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学校教育のトランスナショナル空間

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 161-164)

第6章 漢字圏での日本語言語資源とトランスナショナル空間

6.3 学校教育のトランスナショナル空間

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中国語を理解できないことを心配して一時期 OPOL を採用した少数言語型家庭(家庭 4)、 多数言語型で日本の学校へ進学のためにOPOLを採用した家庭(家庭28)など、それぞれ の家庭環境や条件の下での行われた好例であろう。

言語使用以外にも、家庭のトランスナショナル空間では、日本のモノや習慣など物質・非 物質面での文化のトランスナショナルな「越境」が行われている。家庭9の母親がメールで 回答した家庭の様子がその状況をよくあらわしている。

【家庭9】日本の食品、衣類、雑貨、書籍から薬、電化製品、車まで、我が家におけるモノの日本指数は やや高めかもしれません。もちろん駐在員のご家庭には遠く及ばないと思いますが、小さい頃のおもちゃ なども日本で買ったものが多くありました。(中略)食事は私が作りますので、納豆、ぬか漬け、味噌汁、

肉じゃが、焼き魚は普通に食べますし、たまには家で手巻き寿司などもします。運動会や遠足にはおにぎ りを持たせたり、子供たちの好物は唐揚げ、ポテトサラダにパスタ、カレー、グラタンと、日本の子とそう 変わらないかもしれません。もちろん中華も食べますが、普通の中国人家庭の食卓とは違うものを食べ続 けているという気がします。(中略)習慣は、言葉とも関係していますが、おはよう、おやすみ、いただき ます、ごちそうさま、いってきます、ただいまと、挨拶ことばも自然と日本語です。大晦日にはお蕎麦をす すり、元旦は明けましておめでとうで明けて、お雑煮くらいは作って食べさせています。また、夏はとも かく寒くなれば、湯船にお湯をはり入浴しないと、お風呂に入った気がしないという家族です。長男は床 にお布団を敷いて寝ています。ただ、やはり普通の日本人家庭とはどこか全然違うとも思います。

しかしながら、表6.3で示した子どもの言語優勢順位と、表6.4の家庭内言語使用の実態 との関係は直接的ではなく、一般的には子どもが在籍する学校教授言語をより強く反映し ている。次節では、学校教育のトランスナショナル空間について述べる。

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表6.7 教育機関形態別在籍状況(小学校~中学・高校)

教授言語 中国語 英語/中国語 英語 日本語

教育機関

形態

現地校(1) 英中双語 国際校 日本人 学校(2) 普通班 国際班 国際課程

日・中・英 2(1)(3) 3 0 0 0 1(3) 6 中・日・英 15 (1) 5 0 0 0 0 20

中・英・日 4 0 2 1 0 0 7

英・中・日 0 0 0 0 1 0 1

中・英 1 0 0 0 0 0 1

注(1) 普通班は一般的な中国人児童が通うクラスである。国際班は外国籍の子どもが通う英語の比重が高 い中国語クラス、国際課程は主として外国籍生徒のための英語圏留学のためのコースで、学費は普通 班よりかなり高額である。

注(2) 入学に資格制限があり、調査対象者が就学時、国際結婚家庭では一般的な選択肢となっていなかっ た。近年事情が異なり、国際結婚家庭の子どもが急増している。

注(3) 括弧なしの数字は最終在籍校を表し、括弧内は途中の在籍状況を示している。

以下、言語優勢順位別に、その教育機関と日本語習得との関係について概説する。

6.3.1 日・中・英タイプ

このタイプの6名のうち1名が小中学を日本人学校、その後日本の高校へ進学し、3名が 現地校と日本人学校の組み合わせで教育機関の移動を行っている。日本人学校は基本、小学 校、中学校のみで、高校が併設されていないため、義務教育を日本人学校で終えた後、日本 の高校へ進学するか現地校国際班に高校編入するコースが一般的である。しかし、調査対象 者では小学校を現地校普通班で、中学校を日本人学校で、さらに日本の高校へ進学し、そこ から中国の大学に入学した事例、中学途中まで日本人学校、その後、現地の国際班に入学し 直し中学・高校を修了し、中国の大学へ進学した事例もある。このような事例は、教育機関 をトランスナショナル空間として最大活用していると言える。残りの 2 名は現在日本の大 学に在籍しているが、中国での教育機関は現地校在籍ながら、日本へ移住する前に日本語が 最も優勢になっていた珍しい事例である。

6.3.2 中・日・英タイプ

このタイプは20名を数え、現地校に通いながら、家庭で日本語を継承するという、家庭 と学校で日々言語文化の境界を越境する主流のタイプである。学校教育で行われる英語よ り日本語が優勢になるためには、家庭内日常会話の日本語だけでは到底追いつかないと思 われる。日本語習得のための何らかの努力や工夫が必要である。このタイプの中では、日本 の大学を進学先に選ぶ事例が比較的多い。日本の大学入試の関門を越えるだけの日本語の

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力を養い、入学後は日本の大学をトランスナショナルな実践の場とするという点で、学校教 育のトランスナショナル空間は現実に体験するだけでなく、目標として設定された瞬間か ら始まると言える。

6.3.3 中・英・日タイプ

このタイプの 6 名は二つに下位分類でき、一つは一定の日本語能力はあるが、読み書き で英語が勝る現地校英語重視タイプ、或いはマルチリンガルタイプと言うことができよう。

もう一つは、家庭での日本語継承が弱く、学校教育の英語が自信のない日本語に勝るタイプ である。前者は、前出の「中・日・英タイプ」から移行したもので、英語圏への留学を目指 すことで英語がさらに日本語より優勢になっていく。前者5名は現在、アメリカ留学中が3 名、日本の大学の英語コース在籍が 1 名、アメリカ留学を終え日本の大学院に進学するも のが1名である。学校教育がトランスナショナルな実践をもたらす好例であろう。後者は、

現在高校生の2名であるが、家庭内言語使用で日中「混合」型の現地校生徒1名と、中英バ イリンガル校生徒 1 名である。現地校生徒の方は、日本と中国の間でどちらの大学に進学 しようかと迷っている。英中バイリンガル校に通う事例では、子どもの学校選択は、現地校 での日本に起因するいじめを懸念した結果の選択であると、母親は振り返る。この事例は、

前回調査時「英・中・日」タイプに分類されたが、現在英語より中国語の方が優勢になって いる。子どもの3つの言語のうち一番弱い日本語のために、日本の通信教育、日本のアニメ や漫画を活用し、毎年日本への一時帰国の際には日本の学校に体験入学させたという。これ も学校教育が一種のトランスナショナル空間を作り出していると言えよう。

6.3.4 英・中・日タイプ

英語を学校教授言語とする国際校、英中バイリンガル校に通う 2 事例である。英語が最 も優勢な言語となり、非常に劣勢となる日本語力を育成するために、家庭でさまざまな努力 と工夫が意識して行われている。国際校に通う事例では、子どもの適性を考慮した結果、複 数言語主義の方針を採ることにしたと母親は語る。家庭内での日本語のバランスを増やす ため、当初雇っていた中国人家政婦を止め、子どもを週末日本語の塾へ通わせ、日本への一 時帰国も年数回に及ぶ。このような日本語のための努力や工夫は、日本語のためのトランス ナショナルな空間を日常に構築するものと捉えられる。

6.3.5 中・英タイプ

現在は日本で公立中学に通っている 1 名である。中国居住時は、家庭では簡単な日本語 しか使わないため、日本語は子どもにとって「外国語」であると母親は語る。一時帰国も少 なく、日本語・日本文化のためのメディア利用もほとんどなく、アニメも本も中国語である。

日本語を継承しないという家庭方針は、日本語習得のためのトランスナショナル空間を構 築しないということである。

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このような子どもの日本語習得のための努力や工夫が、トランスナショナル空間の構築 であるとすると、どのようなトランスナショナル空間が構築され、子どもたちがそこでどの ように参加し活動しているのかを探ることによって、日本語継承の全体像がより明らかに なると考えられる。

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