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台北・香港での漢字読み調査

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 108-113)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.1 台北・香港での漢字読み調査

5.1.1 調査協力者 5.1.1.1 台北

台北では、2017年2月~3月台北日本語補習校などを通じて、小学校低学年の児童の漢 字読み調査への協力を依頼した。その結果、小学一年生前期修了時と後期修了時の学齢条件 に合致した協力者はそれぞれ8名、14名となり、その詳細は表5.1の通りである。

表5.1 台北の漢字読み調査協力者

漢字読み調査 人数 性別 在籍校 人数 学校教授言語 年齢 小学一年生

前期修了時

8 男6女2 現地校 6 中国語 7;5 ~ 6;7 現地双語校 1 中国語6:英語4 6;11 日本人学校 1 日本語 7;2 小学一年生

後期修了時

14 5女9 現地校 13 中国語 8;7 ~ 7;5

現地双語校 1 中国語6:英語4 8;2

台北での漢字読み調査協力者に関して、北京や香港との比較の際に注意すべき点が 3 点 ある。

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まず、調査時期に関連する点である。台北での小学一年生後期修了時の調査を他の 2 都 市での時期より約8ヶ月遅れて実施したため、調査協力者の年齢が高めであることである。

この年齢の子どもは年齢による発達差が大きいことから、台北の小学一年生修了時の調査 結果については、その点を考慮にいれなければならない。一方、小学一年生前期修了時の調 査実施時期は最適で、年齢差を考慮する必要はない。

次に、調査協力者の多くが毎週土曜日の午前中 2 時間の国語授業を行う台北日本語授業 校に通っていることである。授業校では時間数に限りがあるとは言え、日本の「国語」の教 科書を用いた授業活動を行い、児童は日本のカリキュラムに沿った学習を行っている。その 点は、補習授業校がない北京とは大きな違いである。

最後は、北京での調査協力者が全員日中国際結婚家庭の子どもであり、家庭の言語使用や 子ども自身のアイデンティティの面で二言語二文化環境にあるのに対し、台北では 8 名中 6名、14名中12名が日台国際結婚家庭の子どもであり、両親ともに日本人且つ日本語母語 話者の家庭が前期に2名、後期に 2名含まれる。こうした言語文化環境の違いも留意すべ き点であるかと思われる。

5.1.1.2 香港

香港では、2016年11月、2017年5月~6月の二回にわたり、香港日本人補習授業校な どを通じて、小学校低学年の児童の漢字読み調査への協力を依頼した。その結果、小学一年 生前期修了時と後期修了時の学齢条件に合致した協力者はそれぞれ4名、19 名となり、そ の詳細は表5.2の通りである。

表5.2 香港の漢字読み調査協力者 漢字

読み調査

人数 性別 在籍校 人数 学校教授言語 中国語 授業時/週

年齢

小学一年生 前期修了時

4 3

1

現地校 3 広東語 10 6;10~6;1

現地国際校 1 英語 7 6;1 小学一年生

後期修了時

19 12 7

現地校 6 広東語 10 7;10 ~ 6;7

現地英文校 3 英語 6 7;7 ~ 7;1 現地国際校 3 英語 7 7;8 ~ 6;7 外国系国際校 7 英語 1~5 7;7 ~ 6;8

香港の調査協力者に関して、北京・台北と比較する際、留意しなければならない点は4つ ある。

まず、香港が広東語、英語、中国語の多言語環境であることを反映して、香港の学校の教 授言語も複数言語を採用しており、北京や台北と比較して、非常に多様で複雑な教育システ ムを構築している。そのため、現地校か国際校か日本人学校かという区分だけでは十分では

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なく、どの言語を教授言語とし、どのくらいの割合で配分しているかを見る必要がある。「現 地校」は、通常は広東語で授業を行い、英語と中国語は授業科目として設定される公立校で あるが、例外もあるため、表5.2の「現地校」66に学校教授言語が英語の学校を区別して表 記している。英語で授業を行う現地校にも、カリキュラムが広東語を教授言語とする学校に 準じた「現地英文校」と独自のカリキュラムを採る「現地国際校」という区分がある。また、

「国際校」は英語を教授言語とすることでは共通しているが、香港政府が管轄する現地校と、

カナダやイギリスなどの外国系の学校の二種類に分けられる。どちらも、中国語の授業をカ リキュラムにどの程度組み込むかは学校によって異なる上、中国語をネイティブクラスと 外国人クラスに分けている学校、分けていない学校、中国語の代わりに日本語を選択できる 学校など非常に多様である。このような学校教育制度の多様性によって、調査協力児童の言 語状況は非常に多様なものとなってくる。この点は、北京・台北と比較する際、複雑な要素 として関わるものと思われる。

次に、香港の教育制度の多様性を反映して、就学年齢も多様である。北京、台北と同様に 9月入学の二学期制であるが、その就学年齢は、北京と台北が日本と同じく入学時6歳とい う条件であるのに対し、香港では国際校は 5歳就学、現地校でも5歳就学が認められてい る。そのため、漢字読み調査の学齢条件をそろえると、香港では年齢の低めの児童も含まれ る。小学一年生前期修了時の漢字読み調査の実施時期が少し早めであることも含め、香港の 調査協力児童の年齢が他の2都市に比べ、低めであることは留意事項である。

三つ目は、香港では台北と同様に、日本にルーツを持つ子どものために週末日本語を教え る香港日本人補習授業校がある。調査協力者の大半もこの週末の補習校を利用している。こ の学校ではコースが二つ設置され、一つは日本の「国語」の教科書を用い、算数や理科、社 会なども日本語を使って授業する学年別コースと、もう一つは主として国際校に通う児童 のために教科横断的なカリキュラムを組んで、探究的な学びを主とするコースである。前者 は平仮名、カタカナ、漢字などの文字学習を基礎としているが、後者は文字学習よりも日本 語を運用する面に力点が置かれている。そのため、週末の補習授業校に通っているとは言え、

コースによって日本語の基礎は大きく異なる。

最後に、非国際結婚家庭の存在である。台北では両親ともに日本人である非国際結婚家庭 が継承日本語教育の現場で散見されたが、香港でも散見される。統計的な数字は公表されて いないため断言はできないが、少なくとも台北や香港では、週日は現地校に通い、週末の継 承日本語教育を必要としている日本人の非国際結婚家庭が少なからず存在する。香港では、

小学一年生前期修了時調査では4名中1名、後期修了段階では19名中3名が日本人家庭で ある。また、香港の日本人との国際結婚家庭では、現地の香港人との組み合わせの他、非漢 字圏出身者との組み合わせの国際結婚家庭が多く、国際結婚家庭の子ども16名のうち7名

66 香港政府の補助金割合により3種の学校があり、100%の補助金を受ける「官立」以外に、補助金比率 が低く独自財源を持つ「直資」、「直助」の公立校がある。こうした「直資」、「直助」の公立校は、独自の 様々なカリキュラムの運用が可能であり、それぞれの特色を打ち出している。

103 を数える。

以上のような台北、香港それぞれの特徴と留意点を念頭に、本章では北京・台北・香港の 漢字読み調査結果の比較分析を行う。

5.1.2 結果

5.1.2.1 台北の結果

台北での漢字読み調査 67の結果を、小学一年生前期修了時と後期修了時それぞれについ て、北京と同様の得点化を行い、図5.1と5.2はそれを調査実施時年齢順に並べたものであ る。得点は、下部が正答の得点、上部に正解に近いが誤りがあるものを準正答として表示し ている。

図5.1 台北の小学一年生前期修了時漢字読み調査結果の得点化(30点満点)

図5.2 台北の小学一年生後期修了時漢字読み調査結果の得点化(35点満点)

67 調査に当たり、台北の小学校で主として使用される「国語」の教科書3種類、翰林・康軒・南一のうち、

入手しやすい康軒の教科書を参照した。詳細は以下の通りである。

康軒文教事業(2015)『國小國語課本 國語』年間上下2冊(一年生は注音学習用の教科書あり)

一年上(72 880字) 一年下(132 16211字)

T0-1 T0-2 T0-3 T0-4 T0-5 T0-6 T0-7 T0-8

準正答 0 2 7 0 2 3 5 5

正答 30 28 20 30 24 20 18 21 05

1015 2025 30

得点

左から調査実施時の年齢順。T0-4が日本人学校児童、T0-7が現地双語校児童

T1-1 T1-2 T1-3 T1-4 T1-5 T1-6 T1-7 T1-8 T1-9 T1-10 T1-11

T1-12 T1-13

T1-14 準正答 0 0 0 5 0 0 1 1 3 3 2 2 3 3 正答 35 34 35 23 35 33 30 28 21 25 32 22 23 27

05 1015 2025 3035

得点

左から調査実施時の年齢順。T1-5が現地双語校児童。

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台北の結果も北京と同様、左側に高い山があり、凸凹ながらも右側へ緩やかな下降が見ら れる。年齢差及び個人差の影響であると思われる。

5.1.2.2 香港の結果

香港の漢字読み調査68の結果は、図5.3と図5.4に示す。

図5.3 香港の小学一年生前期修了時漢字読み調査結果の得点化(30点満点)

図5.4 香港の小学一年生後期修了時漢字読み調査結果の得点化(35点満点)

68 香港の小学校で使用される「中文」(中国語)の教科書の種類は非常に多い。公立の一般的な中国語の教 科書でもピンイン付の普通話版とピンイン無しの広東語版の2種類があり、国際校の中国語のために特別 に編集した教科書もある。また教科書の価格も安くない。代表的な1種類を確認のため参照した。

牛津大學出版社(2011)『新編 啓思 中國語文 第二版』 学期に2冊、年間上下で合計4 一年上1102頁)一年上2102頁)18単元 一年下1105頁)一年下297頁) 916単元 学習基準となる漢字表はない。

H0-1 H0-2 H0-3 H0-4

準正答 3 3 6 1

正答 24 23 12 17

05 1015 2025 30

得点

左 か ら 調 査 実 施時の年齢順。

H0-4 が現地国

際校児童、他は 現地校児童。

H1-1 H1 -2 H1

-3 H1 -4 H1

-5 H1 -6 H1

-7 H1 -8 H1

-9 H1 -10 H1

-11 H1 -12 H1

-13 H1 -14 H1

-15 H1 -16 H1

-17 H1 -18 H1

-19 準正答 1 4 3 2 2 1 3 5 3 8 2 2 3 3 4 6 3 2 9 正答 34 30 29 3 27 0 2 27 9 17 20 23 30 10 13 23 15 17 18

0 5 10 15 20 25 30 35

得点

左から調査実施時の年齢順。外国系国際校児童はH1-4, H1-6, H1-7, H1-11, H1-12, H1-15 H1-17、現地国際校児童はH1-3, H1-14, H1-18、現地英文校児童はH1-5, H1-10, H1-13

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 108-113)