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謝罪場面における日中のスピーチレベルの使用状況

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 185-188)

第 7 章 スピーチレベルの使用に関する日中比較

7.3 談話完成テストの結果分析と考察

7.3.2 日中のスピーチレベルの使用状況

7.3.2.1 謝罪場面における日中のスピーチレベルの使用状況

表 7-5は、謝罪場面における母語話者と中国人日本語学習者の回答例の抜粋を示したも のである。

93 慣用表現のほかに、いろいろな表現が加わって1つの回答となっていたものも多い。慣用表現に 付加する形で存在する表現は、本章では、「付加表現」と名付けた。

7-5 謝罪場面における日中の回答例

母語話者 学習者

親・上

・先生、電車の事故で30分遅れてし まいました。すみません。(JF1)

・先生、電車の事故で30分遅れまし た。申し訳ありません。今からでも大 丈夫でしょうか?(JF2)

親・上

・先生、電車の事故で30分遅れてし まいまして、本当に申し訳けございま せん。(CFA28)

疎・上

・先生、電車の事故で30分遅れてし まいました。お時間頂いていたのに申 し訳ありません。(JF1)

・先生、電車の事故で30分遅れまし た。大変申し訳ありません。今から授 業レポートのご相談をさせていただ いてもよろしいでしょうか?お時間 はありますか?(JF2)

疎・上

・先生、電車の事故で30分遅れてし まって、大変ご迷惑をかけして申し訳 ございませんでした。」(CFA6)

親・同

・電車の事故で30分遅れちゃった。

ほんまにごめん。(おかしをわたす)

まさか事故に合うと思っとらんかっ た。(JF6)

・電車の事故で30分遅れちゃってね

~、ごめんね。先に何かやってた?

(JM17)

・電車の事故で30分遅れた。すまん。

まぁ電車の事故だ。許せ。(JM15)

・電車の事故で30分遅れてしまった よ。ごめんね。ひるおごるね。(JM26)

親・同

・電車の事故で30分遅れてごめん!

あとでお茶しないか?私が奢るよ!

(CFA20)

・電車の事故で30分遅れたので、待 ってくれて、ごめんね。(CFA28)

疎・同

・電車の事故で30分遅れた、ごめん。

(おかしをわたす)めっちゃまたせた ね。(JF6)

・電車の事故で30分遅れちゃってね

~、ごめん。今どこまで進んでる?

疎・同

・電車の事故で30分遅れてごめんな さい。お詫びに今度ご飯奢りますよ!

(CFA20)

・電車の事故で30分遅れてしまいま した。待ってくれて、本当にすみませ

(JM17) んでした。(CFA28)

親・下

・電車の事故で30分遅れた。ごめん、

大丈夫だった?(JF9)

・電車の事故で30分遅れちゃった。

ごめんね。待ったよね。本当にまかせ てごめんね。行こっか。(JF20)

親・下

・電車の事故で 30分遅れごめん。

(CFA9)

・電車の事故で30分遅れてごめん!

(食べ物)あるけど、(渡して)許し て!(CFA20)

疎・下

・電車の事故で30分遅れてしまいま した。ごめんなさい。(JF2)

・電車の事故で30分遅れたみたいで、

待たせてごめんね。(JM4)

疎・下

・電車の事故で30分遅れすみません。

(CFA9)

・電車の事故で30分遅れごめんなさ いね。(CFA23)

・電車の事故で30分遅れてしまって ごめん。(CFA24)

表 7-5を参照すると、日本語母語話者は中国人学習者より語彙と表現の使用が比較的に 豊富であることが観察された。上記の回答から、日中ともに慣用表現「すみません」や「申 し訳ありません」、「ごめん」などの表現類型が使われている一方、付加表現の使用で日中 の間に相違が見られた。

例えば、母語話者は親しい目上に対して、「今からでも大丈夫でしょうか?」(JF2)、親 しい同等に対して、「(おかしをわたす)まさか事故に合うと思っとらんかった。」(JF6)、 あまり親しくない同等に対して、「今どこまで進んでる?」(JM17)などのような付加表現 が観察された。そのうち、「ご連絡」、「お時間」、「ご相談」などの敬語も観察され、それら を付け加えることによって、目上に対する「丁寧さ」94がさらに強まるのではないかと考え られる。この点について、今村(2014)は、「敬語が使われる場面は、特別丁寧調使用時と、

丁寧調使用時だと考えられる。普通調で敬語が使われることはあるが、現在では少ない」

95(p. 34)のように説明している。それに対し、学習者は特に目上に対して、謝罪表現以外

94 仁田(1991: 193)は、「丁寧さ」を「基本的に、聞き手の存在する発話、つまり、<聞き手存在発 話>にのみ分化・存在し、話し手の聞き手に対する述べ方の丁寧度に関わる態度を表すのである」

と規定しており、「<丁寧さ>は、文のある部分に局在するといったものではなく、言表事態全体に 対して、それに、ある丁寧度の述べ方の色合いを塗り付けるといったものである」と述べている。

95 三上(1963)によると、丁寧体が基調として使用される談話(文章)を「丁寧調」、普通体が基調 として使用される談話(文章)を「普通調」と呼ぶ。さらに、今村(2014)は、「特別丁寧調」とは、

の付加表現を使用していないことが観察された。

また、母語話者は親しい同等に対して、「思っとらんかった」(JF6)、「遅れちゃった」(JF6) のような縮約形、「遅れちゃってね~」(JM17)、「遅れてしまったよ」(JM26)のような終 助詞の多用、「ひるおごるね。」(JM26)のような助詞「を」の省略、「まぁ」(JM15)と「~」

(JM17)のような音調表現(長音、「~」、母音伸ばし)などの口語的特徴を持つくだけた 表現が多く観察された。それに対し、学習者は、慣用表現「ごめん」を中心とする表現類 型を非常に頻繁に使っているが、話し言葉のような口語的表現は、終助詞「ね」「よ」以外 には見られなかった。

さらに、談話完成テストにおいて、書き言葉の特徴を利用して話者の心情を直接に表出 できるような工夫が見られる。例えば、日中ともに感嘆符を用い、句点での終結より謝罪 の程度を強めるのではないかと思われる。また、「(おかしをわたす)」のように括弧内に動 作を入れることによって、対面会話のような実感があるのではないかと思われる。

以上から、母語話者と学習者は同じ発話末スピーチレベルを使用したにもかかわらず、

謝罪表現以外の付加表現、親しい相手に対するくだけた表現などの使用においては差異が 生じていることが見られた。それらの表現と語彙は丁寧さの印象と関わるため、決してス ピーチレベルだけでは決められないと思われる。

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