第 4 章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58
4.1.1 女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの比較(対目上、対同等)
4.1.1.2 ベース話者ごとのスピーチレベルの比較
表4-2によると、全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、目上 と同等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に1%の有意水準で有意であった(χ2 (3) =
91.504 , p<.01)。なお、残差分析の結果、女性ベース話者は、同等に対して丁寧体を有意に
少なく、普通体を有意に多く使用していることが観察された。一方、男性ベース話者は、
対目上と対同等を問わず、全て丁寧体を有意に多く、普通体を有意に少なく使用している ことがわかった。
すなわち、女性ベース話者は、初対面会話における無標スピーチレベルが丁寧体であっ たにもかかわらず、社会的に同等の相手(大学生同士)との仲間意識を普通体で表明する という社会的規範に基づいていると思われる。一方、男性ベース話者は、初対面の疎の人 間関係にふさわしい無標スピーチレベルを距離の保持した丁寧体で表明するという社会的 規範に基づいていると考えられる。
以上から、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に使用する無 標スピーチレベルがともに丁寧体であったが、対話者側との上下関係によってスピーチレ ベルの分布に差異があると言える。
94.9
89.3
97.7 95.9
5.1
10.7
2.3
4.1
82 84 86 88 90 92 94 96 98 100
JFB022/O JFB022/S JMB005/O JMB005/S
%
丁寧体 普通体
78.6 69.2
95.9 92.2
21.4 30.8
4.1 7.8
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
JFB023/O JFB023/S JMB006/O JMB006/S
%
丁寧体 普通体
図4-2 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごと各スピーチレベルの 分布
図4-2を参照すると、女性ベース話者JFB021、JFB022、JFB023は、対目上と対同等を 問わず、全て丁寧体を50%以上使用していることがわかった(JFB021:対目上94.1%、対
同等63.9%、JFB022:対目上94.9%、対同等89.3%、JFB023:対目上78.6%、対同等69.2%)。
このことから、女性ベース話者JFB021、JFB022、JFB023 の使用する無標スピーチレベル がともに丁寧体であると判断できる。さらに、対目上の場合は、対同等より丁寧体の使用 率が比較的に多いことが見られた。このことから、日本の社会言語学的な規範に従い、目 上の相手に対して「丁寧に話す」意識がより強いことがスピーチレベルの面に反映してい るのではないかと思われる。
それに対し、女性ベース話者 JFB024 は、対目上と対同等に使用する丁寧体の比率に大 きな差が生じている(対目上76.2%、対同等28.6%)。これにより、女性ベース話者JFB024 は、目上に対する無標スピーチレベルが丁寧体であるのに対し、同等に対する無標スピー チレベルが普通体であると判断できる。すなわち、初対面会話において、同等の相手に対 する認識という点で、女性ベース話者 JFB024 は他のベース話者と大きな相違が観察され た。これは、初対面の最初の段階で、ある程度丁寧体の使用でネガティブ・ポライトネス を保持したうえ、共通話題や感情などによって距離が縮小され、次第に普通体を使い始め るようになることが考えられる。
76.2
28.6
89.5 87.2
23.8
71.4
10.5 12.8
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
JFB024/O JFB024/S JMB007/O JMB007/S
%
丁寧体 普通体
一方、図4-2によると、全ての男性ベース話者は、対目上・同等を問わず、丁寧体を80% 以上使用していることがわかった(JMB004:対目上95.7%、対同等81.4%、JMB005:対
目上97.7%、対同等95.9%、JMB006:対目上95.9%、対同等92.2%、JMB007:対目上89.5%、
対同等87.2%)。このことから、男性ベース話者の全体状況と同様、無標スピーチレベルが
丁寧体であると判断できる。
まとめると、母語場面における女性ベース話者ごとに同等に対する無標スピーチレベル の選択が異なっている(女性ベース話者JFB021、JFB022、JFB023と女性ベース話者JFB024) 一方、全ての男性ベース話者は対目上と同等を問わず無標スピーチレベルが丁寧体である、
という男女差が見られた。
以上の全ての女性ベース話者と男性ベース話者が使用する目上と同等に対する丁寧体 と普通体の出現回数をカイ二乗検定で行った結果と残差分析の結果を、以下の表4-3に示 した。
表4-3 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのスピーチレベルの 出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果
カイ二乗検定
ベース話者ごと 丁寧体 普通体 χ2の結果
女性 ベース話者
JFB021
対目上 64(56.861) 4(11.139)
χ2(15) = 205.851, p<.01
対同等 53(69.404) 30(13.596)
JFB022
対目上 75(66.059) 4(12.941)
対同等 75(70.240) 9(13.760)
JFB023
対目上 44(46.827) 12(9.173)
対同等 27(32.611) 12(6.389)
JFB024
対目上 64(70.240) 20(13.760)
対同等 16(46.827) 40(9.173)
男性 ベース話者
JMB004
対目上 45(39.301) 2(7.699)
対同等 35(35.956) 8(7.044)
JMB005
対目上 42(35.956) 1(7.044)
対同等 94(81.947) 4(16.053)
JMB006
対目上 47(40.973) 2(8.027)
対同等 47(42.646) 4(8.354)
JMB007
対目上 68(63.550) 8(12.450)
対同等 82(78.602) 12(15.398)
( )内は期待値
残差分析
調整された 残差と結果
ベース話者ごと 丁寧体 普通体
女性 ベース話者
JFB021 対目上 2.419*▲ -2.419*▽ 対同等 -5.069**▽ 5.069**▲ JFB022
対目上 2.826**▲ -2.826**▽ 対同等 1.463 ns -1.463 ns JFB023 対目上 -1.049 ns 1.049 ns 対同等 -2.474*▽ 2.474*▲
JFB024 対目上 -1.918+ 1.918+
対同等 -11.440**▽ 11.440**▲
男性 ベース話者
JMB004
対目上 2.298*▲ -2.298*▽ 対同等 -0.402 ns 0.402 ns JMB005 対目上 2.543*▲ -2.543*▽
対同等 3.455**▲ -3.455**▽ JMB006 対目上 2.383*▲ -2.383*▽
対同等 1.689+ -1.689+
JMB007
対目上 1.432 ns -1.432 ns 対同等 0.992 ns -0.992 ns
表4-3によると、母語場面における各女性ベース話者と各男性ベース話者は、目上と同 等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に 1%の有意水準で有意であった(χ2 (15) =
205.851 , p<.01)。なお、残差分析の結果、女性ベース話者JFB021は、対目上に使用する丁
寧体が有意に多いのに対し、対同等に使用する普通体が有意に多いことが観察された。ま た、女性ベース話者 JFB022 は、目上に対して丁寧体を有意に多く使用していることが見 られた。さらに、女性ベース話者JFB023とJFB024は、同等に対する普通体の使用が有意 に多いことがわかった。
一方、男性ベース話者JMB004とJMB006は、目上に対して使用する丁寧体が有意に多 いことがわかった。また、男性ベース話者JMB005は、目上と同等を問わず、全て丁寧体 の使用が有意に多いことが観察された。
以上から、全体のスピーチレベルの分布状況と異なり、各女性ベース話者と各男性ベー ス話者は、対話者側との上下関係によって、実際に使用するスピーチレベルの分布に差異 があると言える。