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出題漢字による分析

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 84-88)

第4章 北京在住年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

4.2 小学一年生後期修了時の漢字読み調査

4.2.4 出題漢字による分析

上記の結果にもとづき、それぞれの漢字の特性によって、漢字認識にどのような違いがあ るのかについて、正答しやすさ、正答しにくさ、字体の違い、読みの正確さ、語彙の種類の 面から出題漢字による分析を行う。

4.2.4.1 正答が多い語彙

出題の35の語彙のうち、正答が多いものを上位から挙げる63と、児童B1-2以外の14名 が正解した「手」「笑いました」「三人」、13 名正答の「雨」「今日」、12 名の「星」「行く」

「女の子」であり、すべて日本語と中国語の漢字が同形、ほぼ同形であるものである。

「手」は、スキャフォールディングを必要とした児童B1-2以外、全員何の苦もなく「て」

と読んだ。「笑いました」も、ほとんどの児童がごく自然に「わらいました」と読めたが、

「わらって」「わらった」と発話した後、平仮名を見て「わらいました」と言い直す現象が 見られた。「笑」が四年生の学年配当漢字であるため、どうして読めたのかという質問に対 して、「中国語と同じだから」という回答が得られた。「雨」も多くの児童にとっては簡単だ ったようである。

児童 B1-2 は「手」の字を見ても黙っていたので、筆者が「まず中国語で言いましょう」

と言うと、中国語で‟shou”(手)と答えたので、「うんうん」と相づちを打つと、「おてて」

と解答した。「笑いました」も、中国語の読みをまず出して、「わらう、わらいました」と答 えた。但し、「雨」「星」「女の子」「男の子」については、こうしたスキャフォールディング を必要としなかった。どれも身近な単語であり、その前に出題した「手」から学習したので あろう。

「三人」に関連して、お話の中でその前に「一人」「二人」という語彙が出題されていた

63 出題漢字の正答数順位は附表4.1を参照のこと。

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が、正答者はそれぞれ8名で、「三人」よりは難度が高いようである。

「今日」は、中国語では文語に相当し、一年生では“今天”という語彙の方が分かりやす いはずであるが、予想外に正答が多かった。「行く」も、中国語では一般的に“去”の漢字 を用いるため、これほど読めるのは意外であった。読めた理由を尋ねても、それを説明でき る児童はわずかで、「中国語ができるから」、「中国語の意味を翻訳して、それに送り仮名も ついてるから」、「中国語で習ったから」と言う。大半の児童が、なぜ読めたのかよく分から ない様子である。

4.2.4.2 正答が少ない語彙

35の語彙のうち、正答が少ないものは順に、1名のみ正答の「出発」、2名正答の「間」、 3名の「別」、4名の「雲」「時」「飛」である。このうち、日中の漢字がほぼ同形であるのは

「別」だけであるが、これは五年生の配当漢字である。

「出発」を唯一読めた児童B1-5は、「当てただけ」と言う。「『出』は『でる』じゃないか ら、『しゅっぱつ』かなってね、なんか分かんないけど当たっちゃった」と説明、お話の文 脈から推測したと思われる。約半数の児童は、「でて・・」「でかけ」と、「出」の訓読みと お話の文脈を利用して読もうとした。このように、「出発」の難度が高い理由は次の3点か ら考えられる。まずは、字体が異なるため、漢字認識ができないことである。「発」は中国 語では“发”という字を用いるが、「発」を既習の漢字である“发”と結び付けられた児童 は唯一正答した児童B1-5と、中国語の語彙“出发”は知らなかったが、漢字一字としては 認識できたB1-14のみである。児童B1-14は当初似ている漢字の一つとして‟开(開)“を 挙げ、児童B1-4も‟开(開)“を想像している。文脈から‟出差(出張)”を連想した児童も 2名いた。つまり、中国語の語彙として‟出发‟が蓄えられていないことが2点目である。そ して、3点目に日本語の「しゅっぱつ」という音声語彙が心的辞書に定着していないという ことである。

「間」は中国語の‟间‟に当たり、字体の差はあまり大きくないように思えたが、予想外に 認識できない児童が多かった。門構えから「ドア」と読んだ児童が4名、「問」と認識して

「もん」と読んだ児童が1名であった。また、漢字の認識はできても、「あいだ」という訓 読みを導き出すのは難しく、文脈から「とき」と読んだ児童が1名いた。一方で、「時」は

“时”という中国語の漢字と結びつきやすく、「じかん」と読んだ児童が3名、その他は日

本語で何と読んでいいか分からない様子が見られた。

そして、ほぼ同形に近い「別」は、中国語の漢字から意味は分かっても、「べつ」ではな く、「ちがう」「ほか」という音声言語を当てる児童が多く見られた。

字体を大きく異にする「雲」と「飛」については、次項で分析する。

4.2.4.3 異体字の漢字の認識64

表4.9で示した日本語と中国語の漢字で字体が大きく異なる漢字について、小学一年生の 児童はどのように認識するのであろうか。前項で正答数が最も少なかった「発」は、中国語

64 漢字読み調査のスキャフォールディングの殆どは、中国語の漢字の確認と同定のために用いられた。

スキャフォールディングが多かった語彙については、附表4.2を参照のこと。

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で対応する漢字と結びつける難度が示された。また、「時」は比較的認知しやすく、「間」は 予想外に難しいことが分かった。本項では、その他の異体字へと分析を進める。

比較的認識しやすい異体字の漢字として、正答が10名の「見」、9名の「天気」の「気」、 8名の「風」がある。難度が高い漢字では、前項の「発」、「間」、「雲」、「飛」に加えて「車」

も難しいようである。

「見(见)」は、日本語の漢字の上部が「目」であることから「みる」に結びつきやすい。

「気(气)」と「風(风)」は共通して「気構え」と「風かんむり」という部首が日本語と中 国語の漢字に共通していることが、認識を容易にさせるのではないかと考えられる。一方、

「発」の「発がしら」は中国語の“发”になく、「間」の「門構え」も中国語の‟间‟では形 が異なる。「雲」に至っては、「雨かんむり」そのものが中国語の‟云‟から取り除かれている。

「雲」は非常に身近な単語でありながら、正答が4名であった。正答者のうち、児童 B1-3は公文で日本語の漢字を学習、児童B1-5とB1-11は日本語の本をよく読み、児童B1-14 はすぐに中国語で‟云‟と読んだ後、日本語の「くも」を導き出した。その他の児童が「雲」

を見て、どのように認識するのかというと、「“打雷”の“雷”?」(児童B1-1)と「“雷電”」

(児童B1-8)の「雷」、「ゆき」(児童B1-6, 7)、「あめ」(児童B1-4, 9.10,15)というよう に、部首の「雨かんむり」が読みに大きな影響を与えている。その反面、「雲」の「雨かん むり」を隠して見せるというスキャフォールディングの効果も絶大で、9名の児童がこのス キャフォールディングによって「くも」という答を導き出した。

「飛(飞)」の正答も4名で少なく、これも部首の形が認識の助けになっていないケース であろう。漢字の類似と文脈に注目させるスキャフォールディングで5名正答し、3名が準 正答であった。「車(车)」の認識難度はさらに上がると思われるが、調査では文脈の助けが あり、正答は6名であった。

4.2.4.4 準正答が多い語彙65

本研究では、正確ではないが漢字を認識したと判断できる読みを「準正答」として分類し た。どのような語彙が準正答に多く、それは何故なのかを分析考察する。

最も準正答が多かったのは、6 名の「家」である。すべて、「いえ」と読むべきところを

「おうち」と読んだことによる。前出の児童B1-2が「手」を「おてて」と言ったことから も明らかであるが、調査協力者の児童たちが日本の漢字を見て、中国語の意味から日本語の 既知の音声言語を当てて読んでいることが示されている。同様の原因で準正答となったの は、「同じ」である。「同」は児童にとって馴染みの深い漢字で、意味は理解しているものの、

「おんなじ」と読み準正答となった児童が3名であった。

次に多かった準正答は、漢数字を使った語彙である。「三人」は正答が多かったが、「一か いてん」が5名、「一人」と「二人」は4名、「一ばん」が2名、準正答に分類された。内訳 は、「一かいてん」は5名とも「いちかいてん」、「一人」は3名が「いちにん」、1名が「い ちひと」、「二人」は「にひと」が3名、「ににん」が1名、「一ばん」は「いばん」である。

準正答の中で、もう一つ目立つのが動詞の送り仮名の軽視である。「飛ばして」を「とぶ」

「とんだ」「とばした」「とぶしてよ」という準正答があった。「飛」が「とぶ」という意味

65 準正答が多い語彙については、附表4.3を参照のこと。

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であることは認識しても、「飛」を「と」と読んで、送り仮名を読むという基本的な読みの テクニックはまだなく、「飛」イコール「とぶ」「とんだ」という認識段階なのではないだろ うか。

4.2.4.5 語彙種類別傾向

漢字読み調査結果の得点化に用いられた出題語彙は,表4.11のように分類される。

表4.11 出題語彙の種類別漢字分類

分類項目

分類内容 出題の漢字を含む語彙

(括弧内は配当学年)

単漢字1 7 一、二年生学年別配当漢字、

且つ字体・用法がほぼ同じ

手、日、雨、中(1)、家、心、星(2)

単漢字2 6 一、二年生学年 別配当漢字で字 体・用法が異なる、或いは 三年生以上学年別配当漢字

車(1)、風、雲、時、間(2) 別(4)

動詞1 3 一、二年生学年別配当漢字 見る、出る(1)、行く(2)

動詞2 4 三年生以上学年別配当漢字 起きる(3)、飛ぶ、笑う(4) 吹く(漢検4級)

修飾語 3 一、二年生学年別配当漢字 早く(1)、明るく、同じ(2)

漢数字語彙 6 一年生学年別配当漢字 一ばん、一かいてん、一人、二人、三人、

一日(全て1)

その他 6 二字以上から成 る漢字を含む名

今日(2+1)、天気(1+1)

女の子(1+1)、男の子(1+1)、

友だち(2)、出発(1+3)

上記の分類に従って、得点群別の語彙種類別正答率を求めたものが次頁の表4.12である。

表4.12から分かるように、合計の得点率と比較して、語種によりそれぞれの特徴が見出だ される。単漢字1は得点率が高く、単漢字2は低い。動詞1は高めで、動詞2はほぼ同水 準である。修飾語は得点率が極めて低く、漢数字と二字以上の語彙は高い得点率である。

表4.12 北京現地校児童の語彙種別・得点群別得点率(%)

単漢字

単漢字

動詞

動詞

修飾語 漢数字 二字以上 語彙

合計

A 100 83.3 100 100 100 100 88.9 95.1

B 85.7 33.3 100 82.5 66.7 83.3 66.7 73.3

C 61.9 16.7 100 58.3 11.1 72.2 77.8 57.1

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