• 検索結果がありません。

スキャフォールディング実施と効果に関する考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 142-145)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.5 スキャフォールディングの実施と効果に関する比較

5.5.2 スキャフォールディング実施と効果に関する考察

134

図5.19、5.20、5.21から明らかなように、得点群によって成功したスキャフォールディ ングの類型が異なることが分かり、それも 3 都市で異なる特徴を見せている。北京と台北 ではどの群も、③の中国語スキャフォールディングが②の日本語スキャフォールディング より効果的であり、香港のB群(A群は1名のみ、スキャフォールディング実施数1成功 数0)も北京・台北と同様の傾向であるのに対し、香港のC群D群E群は逆現象が起こっ ている。

以上の分析結果をもとに、漢字圏で日本語を継承する児童はどのように正答にたどりつ いているのか、どのような助けが有効なのかについて考察を行う。

135

あるが、現在のデータからはその理由を特定することはできない。

香港のC群D群E群に特殊事情があるという仮定で議論すると、漢字圏で共通するスキ ャフォールディングの成功傾向は、③の中国語スキャフォールディングが主となり②の日 本語スキャフォールディングがそれに続くというものと考えられる。どのように正答に辿 りついているのか、タスクを達成するために必要な助けは何かという点で、スキャフォール ディングのタイプ別比較をもとに論を進める。

タイプ別のスキャフォールディングの成功率では、台北の「漢字の同定」の成功率が他と は異なっている。そもそも日本語の出題漢字と同形の漢字が多い繁体字を使う台北で、「漢 字の同定」のスキャフォールディングが一定量あるのは特殊な理由による。筆者が行った漢 字読み調査は、葉書き大のカードに筆者の手書きの文字を書いたものを読ませるタスクで ある。調査協力児童は筆者の手書きの文字のほとんどは問題なく認識したが、一つだけ認識 に困難を伴う文字「心」があった。中国語で何の字か考えさせる「中国語の漢字の確認」で も解決せず、改めて「心」の字を書いたり、中国語の発音を示したりする「同定ヒント」を 使用したのである。手書きの「心」が認識できないというのは北京と香港でも同様であった

76。また、「出発」の異体字「発」の同定で、台北の成功率が高かったことも一因であろう。

③の中国語スキャフォールディングは、異体字が多い北京、異体字は少ないが手書きの

「心」が同定できない児童が多かった台北と香港というふうに事情は異なるが、まずは漢字 の同定が言語間転移の出発点となっていることは確かであろう。そして漢字が同定できれ ば、その意味概念が活性化されるはずである。

ところが、本章第4節でも確認したように、出題漢字の特徴によっては、意味概念を確信 できないことが起こる。つまり、抽象的、或いは多義的な漢字は、文脈の中でモニタリング しなければ正しいかどうか分からない。小学一年生後期修了時のタスクでは、「明るく」に その典型的な反応が見られた。中国語で「明」を使う単語は多様にあり、児童が思い浮かべ た単語によって意味は異なる。「明」の意味があり、文脈に合い、且つ送り仮名「るく」を とる日本語の語彙を探さなくてはならないのである。そのために②の日本語スキャフォー ルディングの語彙ヒント、共起関係ヒント、文脈ヒントが必要となってくる。

前項の分析において、スキャフォールディングの成功率が北京・台北・香港ともに真ん中 に位置する C 群で下がっていることが明らかになったが、これは、漢字を同定した後、よ り高い得点群には不要であるか容易である②の日本語スキャフォールディングが、真ん中 の群には半ば成功したり半ば失敗したりしたことによる。D群E 群では、難しい出題漢字 は手厚い助けやより簡単な語彙ヒントで考えさせるスキャフォールディングを行ったため、

成功率が高めになったと考えられる。以下に、C群の児童の例を挙げる。

76 手書きの「心」を認識できるかできないかの違いは認知力によるものだと考えられるが、漢字の書き 取りを繰り返し行うことによって、差異の幅の大きい手書き文字の字形を認識できるようになるという

(文化審議会国語分科会, 2016)。

136

T1-12: (「雲」を見て3秒考える)

筆者; この字知ってる?〈中国語の漢字の確認〉

T1-12: うん、知ってる。(日本語の語彙を思い出せない)

筆者: 遊園地に遊びに行くのに雨が降ったらイヤよね。それで外を見たら・・・

〈文脈ヒント〉

T1-12: そら。

筆者: 空には何がいっぱいなの?〈語彙ヒント〉

T1-12: くも。

T1-13; (「車」を見て)しゃ。

筆者:運転するもの。〈語彙ヒント〉

T1-13: じどうしゃ。

筆者:「自動車」ってほかに何ていう?〈語彙ヒント〉

T1-13: くるま。

H1-12; (「明るく」を見て)忘れた。(補習授業校で既習)

筆者:中国語で知ってる?〈中国語の漢字の確認〉

H1-12: 知ってる。

筆者:雲がいっぱいで暗かった空が・・?〈文脈ヒント〉

H1-12: ?

H1-16: (「吹き飛ばしてよ」の「吹き」を見て考える)

筆者:遊園地に遊びに行くのに、雲がたくさんあったらイヤじゃない。〈文脈ヒント〉

H1-16: ・・・

筆者:風さん、ぴゅ~っと・・・〈共起ヒント〉

H1-16: ふき。

日本語の文脈の中でのモニタリングと日本語翻訳は同時並行で行われていると思われる が、前章第4節で日本語モノリンガルの児童が、学校では未学習の漢字を読む時にどう考え ているかを語ったのと同じプロセスをたどっていると考えられる。「その次の言葉が、その 前とかその次のことばに繋がる言葉だったら、なんか『おかしいな』とか思わないで、『い いな』っていう・・・」というF0-1の発言のように、日本語の文脈に対象語を置いて試す 作業が行われるのであろう。つまり、中国語の漢字を先行学習した継承日本語話者であれば、

③の中国語スキャフォールディングをもとに、日本語でインタラクションがある環境が整 えられれば、言語間転移プロセスをサポートすることができると考えることができる。すな わち、子どもが進んでインタラクションを行うような日本語のトランスナショナル空間こ

137

そが、Cumminsの言葉に倣えば、L1の漢字知識をL2の日本語の漢字に関連付けることを

サポートするシステムと言えるのではないだろうか。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 142-145)