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小学一年生後期修了時調査

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 121-126)

第5章 漢字圏年少継承日本語話者の日本語の漢字認識

5.3 北京・台北・香港の児童間比較

5.3.3 小学一年生後期修了時調査

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ない。T0-8 は調査当時、日本の学制では就学年齢に達していなかったため、授業校では幼 稚部に所属していた。香港にも週末に通う香港日本人補習授業校があり、調査協力児童4名 のうち、別の日本語学習塾に通う H0-2 を除く 3 名が調査当時、幼稚部に通っていた。一 方、北京には補習授業校はなく、N会の有志の母親が主催するニッポン塾が月に一度の割合 で活動を行っている。「参加できる時に参加する」ルールの下、調査協力児童10名のうち、

毎回ニッポン塾に参加するのは 2 名、たまに参加する児童が4名、関わりを持っていない 児童が 4 名である。したがって、週末に日本語学習を行うトランスナショナル空間への参 加の有無が、台北・香港と北京との差を生み出す大きな要因となっている可能性が高い。だ が、これは一般的傾向としてのことであり、このようなトランスナショナル空間に参加しな い児童がすべて得点が低いかというと、そうは言えず、他の個別の要因が働いていると考え られる。

次項では、小学一年生後期の調査結果をもとに、児童の個別の要因及び 3 都市のトラン スナショナル空間について考察を進める。

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表5.8 北京・台北・香港での小学一年生後期修了時調査結果の平均と標準偏差(35点満点)

調査地 人数 平均正答数 標準偏差

北京 15 19.4 9.7

台北 14 28.8 5.1

香港 14 21.9 7.7

次に、これら43名を正答数別に5つのグループに分類する。分類は、全体の標準偏差を 求め、平均+標準偏差以上をA群、平均-標準偏差未満を E群とし、その間の31 点から 15点までを3グループに分ける方法で行った。以下の表5.9は各グループに関する情報を まとめたもので、次頁図5.7は各群における3都市の児童の分布を視覚化したものである。

表5.9 北京・台北・香港の正答数によるグループ分け(1)(35点満点)

正答数範囲 人数 成員ID 平均 平均年齢

A 32~35 3 B1-3, B1-5, B1-14 33.3 7;07

6 T1-1, T1-2, T1-3, T1-5, T1-6, T1-11 34.0 8;03

1 H1-1, 34.0 7;10

B 27~31 1 B1-13 29.0 7;06

3 T1-7, T1-8, T1-14 28.3 7;09

5 H1-2, H1-3, H1-5, H1-8, H1-13 28.6 7;06

C 20~26 4 B1-4, B1-6, B1-9, B1-11 22.5 7;08

5 T1-4, T1-9, T1-10, T1-12, T1-13 22.8 7;10

2 H1-12, H1-16 23.0 7;00

D 15~19 1 B1-1 18.0 7;10

0 - - -

3 H1-10, H1-18, H1-19 17.3 6;10

E 0~14 6 B1-2, B1-12, B1-15, B1-16, B1-17, B1-18

9.0 7;03

0 - - -

3 H1-9, H1-14, H1-15 10.7 7;00

注(1) n=43, 正答数平均23.3, 標準偏差8.7(小数点第二位四捨五入)

A:平均+標準偏差以上 E:平均-標準偏差以下 B~D:平均+標準偏差~平均-標準偏差区間を3分割

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図5.7 北京・台北・香港 グループ分布(n=43)

図5.7より、北京・台北・香港の調査協力児童の特徴がはっきりと見いだせる。まず、北 京は全体的に下位グループに多く偏り、台北は上位グループに偏在、香港は比較的分散して いることである。さらに、表5.9の各群の平均年齢を見ると、A群の台北児童の平均年齢が 突出して高いことが分かる。これは、台北での調査実施時期が他の 2 都市に比べて遅れた ためである。しかし、B群では台北児童の平均年齢の突出は消失する一方で、C群D群で は香港児童の平均年齢が突出して低くなる。香港での就学年齢が全般的に早いことに一因 すると思われる。

それぞれの都市ごとに平均年齢とグループの関係を見ると、北京ではA 群~D 群は平均 年齢差がなく、E に年齢の低い児童が集中していることが分かる。台北ではA 群に年齢の 高い児童が集中し、B群C群では年齢差はほとんどない。香港ではA群~D群は順次平均 年齢が下がり、年齢が正答数に関係していることを示唆するが、E群は例外となり、E群の 児童は特別な要因がある可能性を示している。

5.3.3.2 考察

小学一年生前期修了時調査結果の比較から、平均得点は台北が突出して高く、香港、北京 へと続く。後期修了時調査結果では、台北児童の調査実施年齢が高めであったことを考慮し ても、下位グループがほとんどいないことから、漢字読み調査の結果は、台北が最もよいと 判断してよいであろう。一方、北京に関しては、前章第3節において北京の児童のデータの みで同様のグループ化を行ったが、その結果は標準偏差9.7、A群からE群まで満遍なく分 布し、高位下位に偏りがないことが確認できる。ところが、台北・香港のデータと合わせた グループ化では、標準偏差は8.7となり、北京の下位グループ偏在が顕在化した。3都市別 の標準偏差が北京9.7、台北5.1、香港7.3という数字から見ても、北京児童は日本語の漢 字読みの正答数において、児童間でばらつきが大きく、しかも正答数が少ない児童が比較的 多いことが明らかとなった。香港に関しては、A, B, C, Dの正答数の多さと年齢の高さとが 比例する傾向を見せている。Dがとりわけ年齢が低い児童であることから、香港でも北京・

台北と同年齢であれば A から C までにほぼ分布するものと予想される。実際、H1-18 と 0

2 4 6 8

A B C D E

人数

北京 台北 香港

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H1-19の2名は早期就学に当たる。香港のE群については、年齢以外の要因を探る必要が

あるだろう。

そこで、台北と香港の正答数分布から、漢字圏で中国語の漢字を学校で先行(或いは日本 語と同時)学習した児童は、本漢字読み調査の場合、通常AからCの間に正答数が分布さ れると仮定する。D群E 群に属する児童は、どのような特徴があるのかについて、以下考 察を行う。

北京の児童でD群E群に属する児童のうち、B1-15, 16, 17, 18は日本の学制では小学一 年生一学期時に当たることは考慮すべき点であるが、正答数が少ない理由はそれぞれ異な るようである。D 群E 群のうち、平仮名の読みが非常に流暢であるのは、B1-17のみであ

る。B1-17は平仮名に限らず、日本語の会話も問題なく、中国語の漢字知識も十分あるが、

中国語の漢字知識を利用して日本語の漢字を読むという調査の目的に沿わない、正確に言 うと、沿いたくないと思える行動を採った。調査のタスクでは B1-17を除くすべての児童 が、カードに書いてある日本語のお話を「日本語で」読もうとしたが、B1-17は少数の例外 を除いて、漢字を「中国語で」読んだ。中国語の漢字から日本語の漢字へ意味概念を言語間 転移することを拒否するかのようである。この児童は調査を行う中で、何度も「僕は日本語 を話す人じゃない」と発言している。心理面で何か抱えているのではないかと想像される。

あくまで想像でしかないが、この児童の母親が生まれたばかりの第二子にかかりきりで、児 童は平日学校の授業が終わっても塾で宿題をし、母親と妹がいる家に帰るのは夜になると いう事情が関係しているのではないかと推察される。

その他の児童では、B1-1, 1-12, 1-15, 1-18の平仮名は習熟度がまだ十分でなく、B1-1と 1-12 は日本語の語彙も多くない。B1-15は母親との会話に中国語が混じる。B1-16 は家庭 で日本語母語話者の親が日本語で話しても、児童の発話はほとんど中国語である。B1-2は 中国語の漢字知識の少なさが、教科書の読みから推測される。

一方、香港の場合、日本の学制で一年生の年齢にあるのは、H1-13 以降の児童である。

DEに属するのはH1-14, 15, 18, 19であり、北京や台北に比べて早期就学しているのは

H1-18, 19である。こうした年齢要因以外にも、H1-14とH1-18は現地国際校児童、H1-15は

外国系国際校児童という学校教授言語の要因がある。同じく現地国際校児童でありながら、

H1-3がB群であるのは年齢によるものもあるかもしれないが、前述したように、母親が同 根語の漢字に注目させたり、中国語の意味を日本語で言わせたりする学習支援を行ってい る成果ではないかと考えられる。

また、香港児童の中でH1-9は特殊なケースと言える。他の現地校児童が広東語の幼稚園 に通ったのに対し、H1-19 が通ったのは英語の幼稚園であった。家庭内でも両親間の会話 は英語で行われ、H1-19 の一番得意とする言語が英語であるため、日本語母語話者である 母親は子どもとの会話では英語に日本語を加えるという言語背景となっている。タスクで も、漢字の意味は分かっても日本語の語彙が分からず、「英語なら分かる」と英語に置き換 えて読んだ。また母親によると、H1-19の言語の優勢は英語、広東語、日本語の順で、日本

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語に自信がないH1-9の様子がタスク中も観察された。

このように、北京・台北・香港の児童は、年齢を条件として統一できず、在籍する学校の 形態も多様で、単純に比較することは控えなければならないだろう。さらに、台北・香港の 調査協力者に偏りがある可能性も否定できない。北京では筆者が条件に合致する子どもの 母親に一人一人当たり、同意を得た後、子どもに調査を行ったのに対し、台北・香港では日 本語教育機関を通じて、またその繋がりから調査協力を申し出てくれた母親の子どもに調 査を行った。そのような違いが、3 都市のデータの特徴に表れている可能性も考えられる。

このようなデータの条件不統一はあるものの、前項で考察した北京・台北・香港の日本語 学習事情の相違が、3都市間の調査結果の相違をもたらしている可能性は否定できない。そ して、このような日本語学習事情の相違は、3都市間のより高次レベルでの社会的相違を反 映していると考えられる。

台北日本語補習授業校は、服部(2015)によると2014年の状況では、80 名の在籍生の うち 1 名の国際校児童以外は全員現地の公立私立の小中学校児童である。また、日台国際 結婚家庭児童が全体の86.5%を占め、両親ともに日本人の家庭が6%、台湾人の家庭が7.5%

という構成であり(服部, 2015: 47)、したがって児童の言語は日本語と中国語が主である。

香港日本人補習授業校でも、8 割以上が日本人を片方の親とする国際結婚家庭であるが、

国際結婚の国籍或いは母語の組み合わせは多様であり、日港国際結婚家庭が主流というわ けではない69。補習授業校では日本語を使用するようルール作りをしているが、国際校児童 の比率が高くなる高学年の教室では英語が飛び交う様子が見られる 70。台北日本語授業校 ではほぼ日本語でインタラクションが行われており、補習授業校をトランスナショナル空 間として捉えると、日本語のインタラクションは台北の方が充実していると言える。

日本語学習のトランスナショナル空間という点では、香港では公文を始め、日本語を学習 するための塾が複数あり、それぞれの家庭の教育方針に応じて選択しており、複数を掛け持 ちする家庭もある。香港の特殊事情として、日本語に限らず、習い事や補習塾に子どもを通 わせる家庭が非常に多いことが挙げられる。H0-3の母親は「子どもの習い事や塾の予定を 手帳に記入し、毎日送り迎えの時間を確認しています」と、子どもの忙しい日常を語ってい る。この背景にあるのは、香港の就学事情である。多様な教育制度の下、多様な学校がある ことは、それぞれの家庭の教育方針や経済状況、子どもの能力に応じて、学校を広い範囲で 選択できるということである。逆に言うと、何もしなければ学校選択で不利な条件に置かれ るという就学における厳しい競争であり、この競争は幼稚園から始まる71。このような状況

69 3.5.2の表3.6参照、香港111へのインタビューによる。学年が上がるにつれて、現地校児童が減

り、国際校児童の割合が高くなるという。

70 201610月~11月に実施した筆者の参与観察による。

71 「良い大学に入るためには良い高校へ、良い高校に入るためには良い中学へ、良い中学に入るために は良い小学校へ、良い小学校に入るためには良い幼稚園へ」という考え方が浸透している。このような状 況は中国大陸の大都市でも見られるが、香港は子どもの出生数増加を背景に特に近年競争が激化してい

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