• 検索結果がありません。

分析単位の認定基準とスピーチレベルの分類基準

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 61-66)

第 3 章 研究方法

3.2 分析単位の認定基準とスピーチレベルの分類基準

3.2.1 分析単位の認定基準

日本語では、スピーチレベルの分析のように、「文」単位でコーディングをする必要があ るものが多いため、本研究では、宇佐美(2015)「基本的な文字化の原則(Basic Transcription

System for Japanese: BTSJ)2015 年改訂版」に基づき、「実際の会話の中で発話された文」

という意味で「発話文」という用語を用い、基本的な分析単位とした。

宇佐美(2015)は「発話文」の認定を、次のように定めている。

「発話文」の定義は、会話という相互作用の中における「文」とする。そして、以下 のように認定する。基本的に、ひとりの話者による「文」を成していると捉えられる ものを「1発話文」とする。しかし、自然会話では、いわゆる「1語文」や、述部が省 略されているもの、あるいは、最後まで言い切られない「中途終了型発話」など、構 造的に「文」が完結していない発話もある。そのような場合は、話者交替や間などを 考慮した上で「1 発話文」であるか否かを判断する。つまり、「発話文」の認定には、

「話者交替」、「間」という 2つの要素が重要になる。 (宇佐美, 2015: 2)

また、杉戸(1987)に基づき、上記の「発話文」を「実質的な発話文」と「あいづち的 な発話文」の2種に分類する51。杉戸(1987)は、次のように定義している。

「ハー」「アー」「ウン」「アーソーデスカ」「サヨーデゴザイマスカ」「エーソウデスネ ー」などの応答詞を中心にする発話。先行する発話をそのままくりかえす、オーム返 しや単純な聞きかえしの発話。「エーッ!」「マア」「ホー」などの感動詞だけの発話。

笑い声。実質的な内容を積極的に表現する言語形式(たんなるくり返し以外の、名詞、

動詞など)を含まず、また判断・要求・質問など聞き手に積極的なはたらきかけもし ないような発話。ここではまとめて「あいづち的な発話」と呼ぶことにする。

あいづち的な発話以外の種類の発話。なんらかの実質的な内容を表す言語形式を含み、

判断、説明、質問、回答、要求など事実の叙述や聞き手へのはたらきかけをする発話。

ここでは仮に「実質的な発話」と呼ぶ。 (杉戸, 1987: 88)

51 「あいづち的な発話文」と「実質的な発話文」は、日本語では杉戸(1987: 88)のように単純に分 けにくい部分があると思われる。そのため、今後はより緻密に定義を行わなければならない。

一方、宇佐美の一連の研究では、中途終了型の他、あいづち、応答詞(「はい」、「うん」) などを全て「丁寧度を示すマーカーのない発話」に分類した結果、「丁寧度を示すマーカー のない発話」が総発話の約25~30%を占めていることがわかった。これにより、あいづち 的な発話が全発話に占める割合がやや高いことが見て取れる。

上記のような操作上の問題点を考慮し、本研究では、「実質的な発話文」のみを分析対象 とした。

3.2.2 スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの分類基準

本研究では、「実質的な発話文」の発話末におけるスピーチレベルを、丁寧体、普通体と 中途終了型の3種に分類した52。詳細な分類項目を、以下の表3-2に示す。

52 ただし、本研究は、初対面会話で丁寧体と普通体のそちらかが無標スピーチレベルであるかを明 らかにすることを目的とするため、丁寧体と普通体をさらに終助詞の有無などによる下位分類を行 わない。

3-2 発話文末のスピーチレベルの分類項目

丁寧体

「です・ます」体を主として、「でした/でしょう」、「ました/ましょう/ません でした」などの活用形で終わる(終助詞付きを含む)。ただし、単純な聞きかえし の発話(例えば、「そうですか」)などについて、本研究では扱わない。

普通体

「だ・である」体を主として、「だった/だろう」、「であった/であろう」、「形容 詞(い形)、動詞(ル形)、およびその過去形(形容詞かった/動詞た)と否定形(な い/なかった)」などの活用形で終わる。

中途終了型

上記の丁寧体、普通体のどちらかに分類するマーカーを含まないもの。すなわち、

スピーチレベルを示す言語表現が発話末に見られず、スピーチレベルの判定がで きないため、「丁寧体」でも「普通体」でもないものであると考える。概ね「言い 切らない発話文」と「言い切っている発話文」に分類する。

・言い切らない発話文。例えば、「学部生の時の専門って…」など、述部が省略さ れている発話文、主節が省略されている複文、最後まで言い切っていない発話文 で、韻律的に若干の言い淀みの特徴を示し、発話文の末尾が上昇イントネーション を伴わず発話が継続されるようなイントネーションである発話文。

そのうち、形式は明確的に丁寧体か普通体であるが、末尾が平板のイントネーシ ョンを伴い、伸ばしてゆっくり話されている場合、音声的にまだ言い切っていない ものと認定し、「中途終了型」と判断する。『基本的な文字化の原則(BTSJ)2015 年版』によると、話者が自分で発話を最後まで言い切らず言い淀んだ発話文に「…」

という記号を付す。

・言い切っている発話文。発話末が明確に示されていない発話(発話末のスピーチ レベルが省略された形)。一語文(名詞や形容動詞の語幹で終了している文を含む)

やその後に助詞、副詞などが付く形。1つの単語や句の発話文、体言止めなどの発 話文。例えば、「~へ行ったり」、「~と思って」、「~みたいな」、「~っていうか」、

「3人だけ」、「留学生で」など、「中途終了型」であると認定する。

上記の表3-2の他、『基本的な文字化の原則(BTSJ)2015 年版』に従い、次のようなこ とを規定する。

1) 相手の割り込みによって中断された発話文(記号【【 】】、詳しくは3.4節を参照、

以下同様)は、発話末のスピーチレベルが判断しにくいという点を考慮し、本研究の

研究対象から除外する。

2)発話文が倒置の形になっている場合、倒置文を元の文に復元してから、発話末のス ピーチレベルを認定する53

3) 改行される発話と発話の間が、当該の会話の平均的な間の長さより相対的に短いか、

まったくない場合(記号「= =」)、2つの発話文は改行していても音声的につなが っていることを示すため、本研究では一まとまりの発話として見なす。

4)発話末に聞き取り不能(記号「#」)、あるいは聞き取りづらい、日本語以外の言語で 発する(例えば、中国語)(記号[ ])場合、研究対象から除外する。ただし、発話 の途中に聞き取りにくかったり、外国語が用いられたりするような場合、まず「実質 的な発話文」であるかどうかを判断する。「実質的な発話文」と判断したうえ、発話 末のスピーチレベルに関するコーディング作業を行う。

また、Usami(2002)を参照し、スピーチレベル・シフトを、ダウンシフトとアップシフ トの 2 種に分類した54。ただし、本研究では、無標スピーチレベルから有標スピーチレベ ルへのシフトに分析の焦点を当てるため、ノンシフトを分析対象から除外することとした。

以下の表3-3は、発話末のスピーチレベル・シフトの分類項目を示したものである。

3-3 発話文末のスピーチレベル・シフトの分類項目

ダウンシフト

「です・ます」体の丁寧体から「だ・である」体の普通体へのシフト。

丁寧体から中途終了型へ、普通体から中途終了型へのシフトなどを 含まない。

アップシフト

「だ・である」体の普通体から「です・ます」体の丁寧体へのシフト。

中途終了型から丁寧体へ、中途終了型から普通体へのシフトなどを 含まない。

53 実際のコーディングで、発話文は倒置文か言いさし文かというのは、判断が難しい部分がある。

そのため、今後はより緻密な定義が必要であると思われる。

54 本研究は、同一談話におけるスピーチレベル・シフトの使用に焦点を当てて論じることを目的と するため、Usami(2002)の提出している、シフトされた発話が「相手」の発話からのシフトか「自 分」の発話からのシフトかという観点を取らない。ただし、第5章の質的分析では、前後文脈、対 話相手との相互関係を考慮しながら考察する。そして、第5章で「無標スピーチレベル」から「有 標スピーチレベル」への動きによって引き起こされる「ポライトネス効果」に焦点を当てて分析す ることを目的とする。

3.2.3 「無標スピーチレベル」の認定基準

本節では、スピーチレベルの使用傾向を分析する際、当該談話においてスピーチレベル の使用頻度が最も高いものとして、「基本的スピーチレベル」(三牧2013)、「主要スピーチ レベル」、「無標スピーチレベル」(宇佐美2001a)のいずれが適切かについて検討する。ま た、それに関する認定基準についても規定する。

宇佐美(2001a)は、主要スピーチレベル(使用率が最も高いもの)の使用率が50%を超

えると「無標スピーチレベル」と同定できるが、50%を超えないと明確な無標スピーチレ ベルが存在しないと述べている。しかし、全ての発話文を分析対象としたため、さらに、

25%~30%は「丁寧度を示すマーカーのない発話」であることからも、上記のような認定 に量的分析の結果に偏りが生じやすく、場合によって主要スピーチレベルの使用率が50% に達しないとき、無標スピーチレベルが同定できないことがある。

一方、三牧(2013)は、当該談話の最も頻度の高いスピーチレベルを「基本的スピーチ レベル」と指すが、「基本的スピーチレベルが談話全体に占める割合は、スピーチレベルを 何種類に分類するかといった操作的な問題によって異なる」(p. 86)と指摘している。さら に、「中途終了文を除き、最も違いの際立つ丁寧体と普通体の2種類の分布に注目すれば、

50%を占める方のスピーチレベルが基本的スピーチレベルとなる」(三牧, 2013: 86)一方、

中途終了文も含めて分布を示すのであれば、「当該談話の最も頻度の高いスピーチレベル」

(三牧, 2013: 86)が「基本的スピーチレベル」である、と述べている。

上記で見てきた通り、「基本的スピーチレベル」と「主要スピーチレベル」、「無標スピー チレベル」については規定する発話文の範囲が異なるほか、スピーチレベルを何種類に、

そしてどのように分類するかに関しても相違が見られた。

本研究では、ディスコース・ポライトネス理論を用い、スピーチレベルを無標から有標、

有標から無標という談話上のダイナミクスを捉えるために、用語「無標スピーチレベル」

と「有標スピーチレベル」を用いることとした。また、三牧(2013)を参照し、宇佐美(2001a)

と異なる「無標スピーチレベル」の基準を、以下に規定する。

「実質的な発話文」のうち、中途終了型、あいづち、文中に挿入された引用文、外国 語などを除き、文末が明示されている発話のみの分布(丁寧体と普通体という2種類)

を示し、50%以上を占めるほうのスピーチレベルを「無標スピーチレベル」とする。

また、「無標スピーチレベル」以外のスピーチレベルを「有標スピーチレベル」とする。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 61-66)

Outline

関連したドキュメント