第 4 章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58
4.1.1 女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの比較(対目上、対同等)
4.1.1.1 全体のスピーチレベルの比較
表4-1は、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの使用 頻度と使用割合58(全体とベース話者ごと)を示したものである。
58 第3章「無標スピーチレベル」の認定基準によると、文末が明示されている発話のみの分布(丁 寧体と普通体)を示し、50%以上を占めるほうのスピーチレベルを「無標スピーチレベル」とする。
したがって、表4-1におけるスピーチレベルの使用割合は、丁寧体と普通体が中途終了型を除いた
「実質的な発話文」に占める割合である。ただし、スピーチレベル・シフトの使用割合を計算する 際、ダウンシフトとアップシフトが「実質的な発話文」総数に占める割合を指す。以下同様。
表4-1 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの使用頻度 と使用割合(%)
女性ベース話者
スピーチレベル
男性ベース話者
スピーチレベル
丁寧体 普通体 丁寧体 普通体
JFB021
対目上 対同等
64(94.1) 53(63.9)
4(5.9)
30(36.1) JMB004
対目上 対同等
45(95.7) 35(81.4)
2(4.3) 8(18.6)
JFB022
対目上 対同等
75(94.9)
75(89.3)
4(5.1)
9(10.7) JMB005
対目上 対同等
42(97.7)
94(95.9)
1(2.3)
4(4.1)
JFB023
対目上 対同等
44(78.6) 27(69.2)
12(21.4)
12(30.8) JMB006
対目上 対同等
47(95.9) 47(92.2)
2(4.1) 4(7.8)
JFB024
対目上 対同等
64(76.2)
16(28.6)
20(23.8)
40(71.4) JMB007
対目上 対同等
68(89.5)
82(87.2)
8(10.5)
12(12.8)
合計
対目上 対同等
247(86.1) 171(65.3)
40(13.9) 91(34.7)
合計
対目上 対同等
202(94.0) 258(90.2)
13(6.0) 28(9.8)
図4-1は、全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベ ルの分布を示したものである。
図4-1 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの
分布 86.1
65.3
94.0 90.2
13.9
34.7
6.0 9.8
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
JFB/O JFB/S JMB/O JMB/S
%
丁寧体 普通体
表4-1と図4-1を参照すると、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、
目上と同等を問わず、全体的に丁寧体を最も多く使用しており、全て50%以上を占めてい る点で共通していることがわかった(女性ベース話者:対目上86.1%、対同等65.3%、男 性ベース話者:対目上94.0%、対同等90.2%)。これにより、母語場面における女性ベース 話者と男性ベース話者が使用する無標スピーチレベルはともに丁寧体であると認定できる。
また、図4-1をみると、女性ベース話者は男性ベース話者と比較して、目上と同等に対 する普通体を多く使用しており、丁寧体を少なく使用していることがわかった。これらの 目上と同等に対する丁寧体と普通体の出現回数をカイ二乗検定で行った結果と残差分析の 結果を、以下の表4-2に示した。
表4-2 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの 出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果59
カイ二乗検定
全体 丁寧体 普通体 χ2の結果 女性
ベース話者
対目上 247(239.987) 40(47.013)
χ2(3) = 91.504, p<.01 対同等 171(219.082) 91(42.918)
男性 ベース話者
対目上 202(179.781) 13(35.219)
対同等 258(239.150) 28(46.850)
( )内は期待値
残差分析
調整された 残差と結果
全体 丁寧体 普通体 女性
ベース話者
対目上 1.312 ns -1.312 ns
対同等 -9.265**▽ 9.265**▲ 男性
ベース話者
対目上 4.591**▲ -4.591**▽ 対同等 3.531**▲ -3.531**▽
59 残差分析の符号の意味について、+p<.10(有意確率が5%を超え10%以下である。有意差が無いも のの有意傾向がある)、*p<.05(5%の有意水準)、**p<.01(1%の有意水準)、ns(not significant)(p>.10 であり、有意差が認められない)を示す。また、▲は有意に多い、▽は有意に少ないことを指す。
表4-2によると、全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、目上 と同等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に1%の有意水準で有意であった(χ2 (3) =
91.504 , p<.01)。なお、残差分析の結果、女性ベース話者は、同等に対して丁寧体を有意に
少なく、普通体を有意に多く使用していることが観察された。一方、男性ベース話者は、
対目上と対同等を問わず、全て丁寧体を有意に多く、普通体を有意に少なく使用している ことがわかった。
すなわち、女性ベース話者は、初対面会話における無標スピーチレベルが丁寧体であっ たにもかかわらず、社会的に同等の相手(大学生同士)との仲間意識を普通体で表明する という社会的規範に基づいていると思われる。一方、男性ベース話者は、初対面の疎の人 間関係にふさわしい無標スピーチレベルを距離の保持した丁寧体で表明するという社会的 規範に基づいていると考えられる。
以上から、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に使用する無 標スピーチレベルがともに丁寧体であったが、対話者側との上下関係によってスピーチレ ベルの分布に差異があると言える。