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分析

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 91-95)

第4章 北京在住年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

4.3 学校教授言語 ― 中国語と日本語の比較

4.3.3 分析

比較分析は、小学一年生前期修了時と後期修了時の二つに分けて、北京在住の中国語を学 校教授言語とする継承日本語話者児童(現地校児童)、北京在住の日本語を学校教授言語と する継承日本語話者児童(日本人学校児童)、日本在住の日本語を学校教授言語とする日本 語モノリンガル児童(日本の公立校児童)の3グループで行う。

比較分析は、日本語を学校教授言語とする児童を基準に、学校教育で未習の漢字に焦点を 当て、それをどのように読むかということについて分析を行う。前の二節では、中国語を学 校教授言語とする児童にとっては、学校教育の中では「未習」の漢字である日本語の漢字に ついて、その「未習」の漢字をどのように認識し、どのように読むかという点について、分 析考察を行ってきた。そこで、日本語を学校教授言語とする児童が、学校教育の中での「未 習」の漢字をどのように認識し、どのように読むかとういうことを明らかにし、比較分析を 行うものである。

4.3.3.1 小学一年生前期修了時

次頁の表4.15は、小学一年生前期修了時の漢字読み調査において、調査当時「未習」で ある漢字に対する児童の対応をまとめたものである。

表4.15から、3グループ間で学校教授言語の違いによる相違が顕著に現れていることが 確認できる。日本語を学校教授言語とするグループでは、次のような特徴がある。まず、文 脈を理解し文脈からヒントを得て、「未習」漢字を読もうとすることである。何故読めたの かという質問に対する回答が「分からない」や「適当に言った」というものは、ほとんど文 脈からヒントを得たものと見ることができる。次に、文脈ヒントの助けになるものとして、

送り仮名や共起語が活用されていることである。「開ける」に対する児童 F0-1 のストラテ ジーは、送り仮名と共起語の併用で文脈理解を補助したものと考えられる。そして、「未習」

漢字について、どこかで見たことがないかと手がかりを探したり、似た漢字を思い浮かべた りしている様子が分かる。児童B0-6が「魚」を見て、最初「くろ」(黒)と読んだのは、両 者の下部の類似によるものであろう。一方、児童B0-5は全体を通して、「未習」の漢字に注 目するより、文脈から答えを引きだそうとしていることが窺える。児童F0-1は漢字には言 及しているが、その説明には曖昧さが残る。

表4.15 小学一年生前期修了時漢字読み調査における「未習」漢字に対する回答注(1)

「未習」

漢字の語彙

中国語を学校教授言語 日本語を学校教授言語

継承日本語話者 日本語モノリンガル

(鱼)

B0-1:これ、‟繁体字‟で「さ かな」○

B0-3:日本の字と中 国の字 は下が違うのがある。中国

B0-5:川には「さかな」がい るから○

B0-6:「くろ」(1秒後)「さ かな」○

F0-1:覚えてる。どっかで見 た○

84 の漢字は簡単になっている

(风)

B0-1:‟繁体字 ‟の字だから

B0-10:似てるから分かった

既習注(2) F0-1:習字で他の人が書いて

るのを見た○

(鸟)

B0-1:これ、‟繁体字‟だから 読めない(「とり」の語彙を 知らない)×

B0-3:下が違う○

B0-9:「しま」✕

B0-5:「ピッピッピッ」で考 えた○

B0-6:お友達が書い てるの を見た○

F0-1:友達の名前の「島」に似 てる○

来(て) B0-9:‟来”?「きて」○ 既習 F0-1:適当に言った○

開(ける)

(开)

B0-1:“繁体字‟だから○

B0-3:中の部分が中 国の漢 字○

B0-4:中を見て分かった○

B0-10;中に‟开‟がある○

B0-5:「入り口を〇ける」だ から○

B0-6:(読めた理由が)分か らない○

F0-1:「入り口」と「ける」な ら「あ」○

飛(び)

B0-1:‟繁体字 ‟だとこうだ けど、‟簡体字‟はこう○

B0-3:当ててみた○

B0-8:「とぶ」‟出来‟だから

B0-5:鳥が出たから○

B0-6:(読めた理由が)分か らない○

F0-1:将棋の「飛車」に似とる

注(1): 正答は○、非正答は✕で示した。

注(2): 中国の学齢を基準にしたため、日本の学制では調査実施時、日本人学校児童2名は二年生一学期途 中、日本の公立校児童1名は一年生三学期修了時であり、学習済みの漢字に違いがある。

他方、中国語を学校教授言語とするグループでは、「未習」の漢字に対してどのように認 識するのであろうか。出題漢字は、これらの児童にとって、日本語としてはほとんど「未習」

であるが、中国語としては全て「既習」である。小学一年生段階の中国語学習というのは、

漢字を学習することとほぼ同義であるため、まず漢字に注目する傾向が全般的に見られる。

同形の漢字に対してはほぼ抵抗がないが、字体が異なる漢字に対しては、まず自分が知って いる繁体字や類似の漢字にその手がかりを求めている。その一方で、第1節で確認したよう に、日本語の読み物を日頃読む児童は、読めた理由が「分からない」(B0-2, B0-4)や「当 てた」(B0-3)というように、文脈を理解して文脈からヒントを得て読んでいるものと思わ れる。

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4.3.3.2 小学一年生後期修了時

表4.16は、小学一年生後期修了時の漢字読み調査において、調査当時「未習」である漢 字に対する児童の対応をまとめたものである。

表4.16 小学一年生後期修了時漢字読み調査における「未習」漢字に対する回答注(1)

「未習」

漢字の語彙

中国語を学校教授言語 日本語を学校教授言語

継承日本語話者 日本語モノリンガル

起(きて) B1-1:「き」を見たから○

B1-3:中国語の字、‟起来‟○

B1-4:(日本語では)分かん なかった。この字は(中国語 で)習ったことある○

B1-11:中国と同じ意味、‟起 床‟○

B1-12:‟早起‟○

B1-14:‟起床‟の‟起‟○

B1-15:‟起床‟○

B1-7:「きて」だから○

B1-10:「あさ早く」で、「た べる」でもないから○

F1-1:(読み方は知らなかっ た)「あさ早く」「〇きて」「そ とを見ると」だから、「おき て」が一番いいから○

F1-2:知ってた○

F1-3:「早く」と「きて」をみ て○

F1-4:知ってる○

吹(き) B1-3:学校で習った○

B1-4:もう中国で習った○

B1-5:‟吹‟だから○

B1-14:これ、(中国語で)習 ってる、(日本語でも)家に ある本(「風の又三郎」)で見 た○

B1-7:「き」だから○

B1-10:「ぴゅ~っと」があっ たから○

F1-1:読めた理由はよく分か らない○

F1-2:感じで分かった○

F1-3:見たことない×

F1-4:知ってた○

明るく B1-4:中国で習った、「ひか

るく」✕

B1-5:‟明亮‟の‟明‟だから、

‟明亮‟って光ること○

B1-6:「あした?」✕

B1-7:「よく?」✕

B1-10:「くらく」✕

既習注(2)

出発 B1-1:「でて」「でていく、で

ていって」✕

B1-3:「で、で・・」✕

B1-5:当てただけ、「でる」じ ゃないから「しゅっぱつ」か なってねぇ○

B1-11;「でかけ」✕

B1-7:「で・・」「でかける」

B1-10:「で・・で・・」✕

F1-1:(意味は)「車でさあで かけよう」だから、「でかけよ うです」はおかしいし、「でよ うです」もおかしいから、「し ゅっぱつ」ってよく子どもが 車でなんか「しゅっぱつ~」

って言うから○

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B1-14:「で、でかけます」✕ F1-3:「でかけ」✕

F1-4:四年生が習字で書いて いたのを、隣にフリガナがあ って覚えました○

笑いました B1-1:中国語で「わらう」○

B1-3:公文で習った○

B1-4:中国で習った○

B1-5:‟笑‟だから、翻訳○

B1-11:中国語と同じ意味○

B1-13:中国語で‟笑‟は「わ らう」だから○

B1-7:なんか見たこ とがあ る、中国語か日本語かは分 かんない○

B1-8:どうして読め たのか 分からない○

B1-10:「たの・・」「うれし いました」、なんか嬉しい感 じ、だけど違う、「たのしい ました」✕

F1-1:テレビとかで、お笑い 芸人とか○

F1-3:分からない✕

F1-4:読めた理由がはっきり しない○

B1-3:「ちがう」(違和感があ

る様子)「べつ(の)」○

B1-4:中国で習った○

B1-5:‟別‟、‟分別‟の‟別‟、

音似てるし‟翻訳‟だから○

B1-6:「ちがう(の)「べつ な」△

B1-11:「ちがう(の)「ほか

(の)」△

B1-13:‟別‟ってことは、「べ つな」ってことだから、「べ つ(の)」○

B1-7:分からない✕

B1-8:「ほか(の)」△

B1-10:「ほか(の)「違う の」の意味だから△

F1-1:「おな・・」「ちが・・」

「ちがう」△

F1-2:(漢字は)知らなかった けど、「別に」とかなんか、出 てくるっぽい感じだからさ、

知 らない うちに 読め てた の

F1-3:(漢字は)知らなかっ た、「同じクラス」と「ちがう クラス」だから○

F1-4:「ほか(の)(違うかな って感じで)△

注(1): 正答は○、準正答は△、不正答は✕で示した。

注(2): 中国の学齢を基準にしたため、日本の学制では調査実施時、日本人学校児童3名は二年生一学期終 了時、日本の公立校児童1名は二年生三学期修了時であり、学習済みの漢字に違いがある。

表4.16でも、小学一年生前期での特徴、すなわち、日本語を学校教授言語としている児 童は文脈ヒントを多く利用し、送り仮名と共起語で文脈ヒントを補い、一方、中国語を学校 教授言語としている児童は漢字ヒントを多く利用していることが確認できる。「起きる」や

「吹き」の例は典型的であろう。

けれども、小学一年生後期修了時の出題漢字では抽象性が増したためか、また異なる特徴 も見出すことができる。「(そらが)明るく」では、日本人学校児童B1-6が文脈利用に失敗

し、B1-10は文脈ではなく、漢字に注目し、逆の意味の読みを引き出している。現地校児童

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の方では、漢字知識を駆使する傾向の中で、失敗例が見られる。

現地校児童の間では正答が最も少なかった「出発」について、日本公立校の児童は4名中 3名が正答、正答者は音声言語や漢字知識として「しゅっぱつ」や「出発」を知った経験を 述べている。つまり、日本人学校児童も含め北京在住の児童には、「しゅっぱつ」という語 彙が言語経験の差として、あまり身近でないことを示している。

他方、「笑いました」は非常に興味深い結果を示している。現地校児童の正答率は非常に 高く、スキャフォールディングが必要だったB1-2も含め、中国語の漢字の‟笑‟から「わら う」という日本語語彙を導き出している。日本人学校児童では 3名中 2名が正答したが、

読めた理由を説明することができない一方、B1-10 の回答は、「笑」のイメージから読みを 引き出そうとしている様子がはっきりと分かる。出題のお話の中で「笑いました」は2回出 てくるが、1回目は文脈利用がほとんどできず、2回目は文脈利用が効果的になるよう構成 されている。したがって、文脈がヒントにならない状況で正答を出すには、「笑」の漢字知 識が必要不可欠である。日本公立校児童でも、F1-3 は「笑」の漢字知識がなかったため読 めなかったが、他の3名は何らかの知識があったものと推測される。

最後の「別」も非常に興味深い示唆を与えてくれる。「べつ」という日本語の語彙は、日 本語、非日本語環境に関わらず、この年齢の児童にはまだ身近でなく、「ちがう」や「ほか」

という語彙の方が身近であることを示している。現地校児童は漢字の意味は理解しても、

「べつ」の語彙がなく、日本公立校児童も文脈から理解しても、「べつ」の語彙は引き出し にくいことが示された。

以上の分析に基づき、次項にて考察を行う。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 91-95)