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プラス・ポライトネス効果

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 130-135)

第 5 章 「ローカルな観点」からみるスピーチレベル・シフト

5.2 接触場面におけるスピーチレベル・シフトのポライトネス効果

5.2.1 プラス・ポライトネス効果

例7)TFBA001-JFO014(女女、目上)「感情・感想」

発話文 番号

発話文

終了 話者 発話内容 スピーチ

レベル

シフ ト

211 * JFO014

あ、そうですよね、日本のドラマもそうだ し、日本のテレビ本当にたくさんやって ますよね。

P

212 * TFBA001 はい。

213 * TFBA001 でも今は(うんうん)、この頃は、韓国のド

ラマ(あぁー)が流行ってます。 P

214 * JFO014 あぁ、なるほどね。

215 * TFBA001 はい<笑い>。

216 * JFO014 そっか。

217 * JFO014 じゃそうすると、これから(<笑い>)韓国

語を勉強する人が増えますかね<笑い>。 P

218 * TFBA001 はい、そうです<笑い>。 P

219 * TFBA001 私の妹は、(うん)韓国語をあの、勉強しよ

うと思ってますけど、<はい>{<}。 P 220 * JFO014 <そう>{>}ですか[↓]。

67 接触場面の女性ベース話者 TFBA003は、同等に対する無標スピーチレベルが普通体であったた め、本研究の分析対象から除外した。

221 * JFO014 あ、それは、(<笑い>)だんだん日本語が危

ないですよね<笑いながら>。 P

222 * TFBA001 ええ、ちょっとね<2人笑い>。 NM

223 * JFO014

そう、あとなんかの、偉い人、台北市長と

かが、(はい)みんなが今“英語頑張って(は

い)、勉強しなさい”って言ってたので(は い)、そしてなんか、韓国語と英国語と挟 まれてて(<笑い>)、日本語教育がピンチ になっちゃうと思うんですけど<笑いな がら>。

P

224 * TFBA001 <笑いながら>危ないですね。 P

225 * JFO014 日本語の先生になりたい「TFBA001姓」

さん、どうしましょうか?。 P

226 * TFBA001 どうしようかなー<2人笑い>。 N D

227 * TFBA001 どうしよう<2人笑い>。

228 * TFBA001 考えてください<2人笑い>。 P U

229 * JFO014

そうですねー、でももう、言葉は、使わな いと、忘れちゃいますからねー<笑いなが ら>。

P

例7)は、日本語母語話者の目上の対話相手JFO014と学習者のベース話者TFBA001が

日本語教育の将来について話している場面である。ベース話者TFBA001は発話文番号 211-225で、無標スピーチレベルの丁寧体を使い続けており、目上に当たる対話相手のJFO014 への配慮を表している。

発話文番号 213、217 で、韓国ドラマの流行や韓国語を勉強する人が増えることなどか ら、話者双方は日本語の危機を感じている。さらに、対話相手は台北市長の「英語頑張っ て、勉強しなさい」(発話文番号223)という発言を引用して日本語教育の危機を話してい る。その後、「日本語の先生になりたい『TFBA001姓』さん、どうしましょうか?。」(発話 文番号225)という質問に対し、ベース話者は「どうしようかなー<2人笑い>。」のように、

形式上から自分に向けた発話、すなわち、独り言を使用しているにもかかわらず、実際に 緊張した雰囲気を緩和する働きを持っていることが見られる。さらに、発話の直後にしば

らく2人の笑いを伴った(発話文番号226-228)ことから、和やかな雰囲気を作っているこ とが伺える。

目上に対して丁寧体を無標スピーチレベルとして使用されてはいるが、普通体を使い自 分に向けた発話という形で緊要した雰囲気を和気あいあいとさせている。このようなダウ ンシフトの使用は、直後に笑いが多く見られることからも、和やかな雰囲気を作っており、

話者間の心的距離の接近に貢献していることが見られた。「ディスコース・ポライトネス理 論」に基づき、このダウンシフトは対話相手との心的距離を縮め、相手が心地よく感じる

「プラス・ポライトネス効果」を生み出していると考えられる。

例8)TFBA003-JFSa014(女女、同等)「感想」

発話文 番号

発話文

終了 話者 発話内容 スピーチ

レベル

シフ ト

39 * JFSa014 うーん、えっ、大学生ですか?。 P

40 * TFBA003 あ、今大学院生です、1年生。 P

41 * TFBA003 でもこの夏休みが終わったら、2年生に

(あーあー)なります、はい。 P

42 * JFSa014 すごい、大学院。 NM

43 * TFBA003 いいえ、<すごくない>{<}<笑い>。 N D

44 * JFSa014

<台湾の>{>}学生さんは、(うん)皆大学院 に行くけど、日本の人は、すごい、頭のい い人、(うん)しか行かないから、(あー〈笑

い〉)すごい頭がいいと思う。

N

45 * TFBA003 頭が悪くても(<大笑い>)行けるよ<2人笑

い>。 N

46 * JFSa014 行けないよ<2人笑い>。 N

47 * TFBA003

でも、たぶん、あのう、今不況だから、皆

【【。

48 * JFSa014 】】大学院に(うん)、行くの?。 N

49 * TFBA003 うーん、仕事を<逃げる、逃げる>{<}<笑

い>。 N

50 * JFSa014 <あーあー>{>}探すことが難しいですね。 P U

例8)の会話は、ベース話者の学習者TFBA003と同等の母語話者JFSa014が日台の大学 院生について話している場面である。ベース話者TFBA003は、発話文番号39-41で、無標 スピーチレベルの丁寧体を使い続けており、同等の相手に当たるJFSa014に対して初対面 の疎の人間関係に配慮している。

話者双方は初対面会話で自己紹介を行った後、学生の身分という話題へ転換している。

対話相手による「うーん、えっ、大学生ですか?。」(発話文番号39)という質問に対し、ベ ース話者は「あ、今大学院生です、1年生。」(発話文番号40)と返答している。さらに、

ベース話者は、対話相手からの「すごい、大学院。」(発話文番号 42)という評価に対し、

「いいえ、<すごくない>{<}<笑い>。」(発話文番号43)のように有標スピーチレベルの普 通体を使い、ダウンシフトを行っていることが見られる。直前の対話相手による中途終了 型の発話の使用によって、初対面会話の開始部分と異なる、よりくだけた雰囲気を作るこ とができる。さらに、学習者のベース話者は普通体を使いくだけた感じを維持しており、

対話相手への心的距離を縮めようとしている。

このようなダウンシフトの使用は、対話相手の直前の発話に影響され、相手のスタイル に合わせようとすることによって、対話相手への心的距離を縮小しようとしている。また、

直後に笑いが多く見られることから、話者間の心的距離の接近にも貢献している。「ディス コース・ポライトネス理論」に基づき、このダウンシフトは対話相手との心的距離を縮め、

相手が心地よく感じる「プラス・ポライトネス効果」を生み出していると考えられる。

例9)TMBA001-JMSa001(男男、同等)「感情・感想」

発話文 番号

発話文

終了 話者 発話内容 スピーチ

レベル

シフ ト

89 * TMBA001 きょ、台湾の冬は日本よりは寒いです

か?。 P

90 * JMSa001

いや、日本よりは(うん)暖かいですけど (うん)、今日はとても寒いじゃないです か?。

P

91 * TMBA001 そう、とても寒いです。 P

92 * JMSa001 だから、日本の冬と、変わらないですね。 P

93 * TMBA001 変わらないですか。 P

94 * JMSa001 あ、山口の冬と(はい)ほとんど変わらな

いですね。 P

95 * TMBA001 あ、そう?[↑]。

96 * JMSa001 はい。

97 * TMBA001 あ、そうですか[↓]。

98 * JMSa001 日本の冬も、これぐらい寒いです。 P

99 * JMSa001 これより寒いですけど、今だいたい同じ

ぐらいです。 P

100 * TMBA001 台湾の湿気は日本より重いでしょう?、<

湿気>{<}。 P

101 * JMSa001 <湿気>{>}、湿気ですか?。 P

102 * JMSa001

あー、まだ来て1ヵ月だから…どうです かね??=。

103 * JMSa001 =夏は暑いですか?。 P

104 * TMBA001 台湾の夏は…、日本は暑いでしょう?=。

105 * TMBA001 =台湾の夏は、台湾の夏は蒸し暑いです<

よ>{<}。 P 106 * JMSa001 <あー>{>}。

107 * TMBA001

湿気が重いから、(うん)だから、その、汗 が流したら(あー)、とても、大変だなぁ<

笑い>。

N D

108 * JMSa001 まあ、ここの、陽明山の、(はい)気候にま

だ慣れてないです<笑い>。 P U

例9)は、学習者のベース話者TMBA001と同等の相手JMSa001が台湾の気候について 話している場面である。発話文番号105まで、ベース話者は無標スピーチレベルの丁寧体 を使い続けており、同等の相手に当たるJMSa001へ初対面の疎の人間関係に配慮を表して いる。

話者双方は発話文番号89-99で、日本と台湾の冬の気候を比較している。その後、夏の 気候に関する比較という話題へと転換している。台湾の夏の湿気について、ベース話者は 発話文番号107で、「湿気が重いから、(うん)だから、その、汗が流したら(あー)、とても、

大変だなぁ<笑い>。」のように普通体を使い、発話時の自己の心情を直接に表出している ことが見られる。また、直後に笑いが多く見られることから、話者間の心的距離の接近に 貢献しており、一種のポジティブ・ポライトネスであると捉えられる。

このように、自分の心情を直接に相手に示すことによって、初対面における堅苦しさを 緩和することができる。このようなダウンシフトの使用は、直後に笑いが多く見られるこ とから、和やかな雰囲気を作っており、話者間の心的距離の接近に貢献していることが見 られた。「ディスコース・ポライトネス理論」に基づき、このダウンシフトは対話相手との 心的距離を縮め、相手が心地よく感じる「プラス・ポライトネス効果」を生み出している と考えられる。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 130-135)

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