第 4 章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58
4.2 母語場面と接触場面におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの比較
4.2.2 両場面におけるスピーチレベル・シフトの比較(対目上、対同等)
4.2.2.1 全体のスピーチレベル・シフトの比較
TMBA002 対目上 -0.438 ns 0.438 ns 対同等 1.284 ns -1.284 ns
表 4-10 によると、母語場面と接触場面における各女性ベース話者と各男性ベース話者 は、目上と同等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に 1%の有意水準で有意であった
(χ2 (27 ) = 304.262 , p<.01)。なお、残差分析の結果、母語場面における女性ベース話者
JFB021は、目上に対して丁寧体を有意に多く使用しているのに対し、同等に対して普通体
を有意に多く使用していることが観察された。女性ベース話者 JFB022 は、目上と同等を 問わず、全て丁寧体を有意に多く使用している。女性ベース話者JFB024は、同等に対する 普通体の使用が有意に多いことがわかった。一方、母語場面における男性ベース話者
JMB004 と JMB007 は、目上に対して丁寧体を有意に多く使用している。それに対し、男
性ベース話者JMB005とJMB006は、目上と同等を問わず、丁寧体を有意に多く使用して いることが観察された。
また、接触場面における女性ベース話者 TFBA001 は、同等に対する普通体の使用が有 意に多いことがわかった。女性ベース話者TFBA002は、目上と同等を問わず、全て丁寧体 の使用が有意に多いことが見られた。それに対し、女性ベース話者TFBA003は、目上と同 等を問わず、全て普通体を有意に多く使用していることが観察された。一方、接触場面に おける男性ベース話者には、有意差が見られなかった。
以上から、母語場面と接触場面における最も大きな相違点として、目上の相手に対する 普通体の多用であることが挙げられる。これにより、接触場面における学習者のベース話 者は、母語場面における母語話者のベース話者より、目上に対する「丁寧に話す」意識が 比較的希薄であったと言えよう。
表4-11 母語場面と接触場面における女性ベース話者の各スピーチレベル・シフトの使 用頻度と使用割合(%)
母語場面 接触場面
女性ベース話者
ダウン シフト
アップ シフト
発話文 総数
女性ベース話者
ダウン シフト
アップ シフト
発話文 総数
JFB021
対目上 対同等
3(3.1) 18(14.6)
19(19.8) 15(12.2)
96
123 T FBA001
対目上 対同等
17(17.0) 9(9.1)
5(5.0) 28(28.3)
100 99
JFB022
対目上 対同等
3(3.0)
6(4.7)
15(15.0)
11(8.6)
100 128
T FBA002
対目上 対同等
9(7.4)
6(6.3)
6(5.0)
26(27.1) 121
96
JFB023
対目上 対同等
8(7.3) 7(9.2)
18(16.5) 6(7.9)
109
76 T FBA003
対目上 対同等
17(9.4) 8(9.1)
17(9.4) 16(18.2)
181 88
JFB024
対目上 対同等
8(7.2)
15(14.9)
34(30.6)
6(5.9)
111 101
T FBA004
対目上 対同等
10(10.9)
1(1.6)
3(3.3)
8(12.9) 92 62
全体
対目上 対同等
22(5.3) 46(10.7)
86(20.7) 38(8.9)
416 428
全体
対目上 対同等
53(10.7) 24(7.0)
31(6.3) 78(22.6)
494 345
表4-12 母語場面と接触場面における男性ベース話者の各スピーチレベル・シフトの使 用頻度と使用割合(%)
母語場面 接触場面
男性ベース話者
ダウン シフト
アップ シフト
発話文 総数
男性ベース話者
ダウン シフト
アップ シフト
発話文 総数
JMB004
対目上 対同等
2(3.6) 8(12.7)
4(7.3) 4(6.3)
55
63 T MBA001
対目上 対同等
5(8.5) 10(8.7)
5(8.5) 7(6.1)
59 115
JMB005
対目上 対同等
1(1.7) 4(2.9)
4(6.8) 5(3.6)
59
140 T MBA002
対目上 対同等
8(10.4) 2(3.9)
7(9.1) 11(21.6)
77 51
JMB006
対目上 対同等
2(2.5)
4(5.2)
7(8.8)
3(3.9)
80 77
JMB007
対目上 対同等
8(8.3) 11(6.7)
25(26.0) 9(5.5)
96 164
全体
対目上 対同等
13(4.5)
27(6.1)
40(13.8)
21(4.7)
290 444
全体
対目上 対同等
13(9.6)
12(7.2)
12(8.8)
18(10.8)
136 166
図4-7は、全体的に母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使 用するスピーチレベル・シフトの使用割合を示したものである。
図4-7 全体的に母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使用す るスピーチレベル・シフトの使用割合
図4-7によると、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は共通して、全体 的に目上に対してアップシフトを多く使用しているのに対し、同等に対してダウンシフト を多く使用していることがわかった。一方、接触場面における女性ベース話者と男性ベー ス話者は、母語場面と正反対であり、目上に対してダウンシフトを多用しているのに対し、
同等に対してアップシフトを多用していることが観察された。
これらの母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使用するダ ウンシフトとアップシフトの出現回数をカイ二乗検定で行った結果と残差分析の結果を、
以下の表4-13に示した。
5.3
10.7
4.5
6.1
10.7
7.0
9.6
7.2 20.7
8.9
13.8
4.7
6.3
22.6
8.8
10.8
0 5 10 15 20 25
JFB/O JFB/S JMB/O JMB/S TFB/O TFB/S TMB/O TMB/S
%
ダウンシフト アップシフト
表4-13 全体的に両場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル・
シフトの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 カイ二乗検定
全体 ダウンシフト アップシフト χ2の結果
母語 場面
女性 ベース話者
対目上 22(42.472) 86(65.528)
χ2(7) = 67.523, p<.01
対同等 46(33.034) 38(50.966)
男性 ベース話者
対目上 13(20.843) 40(32.157)
対同等 27(18.876) 21(29.124)
接触 場面
女性 ベース話者
対目上 53(33.034) 31(50.966)
対同等 24(40.112) 78(61.888)
男性 ベース話者
対目上 13(9.831) 12(15.169)
対同等 12(11.798) 18(18.202)
( )内は期待値
残差分析
調整された 残差と結果
全体 ダウンシフト アップシフト
母語 場面
女性 ベース話者
対目上 -4.515**▽ 4.515**▲ 対同等 3.155**▲ -3.155**▽ 男性
ベース話者
対目上 -2.324*▽ 2.324*▲ 対同等 2.516*▲ -2.516*▽
接触 場面
女性 ベース話者
対目上 4.858**▲ -4.858**▽ 対同等 -3.631**▽ 3.631**▲ 男性
ベース話者
対目上 1.329 ns -1.329 ns
対同等 0.078 ns -0.078 ns
表4-13によると、全体的に母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話 者は、目上と同等に対して使用するダウンシフトとアップシフトの回数に 1%の有意水準 で有意であった(χ2 (7) = 67.523 , p<.01)。なお、残差分析の結果、母語場面における女性 ベース話者と男性ベース話者は、目上に対してアップシフトを有意に多く使用しているの に対し、同等に対してダウンシフトを有意に多く使用している点で共通していることがわ かった。一方、接触場面における女性ベース話者は、母語場面と正反対であり、目上に対
するダウンシフトが有意に多いのに対し、同等に対するアップシフトが有意に多いことが 観察された。なお、接触場面における男性ベース話者の場合、有意差が見られなかった。
以上から、母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、対話者側 との上下関係によって、スピーチレベル・シフトの分布に差異があると言える。