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小学一年生前期修了時調査

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 118-121)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.3 北京・台北・香港の児童間比較

5.3.2 小学一年生前期修了時調査

5.3.2.1 分析

北京・台北・香港の調査結果を得点化したものを、調査実施時年齢順に並べたものが以下 の図5.5、それぞれの平均点と標準偏差表5.7である。全体として、右肩下がりに得点が下 降傾向を見せており、年齢の影響を受けているように思われる。また、それぞれの平均得点

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は、台北が際立って高く、その次に香港、北京と続く。標準偏差は、北京の児童間での得点 のばらつきが、台北と香港に比べて非常に大きいことが際立つ。

図5.5 北京・台北・香港の小学一年生前期修了時調査結果の得点化(30点満点)

表5.7 北京・台北・香港での小学一年生前期修了時調査結果の平均と標準偏差(30点満点)

調査地 人数 平均正答数 標準偏差

北京 10 17.3 8.7

台北 7 23.0 4.2

香港 4 19.0 4.9

5.3.2.2 考察

前章の第1節では、北京の漢字読み調査結果をもとに、得点の高位群・中位群・低位群に 分けて、中国語の漢字から日本語の漢字への言語間転移に関する児童の得点群別相違をも とに、平仮名習得・習熟、会話をもとにした日本語語彙力、認知の発達、中国語の漢字知識 の4つを、継承日本語話者としての児童の側面から促進要因と指摘した。本章でも、まず同 様にこの4方面から北京・台北・香港の児童の比較を行う。

まず、平仮名について、台北・香港ともに児童は平仮名を学習済みであり、全員平仮名の 読みに支障はなかった。北京の低位群の B0-11が平仮名未学習であり、B0-12が平仮名未 習熟で一語一語読む状態であったこと、中位群のB0-1, B0-7, B0-8, B0-9もまた平仮名の読 みの流暢さに欠けたことから、平仮名が日本語の漢字の読みに影響していることが示唆さ れた。すなわち、B0-11 とB0-12 の得点が際だって低いのは平仮名習得・習熟にその一因 があると考えられた。したがって、台北・香港の児童の平仮名習得・習熟が進んでいること が日本語の漢字の読みを促進している可能性は大きい。

次に、家庭での会話を基礎とした日本語の語彙力に関して、台北では日本人家庭である T0-1 と T0-5 は家庭内ですべて日本語であり、その他の日台家庭でも子どもは相手によっ

05 10 15 20 2530

B0-1 B0-2 B0-3 B0-4 T0-1 T0-2 B0-7 T0-3 B0-8 T0-5 B0-9 T0-6 T0-7 B0-10 B0-11 H0-1 B0-12 T0-8 H0-2 H0-3 H0-4

得点

準正答 正答

左から順に調査実施時の年齢順。T0-1, T0-5, H0-4は日本人家庭児童。

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て日本語か中国語を使いわけている。しかし家庭での会話という点で、香港は少し事情が異 なる。香港では両親ともに仕事で日中不在の家庭が多く、子どもの送り迎えなどのため家政 婦を雇うことが多い。例えば、H0-4は日本人家庭であるが、英語を話す家政婦が同居して いるため、家政婦と英語で話すことも多い。ただH0-4については、両親や兄とは日本語で 話す、家政婦とは英語で話す使い分けがしっかりしている。しかし、H0-3の場合、家政婦 と話す英語に加え、日本語母語話者である母親が英語を交ぜて会話をするためか、母親との 会話でも英語を交ぜることがある。こうした会話のあり方が、H0-3の語彙力に影響してい る可能性が考えられる。北京のB0-1が、やはり母親との会話が限定的であるため語彙力不 足の傾向が見られた。

しかし、H0-3の場合、6歳になったばかりで、年齢的にまだ幼いという点も大きく影響 しているようである。平仮名は学習済み、読む漢字は幼稚園や学校で学習済みであっても、

読み調査の最中に集中力が途切れることが何度かあった。中国語の漢字の意味から日本語 の読みを引き出すというタスクがどれだけの認知力を要求するのかは定かでないが、年齢 的に低い子どもには負担が大きいことが考えられる。認知の発達と年齢は、例外も含みつつ、

深く関連していることを示している。

中国語の漢字知識については、小学一年生前期修了段階での漢字は、児童の生活に身近な ものが多く、深い漢字知識は問われることがほとんどないため、調査の結果からは漢字知識 の深さがどのように影響するかは明らかでない。

以上、北京での調査結果と対照させた結果、北京データの考察を裏付けるものとなった。

つまり、簡体字、繁体字に関わらず、漢字圏で中国語を学ぶ年少継承日本語話者は、小学一 年生の段階では、日本語の漢字の読みに対してほぼ似たような傾向を持つと言える。

しかしながら、北京・台北・香港の調査結果はこのように同じような傾向を見せながらも、

平均点には大きな差が見られる。また、標準偏差を見ると、台北と香港に比較して、北京の 児童間の較差が非常に大きいことが明らかとなった。このような 3 都市の特徴に関して、

相違をもたらす要因について以下に考察する。

3都市の平均点は、北京17.3、台北23.0、香港19.0と比較的大きな開きがある。上述し たように、香港の学制が他の 2 都市と異なり早期に就学することから、調査協力児童の中 で香港4名の児童の年齢が非常に低いことが表5.5から見てとれる。標準偏差が、北京8.7、 台北4.2、香港4.9であることから、台北と香港で大きな差がなく、台北と香港の相違は年 齢要因が一番大きいと結論してもよさそうである。他方、北京と台北の児童の年齢はほぼ均 衡しているにも拘わらず、平均点にこれだけの差が出る理由について、また、北京と台北・

香港の標準偏差に大きな差が出る理由について、言語背景をもとに考察を進める。

本章5.1.1において、台北と香港の調査協力者に関する留意点でも挙げたが、週末に日本

語学習を行うトランスナショナル空間があるかどうかが、台北・香港と北京の大きな違いで ある。台北の調査協力児童は 7名中5名が週末の日本語授業校で2時間の国語授業を受け ている。残りの2名のうち、T0-1は両親ともに日本人の家庭であり、授業校には通ってい

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ない。T0-8 は調査当時、日本の学制では就学年齢に達していなかったため、授業校では幼 稚部に所属していた。香港にも週末に通う香港日本人補習授業校があり、調査協力児童4名 のうち、別の日本語学習塾に通う H0-2 を除く 3 名が調査当時、幼稚部に通っていた。一 方、北京には補習授業校はなく、N会の有志の母親が主催するニッポン塾が月に一度の割合 で活動を行っている。「参加できる時に参加する」ルールの下、調査協力児童10名のうち、

毎回ニッポン塾に参加するのは 2 名、たまに参加する児童が4名、関わりを持っていない 児童が 4 名である。したがって、週末に日本語学習を行うトランスナショナル空間への参 加の有無が、台北・香港と北京との差を生み出す大きな要因となっている可能性が高い。だ が、これは一般的傾向としてのことであり、このようなトランスナショナル空間に参加しな い児童がすべて得点が低いかというと、そうは言えず、他の個別の要因が働いていると考え られる。

次項では、小学一年生後期の調査結果をもとに、児童の個別の要因及び 3 都市のトラン スナショナル空間について考察を進める。

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