、日本 語習得到達目標、こどもの言語状況、志向や将来展望と、どれをとっても一様ではない。し かし、「越境」という視点から捉えると、そのトランスナショナル空間は図7.2の概念図と して表すことができる。
概念図では、継承日本語教育の過程において繰り返される「越境」を5つのトランスナシ ョナル空間に分けて示したが、それぞれの空間での「越境」が単独で存在しているのではな く、相互作用によって有機的に繋がっていることを矢印で強調している。矢印の太さはその 関係の強さを示す。それぞれの「越境」が相乗効果を持つことによって、言語資源が乏しい 環境の中でもその効果を大きく発揮するものと考えられる。こうした「越境」するトランス ナショナル空間の有機的な繋がりをアレンジすることが、より効率的な継承語の習得につ
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図7.2 中国語環境でのトランスナショナル空間の相互作用概念図(筆者作成)
第一の研究課題の結果と統合して、これらの空間で日本語習得促進がどのようにして起 こるかについて、漢字の言語間転移とトランスナショナル空間の関係から考察すると、次の ような関係が想定される。こうしたトランスナショナル空間では、日本語のインタラクショ ンを通じた言語体験が子どもの語彙力を高めると同時に、日本語文脈の中にスキャフォー ルディングが埋め込まれた空間として日本語インタラクションが起こると考えられる。つ まり、同根語の漢字を中国語の既知知識を利用して日本語へ転移するためのサポート、スキ ャフォールディングを備えた空間としての機能があるのではないだろうか。Cumminsが提 唱するような中国語の知識を日本語に関連づけるスキャフォールディングが埋め込まれた 空間である。この空間では、日本語の文脈の中に転移を促す漢字があり、日本語文脈とイン タラクションの中に漢字を理解するスキャフォールディングがあり、漢字の理解をモニタ リングできる日本語文脈もインタラクションもある。漢字を利用した転移を促すスキャフ ォールディング要素がそこにあり、自律学習へ繋がると考えられる。子どもを取り巻く日本 語環境を言語資源として見るだけでは、このような空間の機能はおそらく見えてこないで あろう。そして、空間が繋がり循環することでインタラクションの質も量も高まると思われ る。
漢字圏での年少継承日本語教育を、同根語の漢字を利用した中国語から日本語への意味 概念転移によって効率的に行おうとすると、同根語の漢字の転移をスキャフォールディン グするような日本語の文脈やインタラクションの空間を構築することが重要であると考え られる。継承日本語教育は、家庭も含めて、日本語母語話者である親が子どもの関心に合わ
中国語 中国 文化 環境
教 育 の ト ラ ン ス ナ ショナル空間
現地校・国際班 国際課程・国際校 日本人学校 将来の進路展望
家庭のトランスナショナル空間 日本語使用
日本文化 家庭内学習
現実のトラ ンスナショ ナル空間 日 本 の 親 戚 友人と交流 現実の体験
仮想のトランスナショナル空間 テレビ・アニメ・ゲーム・動画・ネット
マンガ・雑誌・本など 家庭外トラン
スナショナル 空間
コミュニティ
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せてそのようなトランスナショナル空間を構築していく中で自律的に促進されるのである。
FLP の観点からすると、日本語母語話者の親の役割はトランスナショナル空間の管理者で あり、スキャフォールディングの実践者であり、トランスナショナル空間をつなぐコーディ ネーターと言える。
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