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トランスナショナル空間のつながり

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 169-173)

第6章 漢字圏での日本語言語資源とトランスナショナル空間

6.5 トランスナショナル空間のつながり

6.5.1 仮想世界の言語資源

仮想世界の言語資源は、アニメやTV番組、漫画、雑誌、本、ネット上の動画や文字情報 など多様であるが、インタビュー調査の結果、アニメ視聴が子どもの日本語資源として果た す役割が非常に大きいことが、多くの母親や子どもから報告された。子どもが小さい頃は、

日本語の言語資源不足を補うために、絵本の読み聞かせとともにアニメが積極的に利用さ れている。とりわけ、子どもが日本の幼稚園に通い、就学前に中国へ移住した家庭では、母 親が子どもの日本語力が落ちることに敏感であるため、なおさらである。

【事例①】①が6歳の時に日本から移住

母が僕の日本語を心配して、他の日本の子と遊ばせたり、日本語の子供会を作ったりしました。うちには 日本のアニメのビデオや、絵本や漫画がたくさんありましたね。

【事例⑧㉚㉖の母】⑧が5歳の時に日本から移住

読み聞かせは、「ぐりぐら」やエルマーシリーズですね。でも、それよりビデオをよく観せました。「アンパ ンマン」とか「プーさん」、「ピカチュー」なんか、日本に帰国した時に録画して。

小さい頃からアニメに慣れ親しんだ子どもが、その後もアニメを楽しむことは容易に推 察できる。以下は、子どもの日本語のためにアニメや漫画を評価する母親の意見である。

【事例⑫の母】⑫が6歳の時に日本から移住

中国に来て3年ぐらい経った頃、子どもの日本語力が落ちたのに気づいたんですよ。「てにをは」がおかし

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くなって。それで、「アニメを解禁」、「漫画を解禁」(鍵括弧は調査協力者の強調部分)しました。

【事例㉞の母】㉞は英中バイリンガル校在籍

日本語については、やっぱり日本のアニメ。アニメ好きだから、自分ですごく積極的に観て。それ良くな いことなんだけど、なんか観過ぎちゃうから。それで語彙とか表現とか言葉の使い分け、女性であったり 男性であったり、そういうのの、こっちで言葉の感じがないでしょ。おじいちゃんの言葉を聞くとかそう いうことはないけど、アニメで「擬似体験」して、そういう日本語独特の表現の違いをなんとなく学び取 っているかなっていうところはあるかな。(中略)アニメを観るだけじゃ嫌で、コミックが欲しいと言った ので、漫画を読んでいくことにして。

さらに、このようなメディアのトランスナショナル空間で日本語や日本文化に触れるこ とは、多様な日本語を身につけ言語社会化を促すばかりでなく、家庭内での日本語使用を増 やすことが明らかになった。以下は、インタビューで母親が語った意識的なメディア活用で ある。

【事例⑬⑱の母】(以前は母親に中国語で話すことが多かった子どもが)

日本語で話すようになったのは、「優酷(中国の動画サイト)」様様ですよ。3人でバラエティとかアニメを 観て、いろいろ言うんですよね。

【事例⑭㉑の母】(平日父親不在であるため)

ご飯の時、子ども2人とパソコンで何かを観るんですよ。それが大体バラエティ番組とかクイズ番組だっ たりする。そしたら難しいですよ。何かちょっとこっちにいたら使わないような日本語があるじゃないで すか。でも知ってる、意外に。「お、知ってんだ」「馬鹿にしないでよ」みたいな。

事例㉑は、初回調査時、母親に日本語を使わない傾向が見られたが、2015年9月の母親 との面接では、日本のアニメに興味を持ち始め、母親に対する言葉に日本語が増え、子ども の方から日本語の読み書きを教えてほしいと母親に頼んできたことが報告された。

ネットで観る日本の原音のアニメには、中国語の字幕がついていることが多く、音声は日 本語で、意味は中国語で確認できるようなトランスナショナルな空間を形成している。また、

日本のテレビ放送のバラエティ番組やニュース番組ではテロップが多く挿入されており、

音声と文字の両方の言語資源を提供している。

事例⑯の母親は、仕事の関係で子どもが中学に上がってから別居、週一回会う程度である ため、子どもは母親に中国語で話すことが多かったというが、初回調査時、高校進学が決ま った子どもとの面談は、特別な語彙を除いてほぼ日本語で行うことができた。

【事例⑯】

僕、「コナン」が好きでネットでよく観ます。(中略)日本の大学に興味があって、「環境」を勉強したいな って。ネットで調べています。

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【事例㉕の母】

私、家は全部日本式にしてるんですよ。家ではずっと日本のテレビを流しているんですね。でも娘は日本 のテレビにあまり興味がなくて。でも、たまに観る時、バラエティ番組に出て来る文字を読んでるふうな んですね。(平仮名とカタカナ以外)日本語を教えてないから、読めてるかどうか怪しいんですけど。

勿論、子どもの側では、こうしたメディア活用を「日本語のため」とは捉えていない。メ ディアのトランスナショナル空間で自然な日本語のインタラクションが起こっている様子 が、以下の例から見られる。

【事例⑪】

家で日本のバラエティを観ることが多くて、お笑いが好きで。おかあさんがテレビ観て、変なツッコミや るのが面白い。(お笑い芸人に対して)「ツッコミ足らへんで」みたいな。

【事例④】

小学生の頃「星のカービィ」とか「ドラえもん」が好きで、面白いところを何度も何度も繰り返し読みまし た。繰り返し読むと、そのたびに面白く楽しめるから。何度も読んでると、台詞をすっかり暗記しちゃっ て。母や姉の前でその場面を再現するんです。そうすると、また面白い。

以上の語りから、メディアによってもたらされる仮想のトランスナショナル空間が、子ど もたちの日本語のインタラクションに重要な位置を占めていることが明らかである。

6.5.2 現実世界の言語資源

言語資源についての調査の結果、メディアを通した仮想世界の言語資源と同程度に重視 されているのは、日本への一時帰国である。中国と日本という地理的近さと近年の運輸コス トの低減により、大半の家庭で子どもの学校の休みを利用して一年に1~2回の一時帰国 をしている。帰国期間は長い家庭で夏1か月半、冬1か月、母親の仕事が忙しい家庭でも最 低1週間は帰国している。

それでは、日本への一時帰国は子どもにとってどのような意味づけがなされているので あろうか。インタビュー調査の結果、祖父母をはじめとする親戚や友人との関係づくりをす る以外に、仮想世界で知っている日本を現実に体験することが示された。体験入学で日本の 学校生活を体験する、給食やお弁当を学校で食べる、電車やバスに乗る、ファミレスで食事 をする、スーパーやコンビニで買い物をする、炬燵に入る、温泉に入る、イベントに参加す る等、一つ一つが新鮮な現実世界での体験となっているものと思われる。

さらに、一時帰国が頻繁になされる過程で、仮想世界の日本を現実化するという意味づけ は次第に低下していくどころか、日本での「実体験」への希望は仮想世界の「仮想体験」を 通して増幅されていくようである。以下は子ども自身が語った日本に対する関心である。

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【事例③】

日本の大学に入ったら応援団に入団するって、ずっと決めてた。最初は漫画で応援団に興味が湧いて、そ の後読んだ文庫本で応援団って面白いなって思った。

(2014年4月日本の大学に進学し、応援団に所属している。)

【事例⑦】

一年に二度日本に行くけど、「生活」はしたことがないので、日本で生活してみたいという思いが強いんで すよね。(2017年7月日本で就職した。)

【事例⑩】

中国の生活に慣れてるから、大学も生活も中国だと思う。でも、アニメが好きだから、日本の大学も・・。

(2016年4月日本の大学へ進学、アニソンダンスの活動を行っている。)

一方で、一時帰国は日本のモノを中国での日常に持ち込む絶好の機会でもある。一時滞在 の間に購入するものは日本の食材、服、玩具・文房具、漫画・本・ゲームソフトなどが多い ことが明らかになっている。日常での仮想世界のために漫画や本、ゲームソフトを購入し持 ち帰るのである。このような日本への一時帰国が日常の仮想世界を広げていく様子が、以下 の事例から窺える。

【事例①⑨の母】

日本に帰ったら、ゲームでもDVDでも漫画でも本でも、子どもが興味を持ちそうなものを買って、中国に 持ち帰りましたね。

【事例⑦】中学生の時、日本のあるアニメが好きになって、中国語に翻訳されたアニメの原

作を読んだんだけど、物足りないなって。日本語の原作を日本で買って、分からない言葉は母に聞きなが ら、苦労して読んだのが最初の一冊。二冊目は東野圭吾。それから東野圭吾にはまって随分読みました。

日本で買うのは本と洋服です。

【事例⑧㉚㉖の母】

子どもが小さい頃、日本に着いたらまずすること、「テレビガイド」を買うこと。子ども番組をチェックし て録画するのよ。今はこっちでネット配信のテレビを観られるけどね。

【事例⑩】

アニメと漫画が好き。日本に帰ったら、チェックしておいた漫画を全部買って帰るんです。

現地校在籍でありながら日本語が第一優勢言語となった事例③と④のケースは、この循 環が活発になされたものであることが、以下の母親の語りから示唆される。

【事例③④の母】

私自身がアニメ、漫画、本が好きで、子どもと一緒によくアニメを観ます。漫画も本も日本で大人買いし てくるので、家は本棚だらけですよ。子どもが読む漫画や本はほとんど私も読んで、ああだこうだと話す んですよね。面白いですよ、共通の話題があって。そのうち、子どもの方が面白い本を見つけてきて、「こ

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